TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~   作:折本装置

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「すべての女性の全裸は等しく美しい」

「お、お帰りなさいませ、ヴェーセル様」

 

 

 ローグの部屋を出て、グラスホッパ―邸に帰還したヴェーセルとルーナを、門の手前で、ジニーが出迎えてくれていた。

 普段図書館以外で、家の外に出ることはない彼女だが、最近はゴレイム騒動で物騒なだけあって、心配だったのかもしれない。

 

「ありがとう、ジニー!嬉しいですわ!」

「ふえあっ!あ、あう」

 

 

 ヴェーセルはいつも通り、ジニーに抱き着くと細い首筋に形のよい鼻を押し当てて匂いを嗅ぐ。

 ジニーの濃い匂いと女性特有の体の柔らかさ、それに体温が伝わってくる。

 ヴェーセルの経験則だが、三人の中でジニーの体温が一番高い。

 次がルーナで、一番低いのはアルだと知っている。

 だてにいつもセクハラしているわけではないのだ。

 ただ、外に出ていたからか、少しだけいつもより冷たいと感じた。

 

 

「ジニー、一緒にお風呂に入りませんこと?」

「うえっ、いいんですか、じゃなくて、何を言ってるんですか?」

 

 

 顔を真っ赤にしながら、ジニーは所在なさげにあたりを見回す。

 言葉はともかく、

 彼女も外気に当たるのが相当負担だったのか、あるいはヴェーセルとの入浴が嬉しいのか。

 

 

「まあ、貴方の濃いにおいをかぐのも悪くはありませんけれども、結局のところはそれ以外もたくさん味わってこそですわ。ルーナ、アル、貴方達もいっしょですわよ?」

「ふえっ」

「了解した」

「承知しました。では、お風呂を沸かしてきますね。湯沸かし用の魔道具、私だと稼働できるか不安なので、ジニーさんも一緒に来てください」

「では、ワタクシとアルは」

「す、すぐに沸かせますので、脱衣所で待機していてください。私の魔法なら、三十秒もかからないので」

「すごいですわ!」

 

 

 ちなみに、貴族御用達の湯沸かし魔道具で風呂を沸かすのには三十分ほどかかる。

 銭湯並みの広さがあるので、いた仕方がない話である。

 ジニーの魔法が異常なだけなのだ。

 

 

「ヴェーセル」

「何ですの?」

 

 

 お風呂が沸くのをアルを抱えながら待っていると、彼女が上を向いて訊いてきた。

 かわいい。

 あと、花のような甘い香りがする。

 ゆっくりと息を吸いながら、アルの頭の上で呼吸ができる喜びを感じていると。

 

 

「今日、何かあった?」

「ええと……」

 

 

 他ならぬ、彼女の言葉に現実に引き戻された。

 何かあった、というならたくさんあった。

 それこそ、今日も一体現れたストーンゴレイムを討伐したし。

 ローグのお見舞い、というか叱咤激励にも行ったし。

 ただ、アルが言いたいのはそのどちらでもないんだろうなと思える。

 

 

「なんだか、変。ずっと堪えていたものが噴き出したみたいな感じがある」

「そうでしょうね」

 

 

 ヴェーセルは、これまで伯爵令嬢ヴェーセル・グラスホッパーとして振舞ってきた。

 そして、婚約破棄以後は、悪役令嬢兼仮面騎兵ヒールとして生きてきた。

 よく「悪役劇場」などという言葉を使うが、これは間違いではない。

 ずっと、キャラクターを演じているのだ。

 ただ、一瞬だけ、前世の、本来の人格としてローグに語りかけたのだ。

 久しぶりの行動に、彼女自身でさえも戸惑っており、それをアルに見抜かれた。

 

 

「やはり気づいているのでしょうね、みんな」

「うん。だから頼って、存分に甘えるといい」

「ありがとうですわ」

 

 

 

 ◇

 

 

 グラスホッパー邸の浴場は、広い。

 そこらのホテルの大浴場にも引けを取らないレベルだ。

 ヴェーセルが初めてこの風呂に入ったとき、改めて自分が貴族として生まれたことを実感したのを覚えている。

 

