個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア!   作:波間こうど

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タイトルからもわかりますね? 皆さん。お ま た せ。
ここで多くは語りません。ご覧ください。


★曇り、雨。

 

「あ゛〜! 疲れた!!」

 

そう言って耳郎響香は職場体験先で割り振られたベッドに横たわった。時刻は9時を回った程度だが、今日の仕事内容は中々にハードで、その気になれば今この場で泥のように眠ることができる。そのくらい疲れていた。しかしまだやることがあると自らを奮い立たせ、ベッドの発する甘い誘惑を振り切るように立ち上がる。

 

「お風呂入って‥‥バンド曲の新作チェックしてから‥‥化粧水しなきゃ‥‥」

 

芦戸のように色々な化粧品を試したりはしないが、耳郎とて華の女子高生である。オシャレや化粧にも人並みの興味があるし、最近は人並み以上の興味すらあった。オシャレを頑張れば気づいてくれる存在が身近にいるからだ。誰とは言わないが。

 

「あ、そういえば連絡とか来てんのかな」

 

体をベッドから起こし、テーブルの上で充電されっぱなしの携帯電話に手を伸ばす。今日は携帯を忘れて職場に出てしまい、取りに戻ってこれないままだったのだ。本日の朝アラームを止めた以来に携帯を開くとそこには山のような通知が来ていた。

 

「わ、めっちゃクラスグル来てる‥‥」

 

その日、耳郎は初めてのヴィラン事件の解決に精を出していた。山の中に潜む盗賊行為を行うヴィランを耳郎の個性で捕まえるという内容で、たった今帰ってきたのだ。まだお風呂にも入れてないし、ご飯も食べれてない。テレビなんてもちろんつけてない。

 

つまり、俗世とは無縁の一日だったのだ。

 

ことの発端は『雄英高校1年A組!』というグループ(20人中爆豪が入っていないのでいつまで経っても19で止まっている)に、緑谷から送られてきていた位置情報から始まっていた。

 

『?』

『緑谷? どうかしたか?』

『連絡ないな』

『どうしたんだろ‥‥』

『SOSじゃないの?』

『デクくん意味ないことせんよ!』

 

戸惑うクラスのグループ、二時間ほどの間が空いて、緑谷から連絡が入るまで、皆が口々に安否を心配するリレーが続く。

 

『ごめん! ヒーロー殺しと遭遇したからSOSを出したくて』

『!?』

『ヒーロー殺し!?』

『え、大丈夫やったん?』

『エンデヴァーが解決してくれたからね』

『え! 舞妓もいたの?』

『あの応援要請のときに近くにいたからさ、一応関わったのは天哉、出久くん、焦凍、僕』

『無事なの!?』

『全員五体満足〜! あ、僕は元から四体なんだけどね笑』

『笑えねぇよ‥‥』

『まぁ、安心していいよ。怪我はしたけど、天哉以外はすぐ治ると思う!』

『飯田は?』

『う〜ん‥‥ちょっと時間かかるかも?』

 

もう既に数時間前に行われた会話の履歴を辿る、どうやら四人とも無事らしい。(舞妓の四体だのというブラックジョークは見ないふりをした、直視すると多分吐いてしまうから)

 

『次の登校日はしっかりみんな行くつもりだし、安心していいよ!』

『よかったぁ〜! 心配したんだよ〜』

『なぁ、これお前らだよな?』

 

わちゃわちゃと安心を写す履歴をホッとした胸を撫で下ろし、先を眺めようとすると、上鳴が動画をあげていた。リンクを踏んでみると、そのリンクにはヒーロー殺しステインと舞妓たちが向き合う場面、そして‥‥‥

 

「え‥‥」

 

つい、声が漏れる。その黒いモヤから現れた人物が、目下、耳郎にとって悪夢を見せる相手だからだ。間違えたりしない、その手だらけの体、白い髪、黒い服、そして悪意に満ちた瞳‥‥間違いなく、死柄木 弔だ。

 

『久しぶりだなぁ? ヒーロー』

 

悪意の塊は子供のように、好きな友達に会ったように笑った。ニタリとした顔からはまるで敵意を感じない、そのはずなのに底冷えするような恐怖が心臓の鼓動を早めた。

 

『おいおい無視かよ、それとも忘れたのか? その首と足は俺が貰ったんだぜ?』

『‥‥思い出したくなかっただけだよ、死柄木』

 

ゾワッとした悪寒が体を突き刺した、咄嗟にそこに在るはずの右足に手を当てる。そうだ、この男は‥‥舞妓から右足を奪った男だ。

 

