TS転生悪役令嬢、仮面のヒーローになって無双する~婚約破棄されたけど気にせず闇落ちルートを回避しつつ成り上がります~ 作:折本装置
『Exseed charge』
『仮面』が音声コードを発すると同時。
彼女の右腕に、長さ数メートルの巨大ドリルが形成される。
「土に潜るつもりだ……。ジニーっ!」
「【ボトムレススワンプ】、【ポイズンリキッド】」
アルがアインスの狙いを見抜き、ジニーがそれに答えて周囲の土を液状化させる魔術と、液体に毒性を与える魔法を使う。
地中を潜って逃げることは不可能になった。
「ふっ」
そして、ルーナは。
迷わず跳躍し、彼我の距離をゼロまで近づける。
盾をはさめないゼロ距離で連射。
確実にアインスを撃ち、討つ。
逃走経路も、ジニーが潰した。
もうイクシードスキルは使えない。
盤面は完全にアインスの敗北を示している。
ただし、それは。
『Exseed charge』
既に、アインスがイクシードスキルを使い切っていなければの話である。
「え?」
イクシードスキルは日に一度しか使えない、だからこそ最大にして最後の切り札。
どうして、それを二度も使えるのか。
『Sumon monster』
『仮面』の音声と同時、周囲の地面が変容する。
人が逃げ出した無尽の家屋から、ジニーの作った毒沼から
その口が、トラばさみであると気づけたのはアインス以外には居ない。
なぜなら、口が動き出したから。
頭が生え、胴体が生え、四足が生えた。
それは、端的に言えば怪物である。
生き物を模したゴレイムとも違う、化け物だった。
「しまーー」
そのうちの一体が、アインスを咥えて跳躍。
ルーナやアルの射撃も、ジニーの魔法も届かない。
一気に距離を離していく。
「待って――」
距離を詰めようとした時点で、他の『怪物』が立ちふさがる。
家屋ほどもある怪物が壁になって、ルーナや『軍隊蟻』の行く手を阻んでしまう。
銃弾を発射するものの、すぐに傷が塞がる。
足止めを食らっているうちに、距離を離されアインスを見失ってしまった。
「――っ!」
「ルーナ落ち着いて。まだ機会はある。今は、この怪物への対処が先」
「そ、そうですね。ヴェーセル様ならきっと大丈夫ですよ」
「……ええ、ありがとうございます」
そういった直後に、ぼろぼろと『怪物』が崩れて消失する。
どうやら短時間しか維持できない代物らしい。
逃走用の切り札であり、それさえできればよかったということだろうか。
「どうして……」
「ルーナ?」
どうして、逃げていたのか。
アインスがその気になれば、ルーナたちを殺せたのではないか、という思いが湧いた。
あるいは、殺す気がないから逃げていた、ということなのか。
ゴレイムなのに、人を殺そうとしていない。
もしも、ヴェーセルの言っていた「アインスは大丈夫」という言葉が真実であるとすれば。
「何か、裏がありそうですわね」
「ガンドックたちに、まだ何か隠していることがあると?」
「ええ、その可能性もあります。アル、探ってもらえますか?私とジニーは引き続きヴェーセル様を探します」
「了解」
かくして、オデュッセイアでの戦いは終わった。
勝者のいない、戦いが。
◇
一方そのころ、ヴェーセルとガンドックの戦いは、否、一方的な蹂躙は終わろうとしていた。
「思ったより、粘りますねえ。イクシードスキルなしで倒そうとしてたんだが」
銃弾を浴びせられ、立っているのがやっとの状態だ。
おそらく、ストックを消費したくないのだろう、とヴェーセルは判断する。
ガンドックが舐めプをしているから、ヴェーセルはまだ生き残っている。
だが、既に風前の灯火だ。
「ああ、もう根が張ってやがるな。それだけ余裕がねえってことか」
いつの間にか、ヴェーセルの体から何本も緑色の蔓のようなものが突き出ている。
ローグやジニーから聞かされていた。
仮面騎兵の体内には、『仮面』から出た『根』が侵食している。
それは傷ついた肉体を修復するときなどに使われる。
が、本当に追い詰められると周囲からエネルギーを獲得しようとして暴走する。
具体的には『根』が体を突き破ってあたり一帯に侵食し、大地からエネルギーを得ようとする。
実際、根が彼女を中心として半径五メートルほどに広がり、土壌のエネルギーを吸い取っていた。
「土にも養分はある。けど、ゴレイムみたいに魂を含んでもない限りは、雀の涙でしかない。根を張ったところで、変身できるほどのエネルギーはたまらない」
淡々と、ガンドックは告げる。
あるいは、彼も根を張る経験をしたことが過去にあったのかもしれない。
「つまり、これで終わりってことでさあ」
『Form Ⅳ――
ガンドックが仮面に触れると、拳銃どろり、と溶けて形を変えていく。
変形が終わると、そこにはグレネードランチャーがあった。
『Fire』
一発、グレネードが放出される。
とっさに回避するが、爆圧の余波だけで吹き飛ばされて、盛大に転んだ。
「第四形態は、連射性はないけど威力は結構高いんだ。火属性もつくしな」
「…………」
単純な火力では、イクシードスキルに準じる。
絶望の足音が、迫っていた。