個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア! 作:波間こうど
今まででぶっちぎりの文字数。それでいてパッパッと進めたかったので少し急ぎ足。ごめんなさい。でも内容は楽しめるものになっていると思います。
あ、今回は良いもの書けたと思います。曇り顔の皆さんは必見です。まぁ、私の作品を読んでくださってる人は曇り好きか予備軍の方だと思いますが。
それではどうぞ!
闇よりも深い暗闇の中、数個の電球が妖しく光るだけのバーの一室がある。そこには黒いモヤに顔を覆われた男と、身体中に手を付けた男がいた。如何にもヴィランであるということを見せびらかすような彼らは、ハロウィン以外で外に出ては行けないような見た目で話し合う。
「譲葉の作戦はこうだ」
死柄木弔はまるで当たり前のことであるかのように笑うと指で挟んでいた地図を『崩壊』の個性によってバラバラにした。もちろん、地図の道筋は大きな道路から小さな路地裏まで完璧に頭に叩き込んである。
「先輩を街に放つ。事実上は同盟だが、実際のところは不干渉条約みたいなものだから、俺らは先輩の目的を邪魔しない代わりにあの知名度を利用する」
邪悪なヴィランは不敵に笑う。先程までここにいたヒーロー殺しステイン。彼のことを捨て駒として扱い、今自分たちに一番足りていない駒を手に入れる。
それは、盤上で動く駒を手玉に取っている舞妓譲葉という死柄木弔からして最強の棋士の手が理解できることによる優越感から来るものか、それとも嫌いな先輩を捨て駒にできることの喜びか、あるいはその両方か、それは彼にしかわからない。
「先生、今すぐ動かせる脳無はどれだけいる?」
『‥‥調整が済んでいるのは3体だね』
「6体貸せよ。調整は済んでるんだろ?」
画面の奥にいる人物に目を向ける。その顔はまるで恩師であるAFOのことを疑っているような瞳だ。
「譲葉が言ってたぜ? 今の先生なら6体は調整してるってよ」
『‥‥全く、どこから情報を抜いてくるんだか』
やれやれと言うようにAFOはため息をついた。言うまでもなく彼の言う『限定的な未来予知』というものであろう。ここまで情報が抜かれているのならそれがあるということは認めざるを得ない。6体の脳無の調整が終わっていることはドクターとAFOしか知らないことだからだ。
『それで? 脳無を貸し出すのは構わないけど、どう使うつもりだい?』
「先輩が暴れている保須市に脳無を放つ。好きに暴れさせて‥‥まぁ、ヒーローを数人狩る。使い捨てになるが、それでもより良い脳無を作るための素材ぐらいはあとで提供するよ」
そして、まるで新しいおもちゃをもらった子供のように。
親友と悪戯を思いついた少年のように彼は嗤う。
「混乱に乗じて俺らが名乗りをあげる」
それは、意図的に画策された原作からの逸脱。
「俺たちの名前を世の中に知らしめてやるのさ」
トロッコのレールを変えるように用意された、レバー。それはまるでそうであることが当たり前であるかのようにガコンと音を立てて引かれた。
× × ×
「保須って来たことある?」
「‥‥いや、初めてだ」
「そっかそっか‥‥ところでなんでそんなに身を離して座ってるの?」
電車の中で轟くんに向かって尋ねてみる。すると轟くんは少し目を逸らしながらなんでもねぇと口にした。いや、なんでもないは無理がない? こんな狭い車内で壁に引っ付いてるじゃん‥‥景色が見たい? そう? まぁ、電車の流れる景色って見ててちょっと楽しいけども。
「僕も初めてなんだけど‥‥ここには天哉がいたっけ?」
「‥‥飯田」
車窓から外を憂いを帯びた視線で見つめる彼はまさにイケメンと形容しても問題ないような顔つきをしていた。いや、カッコ良すぎん? ゆ、歪ませたいなぁ‥‥あの顔‥‥
「ついでだし天哉の顔見れたらいいね。思い詰めた顔してたし」
僕がそう言うとそのこと自体には賛成なのか轟くんが短くもさっきまでよりは力強くあぁ、と返した。
どうでもいいかもしれないけど僕的には飯田くんの曇り顔を見るのは急務だ。エンデヴァー事務所ならもう少しお手軽に曇り顔が見られると思っていたんだけどそう簡単に見れなかったからね‥‥あんまりエンデヴァーが僕たちと絡んでくれないし。というか遠巻きに成長を眺めようとしている節すらある。まだその段階に辿り着くには早いんじゃないの?