「うっ‥‥!」

 

吐瀉物が体を這い上がる感覚がする。それを一生懸命抑えるように口を覆った。

 

怖い、苦しい、何よりも‥‥舞妓譲葉というヒーローに暗い顔をさせたことが、なによりも、耳郎にとっては心苦しくて、大きなストレスだった。

 

自分はこんなに簡単に折れてしまうほど弱い存在なのに、彼は足を失っても、その間接的な原因である敵に向かい合っている。自分は画面越しなのに、辛くて、胸が、苦しい。彼自身がその命を刈り取られる瀬戸際まで行ったというのに、首に死神の鎌をかけた相手なのに、両の足で地面を踏み締めて睨みつけていた。

 

備え付けの姿見に映る自分の表情に普段なら笑えるのだろうに、今はそんな余裕すらない。徹夜をしたときだって、こんな顔をしたことはない。

 

画面の奥には両手を広げ、どこか芝居じみて、それでいてカリスマを振り撒くように、謳うみたいに、宣言する。

 

『来いよ! ここがお前らの敵連合だ!!』

 

そう締めくくられた死柄木の演説が終わると、一言二言、舞妓と言葉を交わしてから黒いモヤに包まれる。死柄木が帰った、その先で舞妓だけが虚構となったそこを見ながら声を震わせながら呟いた。

 

『‥‥死柄木、弔』

 

その些細な震えを、聞いてしまった。いつも、強く、気丈に、笑って、足を失ったことなんて何でもないように振る舞う彼の、弱さを見た気がしたのだ。

 

このときの耳郎の顔を、舞妓が見ることができていたのなら、きっと絶叫していたのだろう。そう思えるほど、上質で、最高級といっても過言ではないほどの曇り顔だった。青ざめ、苦しむ、辛さを前面に押し出したような顔だった。

 

「‥‥ユズ」

 

思わず先に続いていくグループの履歴を消して一番上にピンで留めた彼の連絡先をタップした、彼からのメッセージで『無事だよ、大丈夫』とあるがそんなの信用ならない。あの声で、心が無事なわけがない。

 

そして迷わずに通話を意味する受話器のボタンからコールをかけた。

 

『電話してくれてもいいからね!』

 

職場体験の前、駅でそう言って笑う彼の声がリフレインする。その言葉に甘えてしまわないように、この何日か耐えていたのに、ヒーローとして隣に立てるように、頑張っていたのに。

 

「ウチって、こんなに弱い人間だったんだ‥‥」

 

そう一人ごちる。コールが響くが、返事はない。そして一分もするとスピーカーから、『おかけになった電話番号は、ただいま通話中です。しばらく時間を空けてから再度お試しください。』という不在着信の機械音声が流れる。

 

当たり前だ、いつもの彼のセリフから家族と仲がいいことは容易に想像がつく。あの動画を見て心配をしないわけがない、そうでなくても友人の多い彼のことだ、親戚、友達、誰かから連絡がひっきりなしにかかってきていると考える方が自然である。

 

だが、耳郎の心境は揺らいでしまう。役に立たない携帯を放り出し、枕に顔を埋めた。吐きそうな体を抑えるように嗚咽を抑え込む。

 

「ユズ‥‥会いたいよ‥‥」

 

耳郎の頬を雫が伝った。

 

夜は深く、帷が落ちていくーー

 

 

  × × ×

 

 

「やぁ、もしもし。弔くん? 僕だよ」

『譲葉か』

 

夜の帷も落ちた頃、病室を抜け出して病院の屋上で弔くんに電話をかける。たくさん心配の連絡が来てたからそのお返事をする、ということにして同室の3人には納得してもらってる。まさか僕が内通しているなんて思ってもいないだろう。

 

『この通話、大丈夫なんだろうな』

「誰に言ってんの。盗聴対策は完璧、近くに人がいないことも確認してるし、まぁ‥‥最悪見られたら始末するさ」

『ならいい』

 

弔くんに盗聴対策について説明する。この辺りの知識は必要にかられて身につけたものなので、他の生徒の代わりに必要だったというわけではない。僕のメインプラン的に必要だったのだ。ちなみにだけど多分僕がその気で準備を行えばラブラバさんのハッキングに三時間くらいは対応できると思う。むしろ準備して三時間しか対応できないあの人おかしいけども。

 

さて、時間は有限なのでさっさとお話ししてしまおう。早く戻らないと出久くん辺りが様子を見に来そうな気もするしね。今ここでバレるのは僕のプラン的に困る。

 

「今回の作戦成功お疲れ様。いい演技だったよ。僕が演技指導しただけはある」

『お前は最後崩れそうだったけどな』

「そりゃあ声も震えるよ、面白すぎる状況でしょ。やってることは寸劇なんだから」

 

クスクスと二人で携帯越しに笑い合う。今このシーンはどう見てもヴィランのそれだ、漫画版で描写とかされたらみんな疑心暗鬼になっちゃうね? 回想とかで流されるのかな‥‥?

