TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~   作:折本装置

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「王・子・観・察」

 鍛冶屋では、様々な金属を加工して機械や魔道具を作っている。

 工場で作ればいいと思われるかもしれないが、この世界の技術では精密な部品はまだ職人の手作業で作っている。

 工場は、そうしてできた部品を集めて、装置を作り出すという場所だった。

 

 

「いやあ、圧巻ですわね」

 

 

 ヴェーセルは、純粋にいいものを見たと思っていたのだが。

 

 

「あつい、あつい」

「うう、こんなの死にそうになりますよ」

 

 

 ラベンダーとパンジー、そしてアルは熱に耐えられずに顔を真っ赤にしていた。

 ここは鍛冶屋、いわば鉄火場である。

 金属を溶かしうるほどの熱源が複数ある場所。

 むしろ、熱に近い職人たちが焼け死んでいないのは不思議ではない。

 

 

「ヴェーセル、なんで平気なの?」

「そういえば……ワタクシは特に熱いとは思えませんわね」

「あの、仮面騎兵だからなのでは?」

「あ」

 

 

 パンジーに言われて気づいた。

 仮面騎兵は、『仮面』、シードマスクに選ばれることによってなるものだ。

 そして、『仮面』は資格者にへばりついて絶対に離れることはないのだが、変身していないときの影響としてはそれにとどまらない。

 『仮面』に選ばれた時、体の中に何かが侵入したような感覚があった。

 仮面騎兵に関する大まかな情報が頭の中に入ってきて、望むがままに体を操作できるようになった。

 身体能力は上昇し、護衛としても一流であるルーナとさほどかわらない。

 ヒールに選ばれる前は、まず間違いなくルーナの半分のスピードもなかったはずなのに。

 さらに上がったのは速度や筋力だけではなく、耐久力も、だということだろう。

 あまり自分の耐久力を実感する機会が特にないのだが。

 

 

「暑そうにしていないのは、ワタクシだけではありませんけどね」

 

 

 ヴェーセルは、前方のフィリップを見ていった。

 しかし、フィリップが熱に耐えられるのは、どういうわけか。

 やはり、そういうことなのだろうかと思って、いや、と否定する。

 そういえば、フィリップはこの国でも一、二を争う魔法使いであったことを思い出したのだ。

 周囲の空気を操作して冷気を作り出し、アメリアと自分を熱気から守っているのだろう。

 ゴレイムが彼を殺す前にヴェーセルが間に合ったのは、彼の戦闘力が高かったからというだけの可能性もある。

 ゴレイムを傷つけることは出来なくても、牽制することぐらいはできたかもしれないのだ。

 ヴェーセルは魔法をまともに使えないし、ジニーに魔法を打たせて実験することは出来なかった。そもそも、自分以外を危険にさらしていいわけがない。

 

 

「個人的には、せめて自分の取り巻き全員にかけて上げるべきだと思うのですけど」

「あつい」

「はいはい」

 

 

 そんなことを言いつつ、扇で仰いでやりながらも、ヴェーセルはフィリップ達から目を離さない。

 二人は、とても楽しそうに笑いあっている。

 愛し合う二人の姿が見えている。

 互いをかばい合う、強い絆を覚えている。

 

 

「本当に」

 

 

 本当に、彼がゴレイム、人食いの化け物なのだろうか?

 いや、違う。

 それを確かめるために、ヴェーセルは今ここにいる。

 

 

「…………」

 

 

 最近まで、知らなかった。

 大切な人を守るためなら、死の恐怖すら超える勇気があることを。

 ヴェーセルは、婚約者として、幼馴染としてこの世界でかなり長時間彼と一緒にいた。

 自分は、彼の何を見ていたのだろう。

 自分は、自分の周囲にいた人をちゃんと理解できているのだろうか。

 首を振って、ヴェーセルは意識を切り替える。

 

 

 

「次は、劇場ですね、ヴェーセル様」

「庶民が普段使っている大衆劇場、どのように使われているのか気になりますわね」

「ええ、そうですわね」

「…………」

 

 

 ちらりと、ヴェーセルはアルの方を見た。

 彼女は耳をそばだてて、何かを聞き取ろうとしていた。

 ヴェーセルは騒音にならないよう、ハンドサインでパンジーとラベンダーの会話を止める。

 

 

「ヴェーセル、変な音がした、またあの時みたいにどくんどくんって」

「何ですって?」

 

 

 ヴェーセルは驚きのあまりそのエメラルドに似た瞳を見開いた。

 ゴレイムの入った卵の、胎動が聞こえたといったのだ。

 これまで一度たりとも平民街には出たことがなかったはずなのに。

 いったいいつ仕掛けたというのか。

 

 

「どのあたりから聞こえますの?」

「結構近い、ここから五十メートルもないと思う」

「わかりましたわ」

 

 

 ヴェーセルは、移動を始めた。

 




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