TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~ 作:折本装置
彼女以外が悩んでいて、何を言えばいいのかわからない空気の中、それを気にした様子もなく平然としたまま腕を組んでいる。
「は?」
「え?」
「ん?」
ルーナも、ローグも、傍にいたローグの執事も固まってしまった。
「ですから、かつての人を、ゴレイムを殺したとして何か問題があって?別に法律で罰せられるというわけではありませんし」
「そ、そんなのダメにきまって!」
「この王国にも、日本にも死刑制度がありますわ。なのに、どうして人を殺すことが絶対に悪いことだと思いこんでいるのです?」
感情的なローグに対して、とうとうとヴェーセルは理知的かつ端的に答えた。
「私は既に三度、ゴレイムと交戦していますが、もし間に合わなければより多くの人が死んでいたようなぎりぎりの状況ばかりでした。貴方は、私以上に悲惨な戦況を経験したのではなくて?」
ペンギンゴレイムとペリカンゴレイムの件では、死者が出なかったのは単なる偶然とメイドたちの頑張りがあったからだと、彼女は思っている。
そして鶏ゴレイムの時のような悲劇の方が、ずっと可能性としては高いのだと。
「あ、ああ。遠方でゴレイムが出た時は、間に合わないことも多々あって、死人が出るのも珍しくはなかったよ」
ゴレイムは人を襲う。今のところ、ヴェーセルは人が食われる様を直視したことはないが、対抗手段が限られている以上犠牲者が出ているのはわかりきっている。
何より、先日もそういう
「私たちのいた世界には、警察という機構が存在していました。彼らが、武装した凶悪犯を殺害するという事例が稀に存在していたのを覚えているかしら?」
「それは、確かに」
「あれと同じことですわよ、あるいは敵国の兵士を殺した兵士、と捉えてもいい。一人殺せば殺人鬼だが、一万人殺せばヒーローになれるなんて言葉もありますわ」
ローグは、ようやく気付く。
ヴェーセルにとっては、ゴレイムが人であろうとどうでもいいのだ。
人であろうが怪物であろうが、敵であれば、殺すべき存在であれば殺すことに抵抗はない。
彼女の中で、拾うべき者と捨てるべき者が明確に別れている。
自分がヒーローになれるなら、敵役の中身が何であろうと興味がないのだ。
そもそも、ためらっていては守るべきものを守れない。
「そんな風には、割り切れない。私は、英雄になりたくてこんなことをしているわけじゃなくて」
「聞かせてくださいな」
「え?」
「どうして、ローグは仮面騎兵として戦うのですか?」
「……理想を汚したくないから」
腕を組んで、見下ろしてくるヴェーセルに目を合わせて、ローグは答える。
「生前、ローグ・ウッドペッカーは私の
キャラクターに対して愛情があるからこそ、自分の好きなものを貶めたくない。
その考え方はヴェーセルにとって理解できないものだった。
作品だの、コンテンツだのに夢中になること自体、前世の『彼』ではありえないことだったから。
けれど同時に、少しだけ似ているとも思った。
「なりたい何かがあるのなら、胸の奥に輝くものがあるならば、それを叶えるための歩みを止めてはいけないとオレは思うぜ」
「……ヴェーセル?」
「?」
「ヴェーセル、さま?」
ローグも、執事も、ルーナも。
皆顔に疑問を浮かべている。
これまでに、一度たりとも崩してこなかったお嬢様言葉。
それを崩して、雰囲気すらも変わっている。
そういう話術なのか、あるいは彼女の奥にあるものがーー前世の記憶が表に出ているからなのか。
「別に、お前に何かを無理強いするつもりはない。そんな権利はオレにはないからな。でももし、オレならそれでも進み続けるってだけだ」
「ヴェーセル、君の、貴方の理想はなんなの」
「……オレは、お前ほど明確なものがあるわけじゃない」
ちらりとローグを一瞥して、再び口を開く。
「ただ、何かになりたい、何かを為したいだけだ。そのためなら、どんなことだってオレはやる」
そう言い捨てて、ヴェーセルは退室した。ルーナも慌てて後に続いた。
人を殺したとしても、構わない。
ただ、何かを為せるなら、何かになれるなら。
認めてもらえるなら。
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