個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア!   作:波間こうど

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今回は、んこにゃが頑張ってくれました。


★派手な葬式、それから壊理ちゃん

 

 

《治崎side》

 

「よぉ、敵連合。傘下に入る一件、改めて考えてくれたか?」

「…………」

 

また指定された場所に出向く。壊理が逃げ出したすぐ後に、かかってきた電話の内容はまた同じ場所で、ただそれだけだった。今度はそっちは何人連れてきてくれてもいい。こちらは前と同じメンツ、もし不愉快なことがあるなら戦闘で済ませればいい。

 

つまるところこっちは好きなだけ人数を連れてきていい、という話だ。戦闘になっても前の戦いを見ている限りこっちの人員でゴリ押せる。最悪の場合、傘下に入らせることも名前を奪うことも無理矢理行えるだろう。

 

不衛生なガレージ、数週間ぶりにそこに足を運ぶ。今回は最初から人数、頭数を揃えて威圧感を出した。これならそう簡単に戦闘にはならない。

 

ガレージの中、以前と同じように奴らはいた。しかし、以前とは違いどこか異質な空気を纏っているように思わせる。

 

全員が黒いスーツにネクタイ姿……全員が全員服装を合わせていて、その顔には悲しみを浮かべている。ネクタイは黒く、統一された服装……

 

……喪服?

 

そう気づいた時のことだ。声が聞こえた。鈴のように鳴る、凛とした声。

 

 

「調子に乗るなよ、ヘンテコマスクが」

 

 

その言葉と同時に拍手音。それが優位に進めていた話し合いが決裂する合図だった。

 

「……ッ!!」

「……ん? お、治った」

 

俺の腕が吹き飛ぶのと、目の前の仮面をつけた男(俺が前回腕を吹き飛ばした仮面の男)の腕が生えたのは丁度同じタイミングでのことだった。柏手に誘われるように俺の腕と仮面の男の位置がまるで入れ替わったかのように切り替わる。

 

痛む右腕を押さえると目の前で仮面をつけた男が治った腕を振り回しているのが見える。なんだ? 怪我の位置が入れ替わった……?

 

「うちのメンバーはおたくのところの雑魚戦闘員とは違って1人ずつが幹部なんだわ。ヤクザ屋さんは指を詰めるって言葉があるくらい責任が重要なのに〜、腕一本はまけてくれってのは舐めすぎじゃないのかにゃ〜?」

 

 

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その化け物は唐突に現れた。フードを目深に被り、仮面をつけたふざけた子供。喪服を改造したのだろうか、フード付きなのにも関わらずスーツらしさも残るそいつは手に小洒落たシルバーアクセサリーをたくさんつけて現れた。

 

そんな彼とも彼女ともつかない中性的な彼女はクスクスと笑いながらコンテナから飛び降りる。いつからそこにいたのか、どんな個性を使ったのかもわからない。ただ、声がしてからそこに産まれたかのような澱み。そんな女だ。

 

彼女はスタスタと歩くようにして敵連合の前にポケットに手を突っ込んで立つとため息を吐いた。そして首を傾げながら声を発した。

 

「うち舐めてたら殺すぞゴミ虫」

 

 

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ビッ! と中指を立てた彼の姿に、ゾッ、と体が粟立つのがわかった。咄嗟に腕を後ろに回して部下どもの暴走を食い止める。俺の腕一本くらいなら後で治せる。それよりも今はコイツを敵に回す方がデメリットが大きいと思わせた。

 

部下のミミックが目を見開いて叫ぶ。

 

「テメェ……! 戦争だぞ……!」

「……いい、俺の腕は後でどうとでもなる」

「まぁ、お前の腕は後で修復すればいいんだから、腕一本くらいまけてくれよ」

「若の腕とそこの奴の腕は等価値じゃない!」

「いい、ことを荒立てるな」

「ありゃ、乗って来ないか。……賢明な判断ができて助かるよ。死穢八斎會若頭、治崎廻くん。そのまま向かってきたら殺してるところだったよ……君の大事な大事な親父さんをね♡」

