個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア!   作:波間こうど

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『曇アカ』の連載も早いもので半年が経ちました。

たくさんの応援、んこにゃ様の挿絵、そういったものが集まってここまで来ることができました。ありがとうございます。
死穢八斎會編の締め括りです。お待たせしました!
曇らせはないですが楽しんでいってくださいね!


★A組会議、救われた少女

 

 

死穢八斎會の事件が解決して、僕たちが雄英に戻った次の日。全員が寮の居間に集合をかけられた。そこで、相澤先生がわざわざやってきてことの顛末について話をした。そのときまで、僕らは緘口令を敷かれていて、何も話すことができなかったのだ。

 

寮に帰ってきた瞬間から質問攻めだったけどその質問の全てをいなしていたので僕と切島くん、麗日さんと梅雨ちゃん以外のみんなはきっと相当やきもきしたのだろう。僕たちが朝、ロビーに降りるまでの間に他のみんなは集まってしまっていた。

 

「舞妓以外は集まってるな」

 

しばらくして、相澤先生がA組の寮にまでわざわざ足を運んでくださった。深刻な顔をしてみんなをソファに座らせてから、死穢八斎會事件の全貌について話を進める。

 

もちろんそこには「舞」という人物の登場は外せないわけで──

 

「……舞っていう名前の、舞妓のクローン?」

「あぁ、神野の時点で……」

 

上鳴くんが信じられない物でも見るかのような顔で呟いた。皆々が顔を曇らせる。

 

クローンの作成なんて倫理に触れている。そんなことわかっている。ここにいるのは優秀なヒーローの卵だ。もしそうじゃなくても日本に生まれ育った普通の人間なら見知った友人のクローンを造られることに対する生理的嫌悪は凄まじい。

 

「つまりなんだよ……俺たちは、結局何もできないまま……あいつのクローンを作られたってわけか……?」

 

かっちゃんがギリギリと歯軋りさせながらドン! と机を強く叩いた。その顔には明らかに怒りが浮かんでいる。

 

「舐めんなやぁぁ!!」

「落ち着けって爆豪!」

「がァァァァァァ!!」

 

地団駄を踏む子どものように、かっちゃんが暴れた。だけど、彼のことを子どものようだと馬鹿にする声はなかった。

 

僕も、みんなも、そうだったから。

 

「……デクくん。顔、怖いよ?」

「あぁ、うん。ごめんね、麗日さん……」

「おい緑谷お前手! 血ぃ出てるって!」

 

握りしめた拳から血が流れていたけど、気になんてならなかった。

 

これなんて比較にもならないくらい、ゆずくんは痛い思いをしたはずだから。

 

「じゃあ敵側にも舞妓と同じような個性を持った奴がいるのかよ!」

「というかクローンということなのでしたら同じ個性ということでは?」

「しかも舞妓みたいに強いの……?」

「聞いてる話ヒーローも殺してるんだろ?」

「オイラたち勝てるのか……?」

 

みんなの雰囲気が一段、暗くなる。

 

この場で普段なら場を盛り上げてくれるムードメーカーの彼はいない。今日まで検査入院をしていて、朝イチに帰るよ! と言っていたから今頃はタクシーの中だろう。それとももう学校に着いただろうか。だが、寮に着くのはまだもう少し先だ。

 

「…………俺たちは、もちろん俺も含めてヒーロー科、1年A組は、敵連合舞の捕縛に動く」

 

相澤先生が僕たちのことを強い瞳で見つめてそう言った。

 

「まぁ、ルールの範囲内で、という但し書きはつくがな」

 

そのルールの範囲内という言葉に梅雨ちゃんが曇ったのが見えた。彼女は僕たちがゆずくんの救出に動くのをルールを破ることになる、という理由で押し留めたという事実がある。それが彼女の胸に引っかかっているのだろう。

 

「梅雨ちゃんは悪くないよ」

「けろ……」

 

麗日さんがその背中を摩る。その中で、1人、特に涙を流して唇から血を流して堪えている少女がいた。

 

耳郎さんだ。

 

「響香ちゃん……」

 

葉隠さんが手を伸ばして、引っ込める。その逡巡が、長袖の裾の動きで見て取れた。

 

「ウチが……ウチが、ユズを、ユズが傷つくときはいつも……ウチのせいで……!」

 

