個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア! 作:波間こうど
Step
「‥‥‥つまり今の舞妓の体には二つの個性が宿っているってことですね?」
「そういうことになりますな。本来の個性である位置を入れ替える『不義遊戯』とラグドールから奪われた『サーチ』が舞妓くんの体には宿っています」
現在、僕は病院に来ていた。というかまぁ、入院してたんだけどね。入院というと都合がいいか。隔離されていたのである。
理由なんて言うまでもなく、検査のためだ。まぁ、長年日本を恐怖のどん底に陥れていた最悪のヴィランであるところのラスボス先生が改造したとまで言ってるんだからそりゃまず病院で検査するところから始めるよね。そりゃね? 仕方ないね? 何が埋め込まれてるかわかったもんじゃないし。精神状態が壊れてないかとか操られてないかとかめちゃくちゃに検査されました。
まぁ、個性が増えてること以外は健康体そのものなんだけどさ。五体満足です。あ、足はないですね、四体満足でした! これはいつも通りですね。ウケる。
そんな隔離されていた僕の様子を見にきてくれたのは担任の相澤先生だ。親とすらも面会できず、ほとんど常に誰かしらに監視されている状態で一週間近くの時間を過ごしていたが、そろそろ解放してヒーロー側としても学校側としても寮なり何なりで手続きを踏みたいからということで引き取りに来たらしい。
「‥‥‥舞妓、どうだ? 違和感はあるか」
「まぁ‥‥ちょっと“見え”すぎますね‥‥ラグドールの視界がこうだったって考えるとあの人すごいです‥‥‥」
頭を押さえるようにして情報量に酔いそうだと伝えておく。お医者さんはカルテになにやら記入しながらうーむと唸る。‥‥まぁ、ドクターなのでどんな状況かなんて全部把握してるんだけどね。ちなみにそんな症状は実際ない。
「一週間入院して貰いましたが特に人格の乖離もありませんし、乗っ取られている様子もありません。他に個性が埋め込まれていないかなど様々な検査を行いましたが‥‥どれもオールグリーン。なにも問題ありません」
「そうですか‥‥ありがとうございます」
相澤先生が頭を下げるのに倣って頭を下げる。それを見たドクターはにこやかに「大丈夫ですよ、お大事に」なんて言って送り出してくれた。いい人だ‥‥長年ラスボス先生の片腕してただけあるよ‥‥今度ドクターが欲しがりそうな個性で僕の計画に必要なさそうなモブ何人か連れてきてあげるね!
「‥‥‥体に違和感とかないか」
「相澤先生は僕が病院に入院するたびに過保護になりますね?」
「そんなつもりは‥‥」
「ないって言いきれます?」
「‥‥‥‥‥」
病院から外に出て目一杯新鮮な空気を吸い込む。いや〜、中はダメだね。消毒液の匂いが強すぎて嫌になっちゃうよ。あんなところにずっといるのはダメだね。監視もずっとされてたし居心地超絶悪かったわ。一応形として検査はしっかりされたからなぁ‥‥異常があったら隠してもらえる手筈にはなってるけどね。
「家まで送る。タクシーを呼んであるからついて来い」
「送ってくださるんですか?」
「お前が狙われていたことは変わらないからな、救出できたとはいえ敵連合は依然としてお前のことを標的にするだろう。しばらくは警護するのが合理的だろう」
「うへ〜‥‥息が詰まりそうですね」
まぁ、僕が狙われることはないけどね。だって自分からあっちに出向くし‥‥何ヶ月もしたら流石に解放されるだろ。僕深夜とかに一人でコンビニ行ったりするの好きだからできれば護衛とかやめてほしい。
‥‥‥いや、寮に入るから無理になるのはわかってんだけどね???
