個性『治癒』の間違った使い方   作:のーし

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第3話

 

「でかいな……!」

 

 破砕音を頼りに駆けつけた場所にいたのは、今までのものとは比べ物にならないほど大きなロボットだった。

 邪龍と比べても見劣りしないサイズを誇るそいつは、周りの建物を破壊しながらこちらの恐怖を煽るようにゆっくりと迫ってくる。

 住民がいなくてよかった。ここに想定通りの人数がいたとするなら、途方もない数の命が奪われていたことだろう。

 

一方でまずいのは……

 

「やばいやばいやばい!」

「逃げろぉぉぉぉ!」

「あんなのどうしろっていうのよ!」

 

 味方が完全にパニックに陥っているこの状況だ。

 明らかに僕のいた世界とは違う世界だけど、彼らは僕と同じか、少し年下ぐらいの子供たちだ。あんな化け物に会ったら無理もないか。

 今からパニックを治め、統率を取るのは厳しい。問題は、あいつをどうするべきかだ。

 前線は完全に崩壊している。誰も彼もがあのデカブツから逃げている。戦士としては困ったものかもしれないけど、正直、僕個人としてはありがたい。

 あれは大きさと破壊力こそ凄まじいが、スピードはそれほどではない。万全の状態なら普通の人でも十分に逃げ切ることができるだろう。

 とはいえ、デカブツが何をしてくるかわからない以上、ここであれを食い止めて安全なべきか?

 

 

「うぅ……」

 

 

 _____誰かの呻き声が聞こえた。

 あのデカブツの足元から!? 瓦礫で見えてなかったのか! 

 

「くそっ!」

 

 たまらず、声のした方向に駆け出す。

 瓦礫に足を挟んだのが一人と頭から血を流しているのが一人。後者はおそらく瓦礫が頭に当たってしまったのだろう。

 そこで、デカブツが拳を振り上げている光景が写り込んだ。あの巨体から繰り出される攻撃だ。よほど頑丈な人間でない限り致命傷は避けられないだろう。

 

「間に合えッ!」

 

 飛び込むようにして相手の拳を殴りつけ、威力を相殺する。

 お互いに打ち合った反動で数メートルほど後ずさる。

 図体に見合った攻撃をしやがる。

 耐えられないほどじゃないけど街を破壊するだけなら十分過ぎるほどのパワーだ。

 

 とにかく、怪我人を連れて行かないと。

 倒れ込んでいる人を抱え上げて、そのまま逃げようとしたその時だった。

 

「ま、待って」

「!?」

 

 何もない空間から声がした。

 もう一度あたりを見回すがやはり何もいない。

 なんだ!? 幽霊か!? 僕は幽霊だけは嫌だぞ!

 

「な、なに!? 幽霊!?」

 

 思わず口に出して問うてしまった。もしこれでそうだよとか言われたら……即座に逃げられるように足に力を込める。

 行くぞ……! 僕は今から、限界を超える……!

 

「ち、違うよ! 私、個性が『透明』なの! 見えないだけだから!」

「ゆ、幽霊じゃない? 殴れる? 倒せる?」

「発想は怖いけどそう! 実体はあるから! 今、あなたから見て右斜め前に居るの! 助けて!」

 

 右斜め前という言葉に従いそちらに意識を向けると、なるほど確かに血の匂いとそれらしき気配を感じた。

 

「そこか!」

「うわぁ!?」

「よし! 逃げますよ!」

 

 抱え上げてからそう断ると、もう一度飛んできたデカブツのパンチを蹴りで相殺して、抱えている人たちを安全な位置まで運ぶよう走る。

 

「あ、ありがとう! でも、なんで見えてるみたいにすぐ抱えられたの?」

「勘です!」

「そ、そうなんだ……。 ……と、とにかく、ありがとね!?」

 

 正直に話せば、かなり引いたような反応が帰ってきた。

 自分でも人間離れしていると思うけど、その反応はあんまりだと思う。

 

 

「とりあえず、治癒はかけておきました! 僕はもう少しだけあのデカブツを足止めしてきますから上手く逃げてくださいね!」

「え、あれを!? ちょ、ちょっと待ってよ……!」

 

 怪我をしていた二人を透明な少女に預けてそのまま飛び出す。

 あのロボットは放置しちゃダメだ。できる人がいないなら僕が抑えないと。

 

 

 ロボットは馬鹿の一つ覚えのようにこちらを質量で押しのけようとしてくる。

 適度に煽ってターゲットをこちらに集中させつつ、距離をとりながら打撃を加えてゆく。

 

「コロス! ニンゲン、コロス!」

「はっ! 口だけは達者だなァ、デカブツがよォ!」

 

 サイズと頑丈さはなかなかだ。けど、「怖さ」がない。

 行動も単調で読みやすい。ちょっと煽るだけで釘付けだ。

 時間を稼ぐだけなら、何も問題はない。

 僕もこいつも、決定力に欠けている。

 

 でも、これ以上はダメだ。

 僕の役目は、人を治すことだ。判断が遅れれば、それだけ助けられる人が減る。この戦場での死者数は、僕にかかっている。

 

 だからこそ、出し惜しみはしていられなくなった。

 こいつは、ここで仕留める。魔力切れについてはその後だ。

 

 一度デカブツから距離を取ってから、籠手で覆われた右腕に魔力を集中させる。緑色の魔力が、徐々にその色を濃く深く変えてゆく。

 爆発する寸前の卵のように不規則に揺らぎ始めた光に、それでも魔力を継ぎ足し続ける。

 

 一撃で仕留める。

 

 デカブツも大きくその腕を振り上げた。あちらもここを勝負所と見たらしい。

 ちょうどいい。腹がガラ空きだ。

 

 家のような大きさの拳が振り下ろされる。

 当たったら痛いじゃ済まないだろう。

 

 でも、ローズと比べればなんてことない!

 

 嵐のような風切音を鳴らすそれと入れ替わるようにして地面を踏み砕きながら突貫……。

 

『TIME UP!!』

 

 したところで、アナウンスが入った。

 

 慌てて、ブレーキをかける。

 見れば、ロボットもまた、その動きを止めていた。

 

 時間制? 戦場で?

 

 …………もしかして、戦場じゃない?

 

 ……戦闘訓練の一環とか?

 そう考えれば、致命傷を負った人間がいなかったことも頷ける。それにしても、市街地に限りなく近い場所でこんな訓練を行うというのは、随分と手の込んでいるな……。

 

 

 その後、いまいち理解できないままに、放送に解散を言い渡され帰路につくことになった僕は、これまた信じられないほど大きな門の前で、呆然と立ち尽くしていた。

 

「UA高校???」

 

 近くを通りすぎる子供たちからちらほらと声が聞こえてくる。

「いやぁ、自信ねぇ!?」

「お前、何体倒した? 俺12体くらい」

「受かってるかなぁ!?」

 

 ……………………え、これ高校入試!?

 

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