「あ、焦凍さ。食堂でよく蕎麦ばっかり食べてるの見かけるけど蕎麦が好きなの?」
「あぁ、冷たいのが好きだ」
「めっちゃざる蕎麦啜ってんもんね」
轟くんを食堂で見かけると大抵ざる蕎麦を一人で啜ってる。この時期は誰かと一緒にご飯を食べるということをしないから一人で食堂の窓際で蕎麦を食べてる轟くんはそれはもう絵になるんだよね、そろそろ自分の顔の良さを自覚しろよ‥‥なんだこいつ。たまに普通科の生徒が顔赤らめて見てるぞ。
「‥‥おい、そろそろ着くぞ。準備しておけ」
「わかりました!」
「あぁ‥‥」
エンデヴァーに声をかけられる。まぁ、電車の中だからってずっとペラペラ話してたもんね。僕からすれば大事な息子さんの普段の生活をそれとなく伝えてあげてたんだけどわかってんのかな‥‥? エンデヴァーさんって口下手すぎて息子と話せないタイプだもんね。だから家庭が上手くいかないんだよ。
僕的にはそっちの方が美味しいのでせいぜい死ぬまで口下手でいてね♡
電車で移動して一時間。僕たちはエンデヴァー事務所から保須市にやってきていた。どうやらしばらくは活動場所を保須市に移して動くらしい。原作でも『No.2足り得る勘と考えはすごかった』とかなんとか轟くんが言ってたかな? モノローグだっけ? まぁ、どっちにしても轟くんがエンデヴァーを認めたシーンとして印象的な場面だ、その日のうちに遭遇するとか流石の洞察力だよね。利用させてもらうけど。
ここまで計画通りにコトが運ぶとちょっと面白いな‥‥確か今日が決行日のはずなんだよね。弔くんが上手く話を進められていれば、多分そろそろ‥‥なんて考えていると、それはいきなり目の前に現れた。
「おい、焦凍あれって‥‥!」
「脳無‥‥!」
白い体がよく目立つ脳が剥き出しになった個体。それが今まさに一般人に手を出そうとしていたところだった。少し離れた場所には小柄な黄色いマントを身につけた老人が飛んでいるのが見える。おそらく彼がグラントリノだろう。足から空気を噴射してるし、まず間違いない。無個性の人を抱え、黒霧さんを捕獲しながらマキアから逃げられるような化け物である。絶対敵に回したくないね。
「エンデヴァー! 近くに“呼び”ます! 対処よろしくお願いします!」
エンデヴァーの前にまで移動してから、個性を発動して脳無と僕の場所を入れ替えた。エンデヴァーは僕の言葉を聞いてすぐに対応し、白い脳無が簡単に焼かれる。その姿に観衆が沸いた。これが虚仮威しの低温だとか言うから恐れ入るぜ。
「なんで貴方がここに‥‥!」
「ヒーローだからさ」
周りの野次馬に対してそう返したエンデヴァーは轟くんの父親として描かれた今までとは違い明らかにヒーローらしい姿をしていた。うん、僕たちをボッコボコにしてくれた姿から当たり前に見当がつく話ではあったけど、この人めちゃくちゃ強いな? なんで僕が転移させた一瞬で対応できんだよ。当たり前のように頭掴んで燃やしたんだけど? 怖すぎる‥‥。
「エンデヴァー! 保須市内でまだ混乱が起こってる‥‥! ヴィランは複数いると思われます!」
「よし! 焦凍! 舞妓! このまま俺についてこい!」
エンデヴァーが意気揚々と声を上げる。うん、まぁ、そうするべきなんだろうね。普通なら、まぁ‥‥そうはいかないんだけど。
テロン、と携帯が鳴った。轟くんと二人揃って携帯を確認するとクラスラインに対して送られたのはただの位置情報。
送ってきたのは出久くんだ。
「これ、多分応援要請だな、裏路地‥‥」
「‥‥ヒーロー殺し!」
僕たちは速攻で場所を確認すると二人揃って駆け出して、エンデヴァーの横を通過した。後ろを振り向くとエンデヴァーの驚いた顔が見える。
「エンデヴァー! ヒーロー殺しです! 位置情報は携帯の方に送らせてもらいました! 先に応援に向かいます! 脳無ならエンデヴァーだけで十分だ!! 対処し次第応援お願いします!!」
「友だちが応戦中だ、お前ならすぐに片付けれんだろ」
「な‥‥っ!」
さて、ここから走っていくのには少し遠い距離だなぁ‥‥しかし! 僕は飯田くんの曇り顔が見たいからね! ちょっと見たことないくらいの本気で走ってやるよ!!
