春休みを満喫してました
少しの沈黙がバナージと先生の間に走る。
後ろで未だにバンザイの姿勢をしているノノミも、先生の横でショットガンを右手でぶらりと持っているピンク髪の少女も、今は何も話していない。
「.......彼女は、ネエさん達は、俺にご飯をくれました」
沈黙を破ったのはバナージで、あくまで彼は彼女達の善性を信じているようだった。
しかし、今はただ運が悪すぎた。
「“...
「はい、ネエさんは俺にフラッシュグレネードもくれて...とにかく、優しい人なんです」
バナージと先生は、確かに同じ人について話している。
「“でも、君がヘルメットを被っていないのは......”」
「ネエさんとは出会ったばかりだったので...それでも、良くしてくれました」
しかし、確かな認識の祖語が生じている。
「“.......ホシノ、ノノミ、作戦変更”」
「ん~?」
「はいは~い♧」
「“ヘルメット団を無力化し、体育館に集めて保護する。彼の姉さんから事情を聞かないと”」
しかし、先生の行動はバナージにとって都合のいい方に行ってしまった。
バナージも先生のネエに対する言い方に疑問を持ったが、今は気にしないことにしてしまった。
「あ...ありがとうございます」
「“生徒を守るのが、先生の仕事だからね。着いてきて”」
「はい!」
バナージも二つ返事で先生の下に着いた。
この状況を取り巻く歯車が、少しずつ狂い始める。
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「“セリカとホシノが向こうで戦ってるんだ”」
「二人ともアサルトライフルを使ってるから、連携が取りやすいんじゃないかな~」
先生がくれた情報から推測すれば、戦っているのはネエとウーだ。
早く行って、先生と話させなくては、と思いバナージの足が少し早くなる。
すたすたと歩くバナージを見て、先生は微笑んでいた。
「“姉さんの事が大事なんだね”」
「彼女はいい人で、俺はそんな人を他にも知っていますから...袖振り合うも他生の縁、という言葉もありますし」
「うんうん、いい姉弟だねぇ」
「姉弟.......?」
バナージはやっと疑問を持ったが、その思考は爆発音によって中断されてしまった。
廊下を曲がった先から銃声も聞こえてくる。
先生がその廊下を何の気もなしに曲がるので、バナージも着いていった。
「“おまたせ。シロコ、セリカ”」
そうして見えた景色は、少女と少女が廊下の中で戦っている様だ。
先生の方にいる白髪と黒髪の少女はシロコとセリカと呼ばれ、先生の掛け声に応じて振り向いた。
「ん、待った」
「やっと来てくれたわね、先生」
「“戦闘を継続するけど、倒すんじゃなくて無力化してほしい。できるかな?”」
シロコがリロードしている間はセリカがロッカーの裏から弾幕を形成して牽制し、セリカがそうするときはシロコが飛び出して注意を引き、リロードが終わったらシロコは隠れ、これを繰り返す。
バナージが眺めている限りは、そういう戦い方をしているみたいだった。
「やってみる。セリカ、仕掛けるよ」
「りょーかい!先生、タイミングは任せるわ!」
「“任された。次のシロコのリロードで仕掛けよう。ホシノとノノミも行くよ”」
ホシノと呼ばれたピンク髪の少女とノノミも、先生の掛け声で廊下に躍り出る。
「あの、俺は......」
「“私の後ろにいてくれればいいからね”」
バナージも何か活躍しようとしたが先生にそう言われてしまったので、大人しくビーム・マグナムを背中に掛けて戦いの様子を見ることにした。
「おじさんの後ろに隠れてね~」
ホシノはショットガンと黒い盾を構えて弾を一身に引き受け。
「行くよ、ドローン」
シロコは展開したドローンから放たれるミサイルと共に敵を攻撃し。
「私だってやれるんだからっ!」
セリカはホシノの裏から攻撃し。
「ノノミ、行きま~す♧」
ノノミはガトリングの乱射で障害物もろとも破壊する。
「“ホシノはノノミのリロードに合わせて突っ込んで。シロコはドローンの弾がなくなったらセリカと一緒に強襲して、ノノミは撃ち切ったらリロードして少し前に行こう”」
それを先生の的確な指揮で攻撃を纏め上げる。
「凄い、これが先生の指揮......」
その様子をバナージは眺めていた。
そしてあっという間に、ネエとウーは鎮圧された。
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戦闘の結果、シロコとセリカは無傷であった。
キヴォトス人ならライフルの弾一発で出血もしないのは当たり前であるが、バナージはまだそれを知らない。
「女の子が銃で戦うなんて......危なすぎる」
気絶しているネエとウーを囲みながら、バナージは地面を向きながら呟いた。
それに反応したのは、隣に立っていた先生だけだった。
「“私もこっちに来たときはそう思ったけど、これが常識なんだよ”」
「そんなことって......」
