TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~   作:折本装置

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「心の在り処」

 二人の戦闘によって天井と床が砕けた、レストラン。

 なれど、四方を囲う壁はほとんど壊れていなかった。

 

 

 その理由は、戦闘が概ね上下のみ(・・・・)で行われていたからだ。

 上に行こうと、逃げようとしていたアインスと、行かせまいと考えていたヴェーセル。

 何かから逃げようとするかのような行動を起こしていたアインスを、ヴェーセルが危険と判断して制圧しようとして結果である。

 つまるところ、お互いに死力を尽くしつつも殺意と言えるようなものは何一つなかった。

 彼女達二人には。

 

 

「しまっ」

『Form shift――shield sheep』

 

 

 銃撃に対してヴェーセルは、攻撃の手を止めて防御に特化した形態である『羊』を使用し。

 

 

「――武装展開」

 

 

 アインスはプロペラを複数出現させ、回転させることで盾とした。

 断続的に、雨あられのごとく横殴りに連射され続ける銃弾。

 

 

「これは……銃による十字砲火(クロスファイア)

「つまり」

 

 

 四方の壁が崩れると、そこには見覚えのある集団がいた。

 蟻の覆面を被り、迷彩服を着こみ、機関銃を構えた集団――否、軍団。

 『軍隊蟻』である。

 そして、彼らがいるということは。

 そこには、指揮官もいるはずである。

 

 

「悪いですねえ、ヴェーセルさん。これ、お仕事だから」

 

 

 飄々とした態度で『軍隊蟻』の裏から現れたのは、軍服を着た髭面の男。

 ガンドックが、『軍隊蟻』とともに銃口をこちらに向けていた。

 

 

「いやあ、奇襲を仕掛けるつもりが、ミスっちまいましたねえ」

「我を殺す、ということで間違いないな、ガンドック」

「ああ、オルクハイド、いや、ロックゴレイムをきっちり処分しておかないとねえ。そういうお仕事だから」

 

 

 ガンドックはへらへらと笑っている。

 そこには、命を奪うとか、そう言う感覚は全くない。

 仕事を進めるうえで終わらせるべきタスクを処理しようとするかのように、けだるげで軽薄だった。

 

 

「あり得ません……」

 

 

 ヴェーセルは、ガンドックを睨んだ。

 

 

「そもそも、なぜ打ち合わせもなしにワタクシごと攻撃したんですの?この件はワタクシに判断させるということで話がついていたはずではありませんこと?」

「いやあ、普通に俺とあんたで挟み撃ちを仕掛ければ楽に勝てるのかなと思っていたんだけどね?なんか知らんけど、ヴェーセルさんがよりによってアインスさんを庇おうとするなんて思いもよらなかったからさあ」

「…………っ!」

「妥当だな」

 

 

 要するに、ガンドックはヴェーセルの意見など聞くつもりがなかったのだ。

 ヴェーセルとともにアインスを殺せるのであればそれでよし。

 それが不可能であれば、ヴェーセルを囮に使って今のような十字砲火で殲滅を狙う。

 ヴェーセルが何を望もうと、どう判断しようと、ゴレイムであると発覚した時点でオデュッセイア内部でアインスを始末するつもりだったのだ。

 

 

「ガンドック、何度も説明したでしょう。アインスには、ワタクシたちと同じく人を守る、人の心がありますわ」

 

 

 アインスを殺すべきではないと、戦力として信頼できるとヴェーセルは説明する。

 

 

「別に、そのゴレイムが人の心を持ってないなんて思ってねえよ」

「何ですって?」

「そもそも、ゴレイムだって元人間と聞いてるし、人としての記憶は性質を引きついでたって不思議じゃないだろ」

 

 

 事実、アインスは人間らしい「人の命を守りたい」という思いを持っている。

 加えて、話も通じる。

 問答無用で襲ってくる他のゴレイムとは違うのだ。

 それはアインスの資質かもしれないし、仮面騎兵に選ばれ、『仮面』に寄生されているからかもしれない。

 

 

「けどなあ、そんなもんはだからなんだって話なのよ。そいつが抹殺するべきゴレイムであることには何ら変わりない」

 

 

 アインスが優しさや正しさを持っていようと関係ないと、ガンドックは言う。

 彼女たちの仕事はゴレイムを倒すこと。

 ゆえに、人に擬態しているゴレイムを庇うなど言語道断である。

 

 

「そもそもさあ、そいつが無害であるっていう保証もないだろ。人に擬態してるってことは人を殺して捕食してるのは間違いないわけだし」

「それは違いますわ!」

 

 

 事実とは異なる意見に、ヴェーセルは真っ向から反論した。

 少なくとも、殺しているわけではない。

 彼女が捕食しようとした時、オリジナルのアインス・オーキドマンティスは既に死んでいたのだ。

 はあ、とアインスは表情を変えないままため息を吐く。

 いつの間にか、彼女は変身も武装も解除していた。

 

 

「もういい、ヴェーセル。こうなった時点で仕方がない。我のことは捨て置け」

「何を」

「我が何を望もうと関係ない。我は、人類にとって敵以外の何者でもない。少なくとも、我を庇って仮面騎兵同士で殺し合う必要はない」

 

 

 アインスが抵抗を辞めた理由をなんとなく感じ取っていた。

 それは、人の存在。

 先ほどまでの戦いはあくまでも撤退戦であり、無理に戦うつもりもなかった。

 周囲にヴェーセル以外の人間はおらず、イクシードスキルさえ使わなければまず死者が出ることはなかっただろう。

 だが今は『軍隊蟻』がいるし、野次馬も徐々に集まりつつある。

 人を巻き込んで死なせるくらいなら、無抵抗のまま殺される方がいいと判断しているのだ。

 あくまでも、最優先するべきは人命だと、彼女は何より行動で示していた。

 

 

「それは、少なくとも間違っていますわよ、アインス」

 

 

 ヴェーセルは、確信をもって反論した。

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