個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア! 作:波間こうど
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「1棟1クラス、右が女子棟、左が男子棟と分かれてる。ただし一階は共同スペースだ。食堂や風呂・洗濯などはここで」
「広キレー! そふぁぁぁぁぁ!!!」
芦戸ちゃんがさっきまでの暗い雰囲気を消し飛ばすように大きい声ではしゃいだ。うん、いいね。そういうのはヒーローに必要な素質なんだと思うよ。
相澤先生に案内されるようにして寮の中を巡る。というか一人に一部屋とは思い切った判断するよね雄英も。しかも男女同じ寮だぜ? 棟が分かれていたとしても普通に不純異性交遊とか行われてもおかしくないと思うんだけど‥‥そこら辺の対策とかは考えてあるのかな? ‥‥考えてないんだろうなぁ、ぼんやりとしか考えてなさそう。大体出久くんとかっちゃんの喧嘩すら後手の対応だったもんね。そりゃそこまで頭及んでないか。
「部屋割りはこっちで決めた通りだ。荷物は運び込んである。以上だ、明日以降の動きは明日説明する解散!」
みんなが部屋割りの書かれた紙に集まるのを掻き分けて僕の部屋の場所を確認する。‥‥僕の想像通り砂藤くんの場所に僕が収まった感じかな?
「ゆずくんは2階だね」
「ありゃ?」
どうやら僕は2階に部屋があるらしい。‥‥まぁ、考えてみれば当然か。一応僕ってば右足ないもんね。階段をたくさん使うのは流石に配慮されたみたいだ。峰田くんが原作で使っていた部屋が僕の部屋になるわけだね。まぁ、昇り降り面倒だからありがたいけど。
「じゃあ出久くん。またあとでね」
「うん! 僕の部屋早く終わったら手伝いに行くね!」
「いいよ、来なくて。僕こういうの得意だからさ」
出久くんとそんな会話をしてから自分の部屋に入っていく。と言っても僕の部屋は割と普通な部屋であるので荷解きに時間はそうそうかからない。基本的に嵩張りそうなものは置いてきたしね。本とか楽器類とか。実家を知ってる出久くんからしたら「本は!?」ってなるくらい置いてきた。
あっても触ってる時間ないだろうからなぁ‥‥みんなに曇らせの種を植えたり、関係性を強めたりするのに時間割いちゃうだろうし‥‥あ、でもでも多分みんなと仲良くなるのに使えるだろうなと思われるお菓子作りのための調理器具とか、文化祭で使うであろうギターくらいは準備してあるよ! あとはホームパーティ用のおもちゃとか! 僕は用意周到な男なのである。
さっさと部屋を片付けてから砂藤くんよろしく簡単なアップルパイを焼く。原作通りケーキでもいいんだけど‥‥一応ヤオモモちゃんが好きって言ってたしね。仲良しの関係はしっかりと強めておかないとね♡
おそらくもう少ししたらみんなが下に溜まりだすだろう。そのタイミングで芦戸ちゃんが原作通り部屋王してくれるだろうからそこで出来立てができるようにオーブンにセットしておく。ふふん。僕のお仕事は完璧だぜ‥‥
「‥‥楽しみだな」
部屋王と、その先に準備してある曇らせの祭典。そのために僕はニヤつく頬を片手で抑えながらそう呟いた。
× × ×
「いやぁ、経緯はアレだが‥‥共同生活ってワクワクすんな!」
「なんだかんだ言って林間学校も途中で中止みたいなものだし‥‥みんなとの生活結構楽しみだよ!」
一階に男子組(かっちゃんは除く)でたむろしながらお話をする。まぁ、みんなとしては僕の気を伺いながら、だけどいつもの僕であることをしっかりと確認しながら、という感じであろうか。なんだかんだ言って腫れ物に触るような感じじゃないなら良かった良かった。
「男子部屋できた〜?」
「うん、今くつろぎ中」
「あのね、今話しててね! 提案なんだけど! お部屋披露大会しませんか!?」
