TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~ 作:折本装置
ヴェーセルが孔雀ゴレイムを討伐したことによって、騒動は終結した。
一部の生徒を除き、大半は劇場を見学を取りやめて、貴族街に戻った。
ヴェーセルとアルは、その例外であり、現場に残っていた。
貴族街まではローグが護衛をしてくれていたから、という安心ももちろんあった。
騎士団によって避難誘導が行われる中で、アルとヴェーセルは並んで地面の上に座っていた。
ゴレイムがいなくなったことですでに変身が解除されており、質のいいスカートが現在進行形で汚れているのだが、ヴェーセルに気にしている様子は全くない。
「お疲れ、ヴェーセル」
「ええ、お互いお疲れさまですわ」
アルは、ヴェーセルの顔をかいがいしく布で拭いていた。
戦闘終了後、ゴレイムの死によって即座に変身が解除された結果、戦闘によって発生した土煙をもろに浴びて汚れてしまったのである。
今までの戦闘でもそうであったし、特段気にしていなかったが、それはそれとしてアルからすれば心配である。
「ありがとうですわ」
ぽんぽんと、ヴェーセルはアルの頭をなでる。
「むふーっ」
「ああ、かわいいですわ!」
べたべたと髪の毛を触る主人と、触られるメイド。
これもまた、一つの日常だった。
「ヴェーセル様」
「何でしょうか」
騎士団長に声をかけられてヴェーセルは顔を上げる。
「例の情報、調べておきました」
「あら、ありがとうございますわ」
ヴェーセルが頼んでいたのは、ある人物に関する目撃証言だった。
「フィリップの――王子殿下の目撃情報は集まりまして?」
「ええ、事件直前に、複数人物から目撃情報が出ましたので、間違いはないと思われます」
「具体的には?」
「ええ、まずゴレイムが発生する直前に、現場であるトイレ周辺にいたという証言がございます」
「なるほどですわね」
フィリップが、ゴレイム発生直前にトイレにいた。
この意味が、わからないわけではない。
「その時の、フィリップの様子はどうでしたの?どこかから卵を出したりとか」
「そのようなことは聞いておりませんでした、ただ一人で、何かを探しているようなきょろきょろと挙動不審だったと聞いております」
「……探していた」
何を探していたのだろう。
周りに目撃者がいないか探していたのだろうか。
あるいは、卵をどこに仕掛けるべきかを悩んでいたのだろうか。
いずれにしても、状況証拠としては十分過ぎると言えるだろう。
「あの、フィリップ殿下にお話は……」
「聞かなくていいですわ。むしろ、隙を見せるだけですし。もちろん、聞き出した生徒の皆さんには厳重に口止めをお願いいたしますわ」
「承知しました」
ヒールの、仮面騎兵の捜査権は、ゴレイムに関してあらゆるものに優先する。
今回は、フィリップについてのありとあらゆる目撃情報と、ついでにそれ以外の不審人物の目撃情報をも募った。
その結果、出てきたのはフィリップに関する情報のみだった。
「あと、もう一つお耳に入れておきたいことがあるのですが」
「何ですの?」
「見張っていたはずの騎士が何名か行方不明になっています。連絡がいまだに取れないことを考えると恐らくは」
「ロックゴレイムに食われた、と考えるのが妥当ですわね」
またしても、間に合わなかった。
もはや一刻の猶予もありはしない。
「ヴェーセル、どうするの?」
「ひとまず、理由をつけてフィリップを軟禁します」
未知の感染症か、あるいはゴレイムに襲われたことの精神的ダメージを鑑みて静養するべきであるとでもいうか。
何かしら適当にでっち上げて、ローグと騎士団に見張らせながら監禁しておく。
「殺さないの?」
「ええ、それより先にやっておかねばならないことがありますから」
ロックゴレイムは、鳥の特性を生かしてあちらこちらに卵を仕掛けている可能性が高い。
そして、ローグによればロックゴレイムが死んだとしてもまだ、それによって生み出されたストーンゴレイムやサンドゴレイムは死んだりはしない。
それは、ロックゴレイムを討伐しても問題が解決しないことを意味している。
「ワタクシ一人で王都中のあちこちに仕掛けられているであろう時限爆弾を全て探知して、破壊しますわ。そして、その後に本丸であろうロックゴレイム……フィリップを殺す」
「……ヴェーセルは、それでいいの?」
「無論、ワタクシはワタクシの役目を果たすだけですわ」
人には人の役割がある。
ヴェーセルは、悪役令嬢として嫌われる役と、仮面騎兵として人々を殺そうとするゴレイムを討伐する役割を与えられている。
だから。
「もう終わらせると致しましょう。この王都での馬鹿げた騒動を」
「……うん」
決意と意思を込めて、ヴェーセルは宣言した。