TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~ 作:折本装置
ヴェーセルが、ガンドックによって連れ去られた直後。
アインスは、屋根の上を走りながら配下のゴレイムに指示を出しつつ、戦況を分析していた。
ガンドックがヴェーセルとの一騎打ちを望み、二人を分断してきた。
それは、確実に勝てるという計算があってのことだろう。
実際、昨日アインスが割り込まなければ間違いなくヴェーセルは死んでいた。
まして、先行させてしまったことでヴェーセルは明らかに消耗している。
「やつ一人では、死ぬだけだな」
ゆえにアインスのやるべきは、ヴェーセルを守りながらここにいる『軍隊蟻』達を制圧。
そして、すぐにヴェーセルを追いかけて救出し、この場を切り抜ける。
すでに、時間を稼ぐ要因は送り込んでいる。
「問題は……」
アインスは、ちらと迫る敵を見る。
「たああああああああああああっ!」
銃撃と、断末魔が響く。
時間稼ぎ用に配置したはずのゴレイムが、一分と持たない。
魔術で拘束され。
超感覚によってコアの位置を見極められ。
身体能力に根差した精密射撃がコアを吹き飛ばす。
「これほどか……」
訓練を受けているはずの『軍隊蟻』ですら比較に上がらないほどの戦闘力。
ヴェーセルから聞いてはいた。
三人のメイドは元々ヴェーセルの護衛も兼ねており、尋常ではない戦闘能力を保有している、と。
急に戦場にメイドが三人乱入してきた時は何ごとかと思ったが、いざ戦いになってみれば『蟻』の方がついて来れていない。
「アル、私が先行しますのでついてきて。ジニー、アルをサポートしてください!」
「了解。心臓を狙う」
「【アクアライド】」
水の足場にアルが飛び乗り、馬並みのスピードでアインスに迫る。
アインスの身体能力でも、後ろ走りでは振り切れない。
そして。
「ヴェーセル様を、返せ!」
魔法によるサポートも何もなく、純粋な身体能力でこちらに追随してくるルーナが、機関銃を構え、引き金を引く。
オリバロッソが生成したゴレイムを殺しうる弾丸が、胸部――彼女のコアがある場所に向かって叩き込まれる。
だが。
「武装展開」
アインスもまた、強者の一角。
大鎌を自分とルーナの間に顕現させ、銃撃に対する盾とする。
ルーナの銃撃が同じ個所を寸分たがわずうち続け、鎌の刃を粉砕する。
「そこだあああああああああああ!」
「ぬ」
視覚から、ジニーの魔法に乗ったアルが銃撃を見舞う。
装甲がぼろぼろと削れていく。
「武装展開」
アインスはプロペラを展開するが。
「【フローズンロック】」
ジニーの魔法によってプロペラが凍結され、回転は止まり、アインスは落下する。
「問題だな」
一番アインスにとってやりづらいのは、彼女達を傷つけられないということだ。
アインスは、人を守ることを目的として戦っている。
ゆえに、人を攻撃するなどという選択肢は取れないし、取らない。
人間がゴレイムに攻撃手段を一切持たないがゆえに蹂躙されるのと同様、アインスもまた追い詰められていた。
多少身体能力が勝っていようとも関係ない。
防戦一方なのだから、アインスが一方的に追い詰められているだけだ。
しかして、逃げ切ることも難しい。
拘束・支援役のジニーが魔法で退路を断ち、機動力を引き上げる。
アルはルーナのサポートに回りながらサブアタッカーとして視覚から攻撃する。
そしてルーナは仮面騎兵に限りなく近い身体能力で絶対に逃がさないようにしながら接近して銃撃を放つ。
『軍隊蟻』が介入する隙も無く、徐々にアインスは追い詰められていった。
(かなり被弾している。このままならあと十分と持たないだろうな)
装甲を削られながら、アインスは思考を止めない。
現在お互いが使っている手札だけでは、いずれは確実にアインスが負ける。
であれば、変化を起こすしかない。
自分が隠している手札を晒すか。
あるいは、相手側の調子を崩すか。
「しかし、そこまで我に殺意を向けてくるとは。ゴレイムに家族でも食われたか?」
挑発のつもりだった。
もし少しでも動揺してくれれば隙ができるかもしれない、という程度の期待。
しかしそれは、
「……っ!ヴェーセル様をさらっておいて、どの口が言う!」
「ルーナ、落ち着いて。こいつを殺せばどのみち洗脳も解けるはず」
「なるほど」
怒りのわけを、改めて理解する。
この三人は、ヴェーセルをアインスが誘拐し、なおかつ能力で洗脳しているというご情報を与えられている。
恐らくはガンドックが吹き込んだものであり、完全なごじょうほうではあるが、すべてが嘘であるというわけでもない。
アインスがゴレイムであることは事実であり、ヴェーセルの口から彼女達にも伝わっている。
そして、アインスがレストランから連れ去ったのも事実。
無論、救命と離脱が目的ではあったが、そんな事情を彼女達が察せるわけがない。
戦闘能力が異常に高いとは思っていたが、何のことはない。
敬愛する主のために、そして主を害した『敵対者』に対して実力を十二分に発揮していたというだけのことだ。
(悪手だったな)
アインスは、内心でため息をつく。
挑発で隙を作るつもりが、先程より攻撃の手数が増し、より一層やりづらくなっている。
ならば、逃げる手段は一つだけ。
「我は、所詮化け物に過ぎない。だから、きっと我には人の心などわからない」
たまたま『仮面』にオリジナルのアインス・オーキドマンティスが選ばれたことで、ゴレイムの食人衝動などが抑えられ自我を保つことが出来ているが、それだけのこと。
「だが、人を守りたいという思いは持っている。いや、貰っている」
アインスは知っている。
人を助けようとする人間と、関わってきたから。
人を捕食するゴレイムの特性ゆえに、彼女はそれを吸収した。
それが、今の彼女を形作っているのだから。
『Exseed charge』