個性『治癒』の間違った使い方 作:のーし
「な、なな……何事だぁ!?」
麗日さんの動揺した声が教室に響き渡る。
ヴィラン襲撃からみて初登校の放課後。1-Aの面々が教室から出ようと扉をひらけば、そこには大量の生徒たちによる人だかりができていた。
「君たち、A組に何用か!?」
「出れねーじゃん! なんだよこれ!?」
「あちゃー、この中突っ切るのは厳しいかもね」
予想外の人だかりに、A組の面々もやや気圧されているようだ。
特に背の異様に小さい峰田くんや透明な葉隠さんにとって、この人だかりは大きな障壁になるだろう。
「しょうがない。窓から出ようか」
「おわぁ! 急に担ぐな!? 窓に向かうな!?」
「窓かぁ。まぁ、前よりはマシかも?」
「二人して手慣れすぎだろ!? 真っ先に思いつくタイプの選択肢じゃねぇって!?」
一緒にトレーニングルームへと向かう予定だった葉隠さんと瀬呂くんを担ぎ、窓に足をかければ、瀬呂くんの激しいツッコミが入った。
「暴れないでよ瀬呂くん。危ないでしょ?」
「そうだよ、瀬呂くん。下手に抵抗しない方がいいよ」
「なんで俺が聞き分けのねぇガキみたいな扱い受けないといけないんだ!? 俺は普通なの! 普通で、地味な……うぅ……」
言っている途中で何かが琴線に触れたのか、瀬呂くんは抱えられた状態でさめざめと泣き出してしまった。
「お、おいなにも泣くことはないだろう……?」
「俺はどうせ地味なんだよぉ……! 頑張って結果出した後でも、『あれ? いたっけ(笑)』みたいに言われるのがお似合いなんだぁ!」
「そ、そんなことないって! ね、葉隠さんもなんとか言ってあげてよ!」
頑張って否定の言葉を紡ごうとしたけれど、そもそも、彼のことをほとんど知らない僕は、葉隠さんに助けを求めたものの……
「わー、泣かせたー。ウサトが泣かせたー。いけないんだー」
「かつてないほどの棒読み!?」
わざとらしく手を口元に当ててこちらを指差す彼女にはフォローするつもりが一切なかった。
そして、完全にこちらに丸投げしてきた彼女に目を剥いている間にも、肩口の瀬呂くんは止まる気配を見せない。
「だいたい、普通に同じくらいのガタイの俺をヒョイって担ぐのなんなんだよぉ……。どうせ、この後トレーニングルームに着いた後も、しばらくは担がれっぱなしで忘れられるんだ……! 俺は知ってるんだぞ!」
「ごめんごめん!? 悪かったから! 今降ろすからね!?」
慌てて瀬呂くんを降ろせば、彼はけろりとした顔で「ふー、やっと降りれたぜ」と伸びをする。だ、だまされた……。
さすがにもう一度同じやり方をしようとも思わない。さっきのは強引が過ぎた。
しかしそれは、この人混みを正面から突破するということだ。
「いったいどうすれば……」
「はいはーい! 私に考えがあるよ!」
そういって肩口から挙手してきたのは葉隠さん。まだ降ろしてなかったね……。
「それで、考えって?」
「うん! ウサトの威嚇で追い払おう! お師匠様モードで!」
「扱いが猛獣とかのそれなんだけど……!?」
「葉隠、そういうのはよくねぇ」
加速度的に人間離れしていく僕の扱いに戦慄していると、さらに後ろから声がかかった。
振り返ると、真剣な面持ちの轟くんがこちらに歩いてくる。
「えー、なんでさぁ!」
「そんな風に扱っちゃだめだ」
抗議する葉隠さんを一蹴し、彼は首を横に振った。なおもぶーたれる葉隠さんの肩にぽんと手をおく。
轟くん……! 信じてたぜ!
