TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~ 作:折本装置
オデュッセイアにおける最大の旅館、その一室。
ヴェーセルは、そのベッドの上でごろごろしていた。
理由は、もうこの街で働く理由はなくなったからである。
「つまり、もうロックゴレイムを討伐した、と?」
「ええ!改めて、これで終わりですわ。悪役劇場閉幕ですわーっ!」
「なんというか、あっさり終わったんですね?だって二年間も解決しなかったんですよ、ね?」
ジニーは、本を読みながら首をかしげているが、ヴェーセルとしてはそこまで不思議でもない。
「二年間、事態が動かなかったのは、村を守るのとゴレイムを探し出すのが一人では難しかったからですわ」
マグロゴレイムは、過去に何度も大量の魚型ゴレイムを送り込んでくる広域制圧戦術を使う手合いであったらしい。
ゆえに、アインスとゴレイムだけでは防衛と索敵の両方まではこなせなかった。
だがしかし、一か月前にガンドックが、そして先日ヴェーセルが来たことで状況が一変する。
防衛をガンドック率いる『軍隊蟻』が担当し、索敵にヴェーセルが加わったことで、短期間での索敵及び、ロックゴレイムの始末につながったというわけだ。
さらにいえば、勝てたのもそもそも奇跡的だったと言っていい。
もしも地面に接触していれば、再生能力を使われるだけではなく、無数のストーンゴレイムを生み出していた可能性が高い。
勝てたのは、地面に接触させなかったアインスの機転と、二人がかりだったことが大きいだろう。
あるいは、ゴレイムとしての経験則の可能性もあるが。
「でもいいの?アインス・オーキドマンティスのことは」
アルが、ベッドによじ登り、寝転がったヴェーセルを覗き込んできた状態でヴェーセルに問いかける。
「ゴレイムである以上、危険なんじゃないの?」
「……確かに、アナタの意見も理解できますわ」
ヴェーセルの部下である三人は、いずれもゴレイムによって家族を失い、孤児になった。
そもそもが、ゴレイムに対して強い拒否反応を示しているのだ。
アインスは人を殺してはいないし、それについても説明は行った。
だがしかし、それでも彼女達にしてみれば人を殺す可能性のある化け物だ。
「納得してほしい、とまでは言いません。ワタクシとアナタでは失ったものが違いすぎますからね」
ヴェーセルのこの世界での両親は、不仲ではあるものの健在だ。
加えて、彼女の前世も――両親は死んでいなかった。
だから、家族を失った人に、ましてや怪物に食い殺された人に共感するのは不可能だ。
けれど、理想が同じであると信じることはできる。
「でも、ワタクシはあくまでも人を守るために、ゴレイムと戦っています。そういう意味で、今のアインス・オーキドマンティスは味方と呼んで差し支えないと思っていますわ」
ヴェーセルも。
ルーナも、アルも、ジニーも、ローグも、ガンドックも、騎士団も、国王陛下も、
そして、アインスも。
理想は同じであると、「人を守る」という目的は共有できているはずだとヴェーセルは考えている。
「……ヴェーセルがそこまで言うなら、私は何も言わないよ」
「ありがとうございます」
苦笑しつつ、ヴェーセルは起き上がってアルを抱きしめた。
そして。
「すううううううううううううううううっ」
頭に鼻を押し付けて、深く息を吸い込んだ。
花のようなアルの香りが、肺一杯に侵入してくるのを感じる。
命が、彼女の中で躍動しているのを強く強く感じていた。
「ヴェーセル……」
「あ、す、すみませんわ。ついうっかり無意識に……」
ジト目になったアルににらまれてしまった。
「まあ、いいよ。ヴェーセルに抱き着かれるのは好きだから」
「そ、それならよいのですけど、本当に嫌ではありませんこと?」
「嫌じゃない。でも、嗅ぎたいときは一言言ってほしい」
「あ、はい」
「ヴェーセル様、あ、あの、私も」
「ヴェーセル様、ジニーの後で私もお願いしますね」
「あの、三人とも今日はちょっと積極的ですわね?」
「「「だって構ってくれなかったから」」」
「あー」
ヴェーセルは納得した。
アインスを見極めるために仕方がなかったとはいえ、ちょっと放置しすぎたな、と深く反省するのだった。
「とりあえず、食事をとりましょうか」
「「「はい!」」」