「焦凍、急ごう‥‥!」
「あぁ‥‥!」
× × ×
轟くんと二人で足を回す。数分も走れば目の前に目的の路地が見えてきた‥‥ってなんか飯田くんぶち殺されそうなんだけど!? 原作より痛めつけられてない!? 死んじゃうってあの出血量!! 流石に死ぬのは見過ごせないよ!! 生きて曇ってもらわないと困る!!
「焦凍!!」
僕が声をかけるよりも早く轟くんの炎がステイン先輩に迫った。それを華麗に避けた先輩はそのままこちらにその瞳をギロリと向ける。なんで不意打ちの炎避けれんの?
「ハァ‥‥今日はよく邪魔が入る‥‥」
こっわ、目が爬虫類チックだな‥‥なに? 化け物? 異形型の個性じゃないのになんでそんなに怖いの?
あ、今の発言差別っぽいかな‥‥厳しいんだよね、差別差別ってさ、息が詰まるよ、本当に。無個性なだけで差別してるくせに個性持ってるやつへの差別を嗜めるとか自分勝手過ぎて反吐が出るぜ。
「君たちも‥‥なんでここに‥‥」
「轟くん! ゆずくん!」
「出久くんさぁ‥‥ちゃんとわかるようにしてよね。焦凍と僕だからなんとかわかったけど。位置情報だけ送っても普通はわからないからね?」
僕が不満を言うとその横で轟くんがステイン先輩に対して牽制の炎、そして出久くんたちを回収する氷を一気に放った。さも当然のように個性同時使用する感じ嫌いじゃないよ、天才くんめ。
「まぁ、てなわけでさ」
「こいつらは殺させねぇぞ、ヒーロー殺し」
僕と轟くんが並んでステイン先輩と向き合う。今この瞬間めちゃくちゃ主人公じゃん。僕と轟くんが一位だぜ‥‥ここで『青のすみか』流して欲しいもん。青が澄んでるよ。問題児二人、ただし最強。
問題児なのはかっちゃんと出久くんだけどさ。
「轟くん! ゆずくん! 多分血を経口摂取することで体の自由を奪う個性だ! 僕たちは全員それでやられた!」
「なるほど、それで刃物か俺なら距離を保ったまま‥‥!」
轟くんの顔の横を刃物が通り過ぎる。え、マジ? 今の飛んでくるってわかってても見えなかったんだけど。どんなスピードで投擲してんだよ。そしてナイフに気を取られている隙に一瞬で距離を詰めると刀を振り上げる。
「いい友人をもったじゃないか、インゲニウム」
「でしょ? ついでに言うなら良いヒーローなんだよね!」
轟くんに焦点を当ててナイフを振り下ろした先輩に蹴りをお見舞いする。しかし、それについても考慮済みだったのか当たり前のようにガードした上で僕たちから距離を取るついでに。僕の足まで切り付けられてしまった。いや、強すぎるって。義足じゃなかったら大怪我だぜ?
「厄介そうな個性の焦凍から始末しよーとしたんだろーけど。僕を忘れてもらったら困るな!」
手を叩き、そこで個性を発動。足元の瓦礫と僕の位置を入れ替える。瞬き程度の刹那、動揺したステイン先輩のことを殴り付ける。その拳は、面白いくらいに先輩の頬にクリーンヒットした。なんかめっちゃ硬いんだけど、顔に鉄でも仕込んでんのか?
「焦凍! 氷!」
「あぁ!」
怯んだ先輩を拘束するように氷を出してもらう。しかし、怯んだのは一瞬で、その氷も当たり前のように切断された。なんでぶん殴られた後にすぐさま動けんだよ。なんなの? コイツ。
「ハァ‥‥いい動きだ、強いな」
「お褒めに与りどーも。友達のためにもお縄について欲しいんですけど‥‥捕まってくれますか?」
「断る」
「ですよねッ」
刃物が飛んでくる、それを察知して個性を発動した。今さっきまで話してたじゃん。なんですぐに攻撃してくるかな? 息をするように殺人術を行使するな。
「手を叩くと位置を入れ替えられるのか‥‥ハァ、厄介だ」
「血を舐めたら自由を奪える貴方も相当厄介ですけど?」
僕のこともしっかりと敵として認識してくれたであろう先輩が次は刃物じゃなく小石を僕に向かって蹴り飛ばした、この程度個性を使うまでもない。身を翻して避けようとするとどこに移動するのかがわかっていたかのようにステイン先輩が刀を振った。思わず個性を使うも移動した先には刃物が飛んできている。すかさずガードするも腕に突き刺さってしまった。おぉ、右の前腕貫通した。めっちゃ痛い!
