個性『治癒』の間違った使い方 作:のーし
「あはは! あはははははっ! ざまぁねぇ! ガキが調子に乗るからこうなるんだ! おい黒霧! こうなりゃもう少し殺っていこう! せっかくあの鬱陶しいのを倒したんだ! 狙うならハイスコアだろ!」
中央広場に、嗤い声が響く。『有頂天』その言葉がよく似合うような純度100%の邪気を帯びた笑いが、周囲に波となって拡散していく。
「いや、違うな! まずはあいつの死体を持ち帰ろう! 先生も喜ぶだろ! 元ヒーロー志望の死体からできた脳無だ! 最高の素体になるぜ!」
哂う。呵う。嗤う。闇がじわりと染み出すように、嗤い声が響いていく。
そして、嗤い声が倒れこむウサトの方へと歩みを進めたときだった。
激しい音がして、当たりが銀の世界に包まれる。
そこには、激情に顔を歪めた轟が立っていた。
「行かせねぇ」
「あぁ? なんだよ、こっちは気分がいいのにさぁ……! 3対1でなんかできると思ってんのかぁ……!?」
否、轟だけではなかった。
「轟、今度は俺も、だ」
「……あの黒モヤは俺が殺る!」
「ここで出ねぇと漢じゃねぇ……!」
「行かせない……よ!」
戦闘訓練での借りを返すためにやって来た障子。
いろいろ気に食わないことが多すぎる爆豪。
戦い抜いた漢を守るため飛び出した切島。
来るなと念を押されながらも、動かずにはいられなかった緑谷。
未熟かもしれないが、彼らは雄英のトップ層だ。わずかな光を宿した火種たちが、飲み込まんとする闇と相対する。
「これで、3対5だ」
「~~~~! すごいなぁ、最近の子供は……! 全員殺しちまおうかなぁ……!」
両者が激情を込めてにらみ合う。
しかし、その均衡は長くは続かなかった。
「は?」
死柄木が間抜けた声を出すと同時に、轟を押しのけるようにして前に出る人物がいた。
「大…丈夫……だ。ここは……僕に……任せろ……」
そこには、ぼろぼろの状態のウサトが拳を構えていた。
●
葉隠透は倒れ伏すウサトの元へと走っていた。
「ウサトくん起きて! あいつらが来る……! 殺されちゃうよ……!」
「ぐっ……うぅ……」
「苦しいのは分かってる! わかってるけど早く逃げないと……!」
「うぅ……あと、五光年……」
「余裕あるの!? ここでそのこてこてのギャグができるのは余裕があるの!? このままだと、最後の言葉がそれになりかねないんだけど……!?」
こんなタイミングなのに緊張感に欠ける彼の様子に思わず頭をはたいてしまう。すぱこん! という小気味の良い音を立ててウサトの頭が揺れる。
あぁ! と慌てた声を出していると、ウサトがゆっくりと立ち上がった。
「ウサトくん!? 大丈夫だったの!?」
「……だい……じょうぶ……」
しかし、その焦点は定まっていない。にもかかわらず、彼は立ち上がり、そのまま敵のいる方へと歩き始める。
「だめだよウサトくん! 行っちゃだめ……!」
葉隠が必死に腕を引き、止めようとするが歩みは止まらない。
「だいじょうぶ……せんぱい……ねあ……みんな……だいじょうぶだから……」
うわごとのようにぶつぶつと何かを言いながら歩いていく様は尋常ではない。
葉隠も必死だったが、圧倒的に力が足りなかった。
「ぼくが……まもるから……」
何かをつぶやきながら、ウサトは前に歩いていた。
●
「お、お前……」
拳を構えるウサトに、皆一様に息を飲んでいた。
息も絶え絶え。小突けば死にそうな一人の生徒に、その場にいる全員が気圧されていた。
「気持ち悪ぃ! 今更お前に何ができる! 脳無! や____」
刹那。USJ内に轟音が響き渡る。
誰もがハッとして入口に目を向ける。
闇を追い払うかのように、光がUSJを照らす。
