個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア! 作:波間こうど
どうも、波間です。
今回は助走です。曇らせは少なめです。
よろしくお願いします! それではどうぞ!
「眠い‥‥」
「お早う、諸君」
朝の五時半。僕たちはこんな時間にみんな揃って叩き起こされて体操服に着替えさせられた上で外にまで連れ出されていた。ちょい? まだ眠いんですけど‥‥? いやまぁ、何時に起こされるのかは理解してたから早めに寝たし、少しはマシだけどさ‥‥
「本日から本格的に強化合宿に入る。今合宿の目的は“仮免”の取得だ。具体的になりつつある悪意に歯向かうための術を身につけてもらう」
相澤先生の言葉を簡単に要約すると『僕たち敵連合を含めてヴィランの動きが活発になってきたから早い段階から“仮免”を取って僕たちに備えよう!』というものだ。歯向かう相手が力つけちゃうのウケるよね。
「それで? 具体的には何するんです?」
「それは‥‥爆豪、これ投げてみろ」
かっちゃんに向けて個性把握テストの際にぶん投げたボールを投げて相澤先生が説明をする。ふむふむ、とりあえず個性がどれくらい伸びてるのかを把握するってことね。まぁ、原作通りあんまり伸びてないと思うけど。
「くたばれッッッ!!」
‥‥‥あいつ声なんとかならないのか‥‥? とかっちゃんが飛ばしたボールの行方を目で追いながらそんなことを思う。ただの年中反抗期の口悪男だとしてももうちょっとこうさぁ‥‥
「確かに君たちはここ三ヶ月。立て続けに起こった様々な困難や経験を経て成長している。しかしそれは主に精神面や技術面、あとは多少の身体的な成長がメインで個性はそこまで成長していない」
「今日から君らの個性を伸ばす。死ぬほどキツいが、くれぐれも、死なないように」
うんうん。個性を伸ばすのって難しいからね。僕もなかなか伸ばせなくて苦労したなぁ〜‥‥みんなのは体に宿ってる身体機能だから意図して使わないと伸びないもんね。筋トレしないとムキムキにならないのと同じ理屈だ。
まぁ、僕は少し違うんだけどね。僕の個性は身体機能じゃないみたいだから。
‥‥‥ん? あれ? 僕の個性は具体的に伸ばしようがなくない? どうするつもりなんだろ。まさか拍手を早く打てるようになる練習とか言わないよね? 曲芸じゃんそれ。
ちなみにその僕の考えは杞憂であることがすぐにわかることになる。
× × ×
「ふっ! ふっ! オラッ!」
前略、お母さん。
元気にしていますか? 僕は元気です。貴女から生まれて早十数年の年月が経ちましたが、いい子でいられていますでしょうか? 幸い。手のかかる子ではなかったかなと思います。まぁ、10年ほど無個性だったのでその点は心配などおかけしたと思いますが、その後めでたく個性も発現し、雄英高校のヒーロー科にも主席で合格しました。自分で言うのも何ですがそこそこ優秀な息子だったのではないでしょうか?
「はっ! らっ! せいっ!」
貴女と父の顔がそれなりに良かったこともあって顔に不自由もなく‥‥いや、これは嘘だな。流石に女の子に寄りすぎな顔だからお嫁さんは貰えないかもしれませんがそこは許してください。というか、元から貰うつもりなかったんですけどね。
「いたい! おらっ! せいやっ!」
いきなりこんなこと言い出して何事だろうと思うでしょう。今こんな手紙を書き上げているのには理由があります。
たぶん、僕。この合宿で手がなくなると思うんですよね。ついでに足。
僕に相澤先生から告げられたのはひたすらに土の壁を殴り続けることである。黒閃を好きに出せるようにすること、だってさ。
まぁ‥‥なんかイケるな。ってときは出るけど、基本的に僕が自分から出すのは難しいしねぇ‥‥いや、ある方法を使えば無尽蔵に打てるんだけども、その手を使うタイミングがなさすぎる。
かれこれ何時間もひたすらに壁に拳を打ち込み続けてます。思わず母親に感謝の手紙を送ってしまいそうになるくらいには追い込まれてるんだよね‥‥拳が。ほら、皮めくれて血が出てるからね? 痛い通り越してんだよね。ピクシーボブが土流で壁の硬さを調整してくれて岩とかを殴ってるような感じではないけどそれはそれとして普通に痛いくらいの硬さはしてるんだよ‥‥
「どうした舞妓、手が止まってるぞ」
「これ‥‥本気でキツいんですよ‥‥!」
「お前は機転が利くし、実力はヒーローを含めてもトップクラスだろう。だが、決定力に欠ける。だからこの合宿の間にその『黒閃』のコツを掴め」
たまに相澤先生にヤジを飛ばされながら拳を痛めつける。ほんと、手が‥‥手が無くなっちゃう‥‥! 削れていく感じがするんだけど‥‥!?
