個性『治癒』の間違った使い方   作:のーし

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第6話

 第一種目 50m走。

 

 二つのレーンを使用し、出席番号順にペアを組んで測定をするようだ。

 僕の出席番号は5番なので、6番のひとと一緒に走ることになるわけだけど、さてどこだろう。

 手慰みに魔力を手の周りでくるくるともてあそびながら、まわりをきょろきょろと見回していると、同じくまわりを見回していた少女と目があった。ふわふわとした茶髪の少女だ。

 彼女はこちらを見つけると隣を指さしてきた。見れば整列がほとんど終わっている。遅れてしまったか。

 

「多分ここだと思うよ!」

「ありがとう、えっと……」

「麗日お茶子だよ! よろしくね!」

「兎里健。よろしく、麗日さん」

「お互い頑張ろうね!」

 

 今の一瞬で分かった。この子、めっちゃいい子だ。

 感動していると、麗日さんは気合を入れながら、自分の服や靴に触れてゆく。触れた箇所が一瞬だけ光ると、また別の部位に。

 

「それは?」

「ん? ああ、私の個性だよ! 触れたものに掛かる引力を失くせるんだ」

 

 この競技ではこれくらいしかできないかな。と笑う彼女に僕は衝撃を受けていた。

 重力に干渉できるって……コト!?

 

「麗日さん!」

「ひゃ、ひゃい!?」

 居ても立っても居られず、彼女の肩をがしりと掴む。

 

「それってさ、引力を増やすこともできる!?」

「い、いや、消すことしかできないけど……」

「そっかぁ……ありがとうね……」

「ち、ちなみにできたらどんなことに使うつもりだったの?」

「筋トレ……かな」

 

 テンションが乱高下した僕とそんな僕の様子に引いた様子の麗日さんが残った。

 

 

 そんなことをしているうちに測定は次々と済んでいき、いよいよ僕らの一つ前の番になった。

 走るのは、不思議な髪型の少女とキャラの濃い眼鏡の少年、確か飯田くんだったか。

 彼は一つ大きく息をつくと体操服のふくらはぎ部分をまくり上げる。かなり鍛え上げられている足が露出した。

 それだけではない。彼のふくらはぎには排気孔のようなものが複数ついている。

 なるほど、これが彼の個性か。

 当然見掛け倒しではないらしい。スタートのポジションに着くと、ドドドドと排気音のようなものも聞こえてきた。

 

 そしてスタートの合図。

 スタートは普通の範疇だが、そこからの加速が尋常じゃない。どんどんとそのスピードを上げていきそのままゴールした。

 記録は3秒04。相変わらず人間のタイムじゃない。しかもあの様子ならまだ()がある。

 

「早いな……」

 

 でも、負けたくない。負けられない。

 そこ(走るコト)は、僕ら救命団の範疇だ。

 

 軽くクラッキングをしてセットポジションに着く。

 スターターは使わず、立った状態で構える。こっちの方が慣れているし、下手に扱って壊したくない。

 開始の合図が聞こえた瞬間、僕は全力で踏み出した。

 

「へ?」

 

 という麗日さんの呆けた声すらも置き去りにするようにしてゴールへと突っ込む。

 

 記録は……1秒03。僕の勝ちだ。

 

「い、一秒ぅぅ!!?」

「はっや!!」

「マジかよ!?」

 埒外のタイムに一瞬静寂の後、歓声とも驚愕とも取れる声が湧きあがる。

 

 そんななか、飯田くんはこちらをまっすぐと見据えていた。

 彼もまた、走ることにはプライドがあるのだろう。

 その目は、静かに闘志を燃やしていた。

 

 50m走:1秒03。

 

 

 

 第二種目 握力

 

「540キロて!! あんたゴリラ!? いやタコか!」

「タコって……エロいよね」

 またしても叩きだされた超記録に歓声が湧く。

 やはりただ者でない人ばかりだ。僕もうかうかしていられない。

 

 計器を壊してしまうかもしれないという心配は、背の高いポニーテルの少女が万力で1トンという超記録を出しているところを見て、しなくてもいいと分かっている。

 というか、あれはアリなのか。聞けば個性で出しているものだからアリらしい。これは、自分の個性の生かし方をうまく工夫している彼女がうまいという話だ。確かにその場に併せた物品を取り出して使っている判断力と発想には脱帽だ。

 

 さて、僕の番が回ってきた。思い切りやってしまおう。

 測ったことはないけど、1トンなんて出るワケ……

 

 バキィ!!

 計器が僕の手の中で砕け散った。

 

 ___壊れないって思うじゃん……。

 いや、本当に……ごめんなさい。

 手に刺さってしまった計器を取り外しながら相澤先生の元へと向かった。

 

 握力:計測不能。

 

 

 

第三種目 立ち幅跳び

 

 多少負傷をしてしまったが、僕にとっては大した問題じゃない。

 治癒魔法をかけながら立ち幅跳びの砂場へと向かう。緑色の光に包まれた傷口は瞬く間にふさがっていった。

 

 こちらの競技でも各々が個性を生かして記録を伸ばしていく。

 爆豪くんは両手から出る爆破で空をかける。爆速ターボと名付けていた。なんてイカしたネーミングセンスだ。彼とは仲良くできるかもしれない。

 

 僕の番がやって来た。

 白線の前に立ち、何度か屈伸のような動作をして勢いをつけていく。

 激しく地面を蹴ると同時に腹筋で足を持ち上げる。斜めに飛んでいく中で、姿勢を制御して踵落としのような体制に持っていく。

 タイミングは、地面に着地する直前……今!

 

 勢いよく振り下ろした踵落としの風圧で、わずかに身体が浮く。高さにして30cm程度、だけどこれで十分。

 すさまじい勢いで飛んでいるのだ、そのわずかな猶予だけでも2~3mは伸びる。

 着地の瞬間、身体をひねってわずかでも遅らせつつ受け身をとって着地した。

 

 さすがに飛んでる連中には勝てなかったか……。

 

立ち幅跳び:28.4m

 

 

 

第四種目 反復横跳び

 

 ブドウのような頭をした少年が両面に自分の頭からもぎり取った球体を設置すると、その間をすさまじい速さでバウンドしていた。反発力がある物質を使うことで小さな力であれだけの速さを生み出しているのか……。面白い使い方するなぁ。

 でもあれ、止まるときはどうするんだろう……。

 しばらく眺めていると、やがて彼はすさまじいスピードで射出された。

 方向は、僕……の隣にいた万力の少女だ。ちょうど別の方向を見ていたらしく気が付いていない。

 

「よっ、と。大丈夫?」

「おっひょ……おぉぉ……!?」

 

 さすがに危ないので、割り込むようにして少年を受け止める。

 ついでに目から血が出ているので治癒魔法をかけてあげた。

 すごいな。後から後から血が出てくる。それほどの覚悟を持って取り組んでいるのか。

 それにしてもどうしてこの少年は僕を親の仇のような目で見てくるんだろう。

 

「お、お前ぇぇ!?」

「怪我とかない? 大丈夫?」

「ありがとうだけど違うぅぅ……!!」

 

 不思議な少年だ。

 あ、僕の番になりそう。少年をおろすと位置についた。

 ステップはやや苦手な部類だけど頑張ろう。

 

 ……これっ、難しい!

 必要な分の小さなジャンプを必要な方向に素早く連続で行わないといけないというのが、すっごい神経を使う。走るのとも違う感覚だし、これは訓練しないとダメだな。

 

 反復横跳び:173回

 

 

 

 第5種目 ハンドボール投げ

 

 そして、事件が起こった。

 

 

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