TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~   作:折本装置

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「海のある街で」

 遠征当日。

 王都の駅前で、ヴェーセルとローグは会話をしていた。

 いくつもの黒光りする蒸気機関、否、魔導機関車が並んでいる。

 

 

「それにしても、ワタクシとしてはにわかには信じがたいですわ」

「何がだい?」

「この世界、鉄道があるんですわよね」

「確かに私も、初めて遠征に行くときは驚いたなあ」

 

 

 この世界は、中世ヨーロッパがベースとなっている。

 ゆえに、文明の象徴でもある鉄道があるというのはにわかには信じられないことだった。

 仮面騎兵ヒールとして、すでに何度か活動をしているが、未だに慣れていない。

 

 

「まあ、この世界はなんちゃってヨーロッパだからね。トイレは水洗トイレだし、黒電話もある」

「なんでスマホはないんでしょうね……」

 

 

 もういっそスマホがあったほうが何かと便利なのだと思うのだが。

 固定電話で、魔力を流し込む必要があるので前世の電話と比べるとかなり不便ではある。

 

 

「フッ、雰囲気壊さないためじゃないかな?ちなみに原作にも黒電話はあるが当然スマホはない」

 

 

 ローグは、相変わらず、格好つけた雰囲気を纏っている。

 とはいえ確かに、黒電話の方が西洋風の世界にはまだ馴染んでいるような気はする。

 

 

「今回は、合同任務ということで、見送りに来たんだよ。本来なら、私も同行したいくらいの規模なんだが……」

 

 

 王国内の仮面騎兵は、合計四人。

 そして、自由に動けるのは三人までだ。

 

「わかっていますわよ、ルールですものね」

 

 

 ヴェーセルは、ため息をついた。

 

 

「仮面騎兵のうち、最低でも一人は、王都に居なければならない」

「そして、君と私以外の二人は、すでに現場に到着している」

 

 

 つまり、ヴェーセルとローグのうちどちらかはその場にいなくてはいけない。

 

 

「じゃあ、良い旅を」

「ええ、ヒーローとして確実にゴレイムをブチ殺しますわ」

 

 

 ヴェーセルは、ちらりと荷物を抱えた三人(・・)を見る。

 

 

「本当に、貴方達も来るんですの?」

「ヴェーセル様」

「頼む、行かせてほしい」

「わ、私達もお役に立てます……」

 

 

 メイド服を着た三人の少女。

 ウェーブのかかった金髪、ルーナ・タイガーアイ。

 眼鏡をかけ、巨大な本を抱えた青髪の魔術師、ジニー・セカンドハンド。

 眼帯をつけた銀髪の少女、アル・レジェンダリー。

 

 

「あくまでも、戦闘行動には参加しないこと。ワタクシが指示をしたら即撤退すること。それを約束してくださるのでしたら止められませんわ」

「はい!」

「もちろん、最初からそのつもり」

「ええ、あの、避難誘導とかはお任せください」

 

 

 メイド三人は、口々にそういってくれた。

 

「三人とも、本当にいつもありがとうですわ」

 

 

 ◇

 

 四人は無事に駅までたどり着いた。

 貸し切り状態だった電車を降りて、潮風の吹きすさぶ駅の上に立つ。

 

 

「やっぱり、電車はすごいね」

「そうですわねえ」

「何度見ても思う、やはり景色が最高だ」

「うふふ、アルちゃんは本当に外を見るのが好きですね」

「ああ、ここに来る途中で見えた海もいいが、特にいいのは何といってもあの神龍樹だ、あんなすばらしいものは他にない」

「まあ、確かに千メートルいじょうありますものね」

 

 

 山ほどの大きさもある木など、この王国あるいは世界中を探してもなお王都にある神龍樹だけだろう。

 

「…………」

「あの、ヴェーセル様、どうかされましたか?」

「ああ、ちょっと考え事を」

 

 

 ヴェーセルが考えていたのは、この世界について。

 この世界は、『ドラゴン(・・・・)ライド・アルブヘイム』というゲームの世界によく似ているらしい。

 しかしながら、この世界においては龍は存在しない。

 ゴレイムと一部の人間を除けば生態系はほとんど現代日本と同じであり、ゴレイムも既存の生物に擬態するため龍型のゴレイムは存在しない。

 現状、出てくる龍に関する単語は、神龍樹だけである。

 ローグも、神龍樹について詳しくは知らないらしい。

 そもそも、元になった『ドラゴンライド・アルブヘイム』においては仮面騎兵の力すらもまともに描写されず「闇の力」というテキストのみで描写されていただけらしいのでさもありなんと言ったところか。

 

 

「まあ、あまり気にしても仕方ないですわね」

「あ、あの、ヴェーセル様。外なので私の服の中に手を入れるのはちょっと……」

「ああ、ごめんあそばせ」

 

 

 つい、癒しを求めてしまっていたらしい。

 仮面騎兵になって一か月以上経過していたが、未だに彼女には慣れない。

 顔を赤らめつつ、ルーナは服を直す。

 

 

 

「わ、私はあんまり自然は好きじゃないですねえ。しいて言うなら、人がいない分ましかもしれませんけど」

「いや、いるよ」

「いますね」

「うえっ」

 

 

 ヴェーセルとジニーは驚く。

 前者は人が駅周辺にいることそのものに。

 後者は、彼女たちが気配を察したことに。

 果たして、彼女たちの感覚を疑っていたわけでは決してないが。

 本当に、駅の外に出てすぐに人がいた。

 

 

「よう、お前さんがヒールですかい!よろしくお願いしますぜ」

 

 

 手を上げて、ヴェーセル達を出迎えたのは、奇妙な風体の男だった。

 年のころは、三十代前半と言ったところか。

 あごひげをたくわえており、骨格ががっちりこともあっていかつい印象を受ける。

 だが、ヴェーセルが奇妙だと思ったのは顔や骨格ではない。

 三下のような口調、でもない。

 服装である。

 彼は、軍服を着ていた。

 この剣と魔法の中世風ファンタジーとうたわれていた『ドラゴンライド・アルブヘイム』で、だ。

 軍服を着ている者は、一人もいない。

 少なくとも、ヴェーセルの知る限りでは、王との治安を維持している騎士団も、警吏も、それに対応した制服や鎧を着ているだけだ。

 

 

「世界観が台無しですわー」

「えっ、なんかごめん」

 

 

 ああ、そっちが素なんだな、とヴェーセルは納得した。

 

 

「改めて、俺はガンドック・ファイアフライ」

 

 男は名前を名乗り。

 

 

「仮面騎兵オリバロッサの資格者だ」

 

 何であるか(・・・・・)を明かした。

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