TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~ 作:折本装置
海中にいることから、わかることは二つ。
相手は、海中での戦闘能力にかなりの自信をもっているということ。
そして、もう一つ。
魚が陸では戦えないように、このゴレイムも海中から出てしまえば無力であろうと推測できた。
「――武装展開」
アインスもまた、左腕に鎌を組み合わせて作ったプロペラを装着し、飛翔する。
どうやら、飛行手段とはプロペラのことだったようだ。しかも、器用なことにプロペラを掲げながら右腕で大鎌を振るい、マグロゴレイムに斬りつけている。
「ツ、ナアアアアアアアアアアアアアアアア!」
マグロゴレイムは、あらん限りの声を出し。
直後、白い弾丸が、ヴェーセルを撃ち抜いた。
「これ、は?」
どこから、どうやって攻撃をしてきたのか。
無数に飛来する弾丸の色と、来た方向からすべてを察する。
「塩の弾丸……」
相手の能力を理解する。
どうして、海中にいたのかも。
塩分を操作する能力。
海中の塩分を操作して塩の弾丸を生成し、ヴェーセル達を攻撃してきたのだ。
「ぬ、う」
塩の弾丸によってスラスターが潰されてしまっている。
「ですが……!」
まだ、空中機動手段は失われたわけではない。
むしろ、ヴェーセルにとってはここからが本番である。
「ほっ」
「ツナッ!」
羽のミサイルに足を乗せ、羽を掴んで武器として相手に斬りかかる。
相手の腕に食い込むが、両断するには至らない。
「ツナッ!」
左手を海に向けると、白い柱が出現する。
「塩の柱、というわけですわね」
旧約聖書にそんな言葉があったな、と思い出した。
だが、間違いなくこの攻撃は先ほどの弾丸によるものとは比べ物にならない。
間違いなく、圧倒的な質量でヴェーセルの体は砕けるだろう。
これを躱しつつ、カウンターで攻撃を当てる。
そして、このマグロゴレイムを倒す。
そのために、やるべきことは。
「アインス!」
「何だ!」
「三十秒だけ、止めてください!」
「わかった!」
『Exseed charge』
アインスが、仮面に触れて、必殺技を起動する。
刹那、プロペラが巨大化し、大回転を引き起こす。
いな、ただ回転するばかりではない。
まるで巨大な扇風機のごとく、風を、竜巻を巻き起こす。
『Typhoon cycling』
竜巻に、マグロゴレイムは呑まれて体勢を崩す。
「すぐに切れるぞ!」
『Typhoon cycling』は範囲、威力共に優れる一方で、持続時間は短い。
しかも。
「ツナ!」
「まずい!」
相手が、何もしないとも限らない。
既にできていた塩の柱を竜巻に差し込むことによって、竜巻を構成する空気の流れをせき止め、竜巻を崩壊させた。
日に一度しか使えない必殺技は、マグロゴレイムの肉体を大幅に削ったものの、致命傷には至らなかった。
ゴレイムが塩の柱に手を差し出すと、それが砕けて体に纏わりつき始める。
恐らくは、塩で装甲を作るつもりなのだろう。
というか、本来は海中で無尽蔵に塩の武装を作るのがマグロゴレイムの戦術なのかもしれない。
「甘いですわね」
塩対応に対して、ヴェーセルが甘いと断じた。
まず、防御を選んだのが悪手。
その一手で、攻撃に転じるべきだった。
だから、間に合った。
「さあ、反撃の時間ですわよ」
『Form shift――mass mouth』
塩の弾丸と、柱。
どちらにでも対応できるのは、この形態だろう。
『Exseed charge――Infinite increase』
無尽の増殖が、始まった。
空中で、仮面騎兵ヒールが、無数に増えていく。
人によっては、蝗害を連想するかもしれない。
あるいは、特撮ヒーローを思い出すかもしれない。
いずれにせよ、ヴェーセルは無数に分裂し、一斉に攻撃する。
分身を盾にして、弾丸を防ぐ。
分身を足場にして、空中戦を行う。
そして無数の分身が攻撃を同時に行い、できかけた塩の鎧を砕いていく。
塩の鎧は、確かに強固だ。
並みの使い手であれば、塩を操作して延々と作り出され続ける塩の鎧は突破できないだろう。
強度が足りない。
塩化ナトリウムのモース硬度は二程度であり、これは金と同程度。
この世界にある何よりも堅い装甲を身にまとっているヴェーセルにとっては、どうということはない。
拳で殴って。
足で蹴って。
塩の障壁が砕かれて。
ゴレイムとヴェーセルとの彼我の距離が、ゼロになった。
「この距離なら、バリアは張れませんわ!」
「いいぞ、ヴェーセル!」
しかし。
「ツナアアアアアアアアアアアアアア!」
「くっ!」
なおも、砕けた塩の欠片を操作して、周囲にいる分身たちを固めにかかる。
防御の鎧でもなく、攻撃するための弾丸でもなく。
相手の行動を阻むための拘束具として塩を使う。
これを、振りほどくのは力なき『鼠』にはできない。
だが、ヴェーセルは、アインスは、止まらない。
『Form shift――Rapid rabbit』
「武装展開――螺旋衝角」
ヴェーセルは、『兎』の覆面とニーパッドを装着する。
アインスは、足からドリルを生やす。いや、足の一部をドリルに
「せいやああああああああああああああああっ!」
「はあああああああああああああっ!」
ヴェーセルとアインスが、同時に蹴撃を見舞う。
たった一撃。
されど、二人がタイミングと意思を合わせて放った攻撃は、とっさに庇うために差し出された腕を押しのけ、頭部を砕き。
内部にあるコアを、完全に破壊した。
「おーほっほっ、やりましたわ!」
「そうだな、ヴェーセルのおかげだ。感謝する」
「ワタクシの方こそ、ですわよ」
にこりと笑って、ヴェーセルは親指を立てた。
なお、ヴェーセルは力尽きて変身が解除されており、プロペラを展開したアインスに服を掴まれてぶら下がっている状態だった。
心情的にはともかく、絵面的には最悪な状態だった。