その声は悲痛に満ちて、誰にも止められない。「違うよ」という一言が、彼女に伝えてあげられない。その言葉をかけてしまうと、彼女のことを守ったゆずくんの行動すら否定してしまうことになるから。

 

「うぅ……」

「…………」

 

誰もが彼女にかける言葉を失う。一度は見つけたと思って口を開いてみるも、そこから溢れるのは言葉のように意味をなしているものじゃなくて、ただの空気で。彼女の背中を摩ることも、彼女の涙を止めることもできない。

 

これではいつだかの病室だ。ゆずくんが誘拐されたあの日の病室。泣いている彼女に何もできなかったのと同じで、時が経って、関係が深まった今になっても僕たちは何もできない。彼女のヒーローは彼だけで、その彼に助けられたからこそ、彼女は涙を流しているのだから。その涙を止めることができるのは彼だけだ。

 

「クローン作られて? そのクローンがたくさん人を殺して? そのクローンがユズと同じく右足を無くして……? もうどうすればいいの……?」

 

涙と、鼻水でぐちゃぐちゃになってしまった顔をしながら耳郎さんが卑屈に笑った。その笑顔に応えられる存在なんて、ここには──

 

そのとき、玄関のドアが開いた。光を背に入ってきたのは、もちろん、彼だ。

 

「ただいま〜! みんな集まってる? 遅れてごめんね!」

 

そう言って何日かぶりに帰ってきた彼は……

 

 

【挿絵表示】

 

 

何故か義足を外しての帰宅だった。片足でケンケンをしながら笑顔で手を振っている。

 

「ヒュッ」

 

誰かの口から息を呑む声が聞こえた。

 

 

  × × ×

 

 

「ただいま〜! みんな集まってる? 遅れてごめんね!」

 

ドアをドーン! と開けて帰宅してみた。みんなが集まることはクラスのグループチャットで知っていたので遅れて到着するとは伝えてあるし、居間と玄関は直結しているので、みんなの顔がすぐに見えた。

 

その暗い雰囲気と顰めた顔がよく見えるぜ。なんだなんだ、最高の出迎えだな?

 

「あれ? みんなどうしたの? そんなに顔顰めてさ」

「……舞妓、その足」

「ん? あぁ、今明ちゃんにメンテ頼んでて、後で持ってきてくれるって言うからついでに筋トレとして片足で歩いてんの」

 

嘘である。いや、メンテの話の件は本当のことだけど、どちらかと言うと僕から「お願い!」ってしたまである。今、どうせみんな「舞」の話してたでしょ? なら、舞が右足を無くしたってこととかも聞いたんじゃない? だったら、今僕が右足をつけてこないことは、重なってすごい顔になってくれるよね?

 

まぁ! 帰った時点で「ヒュッ」って声聞こえたんだけどね! みんなの顔今時点ですごい曇ってるけど……最近いい顔摂取したところだからあんまり効かないなぁ……グルメになりすぎたかな?

 

そんなことを内心で考えていると目の前で耳郎ちゃんがしゃがみ込むのが見えた。

 

「……っ」

「耳郎さん!?」

「え!? 響香ちゃん大丈夫!?」

「馬鹿! お前は近づくな!」

 

わざわざケンケンで彼女に近づく。いくら僕がグルメでも曇らせたい顔ランキング上位入りしてる耳郎ちゃんの顔は見たいだろ! とあまり期待していないけど邪な気持ちはある、みたいな状態で突っ込んでいく。結果として途中で切島くんに止められたんだけど近づいた分、その顔がよく見えた。

 

ごめん、前言撤回!

 

あは、最高じゃん! 涙目で! それでいて吐きそうなのか口元を押さえてる!! いいね! やっぱり君のその顔最高だよ!! あ〜、君みたいに可愛い子がそんな顔してくれると僕も我慢できなくなっちゃうって! ほら、そのまま抑えててよ! 切島くん!! 僕今放されたら何するかわからないよ!? 今から君たちの目の前で耳郎ちゃんのこと襲っちゃうかもしれない!! その顔をもっとよく見せてほしいって暴れちゃうかも!! いいのかぁ〜!? ここで死穢八斎會編で見せた悪夢見せてやってもいいんだぞ〜!!! メインプランじゃないけど! この場でぐちゃぐちゃにしてしまっても僕は一向に構わん!!

