TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~ 作:折本装置
『卵』に飛び膝蹴りを打ち込んだ。
「硬い!」
跳び膝蹴りは、『兎』の全力を乗せて放った渾身の一撃。しかしそれでも割れない。
『卵』を割っていいのか、という疑問がある。
「なら、パワーを上げるだけですわ!」
『Form shift――Punching chimpanzee』
『兎』の覆面が消失し、『猿』の覆面と手甲を装着する。
『兎』で突破できなくても、パワーと攻撃力に特化した『猿』ならば割れるとシェリアは判断した。
「せいっ!」
拳を卵の殻にぶつけると、罅が入った。
「これならば、どうにかなりますわ」
拳を振るう。罅が入る。
拳を振るう。罅が拡大する。
拳を振るう。罅がさらに進行して、穴に変わる。
「これならば!」
ゴレイムが動き出す前に倒せる。
「――」
一瞬、拳が止まった。
何かしらの攻撃を受けたわけではないし、誰かに言葉で静止されたわけでもない。
ただ、感覚があった。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
殻が砕ける。
外からの力ではなく、内からの力によって。
「っ!」
卵から出ていたゴレイムは、不完全だった。
骨と、そこにこびりついた僅かばかりの肉。
そして、中心にある宝石のようなコア。
「どうやら不完全な状態で目ざめたたらしいですわね」
今までは、何をモチーフにしてきたゴレイムかわかったのだが、今回は全くもってわからない。
羽毛がないのでしかたがないことではあるが。
「なら!」
一撃でも当たればきっとこのゴレイムは殺せる。
そう感覚的に理解して、『仮面』に理解させられて拳を振り上げた瞬間。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「は?」
ゴレイムが、炎上した。
全身から火を噴きあげて、身を自身の炎に包む。
鳥の丸焼き、というのを思い出した。
前世では食べたことがなかったが、ヴェーセル・グラスホッパーになってから何度か食する機会があった。
貴族なので、見栄えを重視した料理が多かったのである。
「あつ、くないんですの?」
炎に触れたにもかかわらず、まるで熱を感じず、スーツにも引火しない。
疑似炎なのかもしれない。
一瞬驚かされたが、そうとわかれば全く問題がない。
「いや、ちょっとお待ちなさいな。これは」
「キシャ」
肉が、皮が、羽毛が、爆速で再構成されていく。
鳥でありながら、地に立つものの証であるどっしりとした爪。
目を連想させる、珍妙で派手な尾羽。
再生して、本来の姿をさらしたゴレイムは。
孔雀だった。
だが、あくまでもそこはヴェーセルにとっては重要ではない。
「一瞬で、再生した?」
この高速再生こそがおそらくゴレイムの能力。
中途半端な攻撃ではこのゴレイムは突破できない。
「確かに、効いてはいるけど、弱い、足りない」
火力に特化した『猿』の攻撃は、羽毛を破壊し、皮膚を、肉を、骨を砕いていく。
だが、そのすべてが無意味である。
「キシャアアアアアアアアアアアアアア!」
「またっ!」
拳で砕いたはずの体が、再び炎で覆われる。
羽毛も、肉も、骨も、まるで巻き戻したかのように戻っている。
パワーに特化した『猿』で殴ってもなお、殺すには至らない。
コアを砕かなければ倒せないのに、それを覆う外殻が修復されるせいでコアを見ることすらできなくなっている。
孔雀ゴレイムから発生した熱も化学変性も生じない炎は、ただ単に孔雀ゴレイムの体を修復することに費やされる。
ヒールが完全に壊しきるまでには至らない。
おそらく、このゴレイムを突破する方法はもう。
「『Exseed charge』しかありませんわね」
切り札を切らざるを得ないと、わかっていた。
余力を残すべき状況下で。
すぐそばに、大本命であるロックゴレイムがいるとわかっている状態で。
かといって、ロックゴレイムは間違いなく強敵。
ローグから聞いた話では、サンドゴレイムよりさらに格上であるらしい。
目の前のゴレイムを放置するか、今日ロックゴレイムの討伐を諦めるか。
「どうすればいいの……?」
選択の岐路に立たされていた。