個性『治癒』の間違った使い方   作:のーし

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第28話

「テンション上がるぜ、体育祭!」

「活躍して目立てば、プロへのどでけぇ一歩が踏み出せる!」

「雄英に入ったかいがあるってもんだぜ!」

「数少ない機会……ものにしない手はないな」

 

 クラスのテンションは、昼休みになっても鰻登りだった。

 

 雄英体育祭。

 文字通り雄英高校にて毎年開催される()()()()()体育祭だ。

 一学校のものでありながら、日本全体のビックイベントの一つとして数えられるというとんでもイベント。その熱狂は、かつてのスポーツの祭典に変わるとさえ言われるほどだ。

 それもそのはず、この体育祭はスカウト目的のプロヒーローがスカウト目的で多数観戦にやって来る。リザルトや過程がそのままスカウトの数や質、すなわち将来に直結する。

 日本有数の実力を有した若者たちが、己の進退をかけて本気で戦うのだ。その白熱ぶりは観客を魅了して離さない。今では春の風物詩。一大コンテンツとして君臨している。

 

 …………らしい。

 

「皆、気合い入ってるなぁ……」

「そらそうだよ!」

 

 周りの様子に気圧されていると、いつの間にかすぐ近くにいた葉隠さんが興奮気味に話しかけてきた。

 

「今回は私も頑張るって決めてるんだー!」

「葉隠さんはまず、プロに気付いてもらうところからかもね」

 

 鼻息荒くえいえいおー! と、彼女は腕を振り上げる。彼女もまたいつになく気合が入っている様子だ。

 元気そうだな……。良かった。朝のアレは引きずらなくても良さそうだ。

 

「ウサトもさ、頑張ろうね!」

「やる気だねぇ」

「ウサトは違うの!?」

「や、そりゃそうなんだけどね……」

「ウサトくん、葉隠さん……!」

 

 うまく実感を持てていない僕が、なんとも言えないような返事をしていると、なんだかうららかじゃない様子の麗日さんがやってきた。

 

「私、頑張る!」

「おぉ! 私も頑張る!」

 

 腕を突き上げ妙なポーズをとる麗日さんは、どう見ても正常ではないけれど、彼女もまたこの体育祭にかける思いがあるのだろうということだけはわかった。

 葉隠さんも便乗しておぉー! と声を上げている。

 

「ほらウサトも! 頑張るぞー!」

「おぉー……」

 

 葉隠さんに促されて、僕も軽く腕を上げた。

 抱える思いはさまざまで、皆真剣に取り組もうとしている。なら、僕にできることは。

 

「負けないよ。僕もまだまだだからね」

「望むところ! 私も本気で勝ちに行く!」

 

 葉隠さんと互いの拳を軽く当てる。

 僕にできることはきっと、この勝負に誠実であることなんだろう。

 

⚫︎

 

 軽い決起集会のような様子になった僕らだったけど、なんと言っても昼休みだ。

 自然解散の流れを感じ取った僕と葉隠さんは、食堂にやってきていた。

 早くしなければならない。ご飯を食べ損ねるなんてことがあれば、ヒーロー科の授業はやりきれないだろう。

 

「ウサト、席はこの辺にしよー!」

「オッケー、じゃあいくよ」

 

 互いに席を確保したところで、葉隠さんが手袋をはめた。僕も応じるようにして、手首をぐるぐると回す。

 お互いが拳を構えて睨み合う。

 混雑する食堂では、給水所もまた長蛇の列ができる。移動時間とかを考えると片方は席取りに勤しんだ方がよほど有意義だ。

 そこで僕たちは敗者に水を持ってきてもらうという協定を結び、簡単な勝負事をすることにした。

 最近始めたのがこれ————

 

「「じゃんけんぽん!」」

 

 互いの拳を突き出し勝敗を決める真剣勝負。すなわちじゃんけんである。

 

「はい、僕の勝ち。お水は頼んだ!」

「ぬわー! また負けた! なんかずっと私負けてない!?」

「キノセイ、キノセイダヨ」

 

 不満気な様子の葉隠さんを、笑顔でごり押し送り出す。

 じゃんけんなら動体視力の関係上絶対に負けないけれど、それは秘密。ちなみに、これで6連勝である。

 卑怯? 君にはある有名な言葉を送ろう。バレなきゃ犯罪じゃないんだよ。

 

 などと取り止めのないことを考えていれば、いつのまにか、葉隠さんが戻ってきていた。

 

「はい()()()、お水」

「ありがと。……そういえば、呼び方変わったよね」

 

 こちらにコップを差し出してくる彼女に、少しだけ気になっていたことを聞いてみた。

 USJ襲撃事件から、彼女は僕に対する呼び方が呼び捨てに変わった。

 だからどう、ということはないのだけれど、突然呼ばれ慣れた形に落ち着いたものだから、なんだかそわそわしてしまったのだ。

 こちらがそうやって指摘すると、彼女は頭の後ろに手を回す。

 

