TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~ 作:折本装置
「何?」
ヴェーセルは、ガンドックを睨みつける。
「何の許可も得ず、いきなりワタクシごと攻撃するなどありえません。そもそも、アインスだけを殺したいなら彼女が一人でいる瞬間を狙えばよかったでしょう?」
「それは、そうだが」
アインスは言葉につまり、ガンドックは、答えない。
ただ悠然と、銃口を向けたまま突っ立っている。
何を考えているかわからない、へらへらした顔でこちらを見続けている。
なぜ見ているのだと、怒鳴りつけてやりたくなった。
「何より、アインスを殺さないというのは単に感情的な問題だけではありませんの。きちんとメリットがあってのことですのよ」
「メリット?」
アインスは、何を言っているのかわからないという声を上げた。
「仮面騎兵の中の誰かが死んだ場合、次の仮面騎兵は当代の全員が死ぬまで現れることがありませんの。つまり、アインスを殺してしまえば戦力が減り、補充できないんですわ」
「ああ、そういう」
ちなみに、四人まとめて殺す、というのは論外だ。
それをやってしまった場合、次代の仮面騎兵がいつ現れるのかわからないため、ゴレイムはその間完全に野放しになる。
ちなみに、ローグの初仕事は先代の死後に、野放しあるいは封印されていたゴレイムの掃討であったらしい。
「だから、現時点で人的被害を出していない彼女を殺すべきではない、そう言う結論が出ているし、
「何?」
ヴェーセルは、ガンドック、ローグとアインスの処遇について連絡を取っていた。
そして、彼女が人間を傷つけない限りは殺す必要はないということで合意は取れていたはず。
つまりこれは、正しさすらない、ガンドックの独断に他ならないのだ。
「アナタ、何を考えているんですの?いえ、質問を変えますわ。どうしてワタクシごと殺そうとしたんですの?」
ガンドックは、ふう、とため息をついた。
「いやあ、ミスったなあ。まさかヴェーセルさんに看破されるなんて思ってなかった」
ガンドック・ファイアフライという人間を、まだヴェーセルはさほどわかってはいない。
だが、軽薄な態度と、人間には違いないヴェーセルを殺そうとした行動から理解できることがある。
まぎれもなく、それが奴の本性である、と。
「俺の目的――ていうか仕事はなあ、戦力の普及なんだよ」
「普及?」
「俺の能力で、仮面騎兵以外でも、ゴレイムを討伐しうるというのはわかるよな?」
オリバロッソの弾薬を作り、与える力。
それは先日の昼間に、そしてたった今嫌というほど見せられた。
銃のメリットは、誰でも使えるということにある。
もちろん、腕前は訓練次第で変わるのだが、それでも逆に訓練すれば子供でも使えてしまうのが銃である。
そんな性質ゆえか、あるいはヴェーセルの考えるような生産職としてのロールがあるのかはわからないが、彼の作った銃弾は他の人間でも使うことができる。
「つまりなあ、俺さえいればゴレイムの襲撃には対応できるんだよな」
「だから何ですの?それでワタクシたちを攻撃する理由にはならないでしょう?」
必要がなくても、別に排除する意味はない。
「話は変わるがなあ、今政治的権力のバランスは大きくゆがんでいる。なぜかわかるか?」
「…………?」
正直、ヴェーセルには彼の言葉の意味も意図もわからない。
けれど、わかることもある。
絶対にろくでもないことになると、勘と経験則が告げていた。
だから、『仮面』に触れて、イクシードスキルの発動準備をしたまま声に耳を傾けていた。
「『仮面騎兵』の権限は、対ゴレイムにおいて王族すらもしのぐ強力なものだ。はっきり言って、ファイアフライ家以外の連中が転生者を囲い込まない理由がわかんねーくらいだな」
どうやら、彼の口ぶりから察するにファイアフライ家は多くの転生者と婚姻関係になることで代々仮面騎兵を手の内に置いていたらしい。
「元々ファイアフライ家はな、ただの平民だったらしい。それが、百年ほど前に仮面騎兵とたまたま結婚していたことで、成り上がっているんだ。治安維持限定とはいえ、仮面騎兵の権限の強さってのがよくわかるよなあ」
王族にすら物申せるのが仮面騎兵という役職である。
「つまり、だ。お前らがいなくなれば我々は政治権力闘争において有利に立てるってわけ。お前らを消したら、あとはローグ・ウッドペッカーもだな。だいたい仮面騎兵が死んだら次のやつが選ばれるまで二十年はかかるらしいから、それまでは俺達の天下というわけだ」
「は……?」
ようやく、話を理解した。
そして、本当の意味で理解不能に陥った。
つまりこういうことだ。
人を守るとか、ゴレイムを殺すとかではなく、ただ単に権力のために仲間同士で殺し合うということだ。