「あと言ってなかったが家庭訪問を行う」
「え、あ、はい‥‥それがどうかしましたか?」
タクシーに乗った瞬間に相澤先生からそんな言葉をかけられた。うん、知ってるよ? だから僕が入院を許可したんだもん。何が悲しくて親と教師が面談する場所に僕がいなくちゃいけないのさ。気まずいって。原作では一週間以内に終わってる話だし、僕の計算上もう話はつけてあるでしょ、ふふ、これで僕は気まずい空間に一歩も足を踏み入れることなく入寮を果たしたのだ。‥‥‥いやまぁ、うちの両親が入寮を断ってる可能性もなきにしもあらずだけどさ。
‥‥いや待て、『行う』?
「いつですか?」
「今からだが?」
「‥‥え? 終わったんじゃないんですか?」
「お前がいないのに行えるわけがないだろう。三者面談だぞ」
ウッソでしょ!? 家庭訪問ってだけしか聞いてないんだけど!? 原作での耳郎ちゃん、かっちゃん、出久くんは確かに三者だったけど! 僕がそうである必要はないじゃんか!!
「‥‥‥ごめんなさい、病院に戻れますか? 入院し直したいです」
「なんでお前そんなに顔が曇ってんだ‥‥?」
嫌だって!! あの両親を!! 先生と会わせるだけでも気が引けるのに!! その場に居なくちゃいけないんでしょ!? は!? 正気!? キッツイ!!
「‥‥‥会えばわかりますよ、会えば」
「そうか、体調不良なんかじゃないなら別にいい」
「‥‥‥相澤先生」
「なんだ?」
僕は車酔いになりそうな頭を必死に押さえながら相澤先生にじろりと目を向けた。そしてゆっくりと警告だけを口にする。
「‥‥‥“覚悟”だけはしてくださいね」
「‥‥‥そんなにか」
あ〜‥‥本当に嫌だなぁ‥‥なんて思いながらお腹を押さえる。これは酔ってお腹が痛いとか吐きそうとかじゃなくて普通にこれからの出来事が嫌だからである。親は尊敬してるし、感謝もしてるけど普通に友達とかじゃなくて教師と会わせることに“キツ”さを感じるんだよね‥‥‥
× × ×
無事に家庭訪問兼三者面談が終わる。‥‥いや、僕のメンタル的には無事じゃないけどね。
「‥‥‥‥‥‥すごい親御さんだな?」
「なんか、本当にごめんなさい‥‥」
家庭訪問が終わった後、僕は家の前で相澤先生に頭を下げていた。土下座とかじゃなく普通にぺこりと、謝罪の意味を込めて九十度くらいの角度で腰を曲げての謝罪である。マジでごめんなさい。相澤先生が言葉濁すってすごくない? うちの両親。
いやね。両親は普通の人なんだよね? 片方ずつとかだとマジで一般的な‥‥いや、それでも一般的な部類の人間とは言い難いけど、まだマシなんだよ。でも、両親揃うともうダメ。中学生もびっくりのイチャラブカップルの完成だ。あれほどの愛情がお互いに向いているだけなら百歩譲っていいんだけど二人の愛の結晶(笑)であるところの僕にもその愛情は存分に向けられており、未だに「ゆずちゃん」って呼ばれるんだよね。
それはたとえ出久くんが来ようが外に出ていようが変わらない。マジのラブラブカップルでマジの親バカ。それが我が両親なのだ。ほんと、心配かけたのはごめんだから一日に500件のメッセージ送ってこないで欲しい。
ちなみに僕の携帯は渡されてはいたものの親以外と連絡を取ることを固く禁じられました。混乱が生じるからとかなんとか。結構な頻度でA組のみんなから連絡が来てたし、拳藤ちゃんとかからも連絡来てたんだけど全部返せてないんだよねぇ‥‥なんならかっちゃんからも一件来たよ。かっちゃんの連絡先まだ残ってたんだってレベルで使ってなかったから来たとき思わず五度見したけど。