女子が一階のエントランスに降りてくるなりそんな風に提案をしてきた。計画通りもいいところだね。原作よりも被害が大きかったとはいえみんななりに日常に帰ろうとしているのだろう。その一歩としての提案が『部屋王』なのである。‥‥だからお菓子も準備してあるし、僕に抜かりはないぜ‥‥買収してやる‥‥
「わぁぁぁ!! ダメダメ! ちょっと待っ‥‥‥!!」
「オールマイトだらけだ! オタク部屋だ!」
お茶子ちゃんが声をあげる。みんなして2階に上がってゾロゾロと出久くんの部屋に殺到するのを見ながら後ろから眺める。オタク部屋も何も出久くんの部屋はいつもあんな感じなんだけどな‥‥割といつもあんな風な部屋してるぜ? ちなみにあのフィギュアは僕があげたやつですね。‥‥飾り方が祭壇みたいになってるけど、まぁ、いいでしょう。誕プレをしっかりと飾られてて嬉しくないやつはいないし。
「なんか始まったぞ‥‥」
「けど楽しいな、これ‥‥」
「くだらん‥‥」
みんながそれぞれの反応を示しながら女子の勢いに飲まれているのを見ていると原作同様常闇くんが自分の部屋の扉にもたれかかって入らないようにガードを固めていた。もう既に見ていて面白いな‥‥ちょっとイタズラしてやろう。
「三奈ちゃん、透ちゃん。あそこ踏陰の部屋だよ」
「なっ! 舞妓! 貴様!」
裏切ったな! みたいな顔をしながら僕の方を見てくる常闇くんのことをケタケタと笑っていると芦戸ちゃんと葉隠ちゃんがぐーっと常闇くんのことを押して部屋の前から排除していた。どうでもいいけど頬膨らませながら力入れるのあざとすぎると思うよ、葉隠ちゃんや。わざと?
「黒! 怖!」
「男子ってこういうの好きなんね」
「剣だ‥‥かっこいい‥‥」
「キャンドルなんてまたオシャレなもの置いてるなぁ‥‥」
「出ていけ!」
常闇くんに部屋から追い出されたので次は青山くんのお部屋に流れ込む。そこで僕は自分の目が良すぎることを少しだけ後悔した。
「んぎゃあ! 目がぁ!!」
「眩しい!」
「おい! 舞妓がムスカ大佐みたいになったぞ!」
おのれ青山くんめ‥‥一応君僕と同じサイドの人間のくせに! なんでそんなことするのかなぁ! 僕が何したっていうんだい! ‥‥あぁ、青山くんの情報をラスボス先生に逐一報告してますね♡ これもいつか知って曇ってほしいなぁ‥‥君は最後の最後で最高の輝きを見せてくれるからね‥‥しばらくは放置してあげるね!
「うぅ‥‥目が痛い‥‥」
「舞妓さん大丈夫ですか‥‥?」
「目が‥‥百ちゃん‥‥手握って‥‥」
「へ? え、ちょっ、なんでですの!?」
ヤオモモちゃんの手を握って目頭を揉む。うぉぉぉ‥‥目がよくなりすぎた障害だな‥‥これからは眩しい‥‥まばゆいものには警戒心を強めておかないと‥‥なんで一般的な部屋にミラーボールがあんだよ‥‥
「あと2階の人は‥‥?」
「あ、僕2階だよ」
「なんでヤオモモと手握ってんの?」
「ちょっと目が痛くて立ってられなくて‥‥」
「ヤオモモ代わるよ!」
「いえ、ヒーローたるもの仕事は全うしなくては!」
何やら周りが騒がしいがやっとこさ目がある程度回復してきたのでヤオモモちゃんから手を離す。せっかくのアップルパイを披露するタイミングが無くなってしまうところだったぜ。
「うん、みんな普通の部屋だからって文句言わないでよ?」
「‥‥普通?」
何やら普段の僕の部屋を知る出久くんが訝しんだ表情をしているが、本とか漫画系は全部置いてきたからね。実家は本で足の踏み場なかったけど今はそんなことないから!
「はいどーぞ!」
「舞妓の部屋って言うくらいだからなんか身構えたけど‥‥普通だな?」
「可愛い人形‥‥これどこのやつ?」
「ゆずちゃんの部屋だぁー!」
「葉隠!?」
みんながゾロゾロと僕の部屋を見て回るが怪しいものは置いてないよ? あと葉隠ちゃんは僕のベッドに何故飛び乗ったんだ‥‥? 普通にセクハラってやつでは‥‥?
