TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~   作:折本装置

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「激突!心と剣」

「どういうつもりですの!」

 

 

 ヴェーセルも立ち上がる。

 武器を出した以上、そして周囲に人がいる以上、看過できない。

 幸いにも、シェフは奥に引っ込んでいるようだったが、であればなおのこと制圧するしかない。

 

 

「いや待て、これは」

「待ちませんわ!」

『Set』

 

 

 ヴェーセルが、『仮面』を装着する。

 アインスもまた、どこか諦めたように『仮面』を手に取る。

 

 

「「変身――」」

『Change――bind weed』

『Change――orchid』

 

 

 チェーンソーと、デスサイズが激突した。

 

 

「純粋な近接戦闘力で、互角ですのね」

 

 

 ヴェーセルは、四人の仮面騎兵のカタログスペックを聞き知っている。

 状況に応じて武装を切り替える、近接戦闘に特化したヒール。

 あらゆる属性魔法攻撃を使いこなす中距離、遠距離攻撃に長けたローゼイド。

 兵器を生産し、火力をまき散らす戦闘と生産を両立できる唯一無二の存在であるオリバロッソ。

 そして、持久戦に特化してはいるもののこれといった特殊能力を持たないオルクハイド。

 

 カタログスペック上はそうである。

 だが、それだけではないこともわかっている。

 ヴェーセルは、『兎』に切り替えて攪乱しようとする。

 だが。

 

 

「――武装展開」

 

 

 アインスの宣言と同時に、彼女の両腕にプロペラが装着される。

 そして、彼女は地から足を離して移動距離を取る。

 

 

「馬鹿な」

 

 

 ゴレイムは、地上から離れれば再生できない。

 だが、別に離れることはできなくもないと、彼女の口から聞いている。

 

 

「――武装展開」

 

 

 さらに、アインスは武装を切り替える。

 左手にプロペラをつけたまま、右手に弓を持つ。

 空中からの遠距離攻撃。

 これを破る手段は、ヴェーセルには一つしかない。

 

 

『Form shift――Rooster booster』

 

 空に飛んで、翼剣を振るい、弓を持ったアインスを打ち合う。

 弓を砕くも、すぐにまたドリルを展開してくる。 

 

 

 この能力の正体を、ヴェーセルは知っている。

 

 

「これはゴレイムと仮面騎兵の能力を組み合わせたものですのね?」

「ああ、そうだ」

 

 

 ◇

 

 

「ヴェーセル様、二人の仮面騎兵に関しての情報をまとめたので、聞いていただけますでしょうか」

「ええ、お願いしますわ」

 オデュッセイアに向かう途中の電車において、向かい合った四人用の座席にヴェーセル達は座っていた。

 ジニーはヴェーセルに許可をもらってから話を始める。

「オ、オリバロッソについては、記録がありません。文献には『正体不明の杖のような武器を用いる』としか書いていません。ただ、ローゼイドのような遠距離戦に長けた能力のようですね」

「へえ」

 

 

 それだとローゼイドと役割がかぶるのではないかと思ったが、別に被ってもいいのかと結論付けた。

 ローグによれば、原作の『ドラゴンライド・アルブヘイム』においてヴェーセル達が使う仮面騎兵の力はほとんど登場しないらしい。

 「禍々しい闇の力」という描写はあるものの、具体的にそれがなんであるかはデータとして残っていなかったのだとか。

 ソフトにハッキングして解析した人にもわからなかったらしい。

 つまり、仮面騎兵の能力はゲームバランスなどを意識する必要性は全くなかったのである。

 

 

「それで、もう一人は?」

「仮面騎兵オルクハイドについては、ありません」

「記録がないということですのね」

「いえ、違います。本当にありません」

「はい?」

 

 

 ヴェーセルが首をかしげた。

 

 

「ですから、能力がそもそもないんです。他の『仮面』より持久力に優れていること以外、スキルも兵装もありません。イクシードスキルも、存在しないと聞きました」

「ええ?」

「仮説なのですが、オルクハイドはいわゆる試作機……プロトタイプだったのではないでしょうか」

 

 

 日曜朝の特撮でもゼロ号という概念はあった。

 正式なヒーローシステムの前の試作機、というものがあってもおかしくはない。

 

