個性『治癒』の間違った使い方   作:のーし

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第7話

 第五種目 ハンドボール投げ

 

 麗日さんが記録:∞を出すなど、大いに場が盛り上がっていくなか、一人だけ顔を真っ青にさせている少年がいた。

 少し離れた位置から聞いてしまったことだが、彼の名前は緑谷くん、入試時にとてつもない「何か」をなしたらしい……。今の様子を見ている限りとてもそうは見えないでいるが、彼は何を持っているのだろうか?

 

 

 一度目の投球、何やら決死の表情を浮かべた緑谷くんはそのボールを握りしめると大きく振りかぶった。

 彼の右腕に電流のような力が流れていく。

 その腕を見た瞬間、ブルリと身体が震えた。強敵と戦ってきた記憶が僕にささやく。あの腕には、すさまじいパワーが秘められている。

 下手をすればローズにも匹敵しうるほどのパワーを秘めたそれが、ボールを遥か彼方へと吹き飛ばす……はずだった。

 

 記録:46m。一般人にしてはすごい部類。その程度の記録だ。

 どういうことだ。先ほどまでのパワーは一体どこへ?

 緑谷くんの表情が絶望に染まる。

 

「個性を消した」

 

 その声だけが、はっきりと聞こえた。

 呆然とする緑谷くんに相澤先生が語り掛ける。この距離では何を言っているのか分からない。だが、緑谷くんにとって良いことでないことぐらいは僕にも分かった。

 

 やがて、緑谷くんが解放され、再び円の中へと戻ってゆく。

 絶体絶命。もはや後はない。先ほどまではにぎやかだったクラスメイトたちも、今だけはいやに静かだ。

 

 けれど、彼の眼はまだ光を失ってはいなかった。

 

 彼が大きく振りかぶる。

 僕はあの目を知っている。

 

 絶望に沈む目じゃない。暗闇のなかで、それでもと希望をにらみ続ける強い目だ。

 

「SMASH!!」

 

 指先に光が集まる。凄まじいパワーを内包したそれは、今度こそその力を発揮してボールを遥か彼方へと投げ飛ばす。

 自分自身の指もその反動でどえらいことになっているが、それでも彼は先生に対して不適な笑みを浮かべてみせた。

 おいおい。かっこいいじゃないか。

 

 とはいえ、怪我は良くないけどね!

 僕は彼の治療をするべく駆け出した。

 

 

 

 

 二つの影がほぼ同時に飛び出す。一つは僕、もう一つは……。

 

「どーいうことだ! ワケを言え、デクてめぇ!」

 

 怒号とともに緑谷くんに突進する爆豪くんだった。彼は何のつもりなのか、右手を激しく爆破させながら強襲を仕掛ける。

 

 彼よりも先に緑谷くんをかっさらうべく、さらにスピードを上げようとしたその時、僕と爆豪君に向かって飛来する何かを視界の端でとらえた。

 横から飛んできたそれを上体をそらしてよける。

 そのまま下がると見せかけて前進、緑谷くんを回収してから何かを飛ばしてきた張本人に向き直る。

 

「なにするんですか!」

「こっちのセリフだ。腕を降ろせ。なんで教師に対して全力ファイティングポーズだ」

 

 相澤先生は呆れた様子でこちらを見てくる。その手元には包帯のようなもので捕縛された爆豪くんの姿があった。

 言われて気が付く。そうか、相手はローズじゃない!

 

「ごっ、ごめんなさい! 体が勝手に!」

「戦場帰りかお前は」

「……すみません!」

 

 まさかの図星を突かれてしまったので、勢いでごまかしに掛かる。

 相澤先生はふー、と深くため息をついた。

「時間がもったいない。次、準備しろ」

 

 

 

 

「緑谷くん、手ェ出して?」

「え、あ、う、うん。えっと……」

「兎里健だよ。ウサトってよんで」

「わ、分かった。僕は緑谷出久。よろしくね」

 

 サークルから少し離れた位置で緑谷くんに治療を施すべく、彼の指を見る。

 彼の指は複雑な方向に曲がり、内出血で紫色に染まっていた。

 