「うわ‥‥甘い匂いする‥‥なんで‥‥?」
「あ、そうそう。アップルパイ焼いたんだ。みんなで分けて!」
「いただきますわ!」
何やら僕のベッドで遊んでいる葉隠ちゃんを横目にアップルパイをオーブンから取り出して大皿に乗せる。みんなで食べるといいよ、なんて言いながらパイ用の包丁をシャババ! と現れたヤオモモちゃんに手渡した。女子メンバーは目がキラキラしてて甘いもの大好きなのが伝わってくるからいいよね。
「うま!」
「ヤオモモの家で食べたのと同じ味がする‥‥なんならちょっと美味しくなってない?」
「結構こだわったからね!」
ヤオモモちゃんの家の食材よりはそりゃグレードは落ちるが、それなりに拘って作った一品だ。お口にあってくれたようで何よりである。みんなもぐもぐと食べながら口々に美味しいと感想を伝えてくれると作った甲斐があるね。
「こっちもいい匂いする‥‥」
「こら、透ちゃん。勝手にベッド乗らない!」
「何? 何かダメなことでもあるの〜?」
僕の枕に顔を埋めながらそんなことを呟く葉隠ちゃんに注意を飛ばすもニヤニヤと挑発するように笑う彼女はヘラヘラしながらベ〜と僕に向かって舌を向けた。
‥‥僕が見えていることが分かった上でその態度なのだろう。ここ最近お仕置きしてないしな‥‥考えるまでもなく大きいお仕置きは体育祭のアレ以来してないか‥‥仕方ないなぁ‥‥
「そこ、僕が普段使うベッドだってことわかってるよね?」
「え」
「その上でそこに寝るってことは“そういう覚悟”があるってことでいいのかな?」
「はへ」
「他のみんなには見えてないけど僕には見えてるよ? ‥‥顔真っ赤にして、この欲しがりが、いいぜ? 抱いてやろーか?」
「キャ〜!!」
芦戸ちゃんが黄色い声をあげる。そりゃそうだろう。僕は今自分のベッドに寝転ぶイタズラっ子の上に覆い被さるようにして腕を固定し、のしかかって舌舐めずりしているという見るからに“始まる”前の状況だもんね。うん。自分でもちょっと乗ってあげよ〜とか思ったけどやりすぎた感じはあります。誰か止めてくんないかな‥‥始まっちゃうぜ?
「ユズ! 3階行くよ!」
「ぐえ‥‥!」
イヤホンジャックで首を絞められて引っ張られ、ベッドから落ちてズルズルと引き摺られていく。ちょ、耳郎ちゃん耳郎ちゃん。止めてくれたのはありがたいんだけどさ、絞まってる、絞まってるって、ねぇ、死ぬ、死ぬって!
そうして原作通りの展開で男子の部屋を物色していく。途中から僕は耳郎ちゃんのイヤホンジャックで後手に両手を縛られ、歩くことに許可がいるようになってしまいました。囚人か‥‥? いやまぁ、一応ルートの中には囚人になるルートも存在するけどさぁ‥‥こんな感じで体験版みたいになるとは‥‥ラスボス先生お揃いだね♡
「ちょいちょい! 男子ばっかり言われっぱなしってのは変だよなぁ!」
「釈然としない」
「部屋王って言うなら女子の部屋も含めて行うべきじゃないか!?」
尊厳を傷つけられた一部の男子と全く懲りない峰田くんがブーブーとブーイングを飛ばす。僕としては助言の一つもしてあげたいところなんだけど今口に猿轡されてるんだよね。ちなみにヤオモモちゃんが作りました。僕危険人物扱いが過ぎない? ラスボス先生でもここまで酷い拘束されてないよ?
「いいよ!」
「えっ」
みんながわいわいとしているのを眺めながらそろそろ解いてくれないかなぁ〜‥‥なんて思う。男子の部屋はあと五つ。少なくともその間は解除してくれなさそうだなぁ‥‥
× × ×
男子の部屋の物色が終わり、とうとう女子の部屋の物色の時間になった。‥‥いや、とうとうって言ってるからって流石に僕が女子の部屋の物色したかったってわけじゃないよ? 違う違う! そんなわけないじゃん!
ちなみに監視カメラとかどの角度に置いたらバレないかな?
「なんかゆずくんソワソワしてない?」
「え、そうかな?」
嘘です。諸事情ありまして耳郎ちゃんの部屋はめちゃくちゃソワソワしております! いやね! 音楽好きとしてはたまらないんだよね、あの部屋!