× × ×
「さぁ! 昨日言ったね! 世話を焼くのは今日まで! ってさ! 己で食う飯くらい己で作れ! カレー!」
「‥‥‥この手で何を作れと‥‥?」
身体中ボロボロになったみんなと集合してからプッシーキャッツの皆さんにそんな風に言われてしまう。おい、ここまで体を酷使して晩御飯まで自分で作れだとぉ‥‥ちなみに僕の方にすごく視線を向けてくるみんなは何なの? 特に女子メンツ。
「ゆずちゃんのカレーが食べれるってこと!?」
「材料は揃っているようですからね! とても美味しいものが食べられるはずですわ!」
「‥‥あの、みんな? 見てよこの手。このボロボロの手でまだご飯作れって言いたいの? 一人で作るのは無理だよ?」
「じゃあ材料切るのとかはみんなで手分けするから煮込みとか炒めとか、その辺りは舞妓がしてよ!」
「‥‥折角なら美味しい料理を食べたいから僕はいいけどね?」
なんか僕がお料理上手なのはみんなに知れ渡ってしまっているので、みんなの料理の指揮を執ることになってしまった。別にいいけど、いつもはカレースパイスから作ってるんだよね。市販のルーは慣れてないんだけど‥‥
そういえば世の中には彼氏にしてはいけない3Cというものがあるとか。3Bは聞き覚えがあるんだけど3Cってなんだろ? と調べてみると「カメラマン」「クリエイター」「カレーをスパイスから作る男」だそうです。僕全部当てはまっててウケる。どうも、(愉悦)カメラマン、(曇らせ状況)クリエイター、カレーをスパイスから作る男(そのまま)です。
ちなみに3Bは「ベーシスト」「ベーシスト」「ベーシスト」です。これによって僕だけじゃなくて耳郎ちゃんも巻き添えにします。耳郎ちゃんは彼氏じゃなくて彼女か‥‥ん? なら彼氏にしてはいけないのは僕だけか。巻き込めなかった‥‥
「いっつ‥‥」
手が本気で痛むので、とりあえず轟くんを呼び出して手を冷やしてもらう。あ〜‥‥傷ついた手が冷えて気持ちいい〜‥‥保冷剤の代わりに使ってごめんねぇ‥‥
「ありがとね‥‥焦凍‥‥」
「あぁ、いいよ」
クールだねぇ‥‥この子も‥‥とついつい轟くんのことをまじまじと眺める。こいつ‥‥睫毛が長いな‥‥ありえん長いぞ? え? どうなってんの? まつ毛の上に人住めるんじゃ‥‥?
「どうかしたか?」
「お前、睫毛長くね?」
「‥‥そうか?」
「うん、すっごい長い」
「自分だとわかんねぇな」
「えぇ〜‥‥勿体無いね」
ちょいちょいと指先で片方の睫毛に触れると轟くんが片目を閉じてしまう。う〜ん‥‥これは夢女爆誕装置‥‥イケメンが過ぎるぞこの男‥‥
「ユズ、材料切れたから」
「ん、じゃあ炒めにいくね。焦凍、ありがと!」
轟くんに挨拶をして手を離す。たった数歩の距離だから声かけてくれたらいいのに何でわざわざこっちにまできたんだろ‥‥耳郎ちゃん‥‥
「梅雨ちゃん。それが切ったやつ?」
「ケロッ、そうよ。あとはお願いね、譲葉ちゃん」
「まっかせてよ! 男子も女子も泣くほど美味いカレー作ってやんよ!」
手をぐっぱと握ったり開いたりしてから材料を炒める。ある程度炒めたら準備してあった調味料から適当に数種類を取り出して味を整え、それを煮込んで灰汁をとる。そこにルーを捩じ込んでしまえば‥‥
「はい、完成!」
「手際が良過ぎるな‥‥」
「舞妓いつでも嫁いけるなぁ‥‥」
「今ナチュラルに嫁って言ったの誰だぁ〜? 名乗り出ろよ、旦那にしてやる」
ガルルル〜‥‥と男子の群れに向かってそう言うとサッと数人が目を逸らした。おいコラ、出久くんと轟くんまで目を逸らしたらガチ感出てくるじゃんか!