 

「動画、見た?」

『黒霧に撮影させたものをバッチリ加工して流したんだ。チェックくらいしたさ』

「いい対立関係になってたね。これで僕らは世間一般的に見て次世代のヒーローと次世代の巨悪なわけだ‥‥そこら辺はどうかな? 死柄木」

『あぁ、楽しみだね。世界をぶち壊すのが。ところで次、死柄木って呼んだら殺す』

「なんでさ」

 

弔くんってば距離置かれるのが嫌なタイプ? 最近の女子高生はあえて仲のいい友達のことを苗字で呼んだりするらしいぜ? それと同じ感じでどう? ダメ? 俺たちは女子でも高校生でもない? 確かに。

 

「まぁ、これからそれなりの量のヴィランが来るだろうから、仕分け作業頼むね?」

『めんどくせぇ‥‥お前が戻ってきてお前がしろよ。絶対ボスの仕事じゃねぇだろ』

「僕は僕で仕事があるの。知ってるでしょ?」

 

僕の言葉に弔くんがため息をついた。まぁ、僕の次の仕事の重要さも理解しているから、そう強くは言ってこないわけだしね。と言っても青山くんが原作で行った林間学校先をバラすだけのことなんだけどね。

 

というのも僕はもうある程度場所がわかっていて関わってくるヒーローにも目星をつけているからそれをラスボス先生に説明すると「僕は僕の筋で探ってみる」とのお言葉をいただいたのだ。とどのつまり僕の原作知識から来る『未来予知』をいまだに疑っているから自分でも確かな筋(青山くん)を使って調査するってことだろうけど。ちゃんと裏まで取ってあるんだよなぁ。

 

あ、青山くんのことは知らないって体でいます。全部は知らないんだよってことにしてるし、あっちもその方が動きやすいだろうからね、優秀すぎて消されましたとか笑えないし。

 

「あ、良さげなのがいたらどんな子なのか連絡頂戴ね。うっかり捕縛したくないし」

『勝つのは前提かよ』

「当たり前じゃん。僕が先生やオールマイト以外に負ける未来見える?」

『はっ、負けたら俺が殺してやるよ』

 

うんうん、ちゃんと関係値を構築できているようで何よりだ。軽口叩き合えるのなんて中盤以降だもんね、普通なら。

 

ところで『負けたら殺してやる』って僕のことを? それともラスボス先生とオールマイトを? どっちもあり得そうだなぁ‥‥ラスボス先生はともかくオールマイトは殺してやるって対象に入りそうだし、ラスボス先生もワンチャンあるかな‥‥? 今多分僕の方がラスボス先生よりも好感度高いし。まぁ、そんなの当たり前のことだけどさ。

 

学校の先生とクラスメイト、どっちの方が仲良くなりやすいのかなんて明確だろ?

 

「それじゃあ、僕はそろそろ戻るからさ、先生と黒霧さんによろしくね」

『おぉ‥‥』

 

その言葉を最後に弔くんが言葉に詰まる。なに? 電話したことないの? ‥‥あぁ、そりゃ弔くんの今までの境遇ならしたことないか‥‥ということはアレか? これはちょっとしたジョークを噛ませるってことか?

 

「弔くん、それじゃあおやすみ。愛してるよ」

『‥‥!? あい‥‥ッ』

「何むせてんの? 電話を切るときに親しい相手に愛してるって言うなんて当たり前のことでしょ?」

『‥‥電話久しぶりだからな、忘れてたんだよ』

 

ほら、プライドの高い弔くんだったら乗ってくると思った! これでヒミコちゃんとかに言って修羅場ってくれると僕としても面白いものが見れるから是非やらかしてほしいね。荼毘くんとかでもいーよ。少しお互いに戸惑ってくれ。

 

「それじゃあ、改めて、おやすみ。愛してるよ、弔くん」

『‥‥あぁ、俺も愛してるよ。譲葉』

 