「マジで全員やるの‥‥? 大丈夫?」
「大丈夫でしょ、たぶん」
恥ずかしそうにしている耳郎ちゃんがドアを開けるとそこには‥‥!
「思ったよりガッキガッキしてんなぁ!」
「スッゲェ!」
「これ全部弾けるの!?」
「一通りは‥‥」
原作通りの楽器がたくさん並んでいた。うわ! すご、いいギターだ! まさかヴィンテージ‥‥? お、ベースもめっちゃいいじゃん‥‥! この部屋の中にあるものだけかかってるお金の桁が違わない‥‥!? ‥‥まぁ、ヤオモモちゃんの部屋で逆転されるんだろうけどさ!
「響香ちゃん! めっちゃいいギターじゃん!」
「え、あ、うん‥‥オッさん‥‥父のお下がりで」
「へぇ! いい趣味してんね! 触っちゃダメ?」
「いいけど‥‥」
ゆっくりとギターのネックを握る。おぉ、めっちゃ手入れされてる‥‥こりゃ流石にモノがいいな‥‥こんなのライブに持って行ったらギタリストみんながマジで!? ってなるわ。ヴィンテージ物持ってる高一カッコいいな‥‥
ジャックを取り出してガチャガチャとアンプに繋ぐ。今かっちゃんが寝てるんだっけか? まぁ、寝てんのがかっちゃんならいっか! 他のみんな起きてるんだし! ちょっとぐらい音大きくしても怒られやしないさ!
「ね! 響香ちゃん! 準備はいい?」
「え? え?」
「1、2、1、2、3、4!」
ギターに指をかけて右手に持ったピックで掻き鳴らす。アンプに繋がれ、歪まされた音色が部屋を包み、クラスメイトたちに突き刺さった。基本的なフレーズから指を動かし、弾き上げるのはいつだかに彼女が好きだって言っていた洋楽だ。
「!」
「歌えよ、そっちのがロックだろ?」
初めて触れた子なのに僕の思い通りの音を奏でてくれる。いい子だ‥‥そのギターの音に合わせて耳郎ちゃんが口を開いた。そこから飛び出すのはびっくりするくらいの美声だ。‥‥マジで上手いな‥‥なんなんだこの子。普通に歌で金取れるでしょ。流石はYouTubeで一億再生された歌声である。
「うっま」
人と合わせるの初めてだから楽しくなってきたな! なんだかんだ言って人と合わせたりしないで練習してきたからこれが初の合わせなんだよね‥‥うわ、いいな。僕も、少し合わせよ!
「綺麗‥‥」
誰かがボソリと声を漏らしたのが聞こえた。ふふん。僕ってばコーラスまで出来ちゃうんだよね‥‥いやぁ〜! 参ったなぁ〜! この才能天才のそれだよなぁ〜!
ギターを彼女の歌に合わせる。コーラスをしながら彼女と視線をぶつけると、心底楽しそうな顔をして歌っているのが見えた。うわぁ‥‥いい顔! 可愛いね! こっから曇らされることが全く分かってない顔で正直感激ですわぁ〜!
彼女の歌声に合わせてギターをミュートにした、原曲ならここからアカペラで、最後にギターソロを少し弾いておしまいだ、彼女の歌声にうっとりとしているみんなのことを尻目にテンポを足で計る。そして指をゆっくりと指板の上を滑らせた。できる限りミスなく、誰の耳にも「いい音」であるとわかるように弾き切るとみんなからの拍手が届く。
「すっごい!」
「お前なんでも出来すぎだろ!」
「ゆずくんこんなにギター弾けたんだ‥‥」
「響香ちゃん歌うま過ぎない?」
みんなが僕たちを褒め称える中、ズンズンと耳郎ちゃんがこちらに進んでくる。ギターをスタンドに立てかけた僕の手を取って目を輝かせる。
「ユズ! やっぱりバンド組んで!」
「あっはっはっ! 誰か! 僕告白された!」
「絶対ちげぇって」
バンド組むとか告白でしょ! 違うの!? と上鳴くんの方に目を向ける。すると彼は違うと思う、と言うことを示すように手を顔の前で振っていた。そこまでぇ‥‥? いつだかに葉隠ちゃんが同じ様に首振ってたのを思い出すね。
「響香ちゃん手離した方がいいと思う」
「そうですわ、お部屋王を決めるのでしょう? 次々進まないと時間が足りませんわよ?」
「耳郎さん、ゆずくんから手離そっか」
何やらみんながゾロゾロと僕と耳郎ちゃんの間に入り、結局バンドの話はなぁなぁになってしまった。うーん、「諦めないから」という視線がビシバシ背中に届いております。まぁ、文化祭でライブするし、許してよね!