 

………………という興奮をどうにか抑えて、演技に徹する。できる限り不思議そうに、か細い声を出すことに努めた。

 

「……何事?」

「はぁ……いい、今からもう一度説明する。舞妓にとっても辛い話だ、座れ」

 

相澤先生に促されて泣いている耳郎ちゃんや涙目の女子メンツと離されて座らされる。そして聞いた話はなんとクローンが作られて、そのクローンが右足を潰されてしまったそうなのである! びっくり!

 

…………いや、全部僕がやったことだけどね? 僕が全部好き勝手したんだけども。うん。なんだったらこの場で同じことしてあげることも……それは無理か、目を変えなくちゃだし。目元のタトゥーもそうだけど……まぁ、準備が必要だし、ここでは無理だな、うん。

 

あ、一回帰らせてもらえたら別にいいよ? してやろうか? あ〜ん?

 

「なるほど……事情はわかりました」

 

腕を組んでうんうんと頷く。そして首を上に傾けた。ため息をつく。

 

「僕もこの歳で一児の子持ちかぁ〜……」

「いや、そんな話はしてない」

「ゆずくん? 真面目なとこだよ」

「まるで僕が真面目にしてないみたいに言うじゃん。言ってくれるね、出久くん」

 

僕が舐めたことを言ったらみんなの視線が僕に釘付けになった。いや、わかるけど。僕も君たちの立場なら「なんだこいつ?」ってなるけどさ。

 

「ユズのクローンが作られたんだよ!?」

「なんでそんなに冷静なんだよお前!」

「あはは、まぁまぁ、聞いてって」

 

立ち上がって僕に迫るみんなを落ち着かせようと手を前に出して制する。

 

「だって、悪いのは敵連合。それは今までと変わらなくない?」

「それはそうかもだけど……」

 

歯切れの悪い芦戸ちゃんにでしょ? と伝えるといつもは口数の少ない口田くんがその寡黙な口を開いた。

 

「…………つ、辛くないの?」

「うん? 何が?」

「その、クローンなんて、作られて」

「う〜ん、悲しいことはあるけど辛くはないかな?」

 

僕が作ったわけじゃないし、と言うと口田くんはまだ言いたいことがありそうだけど口をつぐんだ。言いたいことは言っといたほうがいいと思うけどなぁ〜。

 

倫理観どうなってるんだろ、って思ったでしょ? 一回死んだし、人も殺したし、そんなものもう捨てたよ。曇らせに邪魔だ。

 

「強いて言うなら……まぁ、僕の子とも言えそうな彼……彼女? を、この手で仕留める必要がありそうなことが少し悲しいけど、まぁ……ヴィランだもんね」

「……殺すなよ?」

「ありゃ、クローンに人権とかあるの?」

「お前、自分のことだろう……?」

 

相澤先生と障子くんにジロリと見られる。おぉう……Mなら興奮してたのかもしれない……Mじゃないからなぁ……

 

「ユズ……なんで、そんなに強いの?」

「んぇ?」

 

僕の目の前で目元を赤くした耳郎ちゃんが尋ねてきた。何故と言われても困るわけなのだけど……お、もしかして曇らせチャンス?

 

「僕は強くないよ。ただの普通の人間で、普通の高校生。まぁ、ちょっと人よりも頑丈かもだけど」

「でも……ユズは……」

 

二の句は継がせない。それは否定する。

 

だって、そっちの方がみんなの顔が曇るのが見えるから。

 

「響香ちゃん。そんなに泣かないでよ。君は悪くないって」

「…………」

「僕が捕まったのは僕の詰めの甘さだし、僕のクローンが作られるなんて誰も予想してないわけだし? 今回のは諸々含めて僕が悪いよ」

「そんなわけ……!」

「あるよ。オールマイトならこんな無様な醜態は晒してない」

 

僕の言葉にみんなが言葉を詰まらせる。そうだ、みんなは知っている。オールマイトという圧倒的な光を、みんなは知っているのだ、オールマイトという、倒れず、引退を発表してなお、燦然と輝き続ける綺羅星のような象徴を。

 

「僕はオールマイトに憧れた」

 

グッと出久くんが拳を握るのが見えた。

 

「なら、ここで折れるのがヒーロー?」

 

