個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア! 作:波間こうど
評価高くて嬉しい。あと曇らせの信者が多くてなんか嬉しい。
曇らせ見たい? ならしっかりと種を育てるところから始めましょう。きっと皆さんの心に残る素晴らしいものを見せてあげますのでご期待ください。
あと、丁寧に書いてたら長くなります。そこはご了承ください。
「お、出久くん制服似合ってるね」
「ゆずくん! ゆずくんはなんだか着慣れてるって感じだ! 僕みたいに制服に着られてない!」
入試から数ヶ月後、春。僕と出久くんはしっかりと雄英高校ヒーロー科に合格していた。まぁ、予想通りである。僕の方はオールマイト直々に『君は主席さ!』とまで言われたからね。かっちゃんを越えられて嬉しい限りである。これまた良い曇り顔を見せてくれることだろう。
「それにしても二人とも同じタイミングで個性が発現するなんて流石に仲良し過ぎない?」
「あ、はは。ゆずくんは受験会場で発現したんだっけ?」
「そうそう。今度出久くんにも見せてあげるよ、僕の個性」
雄英高校に向かう最中。僕と出久くんはお喋りに興じていた。まぁ、余裕を持って家を出てるしね、歩いていても問題ない。
「1-A、1-A‥‥」
「見つかりそう?」
出久くんからしたら憧れの学校で、合格するかどうかすらもわからなかったような学校なので、そりゃまぁ、ドキドキしているだろう。僕みたいに合格することは前提条件で生きていることの方が稀なのだ。いや、僕は雄英高校に合格するのが目標じゃなくて、その先でみんなのことを曇らせることが目標だから‥‥雄英高校ヒーロー科に在籍してて、最高の輝きを持った生徒たちの顔を曇らせることだけが生き甲斐だからさ‥‥
ちなみに僕も出久くんと同じく1-Aらしい。B組になることも覚悟してたんだけど、A組らしくて一安心だ。個人的にはA組の方が好きだしね、出番が多いからっていうのもあるだろうけど。曇らせ顔をよく見たメンツだし。
それにしても僕が合格したことで誰が落ちたんだろうか? いや、僕がA組にいるってことはA組の誰かが落ちたんだろうけど‥‥。本当はみんなと同じく合格して幸せなA組21人構成が理想だったんだけど、いくら考えてもそうなる方法が思いつかなかなかったのだ。10年考えても思いつかないものは出てくるわけがないよね‥‥仕方ない仕方ない。尊い犠牲になってくれたのだと思うことにしよう。
緊張している出久くんと考え込んでる僕が隣で歩いていたらいつの間にか1-Aの教室に辿り着いていたようだ。この思考癖はここ10年間直そうと思っても直らなかったんだよね〜‥‥考え込む癖。出久くんのヒーローについて語るブツブツブツブツの個人的エフェクトみたいなものだと思ってるんだけど‥‥直さないと色物キャラになっちゃう。
「怖い人とクラス離れてますように‥‥!」
「もう既に爆豪の声聞こえない?」
「怖い人とクラス離れてますように‥‥!」
「聞こえてねぇな」
ド緊張して聞こえていないようなので現実を教えてあげようとドアをスパーン! と思いっきり開いてあげる。するとそこでは原作のように机に足を乗せているかっちゃんと、それを注意する飯田くんの二人が口論を繰り広げていた。相変わらずガラが悪いなぁ‥‥これと友達になれる切島くんは流石の一言に尽きるよ、この時期のかっちゃんはゲロを下水で煮込んだみたいな性格をしてるからね。
人気投票一位の様か? ‥‥これが?
「2トップ‥‥!」
「怖い人の2トップってこと? 思ってても口にしちゃダメだぞ」
僕たちがそんな呑気な会話をしていると出久くんと飯田くんの視線が絡み合った。どうやら僕たちが来たことがバレたらしい。
「俺は私立聡明中学の‥‥」
「聞いてたよ! あっ‥‥僕、緑谷。よろしく飯田くん‥‥!」
「僕は舞妓、よろしく天哉」
ズンズン、と進んできた飯田くんに軽めの自己紹介をしてあげてから、飯田くんが何やらペラペラと出久くんのことを買い被った高評価しているのを横耳で聞きながら視線を教室内に巡らせる。どうやらA組は原作と変わらない顔ぶれらしい。‥‥居ないのは砂藤くんかしらん? ごめんね‥‥他の世界線では入学してるから許して‥‥
なんて思っていると耳郎響香ちゃんと目があった。驚いた表情をしている彼女に向かってヒラヒラと手を振っておく。口パクで「縁があったね」なんてあの日に交わした言葉を思い出させるのも忘れない。個人的には好きなキャラなんだよね、耳郎ちゃん。僕の個人的な優遇キャラである。つまり曇らせたいってことね。
そんな風にクラスを見回していると、後ろから声がかかった。こ、この隠しきれない佐倉ボイスは‥‥! 僕の天敵お茶子ちゃんだな!
「あ! そのモサモサ頭は! 地味めの!!」
「〜〜〜!!」
「出久くん、噛み締めるのはわかったから僕の手を離してほしい。握りしめるのやめて、痛いから、すっごい痛いから」
この童貞くんがよぉ‥‥。女子と話すのに僕を介さないでほしい。というか、僕の腕潰れそうなんだけど? 一年前の君ならともかく今の君ムキムキゴリラなんだから、加減ってものを知ってほしい。腕とれるから、ほんと、ほんとだよ? 聞いてる? 取れちゃうって、もげるよ? いいの? ねぇ???