‥‥よくよく考えたらCV内山さんに耳元で愛を囁かれてるってことになるのか。これ売り出せば一財産くらい築けそうだな‥‥世が世ならASMRとして屈指の素材になるだろう‥‥アイドル系声優とかに弔くん育てても面白いのか? まぁ、あんまり曇ってくれなそうだけどさ。は? そんなのやる意味ねぇだろ。

 

電話を切る。夜風が少し肌寒い、病衣って薄いよね。そして手すりに手を乗せてネオンに満ちた街を見下ろした。

 

「‥‥‥全部、全部曇らせてあげるからね」

 

万物は僕の曇らせ対象なんだよ、なんて呟いてから振り返った、ドアへの少しの距離を風が過ぎる。ここからは闇夜に蠢く者たちの時間だ。

 

 

  × × ×

 

 

「‥‥‥」

「どうかしましたか? 死柄木弔」

「いや、何でもねぇ‥‥」

 

携帯をバーカウンターに投げ出しながら足を組み、頬杖を突いた。顔はどこか赤い。

 

「動画の再生数はアップするたびに上がっていっています。これなら十分に広告の効果があるでしょう」

「そうか、なら良い。次の作戦にはそれなりの手駒がいるからな‥‥そうだな、10人は欲しい」

「それくらいならすぐに集まるかと」

「馬鹿か? 雄英のクソガキを殺せるようなやつを10人用意する必要があるって言ってんだよ。そう簡単に見つかるならUSJの時点で片がついてる」

 

慎重に、狡猾にならなければならない。と、死柄木は考える。もう二度と、自らの友をこの手で傷つけなくてもいいように、細心の注意を払わなければならないと、自らを律する。そのためならどんなに手を汚そうが、何を失おうが構わないと心に決めているのだ。

 

「俺たちは冷静にならなくちゃいけない。冷静で、狡猾でなくちゃいけない。譲葉におんぶにだっこじゃダメだ。俺たちの目的は世界を壊すこと‥‥そのためにできることは全てやる」

 

淡く澄んだウィスキーフロートのグラスを一息に煽ると、息を吐き、グラスを黒霧の方へと突き返した。そしてカウンターに並べられた舞妓考案の計画書を眺めた。

 

「‥‥林間学校ねぇ」

 

この前馬鹿みたいに襲撃され、生徒に被害まで出ているのにも関わらず普段通り行うとは‥‥やはりヒーローというのは平和ボケした阿呆しかいないのか‥‥? いや、襲撃されたからこそ強気に見せたい‥‥?

 

「‥‥そんなに考え込んでは頭を痛めますよ」

「俺は譲葉みたいに頭が良くない。考えられるだけ考える必要があるだろ」

 

手を合わせる、考える、何度も、何度も思考を回転させる。自分を王に据えた将棋のようなものだ。相手にとって一番嫌なことを行う必要がある。常に、先手を打て。

 

「‥‥黒霧、義爛から連絡が来たら起こせ。俺は少し寝る」

「わかりました」

 

席を立ち、バーカウンターを後にする。アジトのドアを開けて奥にある階段を登った。そこを上り切った場所にテナントはなく、死柄木弔の居住スペースとなっている。

 

将棋だって、常に思考をするのは不可能だ。様々なことを考え、あの手この手を空想の相手に試し、相手の実力を過大評価した上でどう対処してくるのかを計算する。そして、どうやっても対処できないところを見つけるのだ。そこまでの道筋で頭を休めることもまた、思考のプロセスには欠かせない。

 

何度も思考する。

 

それは、自らの野望のために。

 

それは、自らの欲のために。

 

それは‥‥‥

 

自らの友のために、その『崩壊』の衝動はあるのだ。

 

「‥‥‥全部、全部、ぶっ壊してやる」

 

黒い悪意の言葉が、暗い部屋に溶けた。

 

それからしばらくの月日が経ったのち、日本が揺れる大事件が起こるのだが、それはまた、来るときに語るとしよう。

 

 

  × × ×

 

 

「あ、ゆずくんおかえり」

「むっ! 轟くん! 今UNOと言っていなくないか!」

「お」

「あはは、焦凍は2ドローだね」

 

病室に帰るとみんなでUNOをしていた。いや、元気だな。出久くんはともかく飯田くんと轟くんの二人が乗ってくれるとは思わなかった。案外こんなのするんだね‥‥

 

「じゃあ、次から僕も入るね」

「舞妓くんは今の所7回一位抜けだからな! 次は負けないぞ!」

「ゆずくんこの手の対面のカードゲーム強すぎるんだよね‥‥」

「俺、新幹線でスピードとインディアンポーカーで総合二桁は負けたぞ」

「焦凍も出久くんも顔に出やすいからね」

 

まぁ、出久くんは顔に出やすいけど轟くんはそんなことないんだけどね。僕が曇り顔の兆候を逃さないようにみんなの顔をしっかりと観察をする中で身につけたスキルなので他のみんなにはできないだろう。案外僕の便利スキルの中でも僕のお気に入りスキルである。何と言っても曇り顔がすぐにわかるからね!