× × ×
あの後、普通に女子部屋の発表も終わって、みんなして談話室に降りてきた。女子の部屋に入るのはなんかあれだな、やっぱりヤリチンとかじゃないと流石に慣れないね。みんな男子は心臓ドキドキだったんじゃないだろうか。僕は別にドキドキしなかったよ! みんな可愛いけどなんかこう‥‥ね! 普通のみんなが服着てる状態じゃ食指が動かない様に訓練してるから‥‥
「えー! 皆さん投票お済みでしょうか! 自分への投票はなしですよ!」
芦戸ちゃんが元気にガサガサと投票のための箱に手を入れる。ちなみにあれは僕の私物である。ヤオモモちゃんに作ってもらっても良かったんだけど折角みんなと友好を深める機会だもんね、みんなで遊べるカードゲームやらボードゲームやらをたくさん持ってきちゃったよ。みんなと遊ぶのは曇らせのためもあるけど結構楽しみだ。
「それでは! 爆豪と梅雨ちゃんを除いた‥‥第一回部屋王暫定一位は! 得票数八票! 圧倒的な独走! 舞妓譲葉!」
でしょうね〜‥‥という感覚が捨てきれない。実際原作でも賄賂をした砂藤くんが一位だったしね。今回の僕のもその延長線と言われたらそれまでな気がする。まぁ、仕方ないよね。みんなのことを餌付けするのは僕の趣味の一つみたいなものなんだから。
「ちなみに票は全女子と緑谷と常闇に轟! 理由は『パイ美味しかった!』だそうです!」
「部屋は!?」
「なんか賄賂したみたいになった! ごめん!」
上鳴くんたちにポコポコと殴られながら謝罪を入れる。いや、ほんとにごめんて。元からそのつもりだったけどさぁ‥‥
そうやってガヤガヤと騒いでるみんなを傍目にそろそろかな? と時計を見る。
ここからは、原作にはない。僕が準備したアドリブだ。
インターホンが鳴る。騒ぎ立てていたみんなも流石にこんな時間に誰がきたんだろう、と首を傾げたようだ。時刻は夜の8時になる少し前、高校生にとっては夜になったと定義してもいい時間だろう。時間も遅いし、外も暗い。まぁ、そうなるよね、と言う感じだ。うん。でも僕だけは誰が来たのかわかってるんだよね。
原作なら起こり得ないだろう。だって、原作では『サーチ』はラスボス先生が持っていて、「返せと言うのなら返してあげるよ。だからこの拘束を外して欲しいな」なんて脅しに屈して取り返すことはできなかったそれを、僕が持っているのだ、それでいて自分たちが守りきれずに被害に遭った生徒でもある。そこまでの状況が重なったら来るしかないよね? ヒーローなんだったらさ。
「相澤先生!」
「それにプッシーキャッツの皆さんも!?」
「こんな時間に悪い。彼女たちがどうしてもってことでな」
さて、ここからは僕の演技力をフルに活用することにしよう。なんてったって、こうなるように日程を調整して、わざわざプッシーキャッツの事務所宛に謝罪文を手紙で何度も送って、ここに来るように誘導したんだもん。ドクターに退院の日付まで聞いたんだぜ? こうなるのはわかってたんだよね。
ラグドールを見つけてすぐに走り寄る。誰よりも早く、誰かに止められてしまう前に。
「ラグドール‥‥」
「舞妓くん、元気して‥‥ないみたいにゃね」
できるだけ弱々しい顔を作れ、あぁ、笑顔になるな、なってくれるなよ、僕の頬‥‥曇らせのためには演技も必要だぞ。
「‥‥‥ごめんなさい」
「何を謝ることがあるにゃ? たくさん手紙が来てたけど、謝る必要なんてにゃいにゃい!」
笑顔を見せてくれる彼女がカッコよく映る。‥‥僕のこの目には彼女が『無個性』であることが映し出されているのに、それでも今まで出会ってきた、オールマイトを含めた全ヒーローの中で一番強く、カッコよく見えた。
「だって、ラグドールに怪我負わせて、個性も奪っちゃった‥‥」
「それは君のせいじゃないでしょう?」
「違う、僕のせいだ‥‥僕がマンダレイの指示を無視したから、僕が森に突っ込んで行ったから、僕の『不義遊戯』と相性のいい『サーチ』を持つラグドールが狙われたんだ‥‥!」
彼女の前で涙目を見せる。あ、『サーチ』って涙で視界が滲むとぼやけるんだ。初めて知ったな‥‥
