個性『治癒』の間違った使い方   作:のーし

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バトル! 戦闘訓練編
第9話


 富士山の西側、朝霧高原を貫く国道75号。別名、朝霧ストレート。急激なアップダウンとともに1km近い直線を有するその道路に一人分の足音が反響する。

 

「582」

 

 呼吸を整えながら緩んできた重りを巻きなおす。まだだ。まだ足りない。

 身体を覆う治癒魔法のおかげで身体は常にベストコンディションだ。にもかかわらず、心だけが晴れない。僕ってこんなにナイーブだっただろうか?

 雑念を振り払うように夜の道を疾走する。僕の頭の片隅には職員室での相澤先生の言葉だけが残り続けていた。

 

 

「さて、ウサト。なぜ呼び出されたか、理由は分かるか?」

「……授業中の反抗的な態度ですかね?」

「違うな。そんなことじゃあない」

 

 おそるおそる尋ねる僕に、先生は軽く鼻で笑って否定する。

 おいこら、普通に怖かったんだぞ。初日で除籍とか洒落にならなすぎるって心配してたんだぞ。

 内心でぼやく僕に彼は正対すると鋭い目つきで問いかけてきた。

 

「単刀直入にいこう。ウサト、どうして全力を出そうとしない?」

「??? どういうことでしょう?」

 

 本気で困惑する僕に対して彼は続ける。

 

「俺は入試の監督官の一人だった。ビデオ越しではあったが、お前の行動も見させてもらったよ。入試の最後、お前はエグゼキューター*1に対して『何か』をしようとしていた。お前には、アレを何とか出来るだけの『何か』があるんじゃないのか?」

 

 なるほど、合点がいった。僕は相澤先生の問いかけに頷いて見せる。

 

「ええ、あります」

「なら……」

「ですが」

 

 さえぎるように言葉を紡ぐ。じろりと睨まれるが、こちらもまっすぐ先生の目を見たまま話を続ける。

 

「しばらくは使うつもりはありません」

「理由は?」

「僕はヒーラーです。一番最後まで、倒れるわけにはいかないんですよ」

 

 そう、僕がこの世界にやって来た理由は、僕の考えなしの行動が8割だ。一つ一つの行動は後悔していない。ああしなければたくさんの人が死んでいた。

 でも、その結果には後悔している。

 今まで、僕は何度も事件を解決してはぶっ倒れるという行動を繰り返してきた。

 このままじゃいけない。そのことを、僕はこの世界にやってきてようやく自覚したのだ。

 

 じっと、その目を見つめ続ける僕に、相澤先生はやがて根負けしたように頭をかいた。

 

「……信念か。いいだろう」

 

 だが、と先生は続ける。

 

「ここはアカデミア。ウサト、お前の才能と可能性を伸ばす場所だ。

 死ぬ気でやれ。いざというときに、死ぬほど後悔することのないようにな」

 

 俺からは以上だ。そうくくると、先生はガシガシと僕の頭を撫でながら職員室から追い出すように扉まで誘導するのだった。

 

 

 

「後悔がないように……か」

 

 知ってるよ。そんなの。

 

 夜の道路に、一人分の足音がこだました。

 

 

 

 

 翌日。雄英高校二日目。

 今日からは通常通りのカリキュラムとなる。

 自由な校風が売りとは言いつつも、それはあくまで社会規範の範囲での話。ヒーロー科もただ訓練をしていればいいというわけではなく、いわゆる5教科の学習科目が必修の授業として存在する。

 

 午前中は必修科目である。

 一限は英語。担当教員はプレゼントマイクだ。ヒーロー以外にも、ラジオパーソナリティとして定評がある彼だが、その授業は……。

 

「じゃ、次の英文のうち間違っているのは?」

 

(普通だ)

(普通だね)

(くそつまんね)

(関係詞の場所が違うから……4番!)