「‥‥‥ッ!」
「個性を発動して移動した先も予測すればいい、ハァ、いけるな」
「バケモンかよ‥‥!」
こりゃ原作で轟くんに化け物って認定されるだけのことはあるな‥‥おかしいだろ反応速度とか色々さぁ‥‥人間やめてないとできないって。下手したらエンデヴァーよりも怖いんだけど‥‥対人一対一なら多分大体のやつより強いぞ、つーかこの時点の弔くんを難なく処理しようとすることができる時点で戦闘技術は頭ひとつ抜けてる。もしここで僕と一対一なら奥の手を使ってたよ。強すぎる。
「舞妓!」
轟くんが氷を出して僕とステイン先輩の間を遮ってくれる。まぁ、普通は氷なんて切れないからね、この対処でいいんだけど‥‥
「自分より素早い者相手に視界を閉じるのは愚策だぞ」
そんな氷もあっという間に切り裂かれてしまった。なんで氷が切り裂けるんだよコイツマジでどうなってんの? 分厚さ下手なタンスよりあるんだぞ。個性じゃないからただの筋力で出してるんだろ? イカれてやがるよ‥‥ホントにさ!
「お前たちも、良い‥‥!」
上に飛び上がったステイン先輩は突き刺すように刀を振り下ろした。それに轟くんが反応するよりも先に個性の効果が切れた出久くんが飛び出す。確か血液型Oがダメで、Bが長いんだっけ? なら僕はOだし舐められても最低限の時間で済むな。
「なんか動けるようになった!」
「個性の限界? ‥‥‥血液型とかかな?」
「ハァ‥‥正解だ」
ここで個性の弱点を開示したのは単にこの人数相手に勝てると思ってるからなんでしょ? ヤバすぎだろ、なんなんだコイツ‥‥ホント、曇らないこと知らなければ絶対にその顔歪ませたくなってたのに‥‥でもお前が歪むのはオールマイトが死んだ時くらいなものだろ? 確実にそこで曇らせてあげるからね♡
「近接はできるだけ避けながらヒーローを待とうか」
「僕が引きつけて轟くんとゆずくんで迎撃かな」
「そだな、危ない橋だがそれしかなさそうだ」
3人で揃って先輩を睨みつける。いやね? 本当なら僕がいたら楽に勝てると思ってたんですよ? ただ、こいつ強すぎるわ。なんか想像の10倍くらい早いんだけど? どうなってんだよ。
「一対三か、甘くはないな」
「普通は諦めるだろ!」
ステイン先輩が踏み込む、それに出久くんが合わせるように飛び出したが、ものの数秒で足を切られ血を舐められてしまった。おい主人公、そんなので良いわけ? 当たり前のように轟くんが主人公みたいじゃん。
「ごめん轟くん! ゆずくん!」
「カバーは任せて!」
轟くんの出した氷と場所を入れ替える。蹴りをお見舞いしてやると先輩はそれを刀の腹でガードし、足につけた棘で僕の腕を蹴り飛ばした。
「イ゛ッ!」
「ハァ、足手纏いがいる分、お前の動きがチグハグだ」
先輩は散った僕の血を舐め取りながらそう言う。あ、そのセリフどっかで使えそう。なんかアドリブ的に言ってくれてありがたいセリフ出てきたな‥‥というか僕が本来の実力を発揮できてないみたいなニュアンスで話してくれるの嬉しいかも。これで僕の株が下がらなくて済むぜ。
「なりてぇもん! ちゃんと見ろ!!」
カッコ悪くぶっ倒れる僕の後ろで轟くんが声を荒げて叫んだ。かっこいい〜! いいね! 大人気キャラって感じ! イカしてるぜ! その顔確実に曇らせてやるから覚悟しろよ!!
「レシプロバースト!!」
轟くんに励まされたすぐあと、先輩の個性から解放された飯田くんがぶった斬られそうな轟くんを助けるように先輩の刀を蹴り折った。なにそれ、化け物脚力じゃん。そんなので蹴られたら体育祭の時僕死んでたのでは? 受けてないから助かったけどさ。
「みんな‥‥ありがとう。だけど、これは俺の戦いだ。これ以上みんなに血を流させるわけにはいかない‥‥俺が折れるとインゲニウムが死んでしまう」
「論外」
轟くんに押されるようにして飯田くんとステイン先輩の戦闘が始まる。二人ともスピードにステ振りしてるから早い‥‥というか飯田くんについていける先輩はガチでなんなの?
