TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~   作:折本装置

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捕食の条件、人間の証明

「何を言っている?」

 

 

 本当に理解できないという顔で、アインスは首をかしげる。

 

 

「我は、ゴレイムだ、怪物だ。それなのに、人の心が存在すると?」

「ええ、何しろアナタが人の心を持たない怪物であれば、とっくにオデュッセイアは全滅しているはずですわ」

 

 

 オデュッセイアは国の最南端にある都市であり、人口は千人程度。

 彼女の実力と、ストーンゴレイムを作り出せることを踏まえればそれくらいは出来て当然だ。

 まあ、ヴェーセルやガンドックたちを考慮に入れれば、その限りではないだろうが。

 

 

「ここにいる人間すべてを食らいつくし、力をたくわえ、さらに他の街を襲う。それを二年前にやらなかったのはなぜですの?」

 

 

 それが、人間の証明であり、最低条件なのだとヴェーセルは言う。

 

 

「それは……言いたくない」

「別に言いたくないなら別に構いませんわ。ただ、人を殺さず食わないものを怪物だなんて呼べませんわ」

「我は……いやなんでもない」

 

 

 アインスは、何かを言いかけた。

 しかし、口を閉じた。

 何だろうか。

 

 

「ただ、一つだけ聞かせて欲しいことがありますの」

「……なんだ?」

「アナタの、いいえ、アインス・オーキドマンティスについてですわ」

「まあ、気になるよな」

 

 

 これまで話してきたことは、アインスが、人を殺していない捕食していないという前提に立った上での行動だった。

 そうでないのなら、彼女が本物のアインスを殺しているならすべてが破綻する。

 少しの時間をおいて、語り始めた。

 

 

「我が最初に知った、この体を得てからの記憶は……浮かんでいる『仮面』だった」

 

 

 そう言いながら、モノトーンの少女は唯一例外的な『仮面』の輪郭を指でなぞる。

 

 

「浮いていた?」

「ああ、断片的だが、元の体の持ち主――というかアインスは、我は、オデュッセイアに向かう途中に事故に遭って死んでいる」

「事故?」

「ああ、電車に乗っていたら、いつの間にか体がぐちゃぐちゃになっていた。おそらく、転落あるいは横転したのだろう」

 

 

 電車がそのような事故を起こしたのかどうか、ヴェーセルには確認する手段はない。

 けれど、嘘をついているようには見えなかった。

 

 

「それで、事故死したとして、どうやって成り代わったのです?」

 

 

 そこが一番の問題だった。

 

 

死体を食った(・・・・・・)

「!」

「ゴレイムは擬態したい相手を捕食するが、それは生きている必要はない。遺伝情報さえが残っていれば、それを元に肉体を構築できる。それこそ、全身を完璧に取り込む必要すらなく、部分的であってもいい」

「なる、ほど」

「そして、我は人としての、アインスとしての記憶を手に入れてしまった。結果として、我は人を殺そうとは思えなくなってしまった。だから、人を捕食しようとするゴレイムと、戦うことを選んだ」

「なるほど、理解できましたわ」

 

 ヴェーセルはうなずいた。

 

 

「ああ、我はあくまでも怪物――」

「アナタは、人間ではないかもしれません」

「そうだな」

「ですが、人であろうとしていますわ。そして何より、人を守っていますの」

「我は、怪物だし、人を食った。その事実に、過去に変わりはない」

「いいえ、これまで、というのが大事であれば、アナタが救ってきた人の数に目を向けるべきですわ」

「……我は、多くを守れなかった。オリバロッソが来て以来、死者は一人も出ていない。ゴレイムに殺されたものは、一人残らず我の不手際で死んでいる」

「それでも、失ったものだけ見ていてはいけません。少なくとも、私はそう思いますわ」

「犠牲者から目を逸らせと?」

「いいえ、それは抱え続けていくべきです。でも、一番大事なのは今手の届く人や幸せに向かって手を伸ばすことだと思いますわ。それが、仮面騎兵であり、ヒーローだと思います」

 

 

 過去に目を向けることも、未来に向かって手を伸ばすことも。

 どちらも間違ってはいないし、相反するものでもない。

 

 

「ゴレイムが、人に擬態する理由は諸説ありますが、ワタクシは捕食の為だと思っていますわ」

「捕食、か。そうだな」

 

 

 ハナカマキリが植物に擬態するのと似ている。

 ゴレイムは人を食う。

 ゆえにこそ、理解不能で共存不可能であるとされていた。

 だが、アインスは他のゴレイムとは違う。

 人を食っている様子も、食おうとしている様子もない。

 肉体は人ではないのかもしれない。

 けれど、人として生きていくことはきっとできるのではないか。

 

 

「ですが、それは一般論です。アナタは、どうしたいんですの?」

「…………」

「人でありたいと望んでいるならば、アナタはもう人ですわよ」

「ヴェーセル」

「何でしょう?」

「ありがとう」

 

 

 そういって、アインスは頭を下げた。

 

 

「どういたしまして」

 

 

 ドヤ顔で、ヴェーセルは答えた。

 

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