TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~   作:折本装置

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「人間の証明」

 オデュッセイアの外にある灯台のそば。

海を眺めながらお互いにことを離した場所で、ヴェーセルとルーナが向かい合っている。

 

 

「食事会、だと?」

「ええ、ガンドック様が開催したいとのことですわ」

「ふむ、申し訳ないが遠慮しておく」

「え!」

 

 

 ヴェーセルは固まった。

 普通に参加するとばかり思っていたからである。

 

 

「ど、どうして……」

「理由はいくつかある。我は、人のとる食事を必要としていない」

「……それは、そうかもしれませんが」

 

 

 二年間まともに人里に入ることもなく、木の根などを食べて生きてきたらしいアインス。

 そもそも、ゴレイムは生命維持のために食事を必要としていない。

 ゴレイムが人を食うのは、己を強化するため、あるいは肉体の情報を模倣して擬態するためだけだ。

 

 

「あと、もう一つ。我は、人里に入りたくないのだ」

「それってどういうことですの?」

 

 

 人里に入りたくない、という言葉の意味は理解できる。

 人に関わるのが嫌なのだろう。

 だが、人と関わることを拒否する理由はどこにあるのか。

 

 

「どうすればいいのか、わからんのだ。正直貴様に言われて一時的に立ち入った時も、駅内に踏み込んだ時もどのように人間と接すればいいのかわからなかった」

「でも、ワタクシやガンドック様とは普通に話していたではありませんこと?」

「いや、あくまでもヴェーセルやガンドックは、根本的に我からすれば違う。我も『仮面』に寄生されているからか、同族のような感覚がある」

「……そうなんですのね」

「だが、他の人間は、普通の人間は違う。まるで違う別の存在だから」

「……そんなことは、ありませんわよ」

「確かに、アナタは普通の人とは違うかもしれませんわ。けれど、アナタだって人なんだってワタクシは信じています」

「どうして、そこまでしてくれるのだ?何のために、やっているのだ?」

「大したことではありませんわよ、ワタクシはずっと自分のために行動しているにすぎませんもの」

「何?」

 

 

 ヴェーセルは、あくまでも自己実現としてヒーロー活動をしている。

 大切な人の、憧れの存在であり続けるために。

 それこそが、彼女のアイデンティティを構成していると言っても過言ではない。

 

 

「何しろ、ワタクシは人の道を外れていますの」

「そうなのか?」

 

 アインスにしてみれば、疑問しかないだろう。

 いや、否定したいはずだ。

 

 

「人が仮面騎兵になるとどうなるか知っていますの?」

「生殖能力を喪失する、だったか。アインスの記憶にあるな」

「ええ、子孫を残す術がなくなる。生物としては根本的な欠陥ですの」

 

 

 ヴェーセル・グラスホッパーにとって、子供を作る能力があるということはほんの一、二か月前までは本当に生きる意味そのものと言ってもよかった。

 

 

「そうか、我らは上位種によって増やされるから自発的に増える必要がなく、生殖機能など興味はないが、そう言う考え方もあるのだな」

「上位種?」

 

 

 ヴェーセルは、聞きなれない言葉に眉を顰める。

 サンドゴレイムはストーンゴレイムによって生み出される。

 ストーンゴレイムはロックゴレイムによって生み出される。

 では、ロックゴレイムはどこから生まれるというのか。

 

 

「話を戻してもいいか?そもそもお前が我を人間だと思うかどうかという話だったと記憶しているが」

「え、ええ、そうですわね」

 

 

 気になる点はあったが、一旦それかけた思考を打ち切ることにした。

 

「ともあれ、ワタクシは人から大きく外れています。怪我をしてもすぐ治りますし、食事をとらなくても眠らなくても生きてはいけます」

「確かに、それではゴレイムとさほど変わらないような気もしてくるような」

「そうなんですよね、だから、ワタクシが人であることを実感できるのは人と関わっている時だけなんですの」

「それで、メイドにもセクハラしているのか?」

「いえ、スキンシップですわ」

 

 

 頑なにヴェーセルはセクハラを認めなかった。

 メイドたちも、特段認めないだろう。

 なお、傍から見ればセクハラだし、断片的にヴェーセルから何をしているから聞いているアインスから見ても普通にアウトである。

 

 

「今のワタクシにとってヒーローとして人を守っている瞬間というものが、ワタクシを人間として成立させていると思うのです」

「なるほど……」

 

 

 アインスは、納得できた。

 ヴェーセルが、彼女をどうして人間であるとみなしているのか。

 何のことはない、ヴェーセルがそう思いたかった(・・・・・・)からだ。

 人間という企画から半ば外れている肉体。

 だからこそ、もとより人間ではないアインスでさえも、人のために戦う存在であれば人間であると信じたいのだろう。

 

 

「確かに、それではただのエゴだな」

「そうですわね、間違いありません」

 

 

 エゴ、という言葉でなじられても、ヴェーセルに堪える様子はない。

 むしろ、腑に落ちた。

 

 

「だが、我は貴様を人間だと思っているよ。人のために戦い、人の心を思いやれる誰よりも人間らしい人間だと」

「そ、そうですの?」

「あと、人間らしい性欲の塊だとも思っているよ」

「それ今このタイミングで言う必要ありますの?」

「貴様が普通の会話にセクハラの自供を織り交ぜてくるからだろう」

「いや、今日はまだパジャマで寝ている姿を魔法カメラに収めただけですわよ?事前に許可は取ってありますし」

 

 

 ヴェーセルは顔をしかめた。

 ガンドックと言い、アインスと言い、どうしてセクハラ三昧の異常者のような扱いをしてくるのか。

 なお、何度でも言うが客観的に見ておかしいのはヴェーセルの方である。

 

 

「そんな人間らしい貴様が、人とのつながりを大事にするべきだという。そうであるならば、むげには出来んだろう」

「ありがとうございますわ。やっぱり、アインスはいい人ですのね!」

 

 

 ヴェーセルは、満面の笑みでアインスを抱きしめた。

 

 

「何をしている?」

「あ、ああ、ごめんなさいですわ!」

 

 

 あわてて、身体を離した。

 ヴェーセルは、普段から女性へのスキンシップが激しい。

 なので、ついその延長戦で接してしまった。

 

 

「まあいいだろう。ともかくその場所とやらを教えてくれないか」

「え、ええ、地図を渡しておきますわ」

 

 

 ヴェーセルは、予めガンドックに言われた場所の書かれた地図を渡した。

 

 

「では、ワタクシはもう戻りますわね。ルーナたちに叱られますので」

「ヴェーセル」

 

 

 アインスは、ヴェーセルに抱き着いていた。

 

 

「あ、あ、あの、アインス?」

「ふむ、これが貴様のいうスキンシップというものか」

 

 

 ヴェーセルは、セクハラにはなれている。

 だが、それはする側であってされる側ではない。

 なので、いきなり抱きつかれたりするとパニック状態になる。

 ましてや、メイドたちは自分からヴェーセルに触れることは滅多にない。

 ゆえに、触られることに対する耐性というものがヴェーセルには欠けていた。

 

 

「悪くはないな」

「え、ええ、そうでしょうとも」

 

 

 人に擬態しているというのは本当らしい。

 彼女の今にも折れてしまいそうなほどきゃしゃな体は柔らかく、それでいて温かった。

 人間と同じだった。

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