さて、話が逸れたね。その親バカっぷりが先生との面談のときに治るかと言われると答えはNoで、相澤先生の前で頬擦りされ、相澤先生も巻き込んで『舞妓譲葉の良いところ』で山手線ゲームしようとし出す始末。イカれてんだろマジで。呪術師の才能があるよ。
この世界で多分僕が唯一どうにも出来ないものである。
「‥‥いい親御さんじゃないか」
「いい親ではありますね‥‥感謝もしてますし、尊敬もしてます。ただ‥‥‥」
「気持ちはわかるがその顔はやめてやれ」
ため息をつきながら頭を上げると相澤先生はどこか微笑みながら僕の背中をポンと叩いた。
「次は夏休み明けになる。しっかりと体調を整えてくるように」
「はい‥‥‥あ、そろそろA組のみんなに連絡返していいですか?」
家から帰っていく相澤先生にちゃっかりと許可を貰ってから見送る。あとで個別にメンタルケアしとかないと‥‥まぁ、メンタルケアって言っても曇らせのためにみんなのメンタルをそこそこに不安定にしてあげることなんだけどね! 今はガッツリ不安定だろうからそこからそこそこの不安定くらいに治してあげるのだ。上げて下げた方が美味しいからね。
家の中に入ってめんどくさい絡み方をしてくる母親と父親を避けて自室に向かう。まぁ、一人息子であるところの僕が家から通える距離の高校で寮生活するってなったらそりゃまぁ寂しいだろうけどわざわざ抱き付かないで欲しい。今夏だぞ。
自室に入ってからすぐに盗聴防止用の機械にスイッチを入れて携帯で暗記してある番号に電話をかける。すると数回のコールの後で相手が通話に出た。
『ゆずくん!』
「へ? ヒミコちゃん?」
『どうしたの!?』
「弔くんの携帯じゃないの? それ」
『弔くんが貸してくれたのです!』
携帯貸すなんて丸くなったな‥‥僕と会ったときなんてゲームのデータすら見せようとしなかったくせに‥‥なんなら読んでる本とかコミックすら見せてくれなかったのに、携帯なんて個人情報の塊を人に貸せるようになったのは成長なのかな? トガちゃんのことを仲間として認めてる証拠だろう。
「ヒミコちゃん。黒霧さん呼んでくれる? そっち行くからさ」
『え! 来るの!? やったぁ!』
はちゃめちゃに喜んでくれているトガちゃんの声を聞きながら荷物をまとめる。どうせ弔くんたちがまともなご飯を食べてるわけがないし、適当に差し入れでも持っていってあげることにしよう。まぁ、といっても料理する時間とかないのでゼリーとかだけど。
「黒霧さんに僕の部屋にゲート開いてもらってよ。いつもの人目につかない場所も考えたんだけど多分今監視されてるからさ」
『わかった! 黒霧さんに言ってくるね!』
さてさて、トガちゃんと通話が途切れた携帯でクラスグループにメモしておいた謝罪やら何やらを書いた物を貼り付けて送信し、他にもみんなそれぞれに書いたメモをコピペしていく。そうこうしているうちに僕の部屋にゲートが開いてそこからヌッと黒霧さんが顔を出した。
「舞妓譲葉、お疲れ様です」
「いつもありがとうございます、黒霧さん」
「構いませんよ」
黒霧さんに案内されるままに足を踏み入れる。ヒーロー側として一週間を過ごしたのでそろそろ息抜きしたいんだよね。転移するときの浮遊感に包まれながら僕は少しの間だけ目を閉じた。
× × ×
「やぁやぁみんな、元気してる?」
敵連合、そのみんなが集合している空き家に僕は居た。黒霧さんにワープしてもらって約一週間ぶりのご対面である。うんうん、みんな元気そうでなにより‥‥‥
「ゆずくん!!」
「グェッ!」
手をあげて軽やかに挨拶すると僕にトガちゃんが抱きついてきた。受け止めようとするもバランスを崩して倒れてしまう。ちょ、おっぱい! おっぱい顔に押し付けるのやめて! 潰れる‥‥! 息できない‥‥! 首絞められた鶏みたいな声出たじゃんか!