 

「よーし、軽く揉んでやんよ!」

「あ、ゆずくん。携帯鳴ってるよ?」

「ん‥‥?」

 

はてさて、誰かしら‥‥一応縁の深そうで心配が高じて連絡してきそうなメンツには連絡しておいたんだけど‥‥あぁ、なるほど? そう言えば君には『無事だよ、大丈夫』って送っただけか。相手が弔くんだし心配になるのも無理はない。

 

彼女の右足を奪った相手だからね。

 

「ごめん、ちょっと出るね」

「おぉ」

「そろそろ消灯時間になるから俺たちは先に寝ておくぞ! 決着は後日に持ち越しだ!」

「うん。次もコテンパンにしてあげるね」

 

再度病室から出て、階段を登りながら通話に出る。時期に消灯の時間になる病院は静かで声が通りやすいので屋上手前の踊り場に座り込んだ。

 

「やぁ、響香ちゃん。こんな時間にどうかした?」

『‥‥ユズ?』

「僕以外に電話かけたの? 僕にかけたら僕が出るけど‥‥」

『あ、違くて‥‥』

 

むむ、これはなかなかの曇りの予感がするね‥‥いい声色だ、結構曇ってるんじゃないの? まぁ、自分のせいで足を失ったクラスメイトとトラウマが向き合ってるところなんて見ればそりゃ曇るか。その子の気質が善であればあるほど曇ってくれるだろう。というかヒーロー科なら曇って当然だわ。可愛いね。

 

『‥‥動画、見たよ』

「ありゃ、見ちゃったか。電気がグループに送ってたもんね」

『あのヴィランも、見た』

「動画見たならそうなるよね」

 

声色には嗚咽が混じっている。ははぁ〜ん? さっきまで泣いてたな? 可愛い〜! 顔見せてくれないかなぁ‥‥でも必死に泣いてるのを隠してるもんね、流石に今顔見せてとか言い出したらヤバいやつだ‥‥言うなら言うで、なんか上手いこと流れを誘導して言わないと‥‥

 

「でも見てわかるように、何もなかったよ? 戦闘にもならなかったし問題なし!」

『嘘つき』

「何がさ、本当に怪我してないよ? あぁ、ヒーロー殺し戦では怪我したけど」

『‥‥声、震えてるのウチが気づかないと思った?』

 

声? ‥‥あぁ! さっき弔くんにも言われた声の震え! もしかして何? 僕が恐怖から弔くんの名前を震えて呼んだと思ってんの? え、つまりなに? 弔くんだけが、演技を一緒に練習した弔くんだけが! 気づいたそれを! 他の誰も気づかなかったその震えを! 耳の良い君は気づいたんだ!! それで曇ってんの? マジで!? さいっこうじゃん!

 

『ウチが! あの動画をどんな気持ちで‥‥! ウチが支えなくちゃいけないのに‥‥! ウチが‥‥! 隣に居なきゃなのに‥‥! 何も‥‥! なにもぉ‥‥!』

 

とうとう声をあげて泣き出しちゃった耳郎ちゃん。正直、声をかけてあげるべきなんだろうけど、今はごめん。数秒でいいから立て直す時間が欲しい。口を押さえて必死に高鳴る鼓動が、外に漏れないように、彼女に聞こえないように、心臓が口から出てしまわないように、抑える。

 

可愛すぎる‥‥! 待って!? ねぇ、待ってくれよ! おかしいって! こんなの! 計画にない! 飯田くんの曇り顔のためだったのに! 待ってよ! ねぇ! 棚から牡丹餅とかの騒ぎじゃない! なにそれ!? なにその声!! あり得ない可愛いよぉ〜!! 声出ちゃうじゃんか!! 危うく! 病院で夜中に大声を上げちゃうところだったんだけど!! ねぇ!! どうしてくれるんだよ!! 今目の前にいたらメチャクチャにキスしてたぞ!! 可愛すぎるって!!!!!! いい加減に!!!!!!! しろ!!!!!!!!