「……は?」

 

頭に血が上るのがわかる。今すぐに目の前のガキを殺そうと吹き飛ばされていない右腕を動かそうとして──

 

「あのチューブを一本切るだけで殺せるからさ〜、別に俺はいいぜ? いつでも殺してやれる。お前が次動いたらブチッといくから」

 

その動きを止めることになってしまった。

 

何故だ、親父のことは誰にも言っていない。親父の状態だって知っているのは俺と、組の奴らだけ、外の奴は誰も知らない、誰も知るわけがない、誰も……

 

「誰も知らないはずだとか思ってる? オツムが弱いなぁ……何事もバレると思って動けよ……まぁ? 今回短絡的な動きをしたのは俺たちの方らしいし、同胞の死にとやかく言ったりしないが……」

 

少女は溜めて、一言。

 

「弔くんが出るまでもなく。俺一人でお前ら全員殺せるってこと、それだけは理解しておけ。認知が甘いよゴミ虫ども」

 

あぁ、きっと。このときだ。

 

このときに俺たちは負けたのだ。

 

ヒーローではなく、仮面をつけた、奇天烈な少女は、仮面越しにもわかるほどの喜びを、悦びを醸し出しながら、両手を広げてこう言った。

 

「お前ら全部上手に使ってやるよ。なぁ、嬉しいだろ? ヤクザさん♡」

 

以前に口に出した言葉をそっくりそのまま返される。動けないままの俺たちに向かって死柄木弔が向かってきているのも気づけなかったほど、彼女に釘付けにされていたのだ。

 

「痛ッ!」

「おい、動くな。処置ができない」

 

死柄木が消し飛ばされた肩口に掌を当てる。五指が触れて肩口が崩壊し始めると、血が止まった。どうやら彼の個性の『崩壊』を上手く使って傷口の処置をしたらしい。

 

「そのままだと死ぬぞ、お前」

「……ッ、あぁ……」

「悪いな。あの時は別件で来れなかった奴で、口は悪いが仲間思いな奴なんだ。初手で殺されなかっただけ運が良かったと思ってくれ」

 

死柄木が俺から手を離す。殺意がなかったため見逃してしまったが、普段ならいきなり他人に触れられることも、しかも触れるだけで人を殺せる個性の人間相手に油断することもない。死柄木を一瞬でもノーマークにするだけの恐ろしさが、あの少女にはあった。

 

死柄木は隙だらけの背中を俺の目の前に晒すと振り返る。そして眼光鋭く仮面の女を睨んだ。

 

「舞。お前派手に動きすぎだ。折角の同盟が無駄になるところだろう」

「弔くんってば酷〜い。まるで俺が悪いみたいじゃん。マグ姉のお葬式だぜ? 本当なら皆殺しにして派手に染めたいところなんだけど? マグ姉の好きな赤一色にさ!」

 

そんな彼女の物騒な言葉を聞いて死柄木が少女の頭を叩く。痛〜! と声を上げる彼女はまるでこの場所を学校か何かと勘違いしているようにも見えた。

 

「同盟……?」

「あぁ、傘下という話はごめん被るが……お前らの作戦に参加するメリットを舞が提示してくれてな。同盟という形なら結んでもいい。もちろん、お前たちが下につく必要はない」

 

悪くない条件だろ? と死柄木は口にした。

 

確かに悪くない条件だ。彼の後ろに控えているあの女は俺の計画の全てを破壊する力があることがわかった。個性もわからないが、親父のこともある。今すぐに下に付けと言われても断れない。そんな状態で対等な関係を築くだけで済むのなら随分と安い。

 

「舞、謝罪しろ」

「え〜……」

 

やれやれと言うように舞と呼ばれた彼女はブーイングをすると、ごめんね? と心ばかりの謝罪を口にした。そしてゆっくりとその足を俺たちの方に向ける。

 

