個性『治癒』の間違った使い方   作:のーし

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第31話

「さあさあ、位置につきまくりなさい……!」

 

 ミッドナイト先生の声が響くと、ゲートの一つが音を立てて開き始める。

 200名以上の生徒たちが、ゾロゾロとスタートラインへと向かっていく。

 

『第一種目:障害物競走』

 

 計11クラスでの総当たりレースであり、コースはこのスタジアムの外周約4km。コースをまわり、このスタジアムに最初に帰ってきた者が一位である。そしてそのルールは、我が校の売り文句からもお察し、自由。すなわち、コースさえ守れば何をしたって構わない、ルール無用の残虐チキンレースである。

 つまり、日常的に救命団の野郎どもとやって来たことと同じだ。

 

 生徒たちが集結し、緊張感が走るなか、ゲートの灯りがぱっと音を立てて一つ消えた。

 

 僕が所属していた救命団では、ケンカはご法度だった。というか、そんなことをしようものなら、ローズの怒りの鉄拳が降ってくるため、誰もしようとはしなかった。

 けれど僕らは聖人ではない。気に食わないこともあれば、白黒つけなければいけないこともある。

 

 また一つ、灯りが消えた。残り一つ。

 

 そんな時はどうしていたか。そう、競争である。勝者は一人。妨害、煽り、近道なんでもありで、街を舞台に駆け回っていたわけだ。

 多少レギュレーションは違うけど、悪いが経験値が違う。この勝負には必勝法がある……!

 

 喧騒がなくなる。全員が、来るべきスタートの合図に向けて身構える。

 もちろん、僕も例外ではない。いつでも駆け出せる体勢で、合図を待つ。

 

 最後の一つの灯りが消えた。

 

『スタート!!』

 

 その合図と共に地面を蹴り、飛び出した。

 

 ノーモーションで。真横に向かって。

 

「「くたばれえぇぇぇえ!!」」

 

 

「「くたばれえぇぇぇえ!!」」

 

 気合の入った掛け声とともに、ノーモーションからの飛び蹴りを放つ。

 この勝負の必勝法、それすなわち勝負を成立させないこと。つまるところ、障害になりそうな相手を叩き落とすことだ……!!

 

「「ん???」」

 

 違和感。なにか、重要な見落としがあるような。

 

 どうして、声が二重に聞こえる……!?

 

 気付いたときには遅かった。足の裏に伝わる金属を蹴ったような感触、視界一杯を埋めつくす銀色の足。

 重っ……!

 

「「ぐはぁああ!?」」

 

「「「えぇ……?」」」

 

 同時に飛び蹴りを放っていた僕と銀色の男は、それぞれの顔面に蹴りを叩き込み、弾丸のようなスピードでゲート前の壁に突き刺さった。

 

『のわー!! 1-Aウサト、1-B鉄哲! いきなり相打ち! 二人そろって相打ちだ! 派手にやるぜぇ!!』

『あんの馬鹿ども……!』

『しかもウサトの方、轟に追い打ちで固められてやがる! ウケるな!』

 

 なに笑ってんだちくしょう……!?

 実況・解説の声を聞きながら、氷を蹴り砕き、壁から頭を引っこ抜く。

 頭をふるって前を向けば、同じようなことをしている全身銀色の男と目があった。

 彼は確かB組の……!

 

「き、汚ねぇぞ! スタートと同時に妨害とか、A組の感性は一体どうなってんだ!?」

「くそ! 不意打ちとは卑怯な! 正義を語るヒーロー科B組が恥ずかしくないのか!?」

 

『いや、両方同レベルだろ』

『汚ねえ、なんて汚ねえ野郎どもだ! とか言ってる間に、先頭集団は早くも第一関門へと突入だぜ! はえぇな!』

 

 言いながら飛びかかってきたそいつに対して、ヘッドロックをかまして走り出せば、相手も負けじとヘッドロックをし返してくる。こいつに構っている暇はないというのに、我慢比べのつもりか……! 上等だこの野郎!