え? 僕お嫁さんになるの? 勘弁してよね。結婚の予定はないんだからさ。
「早く食べたいのでそこまでにしてくれませんか?」
「百ちゃん‥‥これは僕の男としてのプライドが懸かった話なんだよ‥‥!」
「大丈夫! ゆずちゃんのプライドは守られるよ! ちゃんと旦那さんになれるって!」
「‥‥‥その自信はどこから?」
葉隠ちゃんに背中を押されながら席につく。僕よりも早く席に着いていたヤオモモちゃんが早く食べたいと、自分の分を大盛りよそって他のみんなに早くしろと目を向けていた。怖いよ。そこまで胃袋掴んでるの? すごすぎない? 僕が。
「それじゃあ、食べよっか! 召し上がれ!」
「いただきまーす!」
みんなががっつくようにご飯に食らいつく様を見ながら僕もスプーンを動かしてみる。‥‥お、ルーで作るの初めてだったんだけど案外悪くないな? 炒めるときに味を調整したのが効いてるのか‥‥? それとも別のことが要因かな? これはカレールウも侮れないぞ‥‥市販品だからと言えなくなったな‥‥
むむむ、と僕が唸っていると、ガツガツとカレーにがっついていた切島くんたちが感嘆の声を上げた。
「美味い! 美味すぎる‥‥! 何だこれ!?」
「店で金取れるって! 俺たち素人が手伝ってるのにこの味!?」
「‥‥‥ッ! ‥‥‥ッ!」
「ヤオモモ? そこまでがっつかなくても逃げないから‥‥ゆっくり食べな?」
みんなが嬉しい感想をくれる中、カレーを食べる手をそこそこにしていくつかカレーを注いだものを相澤先生たちに持って行ってあげる。何やら書類を見ながら会議してるっぽいけど、そのいっぱい考えたアイデアとか計画全部無駄ですよ。明日には全部ぐちゃぐちゃになるので。
「相澤先生〜。これ、晩御飯です」
「‥‥‥カレーか?」
「カレー作ってたの見てなかったんですか?」
トレーに載せた何皿かを下ろして相澤先生とプッシーキャッツの皆さんでどうぞ、とだけ言って席に戻る。なんかブラド先生はいなかったので、あの先生はたぶんB組のみんなと食べてるんじゃないかな‥‥B組好きみたいだし‥‥その関係のまま卒業できたらいいね♡
相澤先生ほっといたらゼリーとかで済ませそうな雰囲気あるもんね。今のうちにいっぱい食べさせておこう。じゃないと明後日からはご飯が入らないだろうし♡
「舞妓どこ行ってたの?」
「相澤先生たちに差し入れ。あれ? おかわりは?」
「もうないけど?」
「早くない???」
うん。この後もしっかりと訓練するなら足りないよ? 僕ずっと動いてるからね。死んじゃうって‥‥
「ユズ、ウチの食べかけでいいならあげるよ。おかわりしたし」
「ほんと? いや〜‥‥食べ足りなくて」
耳郎ちゃんの横に座ってお皿を受け取ろうとすると耳郎ちゃんがそのお皿をグイッと引き寄せる。‥‥え? 何? いいって言わなかった? いじめ? いじめってやつ? なんで? という気持ちを込めてじっと見つめると覚悟を決めた面持ちで耳郎ちゃんはスプーンでカレーを掬い、僕の方に差し出した。
「あ、あ〜ん」
「え」
「ほ、ほら! ユズの手! 怪我してるみたいだし!? ウチはもうお腹いっぱいだから! お手伝い的な!?」
「いいの?」
わーいと喜んでそのスプーンを口に含む。うん、少し冷めても普通に美味しいね。‥‥ん? このスプーン耳郎ちゃんのだから間接キスになるのでは? 僕は美少女と間接キスする分にはやぶさかではないみたいなところがあるんだけど、耳郎ちゃん的にはダメなやつでは?