「‥‥‥お前が来ると騒々しいな」
「弔くん! ヒミコちゃんのこと離して!」
「しばらく抱きつかせてやれよ。お前が居なくて随分寂しそうだった」
もう! 丸くなっちゃってさ! でもこのままじゃ格好がつかないので流石にマグ姉にお願いして離してもらう。マグ姉は男女の距離感をしっかり理解してるからいいよね!
「舞妓譲葉、何か飲みますか?」
「あ、じゃあウォッカ!」
「烏龍茶ですね」
黒霧さんに渾身のボケを躱されながらソファに座る。この空き家アジトすごいボロボロなんだけどどこか秘密基地みたいで嫌いじゃないんだよね。
「元気してたか?」
「コンプレスさん親戚のおじさんみたいだね」
やいのやいのと烏龍茶を片手にみんなと久しぶりの交流をする。みんななんかテンション高いね。久しぶりの僕に嬉しくなっちゃってるのかな? 可愛いね♡
「おい、お前らテンション上がるのはいいが少し落ち着け」
「まぁまぁ、譲葉ちゃんと会うのも久しぶりなんだし少しくらい許してあげましょう?」
「そうです! ゆずくんと会えるの一週間に一回とか! 耐えてる方だよ弔くん!」
ソファの後ろから僕に抱きついてその二つのお山を押し付けてきているトガちゃんの頭を手を伸ばして撫でながらみんなと会話を弾ませること小一時間。流石に本題に入りたくなったのか弔くんがお小言を口にした。それに対してマグ姉とトガちゃんがキャイキャイ言うのを聞きながらつい笑みが溢れてしまう。みんな可愛いね‥‥‥懐いた猫みたい。
「譲葉。夜までは居られるんだろ?」
「流石に晩御飯前には帰るけどね。怪しまれたくないし」
「えー! 泊まっていってよ!」
僕の肩に頭を乗せたトガちゃんの頭を撫でながら適当に宥める。いや、退院しました〜! お泊まりしますね〜! は流石にやばいでしょ。怪しまれること請け合いだよ。これでも一応部屋から飛んでるんだからね? ウチの親はプライベートはきちんと守ってくれるタイプなので部屋には入ってこないのだ。
「ほら、本題に入るぞ」
弔くんがここ最近で身につけた上に立つ者の覇気のようなものでみんなを黙らせる。雰囲気を一瞬で作り変えるのマジでボスって感じしてかっこいいよね。どーやってんだろ、これ。
「組織の拡大‥‥そこはまぁ、今まで通り重きを置く、それから‥‥面白い噂も入ってきてる」
「面白い噂?」
荼毘くんの言葉にニヤリと笑うと弔くんは追って話すから今は待てと言うように手で制した。荼毘くんはそれを見て口を閉じる。‥‥君ら仲良いな?
「譲葉。お前にも仕事を回すがいけるか?」
「誰にもの言ってんの? 大体この組織僕がいなきゃ立ち行かないじゃん」
「ハッ、手痛いこと言ってくれるなぁ相棒」
弔くんはどこか嬉しそうに笑いながら作戦を話す。その口角の上がり方はどこか、僕たちの先生に重なって見えた。
「いい話があるんだ。乗れよ」
‥‥‥もう既に悪の帝王の座が見えるくらいまで来てない? これもう器が過ぎないかな‥‥?
