TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~ 作:折本装置
「お初にお目にかかりますわ、ワタクシはヴェーセル・グラスホッパー。仮面騎兵ヒールの資格者ですわ」
ヴェーセルは、貴族令嬢らしく、スカートをつまんで礼をした。
「ああ、知ってるよ。後ろにいるのは、アンタの部下か?」
「ええ、見ての通り優秀なメイドですわ」
「そっかー、噂は本当だったんだなあ」
「噂?」
ヴェーセルは首をかしげる。
何のことだろうか。
「いや、グラスホッパー家のご令嬢は、直属のメイドに手を出しまくって愛人にしているとか」
「そこまではまだやってませんことよ!」
「……今はまだって言いいやしたか?」
ヴェーセルは現状事実ではないので、否定した。
ガンドックはそれに対して、呆れたような声を上げる。
「あの、ヴェーセル様」
「何ですの?」
「私達って愛人じゃなかったんですか?」
「え?」
ルーナは、いつも通りの笑顔だが、どういうわけか圧を感じる。
正直、少し怖い。
ジニーとアルも、抗議するかのようにヴェーセルを睨んでいる。
「ヴェーセル、覚悟を決めるべきだ」
「あの、文脈から判断して、愛人になったら、もっとすごいことをするということですよね?ヴェーセル様が望むのであれば、何でもしていただければ」
「……ああ、そ、そうですのね」
思ったより愛されているらしいことを理解したヴェーセルの頬を汗が伝う。
「そ、それについてはちょっとまた後日お話いたしましょう。ね?」
「はい、お待ちしてますね?」
傍から見ればセクハラとしか思えないやり取りであっても、そこには両者の合意があり、愛情がある。
ヴェーセルとしては嬉しいが、本当にそれでいいのかなとも思ってしまった。
「あの、俺が悪かったんでそろそろ話を戻してもいいですかい?」
「え、ええ、ありがとうございますわ。そういえば、もう一人の仮面騎兵は?」
ヴェーセルは、尋ねる。
仮面騎兵は四人。
ヴェーセル、ローグ、ガンドック。
この三人を除いても、あと一人いるはずだ。
「ああ、最後の仮面騎兵――オルクハイドなら現在進行形で戦闘中ですぜ」
「「「「え?」」」」
予想していなかった言葉に、ヴェーセル達の口から驚きが漏れる。
「ここは、今戦場なんでさあ。最近、ゴレイムがめちゃくちゃ増えていますからなあ、このあたりは」
「ええ……」
そこまで状況が切迫していたとは、ヴェーセルは知らなかった。
まあ、ヴェーセルが来ざるを得ない時点で、ということなのだろう。
「ゲルガガガガガガ!」
一体の、怪物が駅前に飛び出してきた。
それは、細長い胴をしていた。
それは、蛇のように見えた。
それには、小さなひれがあり、粘液を纏って光沢を発していた。
それはウナギ型の――ゴレイムだった。
「なっ」
「あー、あいつがうち漏らしやがったか。まあ、しょうがねえよなあ」
ガンドックは、がりがりと頭を掻いてため息を吐く。
まるで、こんな事態には慣れているとでもいうかのように。
『Set――seed mask』
ガンドックは出現したベルトの右側に、深緑色の――オリーブの実のような色をした『仮面』を装着する。
さらに、彼の手元には、一丁の拳銃が出現した。
直後、引き金を引いて、宣言した。
「変身」
『Change――olive』
ごぼり、と『仮面』から油のようなものが噴き出し、ガンドックの全身に纏わりつく。
それが、形を変えていく。
金色の油が、黄金の装甲へと変わっていく。
変身が終わると、そこには漆黒の銃を構えた、黄金の戦士が立っていた。
ガンドックは――仮面騎兵オリバロッソは拳銃を構えて。
「さーて、お仕事開始!」
拳銃の引き金を引いた。
「ゲルガ!」
銃弾をもろに受けて、ウナギゴレイムの表面が砕けていく。
何発も、何十発も銃弾が撃ち込まれていく。
じわじわと、装甲が、肉が、削れていく。
「これは……」
ヴェーセルは、この世界で銃を見たことがない。
それは当然だ。
中世ファンタジーをベースにした、剣と魔法の世界こそがこの世界である。
なので、武器と言えば近接用の剣と、魔法を使うために使われる杖くらいのものである。
なんなら、魔法使いでもジニーやフィリップのように杖すら使わない者もいる。
「すごい……」
圧倒的に、一方的にゴレイムが削られている。
これならば、ヴェーセルの助力やイクシードスキルを使わなくてもいいのではないだろうか。
「ゲルガー!」
「あっ」
ウナギが、身体をひねって逃げ出した。
「変――」
ヴェーセルも、変身をして状況を打破しようとして。
「まあ、待ってくだせえよ」
いつの間にか、オリーバは銃をおろしている。
「いや、待つも何も逃げ出して――」
そういおうとした瞬間、ゴレイムがハチの巣になる。
骨格も、コアすらも砕けて崩れて土にかえっていく。
「え?」
ヴェーセルは攻撃をしていない。
ガンドックもまた、攻撃をしていない。
であれば、もう一人の仮面騎兵だろうかと考えて後ろを振り向くと。
「…………?」
そこには、ルーナたちメイドと、メイドではない、まして仮面騎兵ではない者達がいた。