微笑みかける。さぁ、みんなとの明らかな違いを、出久くんのような大怪我をしてでも前に進むような狂気ではなくて、かっちゃんのようにただガムシャラに他を排斥して前に進むような純粋さでもなくて。

 

ドロリと歪んで、前に流れる壊れた理想を。

 

提示して見せよう。演じて魅せよう。

 

君たちの前にある、不確定要素(イレギュラー)の、その姿を、目に焼き付けろ。

 

「僕はヒーローに成りたいんだ」

「ここでは折れてあげられない」

「僕をヒーローだって言ってくれる2人のためにも、ね!」

 

これはいつだかの再演。誰にも文句を言わせない。僕って存在を定義づける。みんなに、わかりやすく、心を打つ、みんなのモチベーションを引き上げて、かつ、曇り顔を作らせる。英雄の姿。

 

ちゃんと目に焼き付けてね?

 

「クソ譲葉ァ!」

「うぉ、びっくりした……なんだよ?」

「お前、折れんなや! お前を超えンのは俺だ!!」

「……ハッ、言ってろ」

 

ソファに座り直す。そして笑顔を作ってやった。これで、息が抜けるでしょ? みんなみたいな子どもたちはこれで騙されるよね?

 

「それじゃあ、今日のご飯当番誰? 病院食ばっかりで嫌になっちゃってさ。あ、先生も食べていきません?」

「…………お前、すごいな」

 

相澤先生が諦めを含んだため息を溢してからそう言った。何? 僕の演技力すごいって言いたいの? だろ?

 

「なんでずっと目を瞑ってるんだ?」

「今目を開けたらみんなが涙目の顔が見えるじゃないですか。僕は笑顔が見たいので」

「……カッコつかないな」

 

ため息をついた先生に心の中で反論させて貰うけどこれ以上は供給過多だからね? 見たら死ぬ。僕に死んでもいいって言うの!? 

 

「切り替えていこーよ! 文化祭も近いんだしさ!」

 

あぁ、あんなに遠かったはずの演目が近付いてくる。みんなの絶望に近づいていく。

 

楽しい時間を擦り減らして、砂時計の砂はゆっくりと落ちていった。

 

 

  × × ×

 

 

「……舞妓、お前に会わせたい子がいるんだが」

「食事中に携帯はマナー違反ですよ?」

 

こっちの方が時間を有意義に使えて合理的だろ、と言いながら相澤先生は口の中に唐揚げを放り込んだ。まぁ、いいけどね?

 

「それで? 会わせたい子っていうのは?」

「エリちゃんだ」

「え!?」

 

ガタン! と音を立てながら出久くんが立ち上がった。なになに、いきなり立たないでくれる? びっくりするじゃん。

 

「先生本当ですか!?」

「あぁ、エリちゃんが今誰にも心を開いていなくてな」

 

どうやら壊理ちゃんは熱が下がった後、僕……舞がいないことに対して泣きながら抗議したらしい。「私にとってのヒーローはお姉ちゃんだけだもん!」と言って暴れた彼女は今では食事にすら手をつけず、病室の隅に蹲り、ドアを睨みつける手に負えない猫ちゃんになっているそうな。ウケる。ご飯を食べない理由は僕のご飯が……あぁ、“舞”のご飯が美味しくて、それ以外は食べるに値しないと考えているかららしい。可愛いね〜!

 

だから、出久くんが舞と僕を一瞬間違えたように、舞に似ている僕に会わせることで症状の緩和を狙っているのだとか。

 

「それで、舞とほとんど同じ僕ってわけですね」

「…………他の手も試したんだがな」

 

苦肉の策であるというように相澤先生が目を伏せた。そこまで嫌? まぁ、ヴィランである舞は僕のクローンで、そのクローンは守りきれなかったが故に作られたものとか考えたら嫌か〜。倫理的なものだよね。

 

「いいですよ」

「軽いな!」

「そりゃ軽いでしょ。範太は重い方が好き?」

「その聞き方は悪意ない?」

 

悪意はありません。

 

「大体、別にいいよ。泣いてる、怯えてる女の子を助けられなくて何がヒーローだ」

 

僕はコップの水を飲み干してそう言った。あ、耳郎ちゃんお水入れてくれるの? ありがとね。

 

