個性『治癒』の間違った使い方   作:のーし

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第5話

 集合時間も近づき、順調に人も集まってきた。

 そろそろ僕も席にもどった方がいいだろう。

 

 それにしても……。

 

「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」

「思わねーよ! てめーどこ中だよ端役が!」

 

 このクラス、メンツ濃いなぁ……。

 みんな最近まで中学生だったんだよね? さすがに救命団の馬鹿どもほどではないにせよ、ここまではっきりキャラが立ってる奴なんて、クラスに一人もいた覚えがないよ。

 とはいえ、全員が喧嘩っ早いというわけでもなさそうだ。隣の席の子は前列で行われているもめごとにため息をついている。どこにでも良心はいるものだね。頭は鳥みたいな形をしているけど。

 きっと獣人の仲間みたいなものだろう。

 

「なんだか、すごそうな人が一杯だね……」

「っ!!??」

「ダレダオマエハ!?」

 

 自分の椅子に着地しつつ話しかけると、ガタガタッという音と共にカラスっ子が椅子から転げ落ちてしまった。ひょっこりと彼の影(?)が顔を出す。

 

「大丈夫……?」

「も、問題ない……」

 

 あまりにオーバーなリアクションにこちらも驚きつつ、治癒魔法をかける。

 急に話しかけられたからびっくりしちゃったのかな?

 カラスっ子はしばらく肩で息をしていたけれど、やがて落ち着きを取り戻したらしく、こちらに向き直った。

 

「常闇踏影だ。よろしく頼む。こっちは、ダークシャドウだ」

「ヨロシクナ!」

「僕は兎里健。よろしく」

 

 そんな風に簡単な自己紹介をしていると___

 

 

「お友達ごっこがしたいなら他所へ行け。ここは……ヒーロー科だぞ」

 

 扉の前にイモムシのような何かが鎮座していた。

 え、なにあれ。やだあれ。

 

 イモムシはのっそりとした動きで立ち上がると、これまた緩慢な動きでチャックを開ける。

 なかからはくたびれた印象を受ける中年の男性が出てきた。

 イモムシのように見えていたものは寝袋だったらしい。

 あまりにも怪しい男性にしばらくざわついていたクラスだったが、やがてそれも収まってゆく。

 後には気まずい沈黙だけが残った。

 

「はい、静かになるまでに8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね」

 

 静まり返った教室で男の足音だけが響く。

 教室では、皆一様に疑問符を浮かべていた。

 えっと……だれ??

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 担任だった。すっごい怪しいのに……。

 

「……早速だが、体操服を着てグラウンドへ出ろ」

 

 こちらの驚愕を他所に、それだけ言うと、男性、相澤先生はそのまま教室を後にしてしまった。

 

……担任も濃いなぁ。

 

 

「「「個性把握…テストォ!?」」」

 

 だだっ広い校庭に1-Aの声が響き渡った。

 

「入学式は!? ガイダンスは!?」

「ヒーローになるならそんな悠長な行事、出る余裕ないよ」

 

 至極まっとうなツッコミは、先生によってバッサリと切り伏せられた。

 

「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは、先生側もまた然り。さ、ちゃっちゃとやろう」

 

 遠投用のサークルへと向かい始める先生に、皆が慌ててついていく。

 

「中学の頃からやってるだろう? 個性禁止の体力テスト。画一的な記録を取るものだが、あれじゃあ意味がない」

 

 どこからともなくボールを取り出すと、淡い金髪の少年にそれを放り投げた。

 

「爆豪。中学の時ソフトボール投げは何メートルだった?」

「67m」

「じゃあ、個性を使ってやってみろ。円から出なければ何してもいい。思いっきりな」

 

 爆豪は、ボールを受け取ると好戦的な笑みを浮かべた。

 軽くストレッチをすると大きく振りかぶる。

 

「死ねぇ!」

 

 やたらと物騒な掛け声で投擲……というよりも掌の爆発によって射出されたボールは、遥か彼方へと吹き飛んでいった。

 あれは……確かに普通の人が出す記録ではなさそうだ。

 

「まずは自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 だからこそ、全力で。今の限界を示せ。そういうことか。

 わかりやすくていい。

 

 しばらくした後、先生が持つ端末に軽い電子音が響く。こちらに差し出された液晶には705.2mという記録が示されていた。

 

「なんだこれ! すげー面白そう!」

「705mってマジかよ!」

「個性思いっきり使えるんだ! さすがヒーロー科!」

 

 すさまじい記録と今まで制限されていた個性の使用許可にクラスのボルテージが一気に上昇し___

 

「面白そう……か。三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

 ___一瞬にして地の底へと叩き落とされた。

 空気がピリついたものへと変わる。

 

「よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」

「は、はあぁぁぁ!!?」

 

 生徒たちの悲鳴を心地いいとばかりに笑みを浮かべ、髪をかきあげながら先生は続ける。

 

「生徒の如何は教師の自由。ようこそ! これが雄英高校ヒーロー科だ」

 

「初日で除籍処分!? いくら何でも理不尽すぎる!」

「そうとも。理不尽だ。だが、そういう理不尽を覆していくのがヒーロー。プルスウルトラ。全力で乗り越えてこい」

 

 まだいけると不敵に笑うもの。

 やりきれない気持ちにさいなまれるもの。

 そして、静かに覚悟を決めるもの。

 

 入学初日にして、生き残りをかけた戦いが、始まろうとしていた。

 

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