「……彼女はさ、優しい人だった。俺たちを包み込んでくれて、いつだって本心から俺たちを支えてくれる人だった。あの人、俺たちのために泣いてくれるんだよ。優しい……お姉ちゃんみたいな人だったんだぁ……」

 

ボソリと感慨深い思い出を、頭の中でリフレインさせるように呟く。斜め上を見ている視線は、彼女の頭の中にある記憶の中の相手を深く思い出しているようだ。

 

それが俺の殺したあのオカマだってことはすぐにわかった。

 

「……ごめんね、オーバーホール。大事な姉を殺した相手だ、つい手が出ちゃった。この世界は命が安い。そんなこと、わかってるつもりだったんだけどね」

「……いい、俺たちの方にも非はある」

「それでも仲直りの場で喧嘩を売った事実は消えないでしょ? そうだなぁ……近々、大きな戦闘がある。その戦闘に手を貸すよ。それから君が今頭を抱えている彼女の件、上手いこと取り持ってあげてもいい」

「…………何のことだ」

 

しらばっくれてみたが彼女はヘラヘラと笑うだけだ。

 

「隠すなよ、理を壊す力。その真髄を引き出すお手伝いをしてあげるって話さ」

「……どこまで知っている?」

 

俺の質問に対して彼女は頭を悩ませるようにう〜んと唸った、そしてクスリと笑う。

 

「知ってることだけ、かな」

 

まるで何でも知っていると言わんばかりに、風でもそよぐように、笑って、彼女はそう口にした。

 

 

  × × ×

 

 

殺伐とした顔合わせが終わったところで僕たちはオーバーホールくんに連れられて彼らのアジトへとやってきた。そのまま地下の迷路のような道筋を通って僕ら用の控え室にまで通される。そこに入るなり僕はソファに寝っ転がった。そのソファの肘掛けに腰を下ろした弔くんが僕を見下ろしながら口を開く。お〜ネクタイ似合うじゃん。眼福眼福。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「…………」

「冷静になったか?」

 

弔くんにそう言われて仮面を外す。この際、涙を滲ませておくことも忘れない。泣きたい記憶には事欠かないからね。この程度ならお手のものだ。

 

というかこのお面デザインいいね〜。発注誰? 義爛さんだっけ? 特注の防弾素材だとかなんとか……頭潰されるのは僕としても困るからね〜。常時反転術式なんてかけ続けるわけにもいかないし。そんなことできるのは呪力の消費量を減らせる六眼持ちのどこぞの最強だけだ。アレ頭おかしいよ。

 

「あ〜、うん。ごめん。冷静になったや」

「お前はNo.2であることを忘れるな。お前は俺らの軸で、心臓で、脳だ」

「買い被りすぎだよ」

 

お、ここでも軸って単語が出ると思わなかった。これで仮免のときの相澤先生の“軸”についての発言が重いものになっていく、裏切ったときによくなる、顔がいいものになるよね。しめしめって顔がバレないように俯いておくことにしよう。

 

「まぁまぁ、死柄木もそこらにしてやってくれよ。俺の腕を治してくれたし、おじさんは感謝してるぜ?」

「ゆずくんちょっと怖かったけど……かっこよかったし!」

「お前らは譲葉に甘すぎる、大体……」

「ごめんよぉ……」

 

メソメソと演技をしながら弱々しく口を開くと僕のことを抱きしめながらトガちゃんがキッと弔くんのことを睨みつける。その様にやれやれと弔くんが両手をあげた。はは〜、チョロチョロ。この程度の演技で騙せるなんて……いや、これは騙せる方がすごいのか? やっぱり僕は天才だな! ガハハ!

 

「弔くんはゆずくんに厳しいよ!」

「お前らが甘いんだよ。そいつ、反省してないぞ『この程度で騙せるとかチョロいなぁ! ガハハ!』とか思ってる」

「何でバレたの???」

 

僕の疑問に何年の付き合いだと思ってんだ、と弔くんがドヤ顔した。いや、たかが一年だろーが。偉そうな顔しやがって。僕の演技を見破るなんて、ラスボス先生も無理だったんだけど?