 

「‥‥響香ちゃん。画面、つけれる?」

『え‥‥?』

 

カメラを先にこっちからオンにする。少し暗いけど月明かりで顔くらいは見えるだろう。最近のカメラは割と万能だからね。少なくとも前世のカメラよりは余裕で進化してるよ。

 

「あ、見えた。‥‥‥‥もぉ、やっぱり。目、腫れてるよ。可愛いお顔ぐちゃぐちゃじゃん‥‥」

『誰のせいだと思ってんのさバカァ‥‥』

 

そうは言うけど画面つけてはくれるんだね‥‥強いな。顔に自信があるってタイプでもないだろーに。僕の顔が見たかったとか? ‥‥恋する乙女じゃないんだし、ないか。ところで鬼ほど可愛い泣き顔だね? スクショとか撮っていい‥‥?? あ、ダメか‥‥‥ここでスクショとか撮るカスは距離感縮められないもんね‥‥流石にこの泣き顔見せてくれる距離感を0にするのはいただけない‥‥‥唇を噛み締めて我慢する。うわ、血の味する。

 

「ほら、ニッ! ヒーローは笑うもんだろ?」

『うるさい‥‥うまく笑えるわけないじゃん』

「そんなこと言っても‥‥笑わなきゃ、ヒーローが泣いてどーすんのさ。君が来たって、カッコつけなきゃ」

 

体育座りして膝の間でカメラを固定。そして口の端を人差し指で押し上げて笑顔を作った。無理矢理でどこか歪な笑顔を見せながら耳郎ちゃんに微笑みかけてあげるのだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「君は僕の、誰かのヒーローなんだよ。笑ってよ、君が笑ってくれるだけで幸せだなって思えるような奴もいるんだぜ?」

『‥‥‥ふぇ?』

「笑顔のが可愛いーぜ! 響香ちゃん! ね?」

 

あぁ、そうだ。この勘違いはきっと天啓だ。この子の曇らせは、きっと、僕を満足させるに足るものになる。最高のものになるって、僕の魂が言っているのだ。

 

この子には特別プランを組もう。ありがたく思ってよ? 僕が今特別プランを組んでるのは出久くんとかっちゃん、それから弔くんと轟家、残り数名なんだからさ。これに加われるポテンシャルを秘めていたことを後悔するんだね。

 

『か、可愛いとか! なに!?』

「あ、照れ顔も可愛いね」

『〜〜〜! 何言ってんの! バカ! バーカ!』

 

必死に取り繕う耳郎ちゃんの顔を見て笑う。あ〜‥‥最高に可愛い‥‥本当は曇り顔と泣き顔の方が可愛いけどね、そんなこと言ったら引かれちゃうもんね。関係値はしっかりと把握してリカバリーできる範囲に留めないと‥‥ほら、崩壊したらメインプランもしっちゃかめっちゃかだしね。

 

今日はいいものが見れたからここまでにしてやんよ‥‥

 

『バカ! アホ! 鈍感! 女たらし! 人たらし! バーーカ!』

「そこまで言う‥‥?」

『ハァ‥‥ハァ‥‥ねぇ、ユズ』

「ん、なぁに?」

『ありがとね』

「どういたしまして」

 

可愛い耳郎ちゃんに笑いかける。なんだか顔全体赤いね。目元は泣いたからだし、頬は泣いたの見られて恥ずかしいからかな‥‥‥? 可愛いね‥‥これからもっとたくさんの表情を見せてくれ‥‥その中に君の曇り顔があると嬉しい‥‥

 

それから、少しの間、たわいも無い雑談をする。今日の時間のこと、病院のこと、学校のこと、今までのこと、これからのこと。

 

夜がまた、更けていく。曇りは晴れ、雨は止む。次の恵みの雨を待って、月が僕を照らした。

 





さてさて、どうだったでしょうか‥‥個人的にはよかったと思います。可愛いね‥‥曇ってくれ‥‥雨くらい泣いてくれ‥‥そんな君は美しい‥‥

いつもお気に入りに評価、感想、ありがとうございます‥‥全部見てますし、全部しっかり受け取っております。皆様のおかげで手が進みます。ありがとう。

これからも是非ともよろしくお願いします。頑張ります。

あ、そういえばTwitter(X)始めました。こっちでもまぁ、ぼちぼち経過報告とか呟いていけたらな、と思います。他にもなんか皆さんとお話しとか共有できたらいいな、もしよければフォローよろしくお願いしますね。

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