そんなことを考えながらチラリと彼女の方に目を向けると案の定彼女の目はぐるぐると回り、顔を耳まで真っ赤にしてカタカタと震えていた。どうやら今の自分の行動が乙女的にちょっとやらかしたことに気づいたらしい。好きでもない男に間接キス迫ったみたいだもんね‥‥そりゃ良くない。
「ゆずちゃん! 私のもどう!? 美味しいよ!」
「僕が作った同じカレーじゃない?」
「舞妓さん! こちらの方がマイルドですわ! さっき味変でハチミツを混ぜましたので!」
「‥‥百ちゃん味変ってそれ何杯目?」
「ゆずくん。僕もしてあげよっか?」
「なんで入ってきたの!?」
ギャイギャイと時間は進む。この幸せで、満ち足りて、どこか甘酸っぱい時間は、暗く澱んだ曇った時間への生贄になるんだけど‥‥その事実がたまらなく楽しみだね。
× × ×
2日目の夜。僕たちは訓練も終わり、お風呂も済ませてからゆったりと大部屋で過ごしていた。ババ抜きでは今の所僕が軒並み一位でみんなが苦戦していますね。
「舞妓は好きな子とかいないの?」
「恋愛的な意味で? いないなぁ‥‥」
「じゃあ、好きなタイプは?」
「えぇ〜‥‥僕のことが好きな子?」
「刺されろ!!」
「刺されろ???」
みんなで楽しく談笑をしている中、話の流れが変わる。きっかけは上鳴くんが僕に向かって放った言葉だった。
「そういやさ、舞妓ってなんで個性で怪我とか押し付けねぇの?」
「なんでって?」
「耳郎の足の怪我を自分の足に転移させたんだろ? だったら逆に押し付けんのもいけんじゃねぇかなって思ってたんだよな」
「あ、それは俺も思った。舞妓ならそれをするだけですごいアドバンテージが取れるし、こっちからは迂闊に攻撃できなくなる」
ふむ。みんなが聞いてこなかったから言わなかったけど、これには明確な理由がある。もちろん曇らせのためのものだけどね。
それを一度お見せしよう。
「あ〜‥‥なんだ、うん。えっとね‥‥みんな響香ちゃんたちに言わないって‥‥女子メンバーに言わないって約束できる?」
この話を聞いていたみんなに確認を取る。みんなって言うと男子全員なんだけどね、この話題は気になるようだ。なんなら言ってくれてもいいんだけども、すごく曇ってくれるだろうからね。正直僕からネタバラシしたい。そんな美味しいのこの子達が持って行っても僕は嬉しくないからね。
「おう、約束する」
「漢に二言はねぇよ!」
「ありがと」
みんなが布団の上で座る中で僕は立ち上がり、浴衣を少しずらして右足を露出させた。機械で作られた義足が重々しいメタリックの光沢を纏い蛍光灯の光を反射する。
「確かに、僕は痛みとか怪我を個性で押し付けられる。なんなら怪我をしたって概念ごと押し付けられるよ。その逆に誰かの怪我を貰うこともできる」
「なんだよそれ! めちゃ強個性じゃん!」
「なら何故舞妓はそれを体育祭で使わなかったんだ? 怪我なんかは相手に押し付ければ有利に動けただろう」
障子くんが疑問を投げかけてきたのでクスリと笑う。いや、障子くんがそんなこと言うと思ってなかったよ。これはあれかな? 純粋な疑問だったのかな?
「まぁ、もっと有利に試合を展開できてた場面はいくつかあるだろうね。なんならみんなの右足をいつでも奪えたわけだからさ」
そういうと誰かが苦しそうに歯軋りをした。まだだ、まだ顔を上げちゃダメだぞ‥‥今見たらその先が話せなくなるのは明白だからね‥‥!
「でも考えてもみてよ、自分の怪我を押し付けるのなんてやってることヴィランじゃん。僕はそんなことしたくないわけ」
「まぁ、ヒーローのやることじゃねぇよな」
「そうか‥‥すまない舞妓。そういうつもりはなかったんだ」
「目蔵は馬鹿だなぁ‥‥そんなつもりないことわかってるって、気にすんなよ」
複製腕で語りかけてきた彼に笑いながらそう返してから、目を前に向ける。
「あと、僕はこの個性をそういう風に今は使えないんだよ」
「なんでだよ? スッゲェ強い個性じゃん」
「‥‥ここからの話は女子にしないでね?」
息を吸い込む。ここからが、今まで散々引っ張ってきた、曇らせの芽吹き、その一つだ。
「みんなはさ、右足が当たり前のようになくなる瞬間、体験したことある? そうであることが当たり前なんだよ、そう思えるくらい自然に、フッと消えるの。幻肢痛ってすごいんだぜ? そこにないのに、脚が痛いんだ」
僕の言葉にみんなが曇るのがわかる。さっきまでの明るかった部屋の電気が消えたのかってくらいにみんなの顔に影がさす。
「次に使ったら無くなるのは左足かもしれない、内臓かもしれない、どこが無くなるかなんてわかんない。この個性を使ったら、僕はまた、失うかもしれない。それが体ならマシな方で、最悪‥‥‥‥‥それが、死ぬほど怖いんだ」
声を、できるだけ震えさせる。練習してきた通りに震えているだろうか、できるだけ喜びの震えが混じらないように抑えてはいるけど、声に乗ってないかな?
