個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア! 作:波間こうど
ストックとか何も考えずに書いたら出しますね。
「さー! お前らも三年ということで! 本格的に将来について考えていく時期だ!! 今から進路希望のプリントを配るが、皆!! 大体ヒーロー科志望だよね!!」
クラス中で手を上げながら個性を発動させるのを見ながら、僕は原作に時間が追いついたことを実感していた。
ここまで本当に長かった、いやね? 何もかも合わないんだよね、10年間も精神年齢が違うとさ。学校で習う勉強も細かい差があるとはいえ小学生用のカリキュラムだと少し考えれば誰でもわかるようなものか、丸暗記すればいいだけのものばっかりだし‥‥、基礎的な教養として覚えていたものも多いから勉強については本当につまらないだけだった。成績は常に学年トップだったし、運動はまぁ、昔と体の大きさが違うから少し苦労したけど、雄英の入試を突破するために鍛える過程で運動もある程度以上できるようになったし。
娯楽的な意味で音楽や漫画、ゲームなんかは昔生きた世界とは色々違ったから(漫画なんて学園ものでは【個性】があるのが当たり前で進められていくんだよね)楽しくやっていけたけど‥‥、娯楽がなかったら多分耐えられないくらいには暇だったよね。
あと、こっちでは曇らせがあんまり大手のジャンルじゃないみたいで、曇らせ探すのに苦労したなぁ〜。中途半端に性欲とかもあるせいでなかなか大変な生活をした10年間だった。それも終わりで、ここからは原作に合わせて進んでいくわけだからまだ楽しめるだろう。
「せんせー! 皆とか一緒くたにすんなよ! 俺はこんな“没”個性共と仲良く底辺なんざ行かねーよ」
僕がそんなことを思案していると、そんなセリフがツンツン頭の少年の口から飛び出した。かっちゃんが机に足を乗せながらクラスメイトを挑発する様も、何度も何度も見返したヒロアカ一巻第一話のままだ。
つかこいつありえんくらいに生意気だな‥‥。いいぞ、もっと生意気になって俺が曇らせるときに最高の輝きを見せられるようにしてね☆
邪な妄想に身を委ねていると、いつの間にかかっちゃんが椅子から飛び上がり、机の上に乗りながらベラベラと口上を上げていた。模試でA判定で、個性も強ければそりゃ自信もつくだろう。ただ、原作とは違う部分が一箇所だけある。
模試のA判定が一人だけ、というところだ。僕たちが受ける模試は実技がないので、筆記だけの点数での実力が見られる。そして筆記だけなら僕もA判定なのである。なんなら彼よりも模試での成績の順位も上だ。まぁ、そんなことくらい彼は知っているだろうけど。
「あのオールマイトをも超えて俺はトップヒーローと成り! 必ずや高額納税者ランキングに名を刻むのだ!!」
「あ、そいやぁ、緑谷と舞妓も雄英志望だったな」
先生の言葉に俺と出久くんにクラスメイトの視線が突き刺さる。そりゃそうだ、クラスメイトの諸君の言う通り、雄英高校ヒーロー科は倍率300倍。偏差値79にもなる国立の高校だ。そんなところを志望するのがクラスから三人も出たらざわつきもするだろう。
「はぁぁ!? 緑谷に舞妓!? ムリっしょ! 勉強できるだけじゃヒーロー科には入れないんだぞー!」
「そっ‥‥そんな規定もうないよ! 前例がないだけで‥‥」
出久くんがクラスメイト諸君に反論しているが、正直、彼らの言う通りだ。人類の八割近くが個性を持っていると言っても二割は無個性がいるこの現代において、無個性のままヒーロー科に合格した生徒なんていない。
それは出久くんが一生懸命前例を調べていたから間違いないことだし、大体原作でも、出久くんはオールマイトから個性を譲り受けることで雄英高校の0ポイントヴィランをぶん殴り合格している。所謂レスキューポイントのみでの合格だ。無個性で合格するのはなかなか厳しいものがあるだろう。
この世界は二割もいる無個性の人間への対応があまりにも悪い。それを僕はこの10年間で身に染みて経験しているのだ。ほとんど差別の域だよね、しかもみんながみんな気づかないうちに、気を使うように差別をしてるんだから溜まったもんじゃない。
