TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~   作:折本装置

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「謝・罪・受・諾」

 翌日も、ヴェーセルは学校に行くことになっていた。

 中等部などの聞き取りが済んでいないし、何より二回も出現している学校は最も警戒すべき場所だった。

 調査すべき場所でもあり、同時にゴレイムが出現した際にすぐに対処しなくてはならない以上、ローグかヴェーセルの最低一人はここにいなくてはいけない。

 始業のベルは九時からだったのだが、念には念を入れてヴェーセルは七時には学校についていた。

 今の状況を考えれば、学校に泊まり込んでもよかったのだが、それは学校側の許可が下りなかった。

 仮面騎兵に与えられている捜査権も万能ではない。

 ゴレイムに関する情報提供の義務はあるが、それ以外の協力義務はないのだ。

 ましてや、王族貴族が多数在籍する王立学園は、特定の貴族に肩入れすることを何よりも嫌う。

 ヴェーセル・グラスホッパーだけが校舎に泊まり込みをするという特別待遇を獲得することが、ゴレイム騒動より問題だと判断したというわけだ。

 

 

「さすがにリスクヘッジができていないと思ってしまいますわね」

「同感です。面子を人々の、ましてや王族や貴族の安全より重視するなんて」

「パワーバランスがせめぎ合った結果なのでしょうけれどね。とはいえ、ワタクシはワタクシに出来ることをやるしかないのでしょう」

 

 

 授業が始まるまではまだ二時間ある。

 先日同様、ゴレイムが傍に居なければ変身できないという特性を生かして、『仮面』による探知を行っていた。

『仮面』をバックルに着けた状態で変身できれば半径十メートル以内にゴレイムがいるという証明になる。

 ゴレイムがおらずに変身できなければ、五メートルほど移動してまた同じことを繰り返す。

 

 

「思ったのですが、早朝にこれをしても意味がないのでは?大抵の生徒はまだ登校してすらいないでしょうし」

「いいえ、それは違いますわよ」

「と、言いますと?」

「この手法でもし、ゴレイムを発見できなかった場合、朝早くに登校している学生は容疑者から外れますわ」

「あ」

 

 

 ヴェーセルとて、いきなり当たりを引けるなどとは考えていない。

 彼女の狙いは、外れを引き続けることで容疑者を絞り込むことだ。

 付け加えれば、もし警戒して生徒に擬態したゴレイムが学校に来なくなれば万々歳だ。

 さらに絞り込みはたやすくなる。

 

 

「あ、あの」

「ちょっとよろしいですか?」

「あら?」

 

 

 ヴェーセルが声のした方を見ると、そこには二人の少女がいた。

 先日、ヴェーセルに校舎内とゴミ捨て場で暴言を吐いた二人組である。

 一応、ヴェーセルは先日まで社交界にいた人間。

 彼女たちの名前も知っているし、そうでなくては報告書にも名前を書くことができない。

 確か、青いドレスを着ている方がラベンダー・ブラックアームで、赤いドレスを着ている方がパンジー・ワンショットだったはずだ。

 

 

「ヴェーセル様!」

「大丈夫ですわよ」

 

 

 とっさに庇おうとするルーナを止めて、ヴェーセルは一歩前に出る。

 いつでも、ヴェーセルは文句や反論を受け付けている。

 それが、悪役令嬢としての、悪と定義された彼女としての責任だと思っているから。

 何を言われるのかと思いながら、待ち構えると。

 

 

「先日は、ありがとうございました!」

「昨日は申し訳ありませんでした!」

「うん?」

「はい?」

 

 

 予想外の事態に、ヴェーセルもルーナも、固まった。

 ラベンダーとパンジーが、スカートをたくし上げて、頭を下げている。

 貴族令嬢の、精いっぱいの礼だった。

 

 

「助けてくださって、本当にありがとうございます」

「私たち、ヴェーセル様に無礼を働いたのに、助けていただいて。なんてあんなことを言ってしまったのだろうと思って、誠に申し訳ありませんでした!」

 

 

 何のことだろう、とヴェーセルは考えて、ああそうかと思い出す。

 先日、確かに討伐し、なおかつみんなを守り抜いた。

 守ったものの中には、彼女達も当然いたわけで。

 意識と感覚が分散していたせいではっきりとは覚えていないのだが、もしかしたらサンドゴレイムから直接守ったという可能性もある。

 危機に直面して、なおかつ救われて初めて、感謝することを覚えた人もいるということか。

 見れば、先日よりもヴェーセルを遠巻きに見る者達の視線が優しい気がする。

 きっと、ヴェーセルの先日の活躍を見てきっと自身のことを悟ったのだろうと思う。

 

 

「別に、私は気にしていませんわ。ただ、ワタクシがゴレイムを生産しているのではなく、倒している存在であるということを認識してくれればそれで構いません」

 

 

 吊り橋効果とか、ストックホルム症候群だとか、生死がかかった状況が人の精神に与える影響は大きいとされている。

 ゴレイムからの攻撃と、守られた経験が、彼女たちの精神を真逆に反転させたのだろう。

 それが健全であると言えるかはさておき、妨害されなくなったのならヴェーセルにとっては十分。

 守るにせよ、情報を聞き出すにせよ態度が軟化している方がやりやすいのは明らかだった。

 

 

「…………」

 

 

 ちらりと、ルーナを見るとアルカイックスマイルを崩さないまま青筋を立てている。

 アルやジニーがいなくてよかった。

 ジニーは顔に感情が出るし、アルは無表情なので不機嫌だと誤解されることが多い。

 

 

「もう、行ってもよろしいでしょうか?色々と学園に報告したりすることもありますので」

「は、はい!」

「申し訳ありません!」

 

 

 ルーナ視点では、鮮やかな手のひら返しを見ている状態である。

いつルーナが、ヴェーセルのために激発しても仕方がない。

なので、とりあえずこの場を去ろうと考えたのだが。

 

 

「あ、あの」

「はい?どうかいたしまして?」

「実はその、昨日のことで申し上げたいことがありまして」

 

 

 ラベンダーは、おろおろしながらヴェーセルの方を見ている。

 パンジーの方も似たようなもので、目線が定まらず挙動不審だ。

 まるで、何かにおびえているような。

 

 

「ひょっとして、不審な行動をとっていた人物を見ましたの?ゴレイムが現れたあの日」

「っ!」

「ど、どうして」

 

 

 二人の反応を見て、ヴェーセルは自分の判断が正しいことを理解した。

 怯えているのは、不審な人物が有力な貴族で、自分の立場が危うくなることを恐れているのだろう。

 




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