TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~ 作:折本装置
「嘘だろ……?」
ヴェーセルの口から、普段の言葉遣いとはまるで違う言葉がもれる。
「話は、もう終わりだな」
『Exseed charge』
オリバロッソの仮面から、一つの弾丸が飛び出した。
それは、一見すると今まで使っていた弾丸と同じに見えた。
だが、違う。
弾丸などとはとても呼べないエネルギーが、そこに込められていると感覚的に判断できる。
それは生物の本能か、あるいは『仮面』が教えてくれているのか。
あの一発の弾丸――『魔弾』はイクシードスキルであると。
「――発射」
一発の『魔弾』が放たれる。
回避は出来ない。
後ろには、家屋があり、中には人がいる。
それをわかっているから、今ここで射撃をしている。
『Exseed charge――Blade runner』
ならば、同等の力で迎え撃つほかない。
チューブが四肢につながっている。
チェーンソーと『仮面』から生み出される動力が、四肢と刃の力を限界まで拡張する。
最高の斬撃を持って、魔弾を迎え撃ち。
「らあっ!」
相殺した。
二つの大技がぶつかった余波で、床が、その下にある土台が割れて砕ける。
熱量を至近距離で浴びたヴェーセルの装甲は焼け焦げる。
「まだ!」
『Form shift――rapid rabbit』
互いに最大威力の大技を撃ちあっても、戦闘は終わっていない。
どちらも、
よって続行する。
そして遠距離戦に長けたオリバーに勝つには、近接の間合いに持ち込む他はなく、最速の形態『兎』で距離を詰めることこそが最良の手段であると判断している。
お互いに切り札を切っている以上、あとは泥仕合しかできず、それなら速度特化の『兎』でひっかきまわすか、パワーに特化した『猿』で押しつぶせばいい。
一度ゴレイムを倒した時と、今の戦闘において、相手の動きはおおよそわかっている。
「って、考えてるんだろうなあ」
ガンドックは、マスクの内側でぽつりとつぶやく。
ただしその判断は。
『――Exseed charge』
お互いに、切り札を全て使い切っていればの話である。
「……は?」
日に一度しか出せないはずの『魔弾』を、再び装填、発射する。
なぜ、とか、ありえないとか、言葉を発する余裕すらなく。
スピードに特化した『兎』でかわすことだってできるはずもなくて。
『Form shift――shield sheep』
ヴェーセルは、仮面に触れて装甲を切り替える。
それは、奇妙な風体をしていた。
仮面騎兵は、特撮ヒーローのような見た目をしておりなんちゃってヨーロッパの『ドラゴンライド・アルブヘイム』においては十分にいようではあったのだが、そういうことではない。
角と、綿毛のような装飾の就いた覆面。
左腕に取り付けられた、つる植物で構成されたような大盾。
『ゴレイムによって瀕死の重傷を二回以上受ける』ことで解放される形態。
それこそが、『羊』。
特性は、防御力特化。
攻撃力も機動力も、初期形態より低いかわりに、防御力だけは他のどの形態にも劣らない。
『Fur barrier』
盾を、さらに蔓が覆う。
そして、魔弾が直撃した。
爆発。
炎熱が、衝撃が、爆風が、ヴェーセルを襲う。
「あ、が」
甚大なダメージに耐えきれずにヴェーセルの、ヒールの変身が解除される。
身を包んでいた紫のドレスも、皮膚も、あるいは筋肉でさえも熱量によって焼け焦げている。
彼女の体の中にある『蔓』が体を修復しようとするが、ダメージが大きすぎるのかうまく機能していない。
とっさに、防御力に特化した『羊』に換装したからこの程度のダメージで済んだ。
そうでなければ、『仮面』が砕けて死んでいただろうと理解している。
『仮面』が、警告するかのように教えてくれている。
状況が把握できたことで、肉体はともかく思考に余裕が生まれる。
「なんで?」
どうして、イクシードスキルを日に
Exseed chargeは日に一度限りの必殺技。
それを二度使うなど、ありえない。
ありえないが、現実として起こっている。
『Exseed charge』
「っ!」
三発目の魔弾が、装填される。
同時に、気づいた。
イクシードスキルは、日に一度しか使えない。
だが、とある前提を覆すと、その問題は解消される。
オリバロッソのイクシードスキルは『魔弾』を発射することではなくて。
毎日毎日コツコツと『魔弾』を作り、貯めておく。
二日なら、二発。
一週間なら、七発。
一か月なら、三十発。
生産に秀でた、オリバロッソの特性を反映した恐るべき能力。
この能力の恐ろしい点は、弱点がないということだ。
事前準備が必要だが、この場においてはただ物量が多いだけで欠点ではない。
そして、今のヴェーセルに打開策は存在しない。
「詰み、ですわね」
変身も解除され、今の彼女にはもう打つ手がない。
『Exseed charge』
刃渡りも柄の長さも十メートルほどの、巨大な大鎌が顕現する。
「はあっ!」
大鎌と魔弾がぶつかり、相殺する。
魔弾が真っ二つになり、鎌が砕け散る。
『Exseed charge』
第四の魔弾を装填した。
相手が何をしようと構わない。
ストックをつぎ込み、確実に撃滅するだけ。
今迄も、ずっとそうしてきたのだから。
『Exseed charge』
「え?」
「おん?」
オルクハイドもまた、『仮面』に触れて二度目の必殺技を起動する。
彼女の両腕に無数の鎌の刃が出現する。
彼の腕を覆うように生えて、回り続ける。
薄い刃が変形し、混ざり合い、一つのカタチを作り出す。
「ドリル……」
人の体ほどの大きさを持った螺旋衝角が、強化された仮面騎兵の目でもとらえきれない速度で回転している。
『Fire』
オリバーに動揺はない。
どれだけ撃ってこようが、こちらには膨大な貯蓄がある。
相殺によるリソースの削り合いならば、こちらに分があるだろうと考えたからだ。
『Spinning Drill』
キッドは、ドリルを地面に向けた。
「しまっ」
魔弾が放たれるが、それが着弾するより、ドリルが地面を抉るほうが早い。
「……攻撃用じゃなくて、逃走用の切り札だったか」
確かに、ドリルはそもそも道なき道を作り出すためのものである。
地面を潜って、ヴェーセルを担いだまま逃げたのだ。