TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~ 作:折本装置
ゴレイムであるアインスが傍を離れたことで、変身が解除される。
具現化した弾丸は残っているが、変身できない以上、追いつくのはもはや不可能だろう。
「将軍、どうされますか」
「…………いったん撤収を。周辺には、潜伏していたゴレイムが暴れ出したと広めておいてくれ」
「承知しました」
部下は首肯する。
人道に背く命令だったとしても彼らが異を唱えることはあり得ない。
ファイアフライ家の意向に沿うかぎり。
「あと、二、三部隊動かしてあの二人を捜索してくれ。まだ遠くには行っていないはずだ。俺は、ヴェーセルのメイドたちに『ヴェ―セルがゴレイムに
「承知しました」
指示を受けた『軍隊蟻』は命令を果たすべく散っていった。
「どうしたもんかねえ」
ガンドックにしても、今回のことは想定外だ。
二人を潰し合わせて、消耗させるところまでは良かった。
だが、その後でお互いがお互いをかばい合うなど、まったく予想できていなかった。
結果として取り逃がしてしまったが、二人が組んだ時点で負けていた可能性もある。
そういう意味では行幸だったかもしれない。
「さて、ローゼイド――ウッドペッカーをうまく使えば二対二には持ち込めるとして、どうやってあいつらを捕捉するかだな」
ガンドックも、転生者であり、いわゆる特撮ヒーローのことは知っている。
そして仮面騎兵というものの本質が、ヒーローに限りなく近いとも考えている。
だが彼にとって、ヒーローの解釈は少々他の仮面騎兵とは異なっている。
ヴェーセルは人に見られ、応援されることで力を発揮する守護者だと考える。
ローグは、自身の理想を体現する誇り高き存在だと定義している。
しかしてガンドックにとってヒーローとは、英雄である。
英雄とは、何か。
人によってさまざまな解釈があるだろうが、端的に言えば後世に名を残す歴史の勝利者である。
「歴史上でも、結局最後に生き残った奴だけが勝者だったからなあ」
彼の目的は、ゴーレム討伐でも、人を守ることでもない。
彼以外の仮面騎兵をすべて始末し、ただ一人の英雄となることだ。
もっといえば、歴史上の偉人に近い。
「そうすれば、俺は……」
口に出しかけて、かぶりをふる。
それはまだ、捕らぬ狸の皮算用がすぎると思いながら、彼は拠点に戻ろうと歩き始めた。
「さーて、お仕事お仕事」
まだまだ仕事は残っているぞ、と思いながら。
◇
ヴェーセルが目を開けると、既に空は黒く染まっていた。
つまりは、夜だ。
食事を始めたのが夕方の六時ごろで、まだ空が紅かったから、多分一、二時間は経過している。
「ここは?」
「先日訪れた灯台、の近くにある廃棄された港だ。町から離れているから、追っ手もそうそう来ない。ひとまず、ここでやり過ごそう」
「……なるほど」
ガンドックたちはヴェーセルを探すだろうが、それはまず間違いなく人数に頼ったローラー作戦だろう。
であれば、ここまで来るには時間がかかる。
最悪追手が到達したとしても、ヴェーセル達であれば水中に潜ってやり過ごすことが出来る。
仮にバレても、すぐに逃げればいい。
彼女たちにとって、脅威になりえるのはガンドックだけなのだから。
「さっきは、助かりましたわ。どうもありがとう」
ヴェーセルは立ち上がり、スカートをたくし上げて、恭しく礼をする。
前世では一度もやったことのない動作だったが、長年の教育を経てもうすでに習慣となってしまっている。
「礼を言うのはこちらの方だ。それと、すまなかった、我はお前を信じられなかった」
「いえ、あの状況では仕方なくってよ」
実際、アインスの態度次第では本当にヴェーセルはあの場で愛を倒すつもりだった。だから謝罪の必要はない。
「それでも、だ。お前は我を守るために必殺技まで使ってくれた」
「まあ、あれは相殺しないと他の人にも被害が出ますもの」
「確かにそれはそうか。まあ、それでも我が助かったのは事実だ。だから、我もお前を助けた」
「それは、ありがたく受け取らせていただきますわ」
二人とも、同時に顔を上げる。少し面白くなって、ヴェーセルは笑ってしまった。
「さてと、ここからどのように動くかが問題となってきますわね」
「というと?」
「ガンドックは、完全にワタクシたちを裏切り敵に回りましたわ。これをどうにかして対処して、ワタクシとアナタ、そしてローグが生き残る道を探らなくてはなりません」
ガンドックが殺そうとしているのはヴェーセルやアインスだけではない。
少なくともローグを殺そうとしているのは明らかである。
さらにいえば、オリバロッソと『軍隊蟻』によって軍事的なイニシアチブを取ろうとしているのであれば、騎士団も壊滅させるつもりかもしれない。
そうなれば、ゴレイムを抜きにしても治安が乱れる。
ガンドックの企みを何としてでも阻止しなくてはいけない。
「この件に関しては、ワタクシにお任せくださいな」
「構わないが、いいのか?」
「ええ。正直なところ、むしろワタクシ一人のほうが都合がいいかと……」
まず、ヴェーセルがやろうとしたのはルーナたちと合流することだ。
そして、電話を使ってローグにも連絡を取る。
そうすれば、ガンドックのクーデターまがいの行動を止めることが出来るかもしれない。