しかし、高速戦闘なんてものは長くは続かない。必ずどこかで限界が来る。今回、限界が来たのは‥‥先輩の方だ。飯田くんの蹴りが腹に、出久くんの拳が顔に突き刺さり、吹き飛ばされる。すぐさま反撃に移ろうとしたものの、轟くんに顔を焼かれてしまいさらに追い討ちで飯田くんに蹴り飛ばされてしまっては流石の先輩も気絶せざるを得なかった。
まぁ、三対一とか四対一で戦ってるんだから当たり前ではあるんだけどね。もしガチ戦闘で僕が出久くん、かっちゃん、轟くん、常闇くん辺りとやり合ったら流石に‥‥いや、勝てるか。というかA組全員対僕でもズルすれば勝てる‥‥というか勝てないとメインプランに支障出るわ。
「おい! まだ気を抜くな! あいつは‥‥!」
「落ち着きなよ焦凍、もう気絶してる」
動くようになった体をゆっくりと動かして先輩を見据える。いや、強かったな‥‥飯田くん→出久くん→僕と轟くん→僕と轟くんと出久くん→轟くんと飯田くん→飯田くんと轟くんと出久くんの連戦でしょ? こんなのトップ層以外なら全員に勝てるよ。この連戦に勝てるのって多分オールマイトとエンデヴァー‥‥ホークスもイケるか。というかTOP5に入れるようなヒーローならいけそう? ヴィランならラスボス先生とオバホの若頭辺りならいけそうかな? 少なくとも今時点の弔くんじゃ無理かな。
「悪かった‥‥プロの俺が完全に足手纏いだった」
「ヒーロー殺しの個性で一対一だと仕方ないと思います‥‥強すぎる‥‥」
「というかステインが初めから本気なら焦凍と僕が到着する前にみんな死んでますよ。なんなんですかね、コイツ。本気で強いわ」
ステイン先輩を縛り、路地裏から抜け出す。うーん、原作でも思ったけどなんで小刀を手首に隠してるのに誰も気づかなかったんだろ‥‥今回は僕が縛ってたから見逃してあげたけど普通なら気づかない? こんなところに武器隠してたらさぁ‥‥これもヒロアカ世界ならではのガバなんだろうか‥‥?
「おい座ってろって言っただろ!」
「グラントリノ!」
路地裏を出てすぐ、応援に来てくれていたヒーロー達が現着する。いや、遅いけどね? ヒーローは遅れてやってくるってか! くぅ〜! 痺れるぜ! だから大事なもん守れねぇんだよ!
「緑谷くん、轟くん、舞妓くん。すまなかった‥‥何も見えなくなってしまっていた‥‥!」
飯田くんが僕たちに向かって頭を下げた。いや、おい待てよ。謝りたいなら顔を見せるのが礼儀だろ。つーか僕に対してだけは顔を見せて謝罪しろ、悪かったとかそういう言葉は割とどうでも良いから。曇った顔を見せろって言ってんの!!
「僕こそごめん‥‥そんなに思い悩んでるって気づかなかった‥‥」
「しっかりしてくれよ委員長だろ」
「ま、死ななかったんだし、儲けもんだよ!」
ヘラヘラと僕が笑って締めてあげる。こういう謝ってる時って大体笑われながら許される方がクるよね。わかるわかる。だからしてあげてるんだけどさ♡ 曇った顔可愛いね♡ 絶対にやめてやらねぇ♡
「伏せろ!」
僕たちが油断し切ったタイミングでグラントリノが声を荒げるもその時にはもう既に遅く、羽を持つ個性の脳無に出久くんが掴まれていた。‥‥あー、あの羽見覚えあるなぁ‥‥最後に会ったのいつだっけ翼くん。うん、脳無になってるけどまた会えたね。でもその掴んでる出久くんは僕のだからさ。
「返せよ」
手を叩く。個性で僕と出久くんの位置を入れ替えた。おぉ、思ったよりも高い。あと怖い! 僕高いところあんまり得意じゃないんだけど! 僕を掴んでる足に僕の足を絡めて関節をキメる。このあと先輩がコイツぶち殺すのはわかってるけど‥‥少しでも高度落としてくれた方が僕の怪我が少なくて済むからね。
関節をキメられることによって、少し体がガクンと揺らいだその瞬間。次は僕の影響ではなく脳無の体が固まったのがわかった。少し固まったかと思えばそのまま落ちていく。
「うっそでしょ!」