「え? あー、うん。ちょっとね。気分の問題だから、ウサトは気にしなくていいよ」

「そう?」

「そうそう。私のことは透とか殿下とでも呼んでくれれば」

「あはは、遠慮しとく」

「なんでさ!?」

 

 逆になぜいけると思ったんだ。

 しれっと殿下呼びをさせようとしてくる彼女に戦慄する。やはり僕の基準では簡単に測れない子だ。

 見た目上はこちらがあっさりと断ると、しばらくぐぬぬと唸っていた彼女が、がばりとこちらに顔を向ける。

 

「そっちこそ、口調。やっぱり普段は普通というか丁寧だよね」

「まぁ、普段は荒げる理由がないし」

「訓練の時とかすごい口調になるのにね。結構あっちが素だったり?」

「あぁ、違うよ。あれは団長のモノマネ」

「モデルいたんだ!? 何者なの!?」

 

 何者かと言われてもな……。むしろ僕の方が聞きたいよ。あの人は一体なんなんだ。

 まぁ、強いて言うなら……。

 

「暴力、かな」

「それまともな人間に当てていい表現じゃない気がするんだけど……!?」

「あぁ、いや、いい人だよ? 僕の師匠にあたる人だし。うん…………」

「怖い! そこで詰まられるのが一番怖い!」

 

 あの訓練の日々は、地獄だったなぁ……。結局最後まで底の見えない人だった……。

 ……元気にしているだろうか。

 

「…………」

「いや、無理無理無理。そんな穏やかな顔で回想されても、一番最初に表す言葉が暴力な時点で入ってこない」

「じゃあ、鬼畜」

「大差ないよ!?」

 

 律儀にツッコミながらも、でもまぁ、と彼女は言葉を続ける。

 

「いいお師匠様なんだね」

 

 そう言う彼女の表情は、相変わらず見ることはできなかったけれど、優しく笑ってくれているような気がして。

 

「うん、最高の師匠だよ」

 

 思わずこちらも笑って答えた。

 そんな和やかな一幕を楽しんでいると、ふととあることが思い浮かんだ。

 雄英体育祭。詰まるところは力試しの場だ。

 そして、相手は同学年。最近まで中学生だった少年少女だ。そんなところで敗北を喫したらどうなるだろうか……。

 僕の脳裏にローズの凄惨な笑顔がフラッシュバックした。

 

 こっ、殺される……!

 

「ウサト?」

 

 突然顔を真っ青にした僕を心配して、葉隠さんがこちらを覗き込んでくる。

 僕はそんな彼女の肩をがしりとつかんだ。

 

「葉隠さん!」

「ふぇっ!? な、何!?」

「体育祭、頑張ろうね!」

「えぇ、今更……!? 私、ウサトがわかんない……!?」

 

 にわかにやる気を出したこちらに困惑する彼女をよそ目に、僕は強く決心を固めるのだった。

 

⚫︎

 

「よいせ」

「デッカい荷物やねぇ……。何が入っとるん?」

 

 7限の授業も無事終わり、帰り支度をしていると後ろの席の麗日さんが僕のバックパックをみて目を丸くしていた。

 

「ん? あぁ、おもりだよ」

「おもり!? なんで!?」

 

 大袈裟におどろいて見せる彼女に頭の後ろの方を掻きながら答える。

 

「いやさ、前にヴィラン相手に手も足も出なかったからね。結果的に死にはしなかったから僕の勝ちだけど、とはいえ思うところがないわけじゃないし」

「ウサトくん……」

 

 胸の前でぎゅっと手を組んで真剣な表情を浮かべる麗日さんに、努めて明るい笑顔を見せる。

 

「そこで、考えました! 僕に足りていないのはなんなのか!」

「それで、その結論は……?」

「筋力だね」

「それではないんやないかなぁ!?」

「脳筋極めすぎでしょ」

 

 後ろから伸びてきた手に後頭部を叩かれる。そちらを振り返れば、案の定というか、手をひらひらさせた葉隠さんが立っていた。

 

「何をいうか。オールマイトを見たでしょ? 最終的にパワーこそが正義なんだよ」

「透ちゃん、一個だけ根本的なところ確認してもいい? ウサトくんってアホなん?」

「まぁ、この小学2年が掲げる『さいきょうのひーろー』を真顔で言えちゃうくらいには」

「君ら、本人を前にしてよくもそこまであけすけに言えるね」

 

 僕ががっくしと肩を落としていると瀬呂くんがこちらに割り込んできた。

 

「つか、なんで家から持ってきてんだよ。トレーニングルームあるだろ」

「トレーニングルーム……? なんだいその夢のような響きの部屋は」

「知らねぇのかよ!? いいよ。俺もこの後行こうと思ってたんだ。一緒に行こうぜ」

「いい人…………! 地味なのに…………!」

「人が気にしてることをいうのはやめろぉ!?」

 

 やや口が悪くなっているところにやってきて流れ弾をくらった瀬呂くんがやさぐれた様子で扉に手をかける。

 

「何事だぁ!?」

 

 そこには、教室の入り口を塞ぐようにしてこちらを覗き込む大量の生徒たちの姿があった。

 

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