 

「お前があの行動に後悔してるとは思わない。マグネのことを想っての行動だからな」

「じゃあ、いいじゃん」

「だが、お前の悲しみを他の奴らがどう思っているのかを考えて動け、お前ならそれくらいできるだろ」

 

ん〜? ……あぁ、僕が悲しんだり、怒ったりしてる演技自体はバレてないけど、僕が悲しんだり、怒ったりすること自体が許容できないってこと? まるで好きな子が泣いてるところを見たくないって言ってるみたいだね?

 

ヴィランの癖してまるでヒーローみたいな感性だ。ヒーローになりたかった頃でも思い出したのかな? 転孤くん♡

 

「あ〜、ごめんね?」

「わかってないだろ。お前は自分のことを軽んじ過ぎてる。いいか? お前に死なれたら俺たちがどれだけ困るか……」

 

ぐちぐちと小姑みたいな説教をする弔くんの言葉を聞きながら周りを見てみると、周りの子たちもうんうんと頷いていた。えぇ……そんな僕って問題児みたいな扱いなの?

 

「赤ちゃんみたいな扱いしてる?」

「まぁ、舞妓は好き勝手動く癖があるからな。俺らのこと忘れることあるだろ」

「ゆずくん私たちより任務優先するし……」

「この前長いこと帰らなかったことについて言ってる? ごめんって」

 

みんなと談笑を挟んだ。最近みんなが僕のことを責めるときは決まって自分を大事にしろだとか、早く帰って来いとかなんだよね……僕は僕で仕事があるの! A組と絆育まなきゃ!

 

そんなことを考えながら話しているとドアがノックされた。仮面を付け直してから声をかける。入ってきたのは話し合いの際にも顔を出していたマスクの男……いや、全員マスクなんだけどさ。おそらくネームドキャラじゃないからわかんないや。誰だろうか。

 

そんな彼は俺の方に指を向けてから呼び出すように親指で部屋の外を指差した。

 

「おい、ボスがお前を呼んでる」

「俺?」

 

どうやらオーバーホールくんが僕のことを呼んでいるらしい。まぁ、実際のところ内容なんてわかってるんだけどね〜。どう考えても壊理ちゃんの件だろう。手伝うとか言ったしね。

 

「しょうがないなぁ……弔くん。ちょっと行ってくるね」

「あぁ……例のガキか?」

「たぶんね〜」

 

立ち上がって体を捻る。ポキポキという音が小気味いい。

 

壊理ちゃんについては一応弔くんには話していて、仲良くしておきたい旨のことは伝えてある。まぁ、どういう風に使いたいか、とかは言ってないんだけどね。

 

「それじゃ、行ってくるね」

 

僕はみんなに手を振ってから、部屋を後にした。

 

 

  × × ×

 

 

ペストマスクに連れられて来たのは他の廊下よりどこか狭い、だけど不思議と綺麗な廊下だった。オーバーホールくんがよく通るから少し綺麗なのだろうか? などと思いながら道を行くこと数分。厳重に鍵をかけられたドアの前にオーバーホールくんは立っていた。腕はさっき別れた後で治したらしい。五体満足じゃん。僕と違うね。

 

「来たか……」

「やっほ〜、すぐに呼ばれると思ってなかったからびっくりだよ」

「どこまで知っているのかは分からないが、あいつを使えるようにすることは急ぎの案件なんだよ」

 

まぁ、急ぎの案件という面ではそうだろうね。壊理ちゃんの個性の制御、それから個性消失弾。それが効率的に作れるかどうかで随分話は変わってくる。彼の計画を知っている身としては、恐怖で無理だった以上、他の何らかの感情を代用して心を縛りたい気持ちもわかるね。

 

気持ちはわかるけど、とても親のする行動じゃないな。

 

「……お前の仕事はあいつのことを駒にすることだ、この前も脱走したばかりでな。あいつが逃げ出さない理由になれ」

「可愛い盛りじゃん」

 