「で、日程はいつですか?」

「これからすぐだな。通形が連れて来てくれる手筈になってる」

 

最後の唐揚げをお米と一緒にかき込んでから頷く。そういえば今日の唐揚げってなんか味付けいつもと違う? あ、今日のは飯田くんが作ったの? やるね。

 

「……人全員敵だと思うくらいとか相当だよね。よっぽど辛いんだ……通形先輩なら連れてこられるってことですか?」

「あぁ、通形には少し心を許しているみたいだからな」

「へ〜……」

 

やっぱり5分間無個性で守り切ったのが効いてるのかな? 無個性で5分間壊理ちゃん守り切れるのなんてこのクラスだとまぁ、かっちゃんくらい? あと僕。いや、僕も厳しいかな? 個性ありきの戦い方しか出来ないだろうし。少なくとも誰にでもできるようなことじゃない。

 

「じゃあ、僕が三人目になりますか」

 

グッと立ち上がってから義足をプラプラと振る。まぁ、日常用の簡素なものだけどね。さっきまで片足で過ごしていたらヤオモモちゃんが精神衛生上悪いって造ってくれたものです。そのときの顔も結構良かったんだよね。スナック感覚で曇らせ顔を消費してる……まぁ、数日したら簡単な曇らせ顔も味がするようになると思うけど……つい一昨日ヤバすぎる曇らせ見たばっかだからね、感覚が麻痺してる。

 

「いつでも大丈夫ですよ」

「…………すまん、迷惑をかける」

「気にしなくていいですって」

 

本当に気にしなくていい。

 

だって、僕が今からまたみんなのことをたっぷり味わおうとしてるからね。そんな奴に気を使わなくたっていいんだよ。

 

「じゃあ、ヒーローになりますね」

 

大袈裟にクスクスと笑ってから、僕は歯を見せてニカッと笑ってみせた。

 

 

  × × ×

 

 

しばらく、雑談に費やす。とは言ってもみんながこっちに気を遣ってくれてるのを適当に流しながら弱々しい曇り顔を摂取してただけなんだけどね。

 

そうやって話をしていると相澤先生が携帯の通知を見て顔を顰めたのが視界の端で捉えられた。あ〜、来たのかな? みんなもその雰囲気が感じ取れたのか静かになって外の物音へと耳を集中させる。

 

「やぁ、みんなー! 元気してるかい!?」

「…………」

 

通形先輩が元気よく手をあげながら陽気に入ってきた。その腰に隠れるようにして壊理ちゃんが隠れている。なんだか一日ぶりなのに何日も会ってない気がする。というか仮面を外して出会うのって初めてかも?

 

「…………!」

 

その幼い、可愛らしい瞳が僕を捉えた。そして驚きのあまり見開かれる。通形先輩の足から手を離して僕の前にまで足を進めた。その姿をクラスメイトのみんなが息を呑んで見守る。

 

「あ、あの……!」

「うん?」

「……舞、お姉ちゃん?」

「……あ〜、ごめんね? 多分人違いかな?」

 

足を折り曲げて彼女の前に膝をつく。そして涙を拭うようにしてゆっくりと親指でその目尻を拭った。

 

仮面を被ってない状態だと彼女の顔がよく見えていいね。

 

「僕は舞じゃなくて、舞妓譲葉。……いや、名前に舞入ってるけどね? 舞じゃないんだ。僕のことは好きに呼んでいいけど、お兄ちゃんって呼んで欲しいかな!」

「お兄ちゃん……?」

「そうそう。お兄ちゃん」

 

彼女の頭をワシワシと撫でる。まぁ、性別は入れ替えてないので。彼女と会ってるときもずっと男だったんだけど……まぁ、それはいい。思い出すと悲しくなってくるからね。

 

「君は聞けば大変な目にあったんだってね?」

「…………」

「よく、頑張ったね」

 

よいしょ、と膝を曲げて地面にお尻をつける。そして彼女の目線よりも下に顔がくるようにして彼女の手を握った。

 

「僕は、君の言う舞じゃないけど、君のことを守ってあげられるヒーローになれると思うんだ」

「……私にとっては舞お姉ちゃんだけがヒーローだもん」

「そうなの? じゃあ、ハイ! 立候補させてよ!」

「……舞お姉ちゃんだけだもん」

「アハハ! そこまで? なら頑張らなきゃ。君のヒーローになりたいんだ! 君みたいに可愛いお姫様のヒーロー役、そいつだけが独り占めなんてずるいだろう?」

 