「……ひどいな。個性を使うたびにこうなるの?」

「さ、最近発現して、まだ制御が効かないというか」

「そういうのもあるのか……。まぁいい、とりあえず治療しちゃおう」

 

 僕が手に緑色の光をまとわせていると、彼は意外そうな声を上げる。

 

「え、治療? ウサト君は増強系の個性じゃないの?」

「増強? いや、治癒だけど?」

 

 僕がそう伝えた直後、緑谷くんの顔つきが変わった。

 高速で何かをつぶやいていて、とても全ては聞き取ることができそうもない。

「増強系じゃないのにあのパワー……!? どうなってるんだ……。そもそも治癒って、どう考えても戦闘向きじゃないよな。どうやって…………」

「お、おーい? 緑谷くん? 勝手に掛けちゃっていいのかな?」

 

 完全に自分の世界に入ってしまっている。いいや、勝手にかけてしまおう。

 そこに待ったをかけたのは相澤先生だった。

 

「待て、ウサト、治療はするな」

「あぁ?」

 

 意味不明な指示に、思わず顔をしかめてしまう。

 けが人を前にして何言ってんだこの先生。

 

 一気に鬼のような表情になったウサトに、クラスメイトから動揺する声が漏れ始める。

(((顔怖!?)))

(だ、誰だあいつ……? あんな奴いたか?)

(確か、50mで一位だった奴だと思うけど……)

(あんな顔じゃなかったって……!?)

 ざわつきだすクラスメイト達、その一方で相澤先生は一切動じることなく続ける。

 

「緑谷はそのまま続行だ」

「……どういうことですか? こいつは怪我人ですよ?」

「これは個々人の個性を含めた身体能力を測るテストだ。怪我が事故ではなくそいつの個性の結果ならそれ込みで測るのは当たり前だろうが」

 

「それに、治ることを前提として動いていては意味がない」

 

 その説明の意図は理解はできる。理解できるが……。

 悩む素振りを見せる僕に緑谷くんが話しかけてくる。

 

「いいんだ、ウサトくん。僕は、今できることで勝負したい。これは、僕が乗り越えないといけないことだから」

 

 まっすぐな目でそう告げられる。

 そこまで言われたら、僕の方が無粋か……。

 

「…………チッ、わかりました。」

(((舌打ち!?)))

 

 

 この後、鬱憤を晴らすかのように思い切り投げたボールは、1km先まで到達したものの、その後の万力少女の大砲によってあっさりとその記録が塗り替えられた。

 少しへこんだ。

ボール投げ:1032.3m

 

 

 

 第六種目 長座体前屈

 爆豪くんが爆破の衝撃で測定器を飛ばして反則になっていたり、万力少女が手から棒のようなものを出して、これまた超記録を出していたりした。

 いいのか、それで……。

 

 今回は何も小細工ができそうもなかったので通常通りに測定。64cm。

 訓練のおかげもあってか、結構柔らかくなっていた。なんというか普通にうれしい。

 

 長座体前屈:64cm

 

 

 

 第七種目 上体起こし

 ここでも、ブドウ頭の少年が背中と腹に球体を括りつけることで躍動していた。

 すごい。早すぎてヴィブラスナップの球体の方みたいになっている。あれはあれでしんどいんじゃなかろうか。

 記録は163回。1秒あたり5回強という驚異のペースだ。

 

 僕も負けてはいられない。どれだけ腹筋をやって来たことか。

 息を大きく吸っていざスタート。小さく吐き出しながらもくもくとこなしてゆく。

 限界まで絞り出せ……! この三十秒にすべてをかけるくらいの気持ちで……!

 

 結果は……168回! 勝った!

 やはり筋肉だ。鍛え上げた筋肉は嘘をつかない。勝利のスタンディングをしながら、最終種目へと向かった。

 

 上体起こし:168回

 

 

 

 最終種目 持久走

 

 準備運動をしながら飯田くんの方を見る。

 あちらも、僕のことをまっすぐと見据えていた。

 考えることは同じだ。

 

「この競技では、負けたくない」

 

 僕たちのプライドをかけた戦いが、始まろうとしていた。

 

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