さて、僕は曇らせのために演技にも力を入れて練習をしていて、そこら辺の俳優に比べても遜色ないくらいの表情管理にしてあるんだよね、笑えと言われれば笑えるし、泣けと言われれば泣けるし、怒れと言われれば怒れるんだ。これもメインプランで必要な力だったんだよね。
というわけで、僕の曇らせ劇場をご覧ください♡
涙を流しながら膝を折って地面に頭をつける。日本流の伝統的な謝罪法、そう! ジャパニーズ土下座である! ちなみに全裸土下座ってえっちじゃない? なんの話だ。
「ちょっ! 舞妓くん!?」
「舞妓! 何してんだ!」
前からも後ろからも僕の行動を驚く声が聞こえる。それでいい。
さっきまでは楽しく部屋王なんてしていた奴がいきなり泣きながら土下座したらそりゃ驚くよね。でもこれで終わりじゃないよ? こんなので終わるわけないじゃん♡ たっぷりと曇らせてあげるから安心したらいいよ♡ 僕はいつだって完璧主義だからね。
「ごめんなさい‥‥! ごめんなさい‥‥! 無個性にして‥‥なんの力もない‥‥なんの意味もない‥‥! 無力な存在にしてごめんなさい‥‥! いじめられたら助けます、何かあったら飛んでいきます‥‥! ごめんなさい‥‥! ごめんなさい‥‥!」
地面に頭を擦り付けながら謝罪を繰り返す。みんなの雰囲気が落ち込んでいくのが体に掛かる感覚を通して伝わってきた。涙声を作りながら、声を大きくして訴えかける。
「僕が弱かったから貴女が個性を奪われたんだ! 無個性だった癖に! そのことを忘れて! 個性が手に入っただけで強くなったって勘違いしたから‥‥! 僕のせいで‥‥! 僕の‥‥!」
こんな言葉に意味はない。適当な言葉を泣きながら話してるだけで、聞く人が聞いたら「いや、舞妓は悪くないだろ。悪いのはAFOだろ」って言うだろう。それも全て僕の手のひらの上なんだってことに気づいたらどうなるのか、それが楽しみで仕方ないね。
「僕が! 貴女を被差別者にした!!」
この場で録画した映像は後でゆっくりと確認するんだ‥‥このために高いカメラを買ったんだよね。かっちゃんの泣き曇り顔を撮るとき以外にろくに使ってないからたまにはしっかりと活用してあげないとじゃん? みんながどんな顔してるのか今すぐに見たいよ‥‥
「ごめんなさい‥‥ごめんなさい‥‥!」
必死に謝りながら周りの気配を伺う。さて、みんなはどんな反応を見せてくれるのかな? その反応が今から楽しみで仕方ないよ。
× × ×
A組 side
いつだって、彼は笑っていた。
足を無くしたときだって、自分が誘拐されて殺されるかもしれないときだって笑っていた。耳郎がいうには入試のときにロボインフェルノに立ち向かったその瞬間も笑っていたという。
彼らにとって、怒るのですら珍しい、逆境でも笑っている、そんな男だったのだ。
思えば、彼が喜怒哀楽の感情のうち、哀の感情を見せた場面を、幼馴染であり、無二の親友であった緑谷ですら見たことがなかった。無個性であると知らされたときも、いじめを受けたときも、ネットにほとんど全裸が晒されたときだって、舞妓は笑っていた。
今日もイタズラをした(と舞妓は解釈していた)葉隠にお仕置きをして、他のみんなと笑い合い、お菓子を振る舞い、耳郎とギターでセッションをして笑顔を見せる彼はまさにいつも通りの舞妓だ。舞妓譲葉だ。
笑って、人を笑顔にする。ムードメーカー。
だから、気づかなかった。彼が抱えていた闇を、暴くことができなかったのだ。
「僕が! 貴女を被差別者にした!!」
泣きながら、そう叫んだ彼の言葉にまず緑谷が自身の胸を押さえた。青山が唇を噛んだ。彼の泣きながらの土下座姿に葉隠が目を背けた。彼の泣き声を聞いて耳郎が耳を塞いだ。
それほどの言葉だった、それほどの、それほどまでに重い、言葉なのだ。
この世界において無個性の人間は約二割ほど存在している。しかし、この二割という表記は本来いいものではない。
