個性『治癒』の間違った使い方   作:のーし

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第8話

 最終種目 持久走

 

 持久走は5kmのタイムを競う。

 一周2kmという大きなトラックを2周、そして最後の直線1kmだ。

 雄英って、本当に何もかもがでかいな。陸上用のトラックって1周400m以外あったのか。

 

 全員が位置につき、スタートの合図を待つ。

 一番外枠にバイクが止まっているがきっと万力女子のものだろう。彼女のなんでもあり加減は十分に見てきた。今更バイクごときで驚きはしないよ、僕は。

 

 このレースでライバルになってくるのは彼女、そして飯田くんだ。

 特に障害となるのは飯田くんの方。彼もまた、走りには絶対の自信がある。

 もちろん、僕は負けられない。救命団としてのプライドもあるけれど、それ以上に負けた後のローズが怖い。

 だが、それは相手も同じこと。今の僕が生半可な気持ちで挑めば、おそらく負けるのはこちらの方だ。

 

 一度大きく息をはく。

 全身に治癒魔法をまとい、準備は万全。

 

 互いのプライドをかけた勝負の火蓋が今、

 

「はい、スタート」

 

 切って落とされた。

 

 

 開始とともに大外から駆け上がったのは八百万だった。

 バイクのスロットルをひねり最高速まで一気に加速していく。

 

(私だけは体力勝負じゃありませんわ。最初にきっちりリードを作ってそのあとは独走……)

 

「というわけにもいかなさそうですわね」

「他の競技では負けたけど、ここでは負けたくないもんでね」

 

 僕は負けず嫌いなんだ。と笑いながら、その横にぴたりと並走するのはウサトだ。

 すでにその速度は100km/hを越えているにもかかわらず軽々とついてくる。

 

「そういう次元じゃないですわよ、あなた」

「よく言われるよ」

 

 軽口を叩きながらも走り続ける二人、そこに後ろからもう一つのエンジン音がやってくる。

 

 トップギアまで入れた飯田だ。割って入るようにしてトップ集団にその身をねじ込んだ。

 

「来たね、飯田くん……!」

「……!」

 

 必死の形相そのもので、エンジンをフル回転させる。

 最高速が二人よりも早いのか、飯田がじりじりと前へと出始めた。

 

 だが、最高速だけで決まるほどレースは甘くない。

 徐々にコースが弧を帯び始める。コーナーだ。半円を描く軌道のコースをまっとうに走るには、この三人の速度は早すぎる。

 

 コーナーでは遠心力が働く。その強さは速度の二乗分。100km/hでのカーブなど、人はもちろん、多少重量のあるバイクですら厳しい。

 

 飯田、八百万が速度をゆるめる。それでもそれぞれ40~60km/hほどは出ているが、曲がり角に対応するためそれぞれが適した速度にまで調整する。

 

「「なっ……!?」」

 

 その中で一人、ウサトだけが一切速度を落とすことなくコーナーへと突貫した。

 

 一瞬後ろの二人は、曲がり切れず大きく膨らんだコースを走るウサトを幻視したが、直後にそれが己の都合のいい幻想であったことを知る。

 

 ウサトは、()()()()()()()()()()()()()()ことで、ほとんど速度を落とすことなくコーナー駆け抜ける。

 地面を容易に踏み砕く埒外の脚力と限界まで鍛え上げられたボディバランスが成せる技だ。

 

 インコースギリギリをほとんどスピードをロスすることなく走り抜けたことで、50mほどの猶予が生まれた。

 この速度で走る彼らにとっては誤差のようなものだが、この場ではその誤差こそが明暗を分ける。

 

 とはいえ、やはり直線で速いのは飯田だ。後続の八百万との距離を離し、ウサトとの差を少しずつ埋める。

 コーナーで突き放すウサト、直線で巻き返す飯田。この二人の均衡は、しかし2週目に入ったところで崩れ始めた。

 

 

 飯田天哉はその違和感に気が付き始めていた。

 直線で、追いつけなくなってきている。

 彼の速度が上がっている? 違う。

 僕が遅くなっている? 疲労は感じているが、まだフルスプリントの範疇だ。

 

 混乱する頭をリセットするべく大きく息を吸う。この数キロの間に何度も味わった身体に酸素が満たされていく感覚、そしてそれと同時に飯田は違和感の正体に気が付いた。

 

 前を走るウサト、その口からは呼気がない。

 

(確かに短距離走において呼吸はロスになるという定説がある。しかしそれはあくまで200~300mの話。5kmの持久走でやることじゃないぞ……!?)