「後悔はしてないよ。たぶん、あそこで他の誰が怪我をしても、僕は怪我を貰い受けていた。それは間違いない。ただ‥‥怖いんだ、もう、無くしたくないんだよ。ちょっとしたトラウマってわけ」
顔をあげる。みんなの顔を見る、そこに広がっていたのは、ただ、純粋なまでの曇りの園。
はぁ〜〜!! 生きててよかったぁ〜!! 最高すぎない!? 出久くんすっごい良い顔するじゃん!! 何が良いってその顔だよ!! 無個性だって診断された時と同じくらいに曇ってるね!! かっちゃん! かっちゃんかわいいね! さっきまで興味ないです、みたいな顔してたのに! 僕のこと嫌いなくせに聞き逃せなかったんだね!! 苦しそうな顔してるの可愛いよ!! 轟くん!! 君は天才だね!! なんでそんなに僕が喜ぶような顔ができるの? くしゃくしゃになった紙みたいな顔しやがって!! 最高じゃんか!! 言い出しっぺの上鳴くんと僕の個性を強いって褒めてくれた峰田くん、それから僕の個性でケガのやり取りをしないことを不思議に思った障子くん!! 思ったよりも深い地雷原だったね!! すっご!! サブキャラでもここまでの曇り顔できるの!? 結婚指輪に添えても映えそうなくらいの輝きじゃん!! 五億カラットくらいあるんじゃないの!? 口田くんとか! 飯田くんとか! 尾白くんとか! 切島くんとか! 瀬呂くんとか! 常闇くんとか! 他のみんなの顔も可愛いね!! みんなはヒーロー志望だもんね!! 僕のこと大好きだもんね!! 強い僕のこんなに弱い独白は!! 最高の栄養剤だろ!?!? 超えてみろよ!! Plus Ultraしてみろよ! 最高級の曇らせを見せてくれよ!!
特に青山くん最高じゃん!! そうだよ! ヴィランの君は違う!! ヒーローのはずの僕は!! 怖さを押し殺して!! ヒーローを貫いたんだよ!! 君とは違ってね!!
あ〜‥‥口の中で血の味がする‥‥やばいな‥‥口内炎できるだろこれ‥‥どっかで誰かに押し付けよ‥‥
ちなみに明日これ以上の曇らせをくれてやるから覚悟しろよ?♡
「ゆず、くん‥‥」
「な‥‥んて顔してんの、出久くん。みんなも! 何? 僕がこの程度で挫けると思ってんの?」
立ち上がって浴衣の裾を直す。そしてグッと体を伸ばして、手を打った。何も怖くない。何も負けてない。僕は僕であるということを示すように。かっこいいヒーローであることを示すように。
みんなの中の、A組の一人として、最大限カッコつけてやるのだ。
これは伏線だ、明日に迫った最高の悲劇を、彩るための伏線だ。
「そんな顔似合わないぜ? A組!」
× × ×
「ねぇ、盗聴しない?」
「何言ってんの芦戸?」
人差し指をピーン! と立てながら芦戸はA組の女子メンバーの前でそんな提案をした。みんなでトランプをしながらのことである。時刻的には舞妓が自身の個性について話す前のことだった。
「いやさ? 男子が何話してるのか気になるじゃん?」
「まぁ、ちょっとわかる」
「それであたしたちがあっちに行ったらたぶん話題変わるじゃん?」
「まぁ、そうなるわね」
「だからさ! どんな話してるのか気になるし、揶揄うネタになるかもだし! どうかな?」
「どうかなって‥‥どうやってするつもりかわかんないけど、ダメに決まってんじゃん」
A組の女子メンバーが呆れながら芦戸の提案にため息をつく。そのため息はヒーローとしての矜持を思い出させるようである。
「でもさ? 男子が恋バナとかしてたら気にならない? 誰が誰好き〜! とか、元カノとかさ!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「めっちゃ深い沈黙だ‥‥肯定ってことで良い?」
「‥‥‥手段はどうするつもり?」
「耳郎さん!?」
芦戸は一人落とした、と思った。ニヤリと口の端を悪戯に歪ませながら腕を組み作戦を得意げに語る。