× × ×
夏休みの真ん中辺りになる八月中旬。僕たちは夏休み最終日だというのに雄英にまでやってきた。理由はそう、入寮である。みんなして所定の位置に集まってこれから自分が過ごしていくことになる寮を見上げてテンションを上げていた。
「三日で造ったにしてはデケェ建物だなぁ‥‥個性って言えばなんでも通ると思ってない?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「というか1年A組って書いてるけどもしかしてあれ? これ一クラスにつき一つ? 馬鹿みたいにお金かかってるんじゃないの‥‥?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥いやぁ〜、残暑がすごいね! 流石に暑いや! 汗ばんできちゃったぜ!」
「暑いのは残暑のせいじゃなくて舞妓の状況のせいじゃ‥‥?」
「冷やしてやろうか?」
「うん、目蔵。わかってるから言わなくていいよ、現実逃避だからさ。あと焦凍は優しいね‥‥冷風とか送ってくれる?」
涼しい〜‥‥と現実逃避を続けているが、そろそろ現実と向き合わなくちゃいけない。いやね? 本当はあれよ、別に嫌とかじゃないんだよね。ただ、“見え”すぎる今の状態を考慮した上でさ、この曇らせを見たら死んじゃうんじゃないかって懸念があってですね? あとテンション上がってるのは僕だけで他のみんなはテンションすっごい低かったです。
「‥‥‥響香ちゃん、透ちゃん、百ちゃん、とりあえずさ。離れよ? ね? ほら、僕の服がドロドロになっちゃうから‥‥ね? あと僕一応男の子なんだよね、ネットに裸晒されて『女の子じゃん』ってネットニュースになったけどさ! 男の子だからさ!」
そう。僕は今、右を耳郎ちゃん、左をヤオモモちゃん、前を葉隠ちゃんにガッツリとホールドされているのだ。涙と鼻水で服べしょべしょなんだよね。見てなくても服が濡れてるのを理解できるくらいには濡れてる。特に右と前。ウケるね。
今、僕は天を仰ぐことによって視界を三人から外している。そりゃそうでしょ、絶対曇ってるのわかってるのにこんなところで見たらヤバいって。確実に声出る。
というのもこの三人。あの現場に足を運んでいたようなのだ。索敵だったりで役には立ったものの僕をラスボス先生から取り返そうとすることはできなかったとかでめちゃくちゃ気に病んだ謝罪のメッセージが来ていた。ヤオモモちゃんは半日に一回くらいのペースで長文が、葉隠ちゃんは一日に一回くらいのペースで、耳郎ちゃんなんてずっと見てんの? ってくらい来てたもんね。返信にも即既読がついた。はえーよ、ホセ。
ヒーローになりたい彼女たちからしたら大事な友人であり、彼女たちの代わりに連れて行かれた僕が、捕まっているのに助けることができなかった。なんの役にも立てなかったという事実はそれなりに大きな十字架となって彼女たちの心を蝕んでいるのだろう。まぁ、戦闘のスケールが違うから仕方ないよ。あの場面で出てきても大怪我するだけだしね。大怪我したら貰われてさらに曇ってただろーし命拾いしたと思った方が賢明だよ?
話を戻そう。つまり、今僕の目の前には『助けに来たのになんの役にも立たなかったポンコツ三人』がいるってことになる。しかも三人ともいい曇らせ顔をしてくれるんだよね。
そして! 何を隠そう僕の目には今! 葉隠ちゃんの顔が見えるのだ!! ふふふ、これによって普通なら見えない葉隠ちゃんの顔と!! 耳郎ちゃんの顔!! ヤオモモちゃんの顔!! 泣いて曇ったその顔をしっかりと目に焼き付けることができる!!
「‥‥‥ほら、実際は無事だったわけじゃん?」
「でも゛ぉ゛」
「ほらほら、怪我してないよ! 元気元気!」
「脳無に改造されかけたけどな」
「相澤先生黙っててくれます!?」
葉隠ちゃんのべちゃべちゃに泣きながら抱きついてくる頭を撫でながら天を仰ぐ。いやね、もう見ていいかな? いいよね? 曇らせ泣き顔見ていいよね!? それじゃあ、皆さん顔を下ろしますよ〜!
せーの!!