 

「それだと、どうやって戦っていたのでしょうか……」

 

 

 ローグや報告書から得た情報では、オルクハイドは二年間人々を仮面騎兵から守ってきたはずなのに。

 すっと、アルが手を上げる。

 

 

「どうかしましたの?」

「決定力がなくても持久戦に秀でているなら壊れるまで殴り続けるという戦法が取れるのでは?」

「ああ、なるほど。アルらしい意見ですわね……。ルーナはどう思います?」

「ええと、多分違うと思います。持久戦では本人は生き残れても、周りを守ることはできませんから」

「た、確かに言われてみれば、変ですねえ。歴史上のデータと現状に齟齬があります」

「個人の資質でしょう」

 

 

 ルーナは、断言した。

 

 

「ヴェーセル様は、ヒールの力を十全に使いこなしています。難しいとされていた『鳥』でさえもある程度は制御下に置くことが出来ています。それは、ヴェーセル様のセンスと努力の結果です」

 

 

 ヴェーセルは、ルーナに褒められているのを嬉しいと思いつつ、関心は別のところにあった。

 

 

「つまり……今代のオルクハイドは他の人が持っていなかった何らかの能力を有していると?」

「そう考えるのが、妥当ではないでしょうか」

 

 

 ヴェーセルは、ふむ、と顎に手を当てて考え込んだ。

 もしも、組む相手が優秀であれば、それに越したことはないなと。

 

 

 味方であるうちは、の話だが。

 ◇

 

「アナタのゴレイムとしての能力は、『変形』と言ったところかしら」

 

 

 ゴレイムの能力は、一体一体異なる。

 目から光線を出したり、あるいは塩を操作したり。

 土を操作し、圧縮し、成形。

 武装やスキルを持たないというオルクハイドの欠点を、武器を生成することでカバーしているというわけだ。

 大鎌、プロペラ、弓矢、ドリルなど、武装の種類は多岐にわたる。

 

「武装展開――大鎌」

『Form shift――horse chainsaw』

 

 

 無限に回転するチェーンソーの刃が、鎌を削り、へし折る。

 されど、無尽蔵に現出する鎌は、砕かれた傍から出現して、振るわれる。

 

 

 

 両者ともに一歩も譲らない白兵戦は、店の様相すらも一変させていた。

 落ち着いた雰囲気を出していた調度品は破れ、砕け。

 床は土から鎌を錬成した際に吹き飛んでしまった。

 たまたま店員が席を外していたからよかったものの、そうでなくては死んでいただろう。

 いや、人死にが出ないタイミングを見計らって武装したのか。

 

 

「どういうおつもりですの?」

「失望したか?我に」

「いいえ、決して。アナタはやはり、未だに人を殺さないことにこだわっている。だからこそ訊きたいのですわ。どういうつもりで、武装をしたのかと」

 

 

 見限ってはいないからこそ、止めるために動き、何をしているのかと尋ねている。

 

 

「……我は、耳がいい。少なくとも、人を軽く上回る」

 

 

 ゴレイムの身体能力や知覚能力は、人のそれを優に上回っている。

 ゴレイムが、基本的に動物を模倣しているからだ。

 聴覚は兎と同等であり、嗅覚は犬に迫り、人のわずかな気配も逃さずに追い詰めて捕食するのだとか。

 

 

「だから、気づいていた。ここが人払いをしていることも、ガンドックやヴェーセルが我の扱いについて話し合っていたことも。そして、ヴェーセルは我を無害と判断したということも」

「…………」

 

 

 図星だった。

 以前のデートは、アインスの真意を探るためのものだった。

 アインスがゴレイムであることを報告し、彼女が本当に人間側なのかを見極めるための場をもうけさせてほしいと、ヴェーセルは()にお願いしていた。

 そして彼女はアインスに危険はないと判断した。

 その上で、彼と話し合い、合意したはず、だった。

 

 

「だったら、なんで」

「貴様は我を無害だと思ったが、彼らはそうじゃなかったということだ」

「!」

 

 

 ヴェーセルが、アインスの言葉を理解したと同時。

 銃声(・・)が響いた。

 

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