それはこんなところに如実に現れている。
「こらデク!!!」
ボーン! と個性を使って出久くんを吹き飛ばしながら、かっちゃんが出久くんに詰め寄った。顔はさながら鬼の形相である。おい、担任止めろよ。個性だから許されてるだけでビビらせるためにホームルームで先制攻撃的に爆破とか余裕で捕まって然るべき事案でしょ。
「“没個性”どころか“無個性”のテメェがぁ〜、なんで俺と同じ土俵に立てるんだ!?」
クラスメイトがクスクスと笑う声が聞こえる。無個性であると言うだけで夢を語ることすら許されないのが今の社会だ。ここにいるほとんど全員がヒーロー科志望だと言うから正直呆れてものも言えない。
まぁ、地元の市立中学なんてヤンキーばっかりの素行不良。私立の中学にでもいかないと上品な生活は味わえないだろうけどね。そっちでさえ無個性は天然記念物みたいな扱いを受けるだろうけど。
「やってみないとわかんないし‥‥」
「てめぇが何をやれるんだ!?」
クラスメイトが大きく控えめに笑う声を聞きながらため息をこぼす。この辺りの子達は曇らせるにも曇らせがいのない子ばかりなので、僕の琴線に触れてこないのだ。曇るのならできるだけ希望に満ちた子、自我の強い子、自分に対して絶対的な自信のある子が良い。ここにいるのはとりあえず憧れだしヒーローを目指してみるか、みたいなことを考えているような半端者しかいない。
正直、僕の曇らせ範囲外である。
「それでぇ、テメェもだよ! 女男!!」
ぐりん! とかっちゃんが首をこちらに向けながら僕に対して威嚇する。それに釣られるようにしてクラスメイトも僕の方に向いた。ちなみに女男とは僕の見た目に対しての言葉である。
僕は今世において中性的な見た目をしているのだ。いや、中性的な見た目をしていたのでそっちの方に振り切った、と言う方がいいだろう。白い髪をボブカットに整え、バレないくらいの化粧を施し、髪のケアにも力を入れている。理由はモブキャラの一人として埋もれてしまわないためだ。一応漫画の中での出来事なので因果律とかなんとかで僕が活躍できないのは困るし。願掛けみたいなものである。
「デクと同じく“無個性”のテメェが! 雄英になんていけるわけねぇだろ!!」
「でも僕は模試A判定だよ? 雄英ヒーロー科の筆記模試で一位だし」
「実技がねぇからだよ! “無個性”のテメェが受かるわけねぇ!!」
「出久くんが言ってたでしょ? “前例がない”だけじゃん。それを言うならこの中学から雄英のヒーロー科への進学だって前例がない。前例ないから無理だろうし諦めたら? 無理だと思うよ、ヒーロー科」
「あぁ!? んだとテメェ!!」
今中学生現在。僕とかっちゃんはどうしようもなく仲が悪い。所謂犬猿の仲だ。
主人公のライバル的なポジションを持っているかっちゃんに対して、僕は主人公の親友ポジを頂くことにした。そうすると、出久くんと仲良く、かっちゃんグループとは離れる必要がある。それを簡単に成し遂げることができたのが“無個性”というたった一つの事実だ。
“無個性”であるが故にいじめられる出久くんの側にいられる。そうすれば簡単に出久くんと仲良くなれるし、かっちゃんから目の敵にされる。主人公の親友ポジ兼ライバルキャラの目の敵なんて美味しいポジションにいるなら漫画のストーリー上でも空気になることはないだろう。
まぁ、僕は個性を隠し、“無個性”ということにして生きているだけで本当に“無個性”というわけではないのだが‥‥ここについてはまた今度触れようと思う。
「爆豪! 落ち着け! 舞妓もすぐに煽るんじゃない!」
このままだと大喧嘩になりそうだということを察した先生が止めに入る。これは僕のことを気にかけて、というわけではなくただの保身だ。
一度出久くんのことをいじめているかっちゃんの取り巻きのことをぶん殴ったことがある。二対一での大喧嘩。相手が個性を使ってきても関係なくぶん殴り三人揃って二ヶ月の自宅謹慎を言い渡された。まぁ、相手のお二人はそのうちの半分程度を病院で過ごされたようですけどね! 僕は軽傷だったので悠々自適に過ごしてたけど。