「もう大丈夫」
そこにいたのは一人の男。
最強のヒーローにして、『平和の象徴』
「私が 来た」
誰もが待ち望んだヒーローが、その顔を怒りに染めてそこに立つ。
「ラスボス登場だ……。待ったぜヒーロー。社会のゴミめ」
皆が安堵の笑みを浮かべるなか、この惨状を作り上げたヴィランは、狂った嗤いで、彼を見上げていた。
●
気が付けば、入り口付近で皆と一緒にいた。
……どうやら僕は負けてしまったらしい。
けれど、オールマイトが来てくれたことによって、状況は一変した。
「つよい……!」
あれが、あれこそがNo.1。この日本の平和を拳一つで守り続けてきた男。
パワーは全力のローズに匹敵……いや、それすらも超えているかもしれない。僕が彼女の本気の攻撃を見たのは彼女がネロに見舞った最初の一撃だけだったから、はっきりと断言することはできない。だが、おそらく彼女と同じ類、まだ僕では理解の追いつかない領域の力を有している。
そして、それだけのパワーを有し、発揮していながら、周りへの被害があの程度で済んでいること、僕やローズとは違って回復手段の持ち合わせがないのにもかかわらずあの化け物と正面から殴り合えていることからもわかる業の上手さ。レオナさんやネロに通じるものを感じる。
戦いは僕の時と同様に撃ち合いの様相を呈していたが、その役回りはまったくの逆。脳無はあくまで撃ち合えているに過ぎない。
一発一発が全開の力で繰り出されるオールマイトの攻撃は、それだけで脳無の攻撃を潰し、ガードをこじ開けていく。やがて脳無のショック吸収すらも抜いて、やつの体が浮き上がる。
時はきた。オールマイトはとどめとばかりに片腕を限界まで引き絞ると、その埒外の力を解放させた。
渾身の一撃を受けた脳無は、ドームの天井を突き破り、遥か彼方へと吹き飛んでいく。
脳無とオールマイトでは、残念ながら端から格が違った。一時は策略によってピンチに陥る場面もあったが、完全勝利と言っていいだろう。
『すごい』
ただひたすらにすごいということしかわからない。
あれが真の意味で突き詰めた先にある脳筋。僕の目指す完成形に最も近いもの。
治癒魔法の使い過ぎで霞む視界で、その姿を捉え続ける。
強く、ならなければ。
この世界に来てからずっとずっと考え続けてきたことだ。
戦場ではネロに歯が立たなかった。元々格上であることは理解していたが、それにしたって一方的で、ローズが来るのがもう少し遅ければ、ネロにもう少し遊びが無ければ、確実にやられていた。
足りない分は、仲間と一緒に補えばいいと思っていた。
一人で、しかも短期間で、長年経験と研鑽を続けてきたローズに追いつくのは不可能だとわかっていたから。自分に才がないことに気づいていたから。一人ぼっちだった勇者の末路を、なんとなくだけど知っていたから。
それは正しい。でも、それにしてももっと鍛えなければならなかった。
僕はもう、失ってしまった。
この世界がなんなのか。あの世界で、僕はどうなったのか。いずれもわからない。
わかっているのは、ここには非力な僕一人だけしかいないということだけ。
ローズも、カズキも、先輩も、アマコも、ネアも、フェルムも、ナックも、アレクさんも、ブルリンも、救命団の野郎共も、誰一人としていない。
僕の非力のせいで、僕はみんなのいない世界に来てしまった。
だから僕は、強くなりたい。
頭の中が白んできて、ついに僕は、意識を失った。
いつもご愛読ありがとうございます!
そして、ごめんなさい。
ここから最低でも一週間ほどは、私用のため新規の投稿ができなくなると思われます。
ご了承のほどよろしくお願いします!
それでは!