そうやって落ちる僕は落ちる寸前で先輩に小脇に抱えられた。えぇ‥‥なんでそんなにズタボロなのに現役のヒーローの皆さんよりも動けてるんですかねぇ‥‥化け物か? つーか肺に折れた肋骨が刺さってる重傷なんだろ、なんで空飛んでる敵ぶち殺してその上でヒーローまで助けるなんて離れ技できるんだよ。ヒーローやってれば絶対にランキング載れただろ、コイツ。
「まだ動けんのかよ‥‥!」
急いで先輩の手から離れてみんなの方へ飛び込む。と言っても先輩とヒーローのみんなの間に移動したくらいのものだけど、僕的には今からの作戦的にこの場所がベストポジションなのであえてみんなの方に寄ることはしないでおく。
「おい! こっちに一匹逃げたはずだが!」
ズンズンというようにエンデヴァーが現着する。いいね、これで役者は揃った。エンデヴァーというNo.2。偽物が到着した瞬間。涎を垂らし、血を撒き散らしていた先輩は怒りの形相を隠そうともせず口を開いた。
「エンデヴァー‥‥! 贋作‥‥!」
「ヒーロー殺し‥‥!」
エンデヴァーが炎を撃つよりも先に動いたのは先輩だった。といってもその動きはゆるりとしたもので、地面を踏み締めるとそのまま数歩程度前に進んだだけだ。それでも、あり得ないほどの威圧感があった。誰もが息を呑んでしまうようなプレッシャー。おぉ‥‥原作でもゾワっとしたけどそれ生身で感じたらこうなるのか‥‥やっぱりあんたこんなところで出て良い小ボスじゃないんじゃないの? 敵連合なら幹部として迎え入れてやるぜ? まぁ、弔くんと死ぬほど喧嘩しそうだけどさ。
「誰かが血に染まらねば‥‥! 英雄を取り戻さなければ‥‥! 来てみろ‥‥! 偽物ども‥‥!」
その瞬間、その光景を見たことない誰もが気押された。No.2ヒーローであるエンデヴァーも、ラスボス先生を知るグラントリノも、さっきまでステイン先輩と戦っていた出久くん達も、ただ、その場で僕だけが、原作でそれを見たことがある僕だけが、一歩前に踏み出した。
「いいぜ、とことんやってやんよ‥‥! なぁ、ヴィラン‥‥!」
「ハァ‥‥‥! 贋作‥‥!」
僕が動いたのには理由がある。一つ目、これで僕以外のヒーロー側のセリフをカットすること。明らかに気押されて異質な空気に飲まれている皆さんよりも目立てるからね。
二つ目、この流れでヒーローらしさを演出することで社会からの僕の印象をプラスのものにしておくこと、これで英雄要素が強まったでしょ?
そして三つ目。ここから始まる僕プレゼンツの最高の演劇の役者を絞るためだ。僕とステイン先輩が向き合ったその瞬間。ズズズと、見慣れた黒いモヤがステイン先輩の後ろに現れた。
さぁ、演劇を始めよう。USJのように身内ノリ程度のものじゃなくて。日本規模で騙すための、とびきりのショーだ。
× × ×
ヒーロー殺しが他を威圧したそのすぐ後、ヒーロー殺しの後ろに黒いモヤが出現した。そこから顔を出したのは身体中に腕を付けた男。この日の話題全てを掻っ攫っていくことになるヴィラン、死柄木弔である。
「邪魔だぜ先輩。突っ立ってるとよ」
腕でステインを押し飛ばすとステインはそのまま壁にぶつけられてズルズルと落ちていく。元から肺に折れた肋骨が刺さっている彼は、まともに動けるような状況じゃないのだ。死柄木の行動に反応することもできず、そのまま倒れてしまう。
どこかからカメラが向けられていることを理解しているのか、死柄木は笑うことを欠かさない、サイコパス味のある姿を見せつけながら登場した。腕をだらんと垂らしながら周りを見渡すと舞妓を見つけ嬉しそうに笑う。
「えー、全国の皆さん。こんにちは‥‥それから久しぶりだなぁ? ヒーロー」
「‥‥‥」
「おいおい無視かよ、それとも忘れたのか? その首と右足は俺が貰ったんだぜ? なぁ? ユズ」
「思い出したくなかっただけだよ、死柄木」
ジロリと舞妓が死柄木を睨む。それに死柄木は飄々とした笑顔で返した。
「今日は喧嘩しにきたわけじゃないんだ。大目に見てくれよ」
「その言葉信じると思う?」
「こわ」
ヘラヘラと笑った死柄木は舞妓に待ったを掛けるように手で制した。それを見て舞妓は腰を低く落とし戦闘態勢に入る。