彼に向かって親指を突き出せば、彼はこくりと頷いてみせる。
「こいつの顔は刺激が強すぎる」
「お前から始末してやろうか……!?」
お前もか。お前もなのか轟くん。
●
言い争いはしばらく続き、しびれを切らした葉隠さんがこちらに向かって指示を出す。
「とにかく、はい! やってみよ! 師匠さんっぽい顔! 師匠さんっぽい雰囲気! 師匠さんっぽい言動!」
「散れ、ガキ共」
「敵情視察なら意味ねーからどけ、モブ共」
「「「ひっ!?」」」
「な、なんでここにヴィランが……!?」
「どいてくれ! ここから俺を逃がしてくれ!?」
「悪魔だあぁぁ!?」
鋭い眼光で睨みつければ、集団がバラバラと瓦解してゆく。ノリと勢いでやってしまったが、これはなかなか壮観だ。完全にこちらをバケモノを見る目で見ている。さようなら、僕の平穏な高校生活。
「おぉ、これがモーゼの十戒か」
「ううん。これはウサトの強面」
「語呂よくなじるのやめて? 紛らわせようとした心に来るから。というか今……」
誰かがかぶっていたような。
そう思って横を見ると、こちらを睨む爆豪くんの姿があった。
「なんだ回復ヤロー、下がっとけや……!」
「誰にがんたれてるんだ、誰に。こっちは帰ろうとしてただけだろ」
突っかかってくる爆豪くんに顔をひきつらせる。基本ずっと睨んできていたけれど、今日は一段と視線が厳しい。何なんだこの子は。
「あーあ、こういうの見ちゃうと幻滅するなぁ」
爆豪くんと睨み合っていると、不意に低い声が辺りに響いた。
声の方を見れば、一人の生徒が割れた人混みをかき分けてこちらへとやってくるのが見える。
「どんなもんかと見に来たが、ずいぶんと偉そうだな。ヒーロー科に在籍するやつはみんな“こう”なのか?」
「「あぁ?」」
僕と爆豪くんが反射的にそちらを睨めば、声の主は気にすることなくずいと集団に割り込んで、僕たちの目の前へと陣取った。
「普通科とか他の科って、ヒーロー科に落ちて仕方なくあぶれた奴もいるって、知ってた?」
「……?」
突然とうとうと話し始めた彼に眉をひそめる。僕は彼を知っている気がする……。しかし、こちらのことなど知ったことではないと言わんばかりに、彼は視線の一つもよこそうとはしない。
「体育祭のリザルトによっては、他科からのヒーロー科編入も検討してくれるんだって。そして、その逆もまた然り……」
彼の言葉に1-Aの面々が身じろぎをする。彼の言葉はつまり、ヒーローへの道からのドロップアウトを意味していた。
そんな彼らの心の隙を、目の前の彼は逃さない。
「敵情視察? 少なくとも
それだけ言うと、紫髪の彼は背中を向けて去っていった。
大胆不敵な男だ。それにしても、最後までこっちは向かなかったな……なんだったんだ……。
「おうおうおうおう! 隣のB組のもんだけどよぉ!
僕が紫髪の少年について思い出そうとしていると、今度は白髪の少年が飛び出してきた。
おぉ、またすごい勢いの人が来たな。まぁ、いいか。これ以上は相手にしてられないし、歩きながら考えよう。この手の手合いは相手にしたら長いんだ。
「葉隠さん、瀬呂くん、行くよ」
「お、おう。ってちょい待てこらマイペースか!?」
「どうしてくれんだ! おめーらのせいでヘイト集まりまくっちまったじゃねぇか!」
瀬呂くんと切島くんのツッコミじみた非難に、僕と爆豪くんがそちらを振り返る。
「「関係ねぇ(ない)よ」」
「はぁ!?」
「上に上がりゃ、関係ねぇ」
「皆が一位を目指してる。ならさ、もとより全員
そう。皆、負けられない戦いなんだ。
「くっそ、なんだこいつら……! シンプルで男らしいじゃねぇか……!」
「いやいやだまされんな!? ただ敵増やしただけだって!?」
そんな声を聞きながら僕らは、教室を後にした。
体育祭まであと二週間。やれることは全力で挑もう。
おまけ 体育祭への準備の話。
・トレーニングルーム
「宝の……山……!」
「ウサト、どけて。入れないよ。ウサト……? な、泣いてる……」
トレーニングルームに眠るいくつもの機材に涙を流す彼の姿が、そこにはあった。
・頑張れ葉隠さん!
「私も本気でやろうと思ってね。まずは……これにしようかな」
「……アコーディオン?」
「そうそう、これで小粋な一曲を……ってやらいでか! 違うよバネのやつ!」
そう言って、葉隠さんは鼻息荒く引っ張っていたけれど、あまり伸びているようには見えなかった。
うん。まぁ、その……頑張れ!