みんなの顔が見える。うわぁ〜!! 舞だけがヒーローなんて言われてすっごい曇ってるじゃん!! 最高!! 最高だよ!! なんでそんな顔してくれるの!? どっちも僕なんだけどね!! 残念でした〜!! というか出久くんいい顔しすぎだろ! ここ最近君が怒涛の追い上げでいい顔してくれるからちょっと君のこと大好きになってきてるんだが!? はぁ〜! もっとぐちゃぐちゃにしたくなるじゃんか!!

 

「ヒーローは1人じゃなくてもいいじゃん! たくさんいた方が守ってもらいやすいし!」

 

ヒョイっと立ち上がってから彼女のことを見つめる。そしてニコリと笑った。ここでかっこよく舞と同じ言葉を言ってあげれば彼女の心を揺り動かすには十分な刺激になるだろう?

 

僕は確かなんて言ったんだっけ? え〜っと、あぁ、そうそう。

 

こうだったかな?

 

「『君は救われるべき人間さ。必ず、君を救うヒーローが現れるよ』」

「……!」

「そのうちの一人に、僕が成れたら嬉しいな」

「…………なんでそんなに優しくするの?」

「え? 僕はヒーローになりたいからね! 知ってるかい? “夢や希望は語るもん”なんだぜ? だから、君のヒーローになりたいって夢は存分に語らなきゃ!」

 

壊理ちゃんが僕を品定めするように見つめた。可愛いね……本当に曇らせがいのある顔してる。食べちゃいたいぜ……

 

「改めて、君の口から君の名前を教えてくれる?」

 

壊理ちゃん……エリちゃんが口を開いて名を名乗る。その様がとても輝いて見えた。あぁ、いい笑顔だ。

 

 

沈めてやりたいね。

 

 

「壊理、エリだよ」

「そっか、いい名前だ!」

 

彼女のことを抱き上げて、グイッと抱きしめる。ツノを僕に押し付けるみたいにしてエリちゃんが僕に抱きついてきたのが感覚で分かった。

 

「君の人生はこれからさ! 僕と遊ぼうぜ! エリちゃん!」

「……うん!」

「何して遊ぶ!?」

「……オママゴト」

「いいぜ〜! 僕何役?」

「……ヒーロー?」

「予行練習じゃん!」

 

抱っこして振り回すようにする。高い高いまでしてあげれば彼女の涙も引っ込んでしまったようだ。まぁ、これに関しては舞がしてたことだしね。……ややこしいな? 僕がやったんだけどね!

 

これで、また簡単にエリちゃんの心に溶け込むことができたわけだ。いや〜、いいね。僕ってば策士で最高の演者だ。この明らかなヒーロームーブを舞もできることに気づけば、みんなの顔が二段階は暗くなるね。最高かもしれない。

 

あ〜、曇らせのいいところ! 事後処理の味も美味しいことだよね!! いや〜、最近は特大のがいくつか実ったから結構充実してきてる。しかもこれよりもっといい本物が、本命があるんだよ? トぶって!

 

けど、それまでの間に。

 

「ね! みんなもやろーよ! 遊ぶのは人数いた方がいいからさ!」

 

もっとみんなの心に僕を植え付けて、みんなの心に染み込んで、その瞬間に、居なくなった時に、僕がいた穴がみんなの心を動けなくするまで。

 

仲良くならないとね。もっと、もっと、大切なものになるまで。

 

「あ、爆豪はヴィラン役な」

「んだテメェ殺すぞ一番ヒーローだわ!!」

 

さて、忙しくなるぞ。と僕は後半戦に控えた大きな山場を想像しながら一人ぽつりと呟いた。





遅くなってしまってごめんなさい! 何足も草鞋を履いていると走るのが遅くていけない……
皆さんの応援が僕を、僕たちをここまで連れてきてくれました。ありがとうございます! 欲張りなんですがお気に入り登録、評価10や評価9達に感想の数々! ここすき! その全てが僕に力をくれました。ありがとう。

この物語はまだ続きます。これからも譲葉たちの物語をお楽しみに!!

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