対して相手は今現在無個性の相手に対して個性を使ったかっちゃんだ。どっちも引くわけがないし、喧嘩になれば無個性vs個性ありのかっちゃんでのクラスメイトを巻き込んでの大喧嘩、解雇処分になるには十分と言って良いほどの学級崩壊であろう。これは僕が我を強く出しているからこそ先生が下した判断なのである。
我が強くないと出久くんみたいにいじめられてても止めたりしないしね。教師とはそういうものだ。出久くんがいじめられているのを止めるのは大体僕だし。
「はい、すいません。内申に響きますよね〜」
「チッ‥‥!」
チラッとかっちゃんを見ながら内申に響くよね、なんて言ってあげるとかっちゃんもようやく振り上げた矛を下ろしてくれたようだ。まぁね? 取り巻きが煙草を吸ってるのを見て「内申に響くだろーが」とか言ってたかっちゃんなら内申は気になるよね〜、と思っての言葉だったので上手くいって何よりである。
「そ、それじゃあプリント配るな〜!」
重くなったクラスの雰囲気を嫌って先生が極力明るく声を上げるのを頬杖ついて見ながらあくびをこぼす。
そして、さて、ここからは大変だぞ。と自分を鼓舞するように右手を握りしめた。
× × ×
「カラオケいこーぜ」
クラスメイトの声がガヤガヤと木霊する放課後。それぞれが帰路につく最中に、僕は出久くんの席に立ち寄った。まぁ、帰り道一緒だし、大体は一緒に帰っている間柄だ。しかし、今日だけは一緒に帰ることができないので、そのことについて話をしておく必要がある。曇らせのための下準備と、曇らせ顔の確認である。
「出久くん、ごめんだけど今日一緒に帰れないんだよね‥‥」
「そうなんだ、どうかしたの?」
「今日はボランティアの日! 来てって頼まれててね」
じゃあまた明日学校でね! なんて言いながら出久くんの背中を叩いて教室を出る。そしてすぐさま僕はイヤホンを耳に装着した。
ボランティアというのはヒーロー活動のための体力作りと、もちろん曇らせのための下地作りだ。週に二回程度、さまざまな人のお手伝いをしている。コレも立派な慈善活動ってやつである。(なお動機は不純である)
まぁ、今日は本来ボランティアの日ではないのだが。いや〜、日頃の行いがいいから原作開始の日にボランティアが被らないんだよね。そこ被るかどうかは正直運ゲーだったんだけど。うまくいって何よりだ。
イヤホンから聞こえてくるのは今現在の教室の音、録音したこの音は出久くんの机の引き出しの中に入れた高性能マイクが拾ったリアルタイムの会話の音だ。会話を聞けば僕は原作の内容を脳内で補完して、今現在何が起こっているのかを想像することができる。
今日が進路指導のプリントの日ということは、おそらくこの後かっちゃんが出久くんに『自殺教唆』を行う日になる。こういう情報やデータを集めておくことで、来たる曇らせの日に彼の尊厳ごと丸ごと捻り潰すのだ。きっと最高の顔を見せてくれるだろう。
『話はまだ済んでねぇぞデク』
僕が帰るのを見計らって現れたのであろうみみっちいかっちゃんが出久くんのノートを取り上げた音が聞こえる。
そして彼は、取り巻きが出久くんの『将来のためのヒーローノート』を馬鹿にして笑うのを聞きながらそれを爆破した。
『一線級のトップヒーローは大抵、学生時代から逸話を残してる。俺はこの平凡な市立中学から初めて! 唯一の! 雄英進学者として“箔”をつけてーのさ、まー完璧主義なわけよ』
ポイっとノートを外に放り捨てながらさっきまでの怒ったような顔をにこりと歪めて、出久くんの肩に手を置く様が目に浮かぶようだ。笑顔は元来威嚇のためのものであったってこういうことじゃないと思うんだけどなぁ‥‥。
『つーわけで一応さ、雄英受けるなナードくん』
それにガチガチ震える出久くんを想像しながら僕はつい拳を握りしめてしまった。それは“いつだかの俺”にとても似ていたから。
『いやいや、流石に言い返せよ‥‥』
『言ってやんなよ、彼は可哀想に中三になってもいまだに現実が見えていないのです』
スタスタと帰っていく彼らを出久くんが震えるようにして我慢する。あぁ、最悪の気分だ。
『あ、ヒーローに就きてぇなら良い方法があるぜ? 来世は個性が宿ると信じて屋上からのワンチャンダイブ』
『来世はブスに産まれないと良いな?』
ズキリと頭が痛む、断片的に思い出されるのは前世の記憶。