「待てって、今日俺がしに来たのは“宣伝”だ」
「宣伝?」
「そうそう、声には力が宿るものだろ?」
「実力行使が常のヴィランが偉そうに‥‥どの面下げて言ってるわけ?」
「酷いなぁ‥‥まぁ、今にわかるよ。どっちが正しいかさ」
そう言って死柄木がだらんと垂らしていた腕を大袈裟に広げて、声を上げた。これが、後に語られるヴィラン本格化時代の幕開けとなる、演説である。
「社会に抑圧されてる屑ども! 周りに虐げられてる弱者ども! 生きるのが辛いなんてほざいてるゴミカス共! 生きてて楽しいか!? 底辺ども!!」
台本を読み上げているとは思えないほど劇的に、それでいて、全ての人に感動を、不快感を、与える、見た人に働きかける特殊な声色で、声を上げる。喜色が混じり、神経を逆撫でするその声は、日本を震撼させるのには十分な悪意を伴っていた。
「俺たちはこれから世界をひっくり返す! 勝ち馬に乗りたい馬鹿ども! 世界を変えたいゴミども! 何かを成したいカスども! 全員ここまで来れるもんなら来てみろ!! 俺たちは逃げ隠れしてるぜ!? 見つけてみろ!! 全部ぶち壊してやる!!」
両手を広げた彼はまるで自由だと言わんばかりに声を張り上げた。
「ここがお前たちの居場所だ!! おい! 燻ってんだろ!? まだ足りないだろ!? お前たちに言ってんだよ!! なぁ! この世界は窮屈だろ!!」
手を広げて、癇癪を起こすように、しかして、まるで人を扇動するように‥‥
その圧倒的な王の素質を見せつける。
「来いよ! ここがお前らの敵連合だ!!」
それは、弱者への咆哮。激励。虐げられてきた者たちの心を動かす、救いの手であり、一般人からすればヴィランである死柄木弔の異質さを強く印象付けることになるまさに誰の記憶にも残る完璧なプレゼンだった。
「待ってるぜ? 屑ども」
黒いモヤに包まれる死柄木に向かって舞妓が歩を進めた。ジロリと睨みながら口を開く。
「逃すと思う?」
「やめとけよ」
手を叩こうとした舞妓に対して先まで上機嫌だった声色を低くして舞妓に目すら向けずに忠告した。
「お前の可愛い友達が俺の間合いだぜ?」
ジャリっ、と瓦礫を踏みつけながら舞妓が顔を歪めたのがカメラに映された。その顔には周りを守りながら戦う余裕がないということを滲ませ、死柄木の背中をジロリと睨む。
「それじゃあまたな? ヒーロー『ユズ』」
「次会うときは逮捕のときだよヴィラン『死柄木』」
振り返った死柄木と舞妓が目を合わせる。そんな時間はほんの数秒も待たずして終わりを告げてしまった。死柄木が黒いモヤに包まれる。
その顔には最後の最後まで暗い、暗い笑顔が貼り付けられていた。
「‥‥死柄木、弔」
他の誰も動けない中、舞妓が歪んだ顔をしながらそう呟く声だけが、空気を震わせた。
その声が震えているのには、誰も気づかない。画面を見ている人も、緑谷出久も、誰も、気づかない。
× × ×
あの後ステイン先輩は連れていかれ、僕たち怪我をしたヒーローは病院に連れて行かれた。しかし、それで事件は解決。とはならない。まぁ、誰の目から見てもわかるほどには敵連合が全てを掻っ攫っていった形になったからね。ネットではトレンドを席巻してるし、敵連合に対してポジティブな意見も見られる。原作では何もかも上手くいかなかった弔くんに何もかも上手くいくように誘導したから、今頃アジトでは弔くんがウッキウキの状態だろう。我ながら良い台本が書けたんじゃあないか?
「‥‥めちゃくちゃバズってるね」
「うん‥‥特にゆずくんと死柄木のやり取りが上がっては消されてる‥‥」
「イタチごっこじゃん」
動画サイトのコメント欄には『これは高校生が手を出せる相手じゃない』『ユズ以外眼中にないww』『ステインとしがらき? に気押されて動けてねぇじゃん』『俺も敵連合入りてぇぇぇぇぇ!!!』『今ステ様を馬鹿にしました? 刺すね』『コイツこれで男とか嘘だろ、俺全然イケるぞ』『しが×ゆず!?』と様々なコメントが飛び交っていた。おい、今トガちゃんいたろ。あとなんか変なのもない?