 

 スタートゲートの混雑を壁面を走って回避する。

 ほとんど宙づり状態になっている銀色の男は、苦し気な声を上げてはいるものの、ヘッドロックの力は頑なに緩めようとしない。

 ゲートを抜けた先には、一面氷漬けの地面が見える。ゲート付近の動かない連中といい、十中八九轟くんのものだろう。滑りやすい足場は、今の靴では少々危険だ。踏み壊すのもいいけど……!

 僕は、ヘッドロックを掛け合う男に声を掛けた。

 

「見上げた根性だ! 名前は!?」

「A組の奴が今更何を! 鉄哲徹鐵だぁ!」

「そうか鉄哲くん! 僕は兎里健! 利用させてもらうぞ、お前の硬さ!」

「はぁ!? 何がぁっ!?」

 

 僕は、空中で鉄哲くんを自分の下側へ持ってくると、そのまま着地の勢いを使って氷上を滑走する。金属を思わせる硬くなめらかな肌を持つこの男だからこそできる妙技。人間ボブスレーと名付けよう。

 

「これが友情パワーだ!」

「ぬおぉぉぉ!? どこがだぁ!?」

 

 下に敷かれた鉄哲くんの悲鳴は無視しながら、コースの壁を蹴って角度を調節しつつ、どんどん加速していけば、あっという間に第一関門へと辿り着いた。

 

『えげつねぇ方法でかっとんでくる後方二名は無視するとして! さぁ、いきなり障害物だ! まずは手始め! 第一関門:ロボ・インフェルノ!!』

 

「入試ん時の0P敵(ヴィラン)じゃねーか!?」

「マジか、ヒーロー科あんなんと戦ったの!?」

「多すぎて通れねぇ!!」

 

 そこで僕たちを待ち構えていたのは、0ポイントを含む、入試に使われたロボットたちであった。

 

 

「せっかくなら、もっとすげえの用意してもらいてえもんだな。クソ親父が見てるんだから……!」

 

 前を走る轟くんがスライディングのような挙動で身を低くしながら、指を地面につける。厳冬を思わせる冷気がその右手に集中していく。霜が沸き立ち、氷が固まっていくその右手をロボットにむかってひと掻きすれば、たちまちその巨体が氷に覆いつくされた。

 

 0Pロボに驚いたのも束の間、僕たちが追いつく暇すらなく、轟くんが一体を全身氷漬けにして駆け抜けていく。相変わらずふざけた効果範囲だ。

 

 だが、今はこれでいい! 通り道を作ってくれたならそこから抜けるだけだ!

 

「ソっ、鉄哲くん! あの隙間だ! 突っ込むぞ!」

「今ソリって言いかけたよなお前!? いい加減降りろや!」

 

 言うが早いか、轟くんの凍らせたロボットの足元に向かって滑走する。

 あそこを抜ければ、一気にトップだ! 鉄哲くんを轟くんあたりにポイして、駆け抜けたなら、僕の勝ち!

 

「やめとけ。対策はしてる。不安定な体勢の時に凍らせたから……倒れるぞ」

 

 ががっと、引っかかるような感覚がして、鉄哲くんが止まった。見れば、足元が氷ではなく土に戻ってる。滑れないようにするためか……!

 さらに、上から、巨大なものが覆いかぶさるようにして影が落ちる。

 

 見れば、凍り付いたロボットが軋み、ぐらりとバランスを崩してこちらに向かって倒れこんできていた。タイミングが読まれてた……! 避けられない!