本当に最悪の気分である。こいつ、けちょんけちょんに曇らせて泣かせて尊厳ぶち折ってやるからな。覚悟してろよマジで。
僕は気持ちを新たに、目的の場所へと足を進めた。
× × ×
「よし、ここだ」
僕が出久くんと一緒に帰るのをやめてまで来たのはとあるビルである。そのビルの屋上へと繋がる階段の近く‥‥具体的にいうと屋上に続く扉に用があるのだ。このビル調べてみたらほとんど廃ビルなんだよね、テナントが一応一つだけあるけど‥‥まぁ、それも今日はやってない。
この扉に少しだけ穴を開けて外の様子を観察できるようにしてある。この距離なら会話の声も聞こえることを確認済みだ。これなら会話を聞いて、外から気づかれることもない。
「もうしばらくしたらオールマイトと出久くんが飛んでくる。それを盗聴して、あとはかっちゃんがヘドロヴィランに飲み込まれるところを見て‥‥だな」
そう、ここはこの後オールマイトが飛んできて、出久くんの夢を一度叩き折るところである。そのときの出久くんの顔ものすごく曇ってたし、是非とも生で見たいのだ。
原作の一話は、ありえないほど濃密なストーリーで描かれており、かっちゃんと出久くん、主役級二人の濃厚で、味わい深い曇らせ顔が見られる最高のイベントスチルを伴っている話数なのだ。何度も何度も見返したよね、本当に至高の輝きだよ。
だからこそ、この二つは必ず目の前で観測したいのである。そのためだけにわざわざ高性能カメラとかも用意したもんね、是非是非曇っていただきたい所存。
「早く来てくれないかな‥‥こちとら分刻みの過密スケジュールなんだよ‥‥早くしてくれないと困るわけなんだけど‥‥お?」
ズン! という音が響き、衝撃でビルが揺れる。えげつないな‥‥着地だけでコレとかどうなってんだよ。そりゃ出久くんが大好きなわけだ。
視線がバレないように控えめに確認すると、オールマイトと出久君が相対しているのが見えた。出久くんは気付いてないみたいだけどオールマイトは随分と辛そうだ。
「あの!“個性”がなくても、ヒーローはできますか!?」
‥‥うん、よく見える。出久くんの魂からの言葉もバッチリ聞こえるわ。位置取りが完璧すぎて自分に花丸あげたいね。というか、このビルってドンピシャで当てられたのも凄すぎるし、あ〜、10年間を使ってシミュレートしててよかったぁ。
「“個性”のない人間でも、あなたみたいになれますか?」
いやぁ〜、初々しいなぁ‥‥。まっすぐで、瑞々しい。光に焦がれていて芯が通っている。主人公らしい主人公だよね。
オールマイトからの答えを待っている出久くんは、続けて言葉を紡ぐ。
「“個性”がないせいで‥‥そのせいだけじゃないのはわかってるけど、ずっと馬鹿にされてきて‥‥だからかわかんないけど人を助ける人ってめちゃくちゃかっこいいって思うんです‥‥」
目線は下、オールマイトの方を見ていない。まぁ、今見てる僕も信じられないけどね。オールマイトから煙が出ているのを見てようやくオールマイトが本当に『マッスルフォーム』を3時間しか維持できないってことを理解したもん。原作で知ってるはずなんだけど‥‥
いや、この世界で生きている10年の間で、オールマイトのことを聞かない日なんてなかった。出久くんが横でずっと話していたせいかもしれないけど‥‥、それを差し引いてもニュースで、動画で、さまざまな媒体を通して彼の名前を目にするのは日常茶飯事だったのだ。
まるでアニメやOVA、外伝なんかで強さが盛られるかのように、この世界で生きている間にオールマイトの強さのイメージがほんと、それはもう盛られるのだ。彼の映像なんて探せば無数に出てくるし、なんなら良かったものは出久くんが見せてくれる。そこで見るたびに引くもんね、なんだこいつって。こんなのどうやって倒すんだよって。
だから弱っているなんて言葉を信じられなかったのだ。今、ようやく理解したけどね。
「ウソだー!!!!」
「‥‥ふふ」
出久くんがオールマイトの『トゥルーフォーム』を見て衝撃の声を上げるのを見てつい笑ってしまう。どうしよう、あの子面白すぎる‥‥。僕の幼馴染ってもしかして芸人だった? まぁ、オールマイトの激似顔芸とかできるし‥‥、芸人って可能性ももしかしてある?