「まぁ‥‥人にあんまり被害が出てないのが幸いかな」
僕は右手に巻かれた包帯を摩りながらボソリと呟く。すると、その怪我をする理由となった飯田くんの顔が曇った。
可愛い〜!! 僕が包帯摩るたびに可愛い顔するのやめてよ! 僕興奮しちゃってまともなこと言えなくなるじゃん!! こんなに可愛いところ見せられたら僕もたまったもんじゃないんだよ!! ここは!! 共同の病室なんだよ!! 個室じゃないんだよ!! 悶えられないでしょうが!! なに!? 生殺し‥‥!? 僕はマゾじゃないんだけど‥‥!? いいね!! 君が先走ったせいで友人が3人も入院することになったことに対してもっとしっかりと後悔しろよ! 謝っても足りないねぇ!! 君の後悔は一生引きずるものにしてやるからね!!
「舞妓くん‥‥その‥‥」
「おっと、ごめんなさいはなしだぜ? 僕が自分から現場に出向いたんだし、それに『復讐がしたいなら声をかけろ』って言ったのは僕だ、元からこうなるのも覚悟の上だったしね。怪我を恐れるヒーローがどこにいるのさ」
グッと伸びをしながら飯田くんの言いそうな言葉に返事をする。うんうん、感謝してくれるのは構わないけど、僕としては+の要素も強いからなぁ‥‥なんだか罪悪感覚えちゃうじゃん。それはバカらしいし、それなら‥‥さらに曇らせたほうがよっぽどいい。
「響香ちゃんにも言ったけど、ありがとうでいいんだよ」
「‥‥あぁ、ありがとう」
目をほんの少し潤ませて、飯田くんはそう返した。いいねいいね、なんとか乗り越えようとしてるところが可愛いよ!
「腕の怪我くらいなんとかなるし! 天哉も怪我してるし!」
「俺のは自業自得だが‥‥君のは違うだろう‥‥」
「僕のも自分から顔出してるんだから自業自得だよ」
「しかし‥‥!」
その話はもう済んだじゃん。と言うように飯田くんに目を向けると、飯田くんよりも奥にいた轟くんがボソリと口を開いた。
「悪りぃ‥‥なんか俺が関わると腕をダメにしちまうみたいになってる‥‥呪いか?」
「呪い!」
「ハンドクラッシャー的な‥‥」
「ハンドクラッシャー!!」
轟くんの言葉に出久くんが吹き出した。いや、言いたいことはわかるけどね。君、ハンドクラッシャーて、センス光りすぎだよ。
チラリと目を向けると飯田くんと目が合った。二人して吹き出してしまう。ダメだ、こんな風に暗い雰囲気になってる場合じゃない。君たちはヒーローだから。これから先も前を向いて光に向かって進まないといけないんだ。僕という隠れたヴィランを打ち倒すそのときまでね。
それとね、轟くん。本当の呪いっていうのはね、実害はないんだ。
胸に残るものなんだよ。一生ね。そのことをいつか教えてあげる。
「そういえば緑谷いつもあれに耐えてたんだな」
「あれって?」
「舞妓と風呂入んの、こいつホントに男か?」
「焦凍は僕に喧嘩売ってる?」
「轟くんはその話詳しく聞かせてくれるかな? ゆずくんは正座ね」
「なんで???」
日常は、続いていく。そのことを教えてあげられるのはいつになるのかな。
え? あ、ホントに正座させられるの? 本気? ベッドじゃなくて床? 僕なんか犯罪でも犯した? 未遂? なにが?
足早にステイン編を終わらせてしまいましたがどうでしたでしょうか? 納得できる仕上がりになりましたかね? 皆さんが面白いと思ってくださるものが書けたら幸いです。飯田くんいいよね、曇り顔。ステイン編どこ見ても泣きそうで可愛い。
皆さんの感想や評価にすごくルンルンとした気分で過ごしております。このまま承認欲求に飢え続けたら大変なことになってしまう‥‥ダメだ‥‥このままだと良くない‥‥! 分相応に行かなくちゃ‥‥!
ありがたいことに感想を毎回くださる方もいて、ファンアートを下さる方もいて、嬉しくてたまりません。未熟ではありますがらこれからも頑張ります。応援よろしくお願いします!
映画編を入れるかどうかのアンケートをさせてください!
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入れたのが見たい!
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本編だけ追いかけるのでOK!
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アンケート結果が多い方で!