「まず、耳郎がイヤホンジャックで壁を突くでしょ? そこで流れてくる声をヤオモモのスピーカーで拡散する! 暗躍ヒロインチーム! 『パーフェクトジャック』!」
「名前つける必要あった‥‥?」
耳郎がイヤホンジャックを指でくるくると回しながらそう言う。明後日の方を見るその目はどこか照れくさそうだ。
「芦戸さん! 盗聴なんて非道な行為ですわ!」
「でも考えてみてよ? この先ヒーローとしても潜入調査とかするかもしれないじゃん?」
「それならそのときにまた個性を有用に使用しますわ!」
「‥‥例えば、舞妓が好きな人の話してるかもよ? こんな子が好き、とか、こんな仕草が好きとかね!」
「‥‥‥‥‥何を言ってますの?」
「ヤオモモ、右手からスピーカー出てるよ」
策士芦戸は二人目も落ちた、と思う。悪どくニヤリと笑うと、ほらほら、と急かすように手を叩いた。その仕草はまるで林間合宿初日、魔獣の森を抜ける際の舞妓のようである。
正直、耳郎と八百万が落ちた時点でこの話を進めるのには十分だ。そして後押しとばかりにこんな話も付け足す。
「もし、ここで何かを聞いたとしても後腐れないように揉めるの禁止! どう?」
「ヤオモモ、スピーカー、ジャックの差し込み口どこ?」
「こちらですわ」
実行犯の二人がテキパキと動くのを見ながら芦戸はうんうんと腕を組む。しかし、そこに割って入る影があった。
「やっぱりそんなことしたらあかんよ!」
「そうよ、考え直して?」
声を上げたのは二人、麗日と蛙吹の二人である。ヒーローの適性がとても高い二人が盗聴という行為に待ったをかける。
「ふふふ、仲のいいあたし達だから許される行為もあるでしょ!」
芦戸は最早テンションが最高潮まで上がっている。そしてそれに付随して他のメンバーのテンションも上がっていた。
『舞妓は好きな子とかいないの?』
『恋愛的な意味で? いないなぁ‥‥』
『じゃあ、好きなタイプは?』
『えぇ〜‥‥僕のことが好きな子?』
『刺されろ!!』
イヤホンジャックの音が増幅されて八百万が作り出したスピーカーから聞こえてくる。聞こえてきた内容が内容であったので女子のテンションが際限なく上がっていく。
そう、ここまでは。
『響香ちゃん達には内緒にしてね』
そう、その話は、内緒にしてねと彼が口にしたそれは、クラスメイトの英雄的なその言葉は‥‥
A組女子の皆の心を打ち砕くのには十分な破壊力を秘めていた。
『そんな顔は似合わないぜ? A組!』
もし、もしも、この場に、舞妓譲葉がいたのなら。きっと、叫び声をあげていただろう。男子よりも、よっぽど、よっぽど曇った少女がいたからだ。
「はっ‥‥はっ‥‥は‥‥うぅっ‥‥」
「耳郎さん!?」
「響香ちゃんしっかりして!」
背中を摩られながら耳郎が蹲る。呼吸が荒い、息は乱れ目尻には涙が浮かぶ。口の端からは胃液が流れ、目元は虚だ。
「はっ‥‥‥はっ‥‥‥!」
「落ち着いて! 息吸って! 大丈夫だから‥‥!」
あぁ、彼女達はきっと、悪戯のつもりだったのだろう。きっと、その程度の心持ちだったのだ。蛙吹と麗日の言う通り止めておけばよかった、などと考えてももう遅い。もう、その審判は下されてしまった。少しのイタズラにしては重すぎる罰を。
夜は更けていく。霧が深くなるように、ゆっくりと、絶望を浴びて。
そして、三日目を迎える。
物語が動いた。
どうだったでしょうか? んこにゃ様の絵はいつも良いですよね‥‥
いつも感想ありがとうございます‥‥全部見てます! 全部返してる‥‥つもりです! なんかたまたま返せてないとかって人がいたらごめんなさい!! 全部読んでます! 励みになってます! ありがとう‥‥評価もたくさんしてくれて嬉しい‥‥ここ好きで跳ね上がってます。
みんな曇らせ好きですか? 私は大好きです。
それと、私は嘘はついたりしますがここではつきません。
これ、助走ですし、少なめですよ。次回をお楽しみに。
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