と僕が抗議の視線で見つめていると、視界の端にモソモソと寝袋が蠢いているのが見えた。相澤先生だ。なんか原作で見た時よりも少し小汚い気がするんだけど気のせいかな? もうちょっと髭とか剃った方が良くない? 髪も整えよ? その髪型だと曇った顔が見えないじゃんか。
「ハイ、静かになるまでに8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」
寝袋から出てきた先生がチラリと僕の方に視線を向ける。なに? 僕が何かした? と視線を返しながら首を傾げてみるも彼はすぐさま視線を外したので勘違いかもしれない。
「担任の相澤だ、よろしくね」
「‥‥あのヒーロー見たことある?」
「いや‥‥僕も知らない‥‥」
現時点の出久くんが知らないってことも確認取れたし、原作とヒーロー知識自体はあんまり変わってない感じかな?
こうやって定期的にセーブポイントのように原作との相違点を確認しておかないと後でメインプランの修正作業が大変なことになるんだよね。もしメインプランが変更になったりしたらサブプランに切り替えないとだし‥‥そうなるとそれはそれでいい顔見れるかもだけど出来ればメインを完遂したい。そのために要所要所で確認取ってるけど今のところ異変はないようで何よりである。
「それじゃあまず、体操服着てグラウンド出ろ」
まぁ、変わってないなら僕のメインプランを弄る必要もないってことだし。ここでは曇らせなんてできそうにもないから、種を蒔く段階ってことにしておこうか、できるだけクラスメイトと仲良くならないとね。
「舞妓、合格おめでとう」
「あ、響香ちゃん。そっちこそ合格おめでと」
「!?」
男女更衣室に向かおうと、教室を出た瞬間に耳郎ちゃんに話しかけられてしまった。僕の横で出久くんが有り得んくらいに動揺してるんだが何故だろうか。
‥‥いや、原因はわかってるんだけどね? 僕は出久くんとずっと一緒にいたから、女子と話す機会少なかったし、出久くんの前で話してるところをあんまり見せたことがないから勝手に同類だと思っていたのだろう。失礼な話だ。今世は童貞だけど前世では彼女の一人や二人くらいいたぞ。‥‥その辺りの記憶が曖昧なんだけどね! 希望的観測も込めていたってことにさせてほしい! いたってことに! させて!!
「まぁ、あんだけ暴れてたら合格すると思ってたけどね」
「まぁね、響香ちゃんこそ、しっかり堅実にポイント稼いでたじゃん」
「ウチの個性に有利だったからね、あの試験」
耳郎ちゃんは索敵は得意だろうし、その上振動を使えばロボットも簡単にぶっ壊せるであろう個性を持っている彼女からしたらあの試験は簡単だっただろう。まぁ、僕は余裕があったので耳郎ちゃんや常闇くん、小大さんの方にロボットを惹きつけることまでしてたんですけどね。これが王者の余裕ってやつよ。
「折角クラスメイトになれたんだ、仲良くしてよ?」
「なにそれ、こっちのセリフ」
クスクスと二人で笑っていると出久くんが固まってしまった。もう処理落ち? 早くない? 曇らせとは違う裏切られたみたいな顔してさぁ‥‥。君が女子と話せなさすぎるだけだろ? そこまで話せない方が稀少なんだよ?
「それじゃあ、また後でグラウンドで会おうか。あの先生遅れたら怒りそうだし」
「言えてる、じゃあまた後でね」
「また後でね〜」
女子更衣室に走り去っていく耳郎ちゃんに手を振ってから出久くんの方へと振り返る。お前固まり過ぎでしょ、そこまでおかしいことしてないからね? 誰だって女子とくらい話せるから。
「‥‥‥」
「出久くん、ほら行くよ」
ズルズルと出久くんを引き摺りながら男子更衣室を目指す。女子更衣室の隣に併設されてるの今考えても頭おかしいけど‥‥、場所としてはわかりやすくて良いね。さっさと着替えて個性把握テストも頑張ることにしよう。
ちなみに僕が着替えている間男子のほぼ全員から顔背けられました。気にしてないのかっちゃんくらいだったわ。かっちゃんは気にしてないというか僕たちのことをいない物として扱っている節すらあるけどね。
あと峰田くんは見過ぎだから、弔くんにも言ったけど僕おっぱいないよ。ちんちんはあるけどね。
「よし、頑張っていこう」
さっさと着替えを済ましてから髪の毛を括って、僕がそう言うと、ようやっと現実に帰ってきた出久くんが「うん」と頷いた。まぁ、彼はこの後何するかわかってないから何も理解していないんですけどね。意気込みだけプロじゃん。
× × ×
「個性把握‥‥テストォ!?」
みなさん声揃えるの好きですね。
さて、個性把握テストである。まぁ、ヒロアカの五話で行われた試験なので皆さんご存知の試験であろう。そして、僕が一番嫌だった試験である。
この試験、僕の個性を有効活用できないのだ。
個性『不義遊戯』。
呪術廻戦のキャラクター、東堂葵が使っていた術式であるが、この個性、なかなか困るところがある。それが位置を入れ替える、というほとんどサポート専用の個性なのだ。
そりゃ、上手に使えばオールマイトともやり合えるような個性ではあるが、僕はこの個性の可能性は東堂葵が見せてくれた程度しか運用できