TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~   作:折本装置

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「宝石の王子様」

 王城の中には、無数の部屋がある。

 大広間のような様々な人々が出入りするものと、ごく一部の人しか入ってこないような部屋である。

 後者の中には、フィリップの私室がある。

 大きなゆったりとしたソファの上に、フィリップとアメリアが腰かけていた。

 

 

「本当に、お会いできてうれしいですわ、フィリップ様」

「ああ、私も久しぶりに会えて嬉しいよ」

 

 

 先日まで、フィリップは幽閉されていた。

 理由は、フィリップでさえも知らない。

 未知の病原菌に感染している可能性があるためとのことだったが、そんなわけないのだ。

 アメリアとは、幽閉されている間も文通で連絡を取り合っていた。というか、アメリアが手紙を送ってくれていた。

 その手紙によれば、彼女は幽閉されていないらしい。

 自分の体に危険な病原体があるのであれば、当然アメリアも拘束されなくてはおかしいではないか。

 つまり、幽閉されているのはきっと他に何らかの理由があるのだろう。

 

 

(多分、ヴェーセルだな)

 

 

 すでに、彼はヴェーセル、仮面騎兵ヒールがなにかしらをやっているのだろうという結論にたどり着いていた。

 そもそも王族がこのように拘束されるなど、例外を除けばまずありえない。

 その例外が仮面騎兵による、ゴレイムへの捜査である。

 ゴレイムを見つけ、殺し、人々を守るためであれば仮面騎兵は王族の権利すらも侵害できる。

 

 

(ああやって、私を幽閉したということは私が疑われていたのかもしれないが、バカバカしい話だ。私はゴレイムに食われかけたというのに)

「あれ……?」

 

 

 あの時、ゴレイムは確かフィリップとアメリアの護衛を皆殺しにして。

 そのまま、その遺体を順番に食べていた。

 フィリップは、怖くて逃げようとして、アメリアがしがみついていたから逃げられなくて。

 でも、アメリアを振り払って逃げるだなんてできるはずもなくて。

 

 

「どうして」

 

 

 どうして、ヴェーセルは間に合ったのか。

 どうして、自分達が殺されていないのか。

 どうして、先に護衛の死体を捕食したのか。

 そんな、意味のないはずの、考えてはいけないことを考えかけて。

 

 

「フィリップ様」

 

 

 耳元における囁き声によって止められた。

 アメリアは、すっとフィリップの頬に手を添えて。

 じっと目を見てくる。

 フィリップも、思考を打ち切ることに決めた。

 そもそも、婚約者が隣にいる状況で考えることではない。

 

 

「もう、構ってくださいな」

「あはは、ごめんごめん」

 

 

 フィリップは、機嫌を損ねてしまったことを申し訳ないと思いつつ、小箱を取り出し、開ける。

 

 

「わあっ、すごい、綺麗なルビーですね」

「え、うん?」

 

 

 渡したのは、紅玉の指輪だった。

 無意識なのか、彼がアメリアに渡す宝石はほとんどが赤色だった。

 緑の、補色(・・)だった。

 

 

「素晴らしいですわ、フィリップ様」

「あはは、それは良かったよ」

 

 

 宝石を魅せると、アメリアはいつも喜んでくれる。

 この部屋中に、宝石細工を配置していた。

 すべては、宝石が好きなアメリアに喜んでもらうために。

 贈り物をしたり、まめに手紙を送ったりとフィリップは相手に何かを与えることと、その反応を見るのが好きだった。

 王子である自分が、相手に会わせて高価な贈り物をすれば大抵は喜んでくれるものだ。

 ……一人だけ、例外もいたが。

 

 

「フィリップ様、どうかなさいましたか?」

「いや、なんでもないよ」

「こうして一緒にいると、フィリップ様と初めて出会った時のことを思い出しますね」

「そうだね」

 

 

 フィリップが学内の噴水広場で一人でいた時に、アメリアが声をかけてきたことがすべての始まりだった。

 といっても、恋人となったのはごくごく最近の話。

 ヴェーセルとの婚約を破棄する前は、確かに友人としての一線は越えなかった。

 とはいえ、もう婚約も破棄した以上何も気にすることはない。

 アメリアは、宝石が好きだ。

 ゆえに、フィリップは何かにつけて宝石を送ることにしていた。

 宝石と言っても、宝石なら何でもいいというわけではない。

 彼女なりにちゃんと好みがあるようで、好きな宝石とそうではないものにたいしては対応がわずかながらに違う。

 具体的に言えば、輝きが強い宝石が特に好きらしい。

 逆に、あまり色や大きさにはこだわりがないようだった。

 少なくとも、何を送っても全く同じ反応しか帰ってこないヴェーセルよりずっといい。

 これが愛情なんだと、フィリップは思った。

 

 

「そういえば、なんだけど」

「なんでしょう?」

「いや、大したことではないんだけど、どうしてあの時声をかけてくれたんだろうなって」

 

 

 本当に、特に意味のある質問ではなかった。

 初めて会った時のことを、問うだけの質問。

 恋人なら、夫婦ならしてもおかしくないありふれた話題だった。

 

 

「ふふっ」

 

 

 アメリアはにこりと、美しい笑顔を張りつけた。

 それは、少しだけ怖かった。

 

 




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