 

「のおぉぉぉ!?」

 

 僕と鉄哲くんは、とっさに来るであろう衝撃に身構えることしかできなかった。

 

 

『第一関門を一抜けしたのは、1-A 轟焦凍だ!』

 

 実況のプレゼントマイクの歓声が響くなか、第一関門では、普通科生徒が動揺した声を上げていた。

 

「お、おい。三人くらい下敷きになったぞ……!?」

「死んだんじゃねぇか!?」

「死ぬのか!? この体育祭!?」

 

 その声に答えるようにして、ロボの残骸が、ボゴンと音を立て始める。

 

「死ぬかぁ!」

『あああ! 1-A切島、潰されてた! ウケる!』

 

 そこから現れたのは、赤髪の少年。硬化の個性を持つ男、切島鋭児郎である。

 

「轟の野郎、わざと倒れるタイミングで……! 俺じゃなかったら死んでるぞ!」

 

 威勢のいい文句とともに飛び出して来たその身体は、堂々の無傷である。不本意ではあるが、彼の個性のいいアピールとなっただろう。しかし、今回は、『俺』だけとはいかなかったらしい。真横で先ほどの焼き直しのようにしてバゴンと音がなった。

 

「A組の野郎は……本っ当にヤなやつばっかりだよなぁ!?」

『あああ! 1-Bの鉄哲も潰されてた! ウケる!』

 

 同じく現れたのは、銀髪の少年。先ほどまでウサトと取っ組み合い(?)をしていたスティールの個性を持つ男、鉄哲徹鐵である。

 

「俺じゃなかったら死んでたぞ!?」

 

 鼻息荒く飛び出した彼を見て、切島が走り出す。その目には、涙が浮かんでいた。

 

「個性だだかぶりかよ! ただでさえ地味なのに!」

「待てこらァ!」

 

 自分の個性には派手さが足りないと常日頃から悩んでいる彼だからこその悩みだ。これには漢である彼も涙を止めることはできなかった。

 一方鉄哲はそんなこと知ったことではない。A組に負けるわけにはいかないと、その背中を追っていく。

 

 二人は、凍り付いたロボットの上を破損を気にすることなく駆け抜けてゆく。

 

 では、最後の一人は……?

 

 

 僕は、ロボの全体重を支えた結果、地面に足が深々と刺さってしまっていた。身動きが取りずらい……!

 

 上から、軽い足音のようなものが二つ聞こえてくる。恐らく鉄哲くんと、もう一人は少し前を走っていた切島くんか。

 

 頭上を取られた! しかもこの足音は、連中このロボットをそのまま足場にして行く気なのだろう。

 

「行かすかよォ……っ!」

 

 上半身の力だけで、ロボットを上方に押し返す。わずかに空いた隙間を使って、足が地面から抜けた。これでやっと動ける……!

 

 ガシリとロボットの首の辺りを両腕で固定する。人様が支えてるものの上を行こうなんて、許せないよなぁ……!

 

「ぬぅぅぅんっ!!」

 

 力がいるのは最初だけ、ゆっくりとその巨体ごと持ち上げると、ぶんぶんと回転の力を利用して、勢いをつけていく。

 

「おい、ウソだろおい!?」

 

 切島くんが、焦ったような声でしがみついているが、もう遅い! しがみつくという判断をした時点でお前らの負けよぉ! 

 

 そんなお前らは、後ろに戻してやらぁ……!

 この0Pロボごとなぁ!

 

「いいいっけええええええええっ!!!!!」

 

 雄たけびとともに、ロボットを力の限り後ろに向かってぶん投げた。

 

 

『一足先に行く連中は、A組が多いなやっぱ!』

『別に特別なことじゃない。ただ、立ち止まる時間が少ない。各々が経験を糧とし、迷いを打ち消している』

 

『ただ……様子がおかしいのもいるな……』

『ウサト、0Pロボを後ろに向かって投擲ぃ! あれ、あのコースやばくね? ロボ、飛んできてね? スタジアムの方に飛んできてね!?』

 

 僕が投げ飛ばしたロボットは、スタートゲートへと吸い込まれるように飛んでいき……激突した。

 

『あれ、リスナーがやばくねぇぇぇっ!?』

 

「やっば……!」

 

 あそこには、轟くんによって足を固定された生徒たちがいる。融けていて逃げれたのならいいけれど、そうじゃないなら……!

 僕は、スタートゲートに向かって、逆走を始めるのだった。

 

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