「“ホローポイント弾が近々違法になるんだって。傷が残るからだとか”」
バナージは絶句した。
この世界では、どうやら銃撃戦が特に危険なものではないらしいと気付き、信じられなかった。
「ん...心配してくれるのは嬉しいけど、私たちは大丈夫だよ」
シロコがこちらを見て、首を傾けて微笑んでくれた。
シロコは美人であった。
その所作は、きっと色を知らない男も心拍を握られてしまうほどに。
「シロコさん、女の人は未来を創るんです。だから、あまり危険なことはして欲しくない」
バナージは顔を上げ、シロコの眼を見つめながら言う。
バナージはこちらの世界に来て女になったが、その顔立ちもまた美人であった。
その憂いを帯びた眼は、きっと異性愛者を自称する女性でもその眼を意識させてしまうほどに。
「......ん」
シロコは思わぬカウンターに、ただ俯いてマフラーに口を埋め、短く返事をした。
美人バトルはバナージの勝利である。
「...いや、私は何を見せられてるのよ」
「うへ、お熱いねぇ」
「“仲良きことは素晴らしきかな、と言うからね”」
「そうですね~♧」
そのバトルのギャラリーが口々に文句や冷やかしを言ったが、当事者の二人には聞こえなかった。
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さて、美人バトルから少し経った頃。
バナージの背中から足音が聞こえてきた。
「“待ってたよ、アヤネ。大丈夫だった?”」
先生が振り向き、音の主に声を掛ける。
「気絶してるとはいえ、運ぶのには疲れましたが...この人達で合ってるんですよね?」
黒髪に赤い眼鏡を掛けた少女、アヤネは二本のロープを引きずっていた。
そのロープの先を目で追いかけると、また二人の少女がぐるぐる巻きにされている。
「ウシさんに、トラさん......」
「おじさんが軽く捻っちゃったけど、妙にやる気が無かったような~?」
これで気絶した不良が四人集まった。
先生はこの四人から情報を聞き出すつもりのようで、彼女らを空き教室に運ばせた。
廊下に放置するのは気が引けたらしく、苦笑しながら担がれる彼女らを眺めていた。
ふと、先生がこちらを振り向いて聞いてきた。
「“君は、どこの学園の生徒なの?”」
「......分かりません」
しっかりとこちらを貫いてくる双眸に、嘘なんて言えるはず無かった。
一拍置いて、先生が息を吸う。
「“じゃあ...私と来ない?”」
「...いいんですか?」
「“困っている生徒を助けるのが、先生の仕事だからね”」
生徒。
そう言われ、バナージの脳裏で回想がよぎった。
工学の高専生として楽しんでいたあの日々。
ガンダムと出会って、失ってしまったあの日常。
自分の中で、青春は随分昔に終わってしまったかのように思っていたが、それをもう一度、もう一度だけ手に入れることができるなら。
「俺は...バナージ。バナージ・リンクス」
「“...分かったよ、よろしくね。バナージ”」
バナージの名乗りに、先生は満足したように頷いた。
と同時に、目の前の空き教室のドアが開いた。
どうやら搬入は完了したらしく、アビドスの五人が並んで教室から出てきた。
「ふう...それでは、現在時刻12:10をもって迎撃作戦を終了しますね」
「“そうだね。ありがとう、みんな”」
いつの間に40分も経っていたのか、と先生は思いながら言った。
しかし、その隣のバナージの顔は青かった。
ネエから聞いたあの作戦を知っていたから。
「だめだ、みんな外に出てくれ!これから本隊が来るんだ!」
「“...バナージ?”」
「ん...落ち着いて」
肩をぽんと叩かれ、シロコさんに宥められた。
呼吸を一回してから、アビドスのみんなにこれから起こりうることを告げる。
これでせめてもの恩返しとするために。
「俺も含めて五人の少数で陽動、撹乱し、そこを本隊が奇襲するという作戦だったんです」
「ああ、だからバラバラに攻撃してきたのね」
「うへ~、でも今はこうして集まってるわけだし~?」
「ん、迎撃は容易」
しかし、彼女達はそこまで動揺する気配を見せない。
少女にしては随分と戦い慣れているみたいだ。それはさっきの戦いで自覚していたつもりだが、こうも堂々とされては少し驚いてしまうものだ。
ホシノが持っているピンク色のショットガンに弾を込める。
それにつられて、皆も戦いの準備を始めたようだ。
「“教えてくれてありがとう。アヤネ、もう一回サポートをお願い”」
「もちろんです!それでは現時点をもってヘルメット団本隊迎撃作戦を実行します。」
そう言い残し、アヤネはどこかに走っていった。
恐らく向かったのは指令室に相当する場所だろう、とバナージは踏んだ。
「俺も先生の指揮に着きます」
「“ありがとう。任せてね”」
いくら彼女たちが強いと言っても、少女に引き金を引かせるのはやはり気が引けるものだ。
一食の恩義はもう返した。
ここからは、自分の信念に基づいて行動する。