(やばい、気を抜いたらおいてかれそう)

 

「おら、エビバディヘンザップ! 盛り上がれー!!!」

 

 意外にも普通だった。

 

 その後もつつがなく授業は進行していきあっという間にお昼の時間。

 「ランチラッシュのメシ処」という自己主張が強すぎるネーミングながら、味・量・栄養・料金と非の打ちどころのない大食堂。生徒はもとより、教師陣の胃袋もがっちりと掴んでいるらしく、人であふれかえっている。

 クックヒーロー・ランチラッシュが調理した絶品料理たちを平らげ、英気を養ったなら、いざいざ。

 

 

「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!!」

 

 お待ちかね、ヒーロー基礎学の時間である。

 

 ドアから勢いよく現れたのはオールマイト。

 見るだけで分かるパワー。威風堂々とした佇まい。そして明らかに異なる画風。

 

「すげぇや、本当に先生やってるんだな……!」

「銀時代のコスチュームだ……!」

「画風違いすぎて鳥肌が……」

 

 教室のボルテージは一気に最高潮へと達した。押しも押されぬ歴戦のNo.1ヒーローだ。彼に憧れてヒーローを目指した者も多いわけで。当然の反応である。

 彼についてクラスメイトたちほど詳しくない僕ですら、その圧倒的な存在感に思わず背筋が伸びる。

 

「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地を作るためのさまざまな訓練を行う科目だ! 単位数も最も多いぞ!」

 

 教壇に立ったオールマイトは一枚のプレートを力強く突き出す。

 プレートには『BATTLE』の文字。

 

「早速だが今日はコレ! 戦闘訓練!」

「戦闘……!」

「訓練……!」

 

 各自が思い思いの反応を示す。ヒーロー志望のためか、その顔はやる気に満ち溢れている。

 やる気満々なクラスの様子にオールマイトは満足げに頷くと、その手に持っていたリモコンを掲げた。

 

「そして、そいつに伴って……こちら!」

 

 そのままリモコンを操作すれば、ガコンという音を立てて、壁の一部がせり出してくる。

 

「入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』にそってあつらえた……戦闘服(コスチューム)!!」

「「「うおぉ!!」」」

 

 迫り出したきた壁には、でかでかと生徒番号が書かれたトランクが一杯に詰まっている。

 中身は、被服控除によって学校専属のサポート会社が用意したコスチュームだ。

 これにはクラス全員が歓声を上げる。コスチュームはヒーローの象徴の一つ。それを着ることができるというのだから、感動もひとしおというものだ。

 

「着替えたら、順次グランドβに集まるんだ!」

「「「はーい!!」」」

 

 オールマイトの言葉にそろって返事を返すと、コスチュームの入ったトランクに手を伸ばし始めた。

 プレゼントをもらった小さな子供のような皆の顔つきに浮かされて、僕も少し遅れてコスチュームを手に取った。

 

 

 更衣室で服を脱ぎつつ、トランクを開けば、中身は白衣に似たコートのような服が入っていた。

 上質な革のようになめらかで頑丈な生地。そして胸にはシンボルである赤い花の刺繍。

 救命団の白服にそっくりなそれに苦笑する。僕も大概だな。世界が変わっても、この服を脱ぐつもりにはならなかった。

 

 袖に腕を通し、前を留め金で閉じる。軽く、動きやすく、着心地もよいそれは、完全再現と言ってよいほどによくできている。最後に腕輪をはめたら……これで良し。

 

「っし!」

 

 この世界でも僕は僕だ。この服を着ている限り、負けるつもりは毛頭ない。

 改めて気合を入れなおした僕は、グラウンドβへと向かう。

 さっき聞いたオールマイトの言葉が、背中を押した。

 

『恰好から入るってのも大切なことだぜ少年少女。自覚するのだ! 今日から自分は……ヒーローなんだと!!』

 

 これが、僕のヒーローの姿だ。

 

*1
大型ロボットのこと

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