 

 だが事実として、ウサトは走り抜いていた。

 その裏には、治癒魔法によって無理やり身体をフレッシュな状態にし続けているというからくり(脳筋)がある。体感する苦痛は想像を絶するものだが、ウサトからすればその程度、日々の訓練の範疇である。

 

 相手もまた、強いプライドをかけている。そのことを再認識した飯田は、覚悟を決めるように前を走るウサトを見据えた。

 

 

 最後の直線だ。この直線だけは1kmと今までの直線と比べても長い。飯田くんはここで勝負をかけてくるだろう。

 

 まさか直線なら彼の方が早いとは思わなかった。まだまだ訓練が足りないと実感させられる。これが終わったら、ダッシュの訓練も取り入れることにしよう。

 それでも確実に差は開いてきてる。さっき確認しただけでも、ざっと100m。最終直線での加速を考えても、ギリギリ勝てる。

 

 残り700m。飯田くんがトップスピードに到達した。

 

 残り500m。彼我の差は80mほど。このまま突っ切る。

 

 残り100m。酸欠で頭がくらくらするけどゴールは目前。ぼくの勝ちだ……!

 

 勝利を確信したその瞬間、後ろから爆発音が聞こえた。

 

「トルクオーバー……! レシプロ……!」

 

『バースト!!』

 

 急速に接近するなにか。もはや振り返らない。あと数歩でゴールだ。そんな暇があるなら駆け抜ける。

 

 

 ゴールの目前、僕の横を飯田くんが追い抜いた。

 

 

 彼はそのままゴールに吹き飛ばされるような勢いで突っ込むとその場で倒れこんで動かなくなる。

 

「まじか……」

 

 負けた。

 数秒間は呆然と眺めることができなかった。地面に倒れ息を荒げる彼を、自分の責務すら忘れて見ていることしかできなかった。

 

 彼が激しくむせかえっているのを見て、慌てて駆け寄る。さっきは先生に止められたけれど、もう残りのテストはないからいいだろう。

 

 治癒魔法をかけると、徐々に飯田くんの呼吸が安定し始めた。

 

「飯田……天哉だ……。今回は……僕の勝ちだな……」

「兎里健だよ。……次は負けないからね」

「ははっ……次も負けないさ」

 

 にゃろう……。

 ニヒルに笑って見せる彼の手をがしりと取って立ち上がらせる。治癒魔法の効果でもうすっかり疲労も抜けていることだろう。彼は驚いたような顔をして自分の体を見ていた。

 

 こうして、悔しさを噛み締めながら個性把握テストは終わりを迎えた。

 

 持久走:2分43秒 (二位)

 

 

「んじゃ、ぱぱっと結果発表」

 

 全種目が終了し、いよいよ結果発表のときとなった。

 トータルは単純に各種目の評点を合計した数値を使用。

 

 

 そして、トータルの成績で最下位のものが除籍となる。

 

 クラス全体をひやりとした空気が包む。

 皆が、自分の順位はと緊張した面持ちで相澤先生の方を凝視する。

 

「ちなみに除籍はウソな」

「「「!?」」」

「君らの最大限を引き出すための合理的虚偽」

 

「「「はあぁぁぁっ!!?」」」

 

 生徒たちの叫び声を無視して、相澤先生がぽちりとボタンを押すと結果が表示される。

 

 最終結果は以下のようになった。

 

 一位  兎里健

 二位  八百万百

 三位  轟焦凍

 ~~~~~~~

 最下位 緑谷出久

 

「さて、これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類があるから、各自目を通しておけ」

 

「緑谷は保健室の利用書をやるからリカバリーガール(ばあさん)のところ行って治してもらえ」

 

 以上、解散。と言い残して、相澤先生は背を向ける。どこまでもマイペースなひとだ。

 

 さて、僕は緑谷くんにでもついていこうかな。回復系の個性ってやつにも興味があるし……。

 僕が緑谷くんの方へと歩き出そうとしていたところ、突然相澤先生が振り返った。

 

「おっと、忘れてた。ウサト」

「はい?」

「お前は、これから俺と職員室だ」

 

 

 ……あ、やっぱり途中の反抗的な態度は許されない感じですか?

 

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