TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~   作:折本装置

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「Shooting wolf」

 ヴェーセルが宿に戻ってゴロゴロし始める数時間前のこと。

 ヴェーセルは街に戻ると真っ先にルーナに電話をかけたうえで、すぐに部屋に行く旨を伝えた。

 そして、その後でヴェーセルが電話をしたのはガンドックだった。

 ヴェーセルがかけたのはルーナたちが泊っている旅館の電話であり、当然そこにはガンドックもいる。

 伝えなくてはいけないことを一刻も早く伝えるために、ヴェーセルは電話をかけていた。

 

 

「そうですかい、問題のロックゴレイムは討伐されましたか」

「ええ、ですから問題はありませんわ。ワタクシたちは近日中にここを離れようと考えていますの」

「それがいいでしょうなあ。ひとところに、仮面騎兵が三人も一緒にいるのは、本来良くないことでさあ」

「事後処理についてはいかがいたしましょう。ワタクシたちのほうでやりましょうか?」

「いやあ、それについては俺と『軍隊蟻』に任せてくださいよ。これでもひと月くらいはこの街を守ってきたんです。信頼関係は十分に築けているはずだ」

「なるほど」

 

 

 ヴェーセル――仮面騎兵ヒールはオデュッセイアにおいて新顔も新顔。

 駅について即座にゴレイム討伐に向かったがために、この街の領主にすら会っていない。

 そんな状況で、事後処理を行うのは難しい。

 もう一人の仮面騎兵――オルクハイドことアインスはコミュニケーション能力に難があるタイプなので、なおさらダメだった。

 だからガンドックに任せるべきだと判断する。

 

 

「そんで、アインス――ロックゴレイムについて結論は出ましたかい?」

「…………」

 

 

 ガンドックは、話題を変えてきた。

 もっとも、それ自体は別にいい。

 ただ、問題なのはむしろ内容の方だった。

 

 

「まさか、ロックゴレイムだったとはねえ。何度か会っていましたが、全然気づけませんでした」

「内外で分担していたのであれば、それは無理からぬことですわ。少なくとも、ガンドック様に非があるというわけではなくってよ」

「ははは、そう言ってもらえると助かりますわな」

「それより、彼女の処遇のことですが……ワタクシは彼女の処刑(・・)に反対ですわ」

「理由を訊いても?」

 

 

 露骨に声のトーンが変わる。

 無理もない。

 ルーナたちは呑んでくれたが、それはあくまでも彼女たちがヴェーセルの意思を何よりも尊重してくれているからであって、ガンドックはそうではない。

 ゴレイム殺すべし、そう考えるのは仮面騎兵として、あるいは人として当然のことだ。

 

 

「ワタクシはこの一日、彼女と行動して、ゴレイムと戦い、確信しましたわ。彼女は本当に二年間人を守るために戦い続けたのだと、彼女は我々と同じく人のために戦える存在だと」

「……なるほど、ねえ。まあ、いいじゃないですかい?」

「本当ですの?」

 

 

 受話器の向こうから、声を弾ませているのが伝わってきた。

 どうやら、ヴェーセルの方はあっさり通るとは思っていなかったらしい。

 

 

「ええまあ、理由はわかりませんが、とりあえずゴレイムを何体も殺してるのは事実ですからねえ。それに彼女を殺しても、すぐに替えの仮面騎兵が補充されるわけでもない」

 

 

 仮面騎兵は、強靭な肉体や、無尽蔵に思える再生能力を有するが、不死身ではない。

 エネルギーのこもったシードマスクが壊れれば死ぬし、老衰やエネルギー不足で死ぬことだってある。

 だが、仮面騎兵が死んでもすぐに新しい仮面騎兵が見つかるわけではない。

 少なくとも、今代の仮面騎兵が全滅して初めて、次代の仮面騎兵が見つかり始めるのだ。

 なので、アインスを殺してしまうと今後三人で回すか、あるいは三人とも殺して次代を待つかの二択になってしまう。

 どちらを選んでも、ゴレイムからの防衛力の大幅な低下は避けられないのだ。

 ガンドックが言及したのは、そう言う戦略的な意味合いもある。

 

 

「それにしても、どうしてゴレイムが食人の本能に負けずに、理性を保ったままでいられるのかわかりませんな」

「多分、『仮面』が関係しているのでしょうね」

 

 

 彼女が、オリジナルのアインス・オーキドマンティスを食った時に、彼女の頭上には『仮面』があったという。

 アインスを選んだ『仮面』が飛んできたものの、アインスの元に着いた時には、既にこと切れていた。

 だから、遺伝情報すらコピーした今のアインス――ロックゴレイムを宿主として選んだ。

 

 

「『仮面』は資格者の体に寄生し、仮面騎兵の使い方などの記憶を植え付けます。それが、アインスが人としての自我を保っていられる理由かと」

「なるほど、それなら辻褄もあいますなあ」

 

 

 ガンドックはうんうんとうなずいた。

 

 

「とりあえず、今のところは静観でいいでしょう、ヴェーセルさんもお疲れさまでした。また、労わせていただければと思います。今度、アインスさんも交えて食事会でも致しましょうか」

「あら、それはいいことですわね」

 

 

 それから一言二言会話して、通話は終わった。

 

 

「ふう」

 

 

 受話器を置き、完全に通話が切れたことを確認する。

 同時に、ベルを鳴らして部下を呼んだ。

 屋内なので、蟻のヘルメットは外している。

 まあ、あれはゴレイムの攻撃の余波(・・)を軽減するためのものだから非戦闘時につける必要性は一切ない。

 

 

「いかがなさいましたか、ガンドック様」

「例の店、明日の夜貸し切りにしとけ、ヒールとオルクハイドをご招待する」

「わ、わかりました。では、ついに動くのですね?」

「ああ。タイミングを見計らってたが、あの二人が頑張ってくれたおかげで、これ以上ない好機がやってきた」

「はい!」

 

 

 部屋を出て他の部下とやり取りをはじめた。

 ガンドックもまた、脳内でこれから起こることのシミュレーションを始める。

 

 

「さーて、お仕事お仕事」

 

 

 ガンドックは、『仮面』から一発の銃弾を取り出し、装填する。

 銃弾は、オリーブの実のような、深い深い緑色だった。

 彼の顔は、獲物を狙う狼――あるいは狙撃しようとする狼(・・・・・・・・・)のような、どう猛な笑顔だった。

 

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