手のかかる頃が可愛くない? と声をかけるとオーバーホールくんは嫌そうな顔をした。そんな顔しなくてもよくない? 失礼しちゃうぜ。

 

まぁ、インターンは何やら始まってるみたいだし、出久くんからナイトアイのところでの話も聞いたからそろそろだとは思っていたけど。

 

……ナイトアイなぁ、確実に息の根止めてあげないとなんだよね……オバホくんがやってくれないなら僕が殺さないとなんだよなぁ。

 

というか、親父さんに大切にされたくせに親の大事さがわからないとか……君がこのストーリーで重要な存在で、なおかつ曇り顔の似合うナイスガイじゃなかったらここで殺してるところだった。

 

子供を大事にしない親なんて死ねばいいんだ。

 

「それじゃあ、行ってくるけど……」

「壊理に余計なことを言ったり、連れ出そうとしたら殺すからな」

「失礼しちゃうぜ」

 

僕のことをどう思っているのだろうか。ぷんぷんと怒ったふりをしながら足を進める。まぁ、余計なこと言うし、楔なんて山盛り打ち込むつもりなんだけどね〜、そんなこと言うと会わせてもらえなくなるし。

 

「……外にいる。余計な動きを見せるなよ」

「はいはいわかったってば……案内ありがとね」

 

ドアに手をかけると思い出したことがある。くるりと振り返ってからオーバーホールの片腕なる男に目を向けた。

 

「音本さんだっけ? お前の個性は割れてるから、もし、お前が個性を俺に使ったら……」

 

一息つく。脅しは不気味に言う方が効くからね。

 

 

「確実に殺すから。そのつもりでいてね?」

 

 

ドアをバン! と開け放ってみるとそこにはベッドと機嫌を取るつもりだろうおもちゃやお人形が転がっている。箱に入っているものばかりなところを見るに開封もしていないのだろう。はは、子どもの好きなものを買い与えろよバカめ。

 

その中に、ウサギの人形を抱えた白髪の少女がいた。可愛らしい瞳の上に少女に不釣り合いな角がついている。いいね、可愛いじゃん。

 

「やぁ! 君がエリちゃんだね? 俺の名前は舞! 好きに呼んでくれていーぜ? よろしくな?」

「…………」

「おいおい、お話聞いてくれるだけでもいーんだけど? ノってくれない?」

「…………」

「ほら、好きな食べ物は? 好きなおもちゃは? 俺に教えてよ」

「…………ッ! いや!」

 

手を繋ぐとバッ! と振り払われてしまった。その手をもう一度握りしめてゆっくりと膝を曲げて同じ目線にまで下げてあげる。まぁ、仮面してるから顔は見えないと思うんだけど、目くらいは見えるだろうから、こっちの方が安心するだろう。

 

「俺は死なないよ。エリちゃん……壊理ちゃんの個性なんかじゃ死ねない。何てったって俺は強いからね!」

 

両手を繋いでから膝立ちになる。そしてゆっくりと手を離してあげてから頬を撫でる。ゆっくりと頭へとその手を動かして髪を透かす。角に触れてから優しく抱きしめる。

 

「大丈夫! 壊理ちゃん。君は悪くない。だから、君のことを教えて? 僕は消えないから」

 

震えた彼女の口がゆっくりと開かれた。顔は見えないけれど、肩に当たる彼女の顎の動きでわかる。ゆっくりと手が僕の背中に回されて、抱きしめられる。

 

ほら、敵連合の情緒赤ちゃんのみんなと変わりゃしない。なんならそれよりも子供なんだから情緒なんて育ってなくて当たり前なんだ。

 

だから、そこに付け込む。

 

時間なんてかけなくてもいい。この年齢の子なんて少し遊んでくれた歳上の記憶を後生大事に持つような健気の塊だからね。大人が嫌になっているであろう彼女もそれは例外ではない。この程度の行動でもう僕のことを信じようとしている。愚の骨頂だね。

 

