TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~   作:折本装置

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「病院にて」

 王都には、病院がいくつかある。

 といっても、白衣を着た医師がいるわけではない。

 治癒魔法を使える魔術師が多数勤務しており、現代日本では治らないような怪我でも治すことが可能だったりする。

 しかして、それも万能ではない。

 例えば、ルーナの意識は一晩経っても戻っていない。

 

 

「大丈夫、でしょうか」

「命に別状はありません。傷はもうほとんど塞がっています。ただ、失われた体力がどの程度回復するかによっていつ意識が戻るのか変わると思われます」

「そうですのね……」

「獣人の血を引いておられるのでしたね?」

「ええ、父親が獣人だったと本人が言っていました」

「ああ、だからでしょうね。獣人は回復力に優れているので。もしも、そうでなかったらもう死んでいたかもしれません」

「…………」

 

 

 返す言葉もなかった。

 腹に穴が空いて、内臓が損傷しているのだ。

 運がよかったと考えるべきだったのだろう。あるいは血がよかったのか。

 

 

「それはそうと、あの、ヴェーセル様は大丈夫ですか?」

「ええ、問題ありませんわ」

 

 

 ルーナを病院に運び込んだ時、ヴェーセルは右腕がちぎれていた。

 だが、それも一晩過ごした結果既に治っていた。

 『仮面』をつけたことで人間離れした肉体になった彼女にとっては、致命傷すらも致命傷にはなりえない。

 ゆえに、問題があるのはルーナだけだった。

 

 

「では、私達はこれで失礼します。何かありましたら、そこのボタンを押していただければ対応いたします」

 

 

 平民街で過ごしているゆえか、医師はさいごまでへりくだった様子で出ていった。

 彼女が出ていったのを見送ってから、視線をヴェーセルへと戻す。

 

 

「どうして、こんなことに」

 

 

 いや、ヴェーセルとてわかっている。

 すべては、彼女自身の判断ミスでしかないということは。

 

 

「どうして、ルーナを自分の傍に置き続けた」

 

 

 ヴェーセルが『仮面』に選ばれる前、ルーナにはボディガードとしての役割もあった。

 獣人の血を引く彼女は、全力を出せば身体能力だけならヒールに変身したヴェーセルにも負けていない。

 それだけの実力を有するがゆえに、基本的にはヴェーセルと一緒に行動することが多かった。

 それこそ、ゴレイムや仮面騎兵を抜きにすれば圧倒的にルーナの方がヴェーセルより強い。

 あるいは、魔法を巧みに使いこなすジニーでさえ、近接戦ならルーナが勝つほどだ。

 だから普段ならルーナを護衛としておくことは間違いではない。

 

 

「ゴレイムにはその考え方は通用しないってわかっていたはずだろう」

 

 

 ゴレイムを、仮面騎兵以外が倒す方法は今のところない。

 やつらの外殻は固く、硬く、堅く。

魔法でも、剣でも、仮面騎兵以外では壊せない。

 仮面騎兵でないものにできるのは魔法、あるいは大型の罠を用いて拘束し、仮面騎兵が来るのを待つことだけだ。

 そして体術をメインに戦うルーナにはそれもできない。

 つまり、ゴレイム相手に出来ることが、彼女には何もなかったのだ。

 

 

「危険だから、戦闘開始と同時にルーナたちにも退避はさせていた。けれど、それでは十分じゃなかった」

 

 

 ルーナはヴェーセルの護衛だ。

 護衛対象が危機に陥れば、駆け付けてしまうのは当然のことだ。

 何かあっても助けられるように、つかず離れずの距離で見守っていた。

 あるいは、ヴェーセルが見ていてほしいと望んでいたのを組んだのか。

 いずれにしても、すべての責任は彼女にある。

 ヴェーセルが、そうあって欲しいと望んだのだから。

 

 

「最初からルーナを連れずに行動していれば、あるいはもっと余裕をもって立ち回って二体目に余力を残しておけばこうはなってない」

 

 

 そもそも、ロックゴレイムを探しているのは倒さなければいつゴレイムが現れてもおかしくない、という危険性があるからだ。

 二体目の襲撃もまた、考慮すべき事態だったはずなのに。

 どうして一日に一体だけだと思い込んでしまったのか。

 そこまで考えたところで、こんこんというノック音によって強制的に意識が戻される。

 応対せねばと思ったが、手が離せない状況であるので無理だと気づいた。

 

 

「失礼するよ」

 

 

 が、何かする前に扉の向こうの相手は引き戸を引いて入ってきた。

 

 

「やあ、こんにちは、ヴェーセル」

「ローグ」

 

 

 部屋に、ローグが入ってきた。

 

 

「今日は一人なのですね?」

 

 

 いつもは戦闘時を除き、執事と一緒に行動することが多いが、今日は不在だった。

 

 

「大勢で押し掛けるのも非常識だからね」

 

 

 それはそうだ。

 ローグは、さきほどまで医師が座っていたいすに腰掛ける。

 

「騎士団員たちは全員無事だよ。少なくとも命に関わる怪我を負っているものはいない。彼女が最も重症だろうね」

「そう」

 

 

 死者がいないというローグの報告に、ヴェーセルは安堵する。

 しかし、彼女はすぐに頭を振ってその感情を追い出した。

 何を安堵しているのか。

 目の前に、己の至らなさから重体に陥ったものがいるというのに。

 

 

「何の用ですの?」

「話がある、当然君にね」

 

 

 ローグは、優雅に空いていた椅子に腰掛ける。

 

 

「君は、何かになりたいと言っていたな」

「ええ」

「その心は、まだ残っているのか」

 

 

 ローグにはヴェーセルが酷く打ちのめされているように見えた。

 だから、心が折れているのではないかと、問うたのだ。

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