TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~   作:折本装置

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「わたしの名前」

 ペリカンゴレイムを討伐し、報告を終えてから三日後。

 ヴェーセルはウッドペッカー邸、ローグの家まで来ていた。

 

 

「ローグはいまして?」

「え、ええ」

「一応連絡はしておいたのですけれど」

「は、はい」

 

 

 可愛らしい執事服に身を包んだ少年に連れられて、ウッドペッカー家のローグの私室まで案内される。

 ヴェーセルは広い屋敷に慣れている方だが、それでも案内がなければ広いウッドペッカー邸では迷ってしまう。

 ちなみに、たまにグラスホッパー邸でも迷うことがある。

 それくらい貴族の屋敷というのは広いのだ。

 ものによっては、一つの村より広いのである。

 執事によって案内されて、一つの部屋へとヴェーセルとルーナは通される。

 部屋の中は薄暗く、薔薇を基調とした派手な家具にはまるで不釣り合いだった。

 

 

「腐女子だけにバラが好きなんでしょうかね」

「?」

 

 

 ヴェーセルのつぶやきの意味を理解できるのは、その場には一人もいない。

 転生者しか、かつての日本での記憶を持っている

 

 

「お久しぶりですわね、ローグ」

「…………」

 

 

 部屋の主は、無言だった。

 長い銀髪に覆われて、表情ははっきりと見えない。

 ただ、態度から来訪を歓迎していないのは透けて見えていた。

 

 

「何を、しに来たのかな?」

「報告書は、見まして?昨日の件についてのものです」

「ああ、目は通したよ。そのことで、文句を言いに来たのかな?」

「いいえ、ただアナタの意図を訊きたいと思いまして」

「意図?」

「ワタクシとアナタはともにこの王都でのゴレイム騒動を解決するために動いているはずです。にも拘わらず、この三日間何もせずに家に引きこもっているように見えます。どういうつもりですの?」

「…………」

 

 

 職務放棄を指摘するヴェーセルの言葉に、ローグは否定も反論もしない。

 ただ、気まずそうに、切れ長の目を伏せるだけだ。

 

 

「話を変えましょう。どうして、ゴレイムを討伐しないのですの?どうして部屋から出ないんですの?」

「あの、ヴェーセル様」

「アナタには、何か叶えたい願いはありまして?」

 

 

 それは、一見特に関連のない話題。

 しかし、ぴくり、とローグの体が動く。

 

 

「願い、理想、あるいは幻想。それは、人が輝くエネルギーであり、アナタもまた持っているはずのものですわ」

 

 

 決して、この場にはそぐわない問いである。

 そんなことはわかっていて、それでもあえてその言葉をかける。

 それが、彼女にとっては何よりも大事なことだから。

 だから、ヴェーセルは問いかけるのだ。

 

 

「そこの執事さん、アナタには理想がありまして?」

「は、はい。ローグ様が伯爵位につくことです」

「……叶うといいですわね。ルーナはどうですの?」

「私は、ヴェーセル様に幸せになっていただきたいです。貴方様の理想が叶うことが、私の今の夢でございます」

「そう、ありがとう、愛してるわ。それで、ローグ、アナタの理想は何なのかしら」

 

 

 不思議そうな顔をしている執事と、愛を告げられていつも通り顔を真っ赤にしているルーナを放置して、ヴェーセルはローグに問いかける。

 話題が、ゴレイムからそれたからだろうか。

 ローグは、うつむいていた顔を上げて、口を開いた。

 

 

「私は」

「?」

「私は、人助けがしたかった」

「…………」

 

 

 ローグは、ぽつぽつとヴェーセルの前で語り始めた。

 ローグの生前は、ごく普通のサブカルチャーが好きなだけの人間だった。

 所謂典型的なオタクであり、腐女子。

 画面の向こう側にいるイケメンや美少年が好きだった。

 ただ単に作品を楽しむだけではなく、なりきりチャットなどで好きなキャラクターのロールプレイをするのも好きだった。

 その中には、『ドラゴンライド・アルブヘイム』というゲームのキャラクターも含まれている。

 事故で死んだ後、生まれ変わって自分の好きなゲームのキャラに転生して。

 ローグ・ウッドペッカーはゲームにおいても闇の力仮面騎兵を使うというキャラクターであり、主人公であるアメリアと結ばれるルートのほかに、完全に闇落ちし討たれるとというバッドエンドルートも存在する。

 当然、一人の人間として死にたくはないが、それと同じくらい叶えたい夢があった。

 ローグ・ウッドペッカーというキャラクターになりきって、完全に演じること。

 ゆえにバッドエンドルートを回避しながら、推しであるローグとして振舞う。

 ゲームでのローグは正義感が強く、プライドが高い。

 一見気障でいやみな人間にも見えるが、仲間や部下を気遣ったり、戦闘シーンでは民衆を守ろうと尽力したりと好青年であるところが魅力だったりもする。

 貴族として、強者としての自負を持っている彼のようになりたいと、そう願った。

 ゆえに、「彼女」もまたそんな風になりたいと思っていた。

 助けられる人を助けたいとも思っていた。

 そう思えたのは、きっと前世で送ってきた普通の日々がそうさせたのだろうと思う。

 

 

「何体倒したか、覚えてないんだ、ゴレイムを」

「…………もう五年になりますものね」

 

 

 彼がローゼイドに選ばれたのは五年前。

 それ以降、彼は王国各地を飛び回ってゴレイムを討伐し続けた。

 彼が、人を守ってきた英雄と呼ぶ声は大きい。

 そういう意味では、現時点で闇落ちバッドエンドルートは回避できている。

 正しいことをしてきたのだから、ヒーローだと言ってもいいだろう。

 だがそれを為すために、どれだけの人を殺したのか。

 

 

「ゴレイムは、人と、私達と何も変わらない。そんな人を何人殺してきたのか、わからないんだ」

 

 

 普段とは比べ物にならないほどに憔悴していて、弱弱しい声だった。

 あるいはこれが「彼女」の素なのかもしれない。

 普段の自信満々で、気障な行動がすべては憧れによるロールプレイであるとすれば、

 

「私はもう、戦えない。これ以上、同じ人間たちを殺したくない」

「ローグ様……」

「…………」

 

 

 執事が、ルーナが、押し黙る。

 

 

「別に、殺してもよいのではなくて?」

 

 

 そんな空気をぶち壊したのは、ヴェーセルだった。

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