「っと、ダメダメ、もう少しで出久くんの顔が曇るんだから、しっかりと見ないと」
記念すべき最初の曇り顔である。馬鹿なことを考えてないで、しっかり見ておかないと無作法というものであろう。というか出久くんの原作以前の曇り顔ならチマチマ見てるんだけどね。僕がたまに「個性があったらなぁ‥‥」ってボソッと呟くだけでもめちゃくちゃ苦い顔してくれるもん。かっちゃんよりお手頃だし遊びやすくて本当に助かるよね。出久くんの困り顔を摂取することで今までの人生でヤケを起こさずに生きてこれたんだ。
「プロはいつだって命懸けだよ、“個性”がなくても成り立つとは、とてもじゃないけど口にできないな」
かぁ〜、痺れる良いセリフだね。無個性でも頑張っている少年に対して言ってるってのが最高にポイント高いよ。しかもこの後警察官になれば? 程度のアフターフォローで帰っていくんだから大人の突き放し方としては最高にクールだね。まぁ、そういう不器用なところは尊敬できないけどさ。
「‥‥オールマイトは降りていったな」
オールマイトが階段を降りていくのを掃除用ロッカー(中身は全て取り出して、今日のために掃除済み)に隠れて、やり過ごす。今ナイフ持って襲い掛かったらオールマイトを簡単に殺せて平和の象徴が崩れたって思うと『トゥルーフォーム』でこんなところを一人で歩くのって本当に危険だよね。
「さて‥‥お望みの出久くんの‥‥」
ガチャリとドアが開いて、出てきた出久くんの顔に、僕は息を呑んだ。
曇った目、泣き腫らしたのかと疑うほど赤い瞳に汗の滲んだ頬、暗い顔色。
憧れのヒーローに一つだけの頼みの綱を断ち切られ、芯を叩き折られ、絶望した、少年の顔。
あぁ、暗い、暗い。絶望の表情だ。
うわ、なにアレ! なにアレ!? 絶望してるじゃん! 泣きそうになってるじゃん! 可愛い! いや、ズビッて鼻啜った! 憧れの人に夢を叩き折られたらそうなるよね! 憧れの人に、自分のことをいじめてくるような相手と同じ言葉を言われたらどうしようもないよね! わかる! わかるよ! 今まで見たどの顔よりも良い! そんな顔! そんな顔! 僕と一緒に過ごした10年間で一度だって見せたことないじゃんか!!
最ッッッッッッッッ高!!!!!
「‥‥‥コレはかっちゃんの方も期待できるね」
僕は出久くんが階段を降りていくのを確認してからロッカーの中で一人でにそう呟いた。涎を袖で拭う。さっきから爆発音が連続して響いてる。かっちゃんがヘドロヴィランに襲われて、もがいているんだろう。場所は商店街だっけか‥‥? 目的地まで出久くんよりも直線のルートで進めば先に着けるだろう。
「じゃ、行くか」
ロッカーのドアを開けて僕は商店街へと足を向けた。
× × ×
「お、やってるやってる」
ひょいひょいっと人混みをかき分けて最前列を確保する。ヒーローが押し留めている野次馬のラインも段々と前へ前へと進んでいるおかげでヴィランと、そのヴィランに寄生された幼馴染の顔がよく見え‥‥。
「‥‥顔見えないな」
悶えてる顔最高に可愛いんだろうな、限界が近いと、顔が絶望に染まっていってるだろうし‥‥まぁ、原作の中でも特に面倒な相手だろうからな、このヴィラン。僕は勝てる気がしないし‥‥というか個性と相性が悪すぎる。倒せるといえば倒せるけど、倒すときは殺すときと同義なんだよね‥‥
じっと彼を見ていると、彼がこちらを振り返った。
そこに映るのは焦燥。焦りと共に浮かび上がってくる、絶望。さっきの出久くんの顔に近い、だけど種類の違う闇。もうここから助からないんじゃないかとすら感じさせる潤んだ瞳。ヒーロー志望のいじめっ子が見せる、暗すぎる表情。
「‥‥ここに人がいなかったら悶えてたね、たまんないよ、かっちゃん」
恐ろしいぜかっちゃん。僕が定期的に出久くんから曇り顔を摂取してなかったら多分今の一発で鼻血出して倒れてた。それにさっき出久くんの絶望顔を見たからこそ、耐えられてるだけでたぶん見てなかったらここで僕が用意したシナリオ全部投げ捨てて、走り出してると思うね。
それほどまでに最高の曇り顔だったわ。