「あ……」

「よしよし。今は怖いお兄さんたちいないからさ! 存分になんでも言えばいいよ」

「…………」

「まだ怖いなら俺のことから話そうか」

 

こういうときは自分のことを話してあげることで相手に同じ立場を感じさせることが大事だって教育心理学で学んだからね〜、合わせてあげるとしよう。

 

「俺は舞、血液型はO型、誕生日は9月6日! 好きな食べ物はりんご。特にアップルパイ! 嫌いなものは計画通りにいかない奴。それから……」

 

話を続けると徐々に壊理ちゃんの体の強張りがなくなって来たような感じがした。

 

「……ヒーローにはなれない。俺はヒーローじゃない。本当に極悪人だけど……でも、壊理ちゃんのことは救えるよ」

 

その言葉に彼女から強く僕の服を掴むのがわかった。それを合図に畳み掛ける。

 

「ほら、君のことも教えて?」

 

目を合わせると逸らされるかもしれないのでハグの状態のままで、背中を摩る。そしてゆっくりと、促したりせずに彼女の口が開くのを待った。

 

「あの……」

「うん」

「うさぎのお人形さんが、好き」

「へぇ、そうなんだ?」

「りんごが、好き」

「うんうん。美味しいよな! お揃いだね」

「手術室が嫌い」

「怖いよなぁ、俺も嫌い」

「そう、怖い。怖いんだよ、すごく……」

「それでも我慢してたんだ、怖いのも、痛いのも……立派だね」

「うん」

「偉いよ、君は。よしよし、いい子だ!」

「う゛ん」

 

濡れる感覚すらも優しく抱きしめて、塗り替える。彼女の記憶が嫌なもので終わらないように、僕の登場が、まるでヒーローに見えるように、これもメインプランだ。

 

敵連合の、裏切り者である僕が。僕だけが彼女にとってのヒーローであるというその事実は彼らヒーローの卵にとってはたまらなくしんどいものでしょ?

 

きっと最高にいい顔してくれると思うんだぁ♡

 

「あぁぁぁぁ……!」

「よしよし、俺は消えないから、そのまま好きに泣きな」

 

 

【挿絵表示】

 

 

敵連合のNo.2のヒーロー性。ヒーロー科主席の舞妓譲葉のヴィラン性。その二律背反こそがきっと深くまでみんなを絶望させる理由になるから。

 

それに、こんな純朴な幼女を騙くらかして、その顔に僕の傷つくところを見せるのは、とても、とてもとても興奮すると思うのだ。最高じゃん。目の前で大怪我して、呪いになりた〜い♡

 

「お話しよ〜ぜ? 壊理ちゃんのこと、もっと教えてくれよ。君のことをもっと知りたいんだ」

 

抱き上げて、頬を擦り合わせる。めっちゃ仮面押し付けてるけど許してくれるかな?

 

「さぁ、君の人生はこれからだからね!」

 

さてさて、これで懐に入り込めたかな?

 

さぁ、悲劇のヒロインちゃん。僕のために、踊っておくれ? 僕のために、全力で、哀れで、可哀想で、健気で、可愛い君の全てで。

 

僕の癖を満たしてくれ。

 

……………………ちなみにこの後、仲良くなった僕は壊理ちゃんに「舞お姉ちゃん」って呼ばれることになるのだけど、それは、まぁ、うん。別の話ってことにしておこうか。名前だけじゃなくて性別も隠せるからね! べ、別に泣いてないやい!





本当にいつもありがとうございます。評価もお気に入りもコメントもめちゃくちゃ励みになります。全部全部めちゃくちゃ嬉しいです!

もっとください(強欲)

今後とも頑張ります……あと、んこにゃさんすごいですよね……何者なんだ、この人。四枚も描いてきたぞ……えぇ(困惑)

もしよろしければXなど、んこにゃさんの各種SNSの方もフォローしていただければと思います! まぁ、そのついでで私のこともフォローしていただければ(強欲)

今後も頑張ります! よろしくお願いします!

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