総人口の二割。これは少子高齢化の現代においては適切な表記ではない。上に行けば行くほど、無個性の人間というのは割合が高くなってくる。実際、彼らと同年代での無個性の人間の割合なんて一万人に一人がいいところだろう。舞妓のいう原作『僕のヒーローアカデミア』において、無個性として(正しくは“元”であるものの)紹介されたのは緑谷出久、青山優雅、八木俊典の三名で、映画を含め、メリッサを数に数えても四名だ。そして舞妓はこの世界に来てから無個性の人間を同年代でも“一人も見ていない”。
異形個性への差別は減った。それも当然と言えば当然で、なんといっても異形個性は見た目で判断ができる上に、数も多い。A組だけで数えても蛙吹、尾白、口田、障子、耳郎、瀬呂、常闇、葉隠、峰田。半数近くの生徒が異形系の個性を持っていて体が所謂一般の人間の規格から逸脱している。
つまり、受け入れなくてはならなかったのだ。それを“個性”であると受け入れなくてはならなかったのだ。何故か?
誰も強くて、数の多い存在を虐げないからである。
それに比べて無個性はどうだろうか。弱い上に数が少ない、非力でなんの特色もなく、何かに秀でるわけでもなく、総人口の二割程度、若者にとっては劣勢遺伝子の天然記念物。
この意味がわかるだろうか? こんな存在がいじめられないとでもいうのだろうか。虐げられないと言えるのだろうか。
舞妓と緑谷も爆豪から言われていた通り、『ヒーロー』を目指せない人間だった。散々言われてきた通り、どれだけテストの点が高かろうと、みんなが言う。「ヒーローには個性が必要だよ」と。無個性のヒーローなんていない。この世界の人口の二割が無個性なのに、無個性のヒーローなんていないのだ。
それほどまでに、無個性というのは差別の対象なのだ。
舞妓がわざわざ無個性を名乗った理由はここにある。緑谷と仲良くした上で裏切りの理由を作るため、その後押しのために自身の個性を“無個性”であると偽ったのだ。そうするだけでヴィラン堕ちするのには十分な理由になる。
人は虐げるものがないと、自身よりも弱い存在がいないと生を謳歌できない獣である。だからこそ、無個性だった人間が言う、無個性にしてしまった人間への「被差別者にした」はそれだけで、良心のある人間への特大の破壊力を持っていた。
嗚咽を漏らしながら謝罪を繰り返す彼の姿を見て皆が顔を曇らせる。今まで無個性の人間がいじめられているところを正義感を持って止めたことがあるかもしれない、彼ら彼女たちの地元にも無個性の人間がいたかもしれない。それでも、いや、それだからこそ身に染みるこの泣き声は、自分たちの中で一番強いと、自分たちの中で一番『ヒーロー』に近い、憧れの存在の弱々しい姿に、唇を噛み、眉を顰め、体を震えさせるのだ。
彼の言葉が正解であるが故に、クラスメイトで、大事な友人であり、被害者でもある彼が責任を感じて泣いてしまっているその事実に、皆が胸を痛めるのである。
その顔こそが、彼にとって一番美味しい顔であることも知らずに、皆が顔を曇らせるのだ。
曇り空に涙が流れる。その様子を舞妓が準備したカメラだけがずっと、眺めていた。
カメラだけが、眺めていた。
お ま た せ !
一週間近く待たせてしまってごめんなさい‥‥これからも今までに比べたら更新がゆっくりになるかもですがクオリティは落とさない様にいたしますので何卒ご容赦を!
今回もんこにゃ様の絵が良すぎる‥‥え? 良くない? これは素晴らしい‥‥好きです‥‥
曇らせ好きには刺さったかな? 今回は独自の解釈入れたからあんまり好きじゃないって人もいるかもですが‥‥これも曇らせになるので楽しみにしててくださいね♡
今後も頑張っていきますのでよろしくお願いします!
映画編を入れるかどうかのアンケートをさせてください!
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入れたのが見たい!
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本編だけ追いかけるのでOK!
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アンケート結果が多い方で!