「あ〜、良かった良かった」
この後は人混みに乗じて次の目的地にまで移動しないといけない。この後の展開は出久くんがかっちゃんを助けようと走り出して、その後オールマイトが出久くんの姿に感化されて『マッスルフォーム』を無理して顕現させてカッコよく決める。上昇気流で雨が降ってくる、って感じだったはず。
今日は身軽に動きたかったから傘を持ってきてないし、この後の既定路線ではそこまで面白いものが見れるわけじゃない。オールマイトがどうしようもないほど強いのも、出久くんの性根がどうしようもなくヒーローなのも、僕が一番理解している。
それなら、この後の予定の方が大事だ。
「原作的に、それから‥‥コレからの布石的に! 次を逃すわけにはいかないからね」
次、というのはオールマイトが出久くんに君はヒーローになれると宣言しにいく、ヒロアカが始まった名シーンだ。屈指の名シーンだし、あそこは原作厨としては抑えておきたいところだよね‥‥それに、あそこで少しだけ布石を打っておきたい。
僕がいつも原作のために節々で行っている布石や、伏線はたった一度の完全曇らせのためのシナリオだ。そのためだけにせっせと下地を作って、何百にも上るストーリーを書き上げて、どれになってもいいように準備している。僕の個性がバレたとき、僕がヴィランに襲われたとき、僕のこの悪癖とも呼べる曇らせ顔好きがバレたとき‥‥どんなことがあってもしっかりと対処できるように、メインプランに干渉しないようにガッツリと準備しているのだ。
そのメインプランの布石、小さな、だけど歪に原作を歪めるための小石を。今日は置かないといけないのだ。
きっと、一年と半年後に、この爆弾が起爆することを願って。
向かったのは、どこにでもある通路、通学路だ。どこにだってある、よっぽどの田舎なんかじゃないなら歩いてれば遭遇するような住宅街にあるただの道路。スクールエリア、もう少し早い時間なら登下校中の生徒を見られたのかもしれないけど‥‥時間は夕方、そろそろ日も暮れるだろう。
この場所は、原作でも僕が好きなシーン。始まりの名シーンの、その幕開け。
ヒロアカという作品を象徴する、一話の締め括り。
「君はヒーローになれる」
‥‥‥あぁ、いいシーンだ。ヒロアカを語る上で欠かせない、最高のスタート。
このシーンを見たからには、仕方がない。神作が始まったんだと自覚してしまう。原作が始まってしまったのだということを否が応でも理解させられてしまう。
そうなったら、もう仕方ない。
「そう、始まっちゃったんだ」
始まってしまったからには壊さないといけない。進んで、踏み潰して、ねじ伏せて、僕の目的のために、進まないといけない。
僕の性癖、みんなの曇り顔を見るために!
それじゃあ‥‥まずは、僕のメインプランを進めるとしよう。差し当たって‥‥
「‥‥なんだ? お前。どうやってここを探り当てた?」
僕は体の至る所に腕をつけた白髪の男と、その男に向かい合うようにしてグラスを拭く黒いモヤのかかった男を見ながら不敵に笑って見せた。
ヴィラン連合、死柄木弔と黒霧。その二人を見据えてできるだけこちらが有利であることを告げるように、笑いかけてあげる。こちらを不気味だと思うように、交渉の場に着かせたい後ろにいるラスボスさんを呼び出すために、できるだけ得体の知れない相手であることを見せつけるのだ。
「こんにちは、ヴィランになりにきました」
さぁ、原作を思いっきり歪めにいこう。
今日、明日で出来る限り更新していきます。評価励みになってます!
ドシドシお願いします!
映画編を入れるかどうかのアンケートをさせてください!
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入れたのが見たい!
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本編だけ追いかけるのでOK!
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アンケート結果が多い方で!