「‥‥‥‥‥ぐッッッ!!」
「ユズ?」
「ゆずちゃんどうかしたの‥‥!?」
「舞妓さん‥‥!?」
はぁはぁ〜〜〜ん? そんなに可愛い顔されたら困るじゃん!! 僕に対して向けてくる泣き顔が良すぎるよ〜!! 顔ぐちゃぐちゃにしてさぁ〜! モテてるみたいに見えるけどこれ違うな! 助けに行ったのに何の役にも立つことができなかった悔しさとその助けたかった相手が一生懸命笑顔作ってることへの罪悪感に耐えきれなくなったやつだな!! ごめんね! これも全部作戦だし、君が抱きついてる相手は思いっきり敵のNo.2なんだよね!! 悪いね!! 君たちが泣きついてる頼り甲斐のある男はマジでしっかりとしたヴィランなんだよ!! 泣き顔可愛い〜!! 曇り顔もいいけど泣き顔もいいよね‥‥やっぱりあれか? 元がいいからか? それと葉隠ちゃんだよ!! この子の顔が良すぎる‥‥おい! キープアウトしろ!! 見せもんだとしても出来が良すぎるって!!
「可愛い女の子たちを泣かせるなんて‥‥僕はダメなやつだ‥‥!」
「この状況でふざけられるの肝っ玉据わりすぎだろ」
「オイラ、あの状況羨ましいはずなのに羨ましく思えないもんな‥‥」
峰田くんが羨ましく思えないのも無理はない。だってラッキースケベとかよりも完全に依存とか、破滅とかそういうのが似合いそうな懐き方されてるもんね。えっちさのかけらもないし、一応ヒーローとしての素質がある面々から見たら僕のこの状況なんて胸が痛んでるだろうなって案件でしかないわけだし。
というか大体その僕自身が化け物に変えられそうになったばっかりっていうね。おいおい、何でこいつこんなにメンタル強いんだ? 理由? 全部僕が原因だからですかね?(諸悪の根源)
「ごめんね゛‥‥ウチらが、ウチらが人質に取られて‥‥」
「馬鹿だなぁ‥‥ヒーローなら当然のことでしょ?」
「救けに出向いたのに何の役にも立たず‥‥申し訳ございません‥‥」
「気にしなくていいのに‥‥救けに来てくれたこと自体が嬉しいんだよ」
二人の頭を撫でながら正面の葉隠ちゃんも何か言いたそうにしているので首を傾げてあげる。すると彼女にも思うところがあったようで、口をゆっくりと開いた。
「迷惑ばっかりかけてる‥‥うぅ‥‥ゆずちゃんごめんね‥‥」
「迷惑だなんてさぁ‥‥かけられてなんぼのヒーローを目指してるんだけど?」
「でもぉ‥‥」
「でももクソもないよ! みんな笑ってた方が可愛いって! ね?」
僕のその言葉を聞いて三人が鼻を鳴らしながらも少し離れる。‥‥納得はしてないけどこれ以上泣き喚いてもみんなに迷惑かけるし、僕にも余計な負担をかけるだけだと考えたのだろう。いい判断だと思いますよ。できれば離れてくれないと僕が曇らせのスリップダメージで死んじゃう。
それでもなお、僕に潤んだ瞳を向けてくる葉隠ちゃん可愛いね♡ 見えてないと思ってんだろーな‥‥種明かししてやろ。
「ほら、透ちゃん、涙で可愛いお顔が台無しだよ?」
「見えてないくせにぃ‥‥」
「残念! 僕は今『サーチ』があるから見えてるんだよね。想像の100倍可愛い顔だね! 100点だと思ってたのが10000点だったよ!」
「へ‥‥? え!?」
涙を拭ってあげてからべっ、と舌を出してあげると顔を羞恥で真っ赤にした葉隠ちゃんが僕から距離をとって離れていった。その後いつもの流れ、ノルマと言わんばかりにイヤホンジャックが飛んでくるのでそれを華麗に躱す。完璧だとドヤ顔をしようとしたら左足を思いっきり踵で踏みつけられた。踏みつけたのはヤオモモちゃんである。
「い゛ッ!!」
「乙女心が分からない人は馬に蹴られますわよ!」
「なんでぇ‥‥?」