 

「それにしても、ルーナ、貴方また大きくなっていませんこと?」

「えっ」

 

 

 ヴェーセルは、ただ二つのふくらみを凝視している。

 

 

「た、確かに最近またブラが合わなくなってしまって、今はGカップなのですけれど」

「最高ですわ―」

「ひゃあうっ、あの、浴場では危ないので、せめてお風呂から上がった後に、あふっ」

「それにしても、四人で入るのは久しぶりだ」

 

 

 ルーナの双丘は蒼穹のように大きく、果てしない。

 感触も、人を落ち着けるためにあるような柔らかさである。

 アルは、ジニーやルーナと違って堂々としている。

 ちなみに、アルは服を脱いではいるものの眼帯はつけたままだ。

 

 

「ヴェーセルは、やはり大きいのが好きなの?」

 

 

 真顔でじっと、彼女自身の平らな胸板を見ている。

 

 

「いえいえ、もちろんアルの体も大好きですよ」

「本当?」

「ええ、お背中を流しましょうか?」

「ん、全身くまなく洗ってほしい」

「わかりましたわ!」

 

 

 石鹸を泡立てて、まずはアルの頭を洗い始める。

 銀色の長い、綺麗な髪に泡がついている光景は、この世のものとは思えないほど清らかだった。

 

 

「あ、あの、ヴェーセル様。よければ、私の方も洗っていただけると」

「はいはい、順番にお待ちくださいませ!」

 

 

 四人全員が頭と体を洗い終わり、浴槽につかる。

 

 

「ふあああああああああああっ、最高ですわ」

「うん、今日も湯加減がいい」

「あうう、この浴槽、四人で入ってもなお広くないですか?」

「あの、ヴェーセル様下から胸を触るのはその、嫌ではないんですけど、恥ずかしいので」

「ヴェーセル様は本当にお風呂好きですよね」

「ええ、やっぱりお風呂は良いものですわ。何しろ、安らげますし、全裸が見れますもの」

「平常運転、ですね」

「ヴェーセルだから仕方がない」

 

 

 基本的に、メイド三人の前ではヴェーセルはあけすけである。

 男性の人格が残っているから、というのもあるがそれだけではない。

 なまじ女性の体に適応したことで、恥じらいというものがなくなってしまっている。

 男性の性的嗜好と、女性への順応。

 いわゆるTS転生による弊害である。

 

 

「て、ていうかそれはそれとして、どうしてヴェーセル様は私達の体を洗ってくださるんですか?あと一緒にはいるのも唐突過ぎますし」

「それはもちろん、貴方たちの全裸が見たいからですわよ。綺麗ですし、あと結構ありますわよね、ジニー」

「ふええあああ、あ、あのさ、触りたいのでしたら、その、どうぞ」

 

 

 ジニーも、普段が猫背であり、比較対象となるルーナが大きすぎるがゆえに目立たないのだがかなり立派な胸部装甲を有している。

 

 

「で、でも、それだけじゃないですよね?」

「うっ」

 

 

 ジニーに、そしてルーナとアルにもじっと見つめられると、咳払いして口を開いた。

 確かに、ただメイドにセクハラがしたかったわけではない。

 そもそも、こうしてメイドと風呂を入ることは普段しない。

 よほど何か理由があるのだろうと、メイドたちは察しているし、実際その通りである。 

 

 

「まあ、なんというか心の準備がしたかったのですわ」

「準備、ですか?」

「なるほどね。だいたい理解できたよ」

「これから、学校に行きたくないんですわよね。何しろ、どんな反発があるかわかったものではありません」

「ああ、確かにその懸念はありますねえ」

 

 

 王族たるフィリップに晒し者にされた以上、もう学校にヴェーセルの居場所はないと思ったほうがいい。

 アルが持ち帰った情報からもわかりきっている。

 

 

「それでも、学校に行くの?」

「ええ」

 

 

 進まなくては、何も為せないのだから。

 何にもなれずに終わってしまうから。

 ヒーローに、ならなくてはいけないのだから。

 

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