僕が涙目になりながらそんなことを呟くとそろそろ、業を煮やしたのか相澤先生が大きく、これ見よがしに聞こえるようなため息をついた。
「‥‥‥話していいか?」
「大丈夫ですわ」
「百ちゃんが決めるのぉ‥‥?」
弱々しい僕の声を無視して相澤先生が口を開く。その声色には重々しいものがのしかかっていて、今までの明るい雰囲気をぶち壊すような暗さがあった。
「大事な話だ、轟、切島、緑谷、爆豪、八百万、葉隠、耳郎、飯田。お前たちはあの晩あの場所へ、舞妓救出に赴いた」
「え‥‥」
「その様子だと行く素振りは皆も把握していたわけだ。色々棚上げした上で、はっきり言うよ。普通なら舞妓以外を除籍処分にしてる」「先生、そりゃないでしょ! いや、ルールを守らなかったのはダメだけど‥‥本当にそこはダメなんだけど! でも、僕は助けられたじゃないですか!」
「オールマイトの邪魔になって怪我を増やしただけだろ。一度は確かに取り返したかもしれないが、そのあとは? 個性を使っての戦闘まで行うところを見られているんだぞ?」
「助けられました! 出久くんの声で! 僕は意識を取り戻したんですから!!」
熱く語りかける。‥‥いやね? 除籍がないってことは知ってるんだけども‥‥ちょっと怖くなってきたと言うか‥‥端的に適当にフォローしておかないと後がまずそうと言うか‥‥結局何の役にも立ってないからね。うん、そりゃ、ルール破ってオールマイトに迷惑かけたような生徒は普通に除籍すべきだろーけども! 曇らせ対象がいなくなる可能性が少しでもあるのは困ります!!
「よく聞け舞妓。普通なら、だ。今雄英がヴィランは元よりマスコミや世間からの視線に晒されて狙われている現状。雄英から人を追い出すことはできない。オールマイトも事実上引退だしな。追い出したお前たちの誰かが敵連合に傷つけられでもしたらヒーロー社会は根底からひっくり返る。今はそれくらい繊細な時期なんだよ」
相澤先生が頭をボリボリとかきながらそう言うと僕以外のみんなの方をジロリと睨んだ。
「お前たちがどういう形であれ俺たち雄英の信頼を裏切ったのは変わりない。正規の手続きを踏んで、信頼を取り戻してくれるとありがたい」
「‥‥‥最初からそう言えばいいじゃないですか」
「うるさい。さ、中に入るぞ! 元気に行こう」
待って、いけないです。とテンションが下がってるみんなを見て少し顔を引き締める。ゆっくりと足を前に進めてみんなの前、さっきまで相澤先生が立っていた場所に立った。みんなの顔を見渡してから、ゆっくりと口を開いた。
さてさて、ここからが曇らせの始まりだぜ?
「みんな、僕からもお話いいかな。さっきは濁したけど、大事な話」
「グループにも送ったけど今の僕は個性を二つ持ってる状態なんだよね。元からの『不義遊戯』とラグドールの『サーチ』‥‥‥この個性はいつか、時間がかかってもラグドールに返せたらな、とは思ってる」
「‥‥‥これを最初に言わないとだよね、みんな迷惑かけてごめん。捕まってごめん。僕は強いって慢心があった。みんなのことを助けられると思って、助けなくちゃって思って森に入って行ってこのザマだ。迷惑ばっかりかけてごめん」
「除籍ギリギリまで行ったのだって僕が捕まったのが原因だもんね。本当にごめん。でも、もしみんなが許してくれるのなら、これからも僕をA組の仲間としていさせて欲しい。お願いします」
頭を下げる。いや、我ながらどの口が言ってんだよって感じなんだけどね! ぶっちゃけ内容も全部全部僕が仕組んだことで、こんなこと言ってるけど昨日は敵連合とお泊まり会しましたって最悪の人間なんだけども、許してくれるだろうか? ま、許してくれないなんてことありえないんだけどね!
だってみんなの心には僕がもう居座ってるでしょ?
「頭あげてよゆずくん! 何の役にも立ってないのにそんなに謝られたら立つ瀬ないよ!」
「‥‥助けられたとか助けられてないとか、そういうのはどうでもいいんだけど。さっき、相澤先生は僕以外をって言ってたけど、僕の方が除籍されてもおかしくないしでかしをしてるんだから」
頭をあげる。そこにはみんなの曇った顔。まだ、まだだぞ‥‥こっからだ。
僕の曇らせは隙を生じない二段構えだからね。
「だから、君たちが僕とはもう組めないって言うのならいつでも出ていく覚悟はできてる。だから正直に言って欲しいんだ」
チラリと前を見る。するとそこにはいつぞや以来の曇らせの楽園が広がっていた。
ファ〜!! こんなに可愛い顔しないで欲しいよ!! そうだよね!! みんなよりも強くて賢くて頼れる存在である僕がみんなのために!! 人質になったんだもんね!! みんなの人質になって改造人間にまでされかけて!! 個性が二つなんていう体にされちゃった人間がまさか自分が全部悪いなんて言って謝ってきたらそんな顔になるよね!! しかもその相手は誰も手出しできなかったオールマイトですらも苦戦した相手に対してオールマイトを助けた存在で!! 今ネットで被害者なのに一番すごいんじゃないかって騒がれてる存在だもんね!! 自分の非力さとか!! 惨めさとか!! 弱さとか!! 全部わかっちゃうよね!! 最高だよ!! 特に助けに来たメンツの顔良過ぎない!? 元から可愛くてかっこいいみんなの顔歪んでた時の方が五億倍可愛いよ♡♡ 大好きだ〜♡ なんでそんなに天才的な曇り顔できるの??? オールマイトより曇ってかわいそうだね♡ オラッ、こっち向け! 目を背けんな!! お前の助けたかった相手は目の前にいるぞ!! ほらほら! 僕にその顔を見せてよ!! その曇った顔を!! 僕の目に焼き付けさせろ!!
「‥‥ゆずくん」
「うん」
出久くんがみんなの代表のように一歩前に出る。そしてギロリと僕を睨んだ。
「馬鹿にしないで。僕たちが君のことをそんな風に思うわけないじゃないか」
「‥‥出久くんはそうかもしれないけど」
「僕たちは! 君のことが大好きなんだよ! 君が出ていくなんて二度と言わないで!!」
‥‥出久くんガチギレだぁ‥‥すげぇ、こんなに怒ってるの久しぶりに見るな‥‥すっごい怒ってる。こうなったらテコでも引かないんだよなぁ‥‥頑固者め。
あ、でも出ていかないってのはあり得ないからね♡ そこまで曇ってくれるみんなが悪いんだよ。僕は自分のために最後出ていくから、よろしくね♡
「‥‥‥ごめんね」
僕の声だけが重々しく響く。それを聞いて切島くんや芦戸ちゃん、上鳴くんや瀬呂くんといった面々が盛り上げてくれるもののクラスメイトのテンションは静かだ。
このあと寮に入るまでそのテンションは続くことになる。重々しくしてごめんね♡ だけど僕的にはみんな無理して元気に振る舞ってるけど本音のところは曇ってて可愛かったよ♡
話は弾まず、そのまま一種の気まずさを残して僕たちはそのまま寮へと入っていった。
泣いてる子って可愛いと思いませんか? どうも、波間です。
今回の挿絵も神だよな‥‥ちなみに今んこにゃ様のTwitter(X)をフォローしてない人はすぐにしましょう。いいものが見れますので。
いつも皆さん感想をありがとうございます! 全部返してるつもりなんですが‥‥見逃してたらごめんなさい!! たまに見返してたら返してない!! ってのがあったりするので‥‥全部見てます!! 評価もありがたいことにたくさんの人にしていただいて‥‥ありがたいね!! 本当に!!
これからも頑張りますので応援のほどよろしくお願いします!!
映画編を入れるかどうかのアンケートをさせてください!
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入れたのが見たい!
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本編だけ追いかけるのでOK!
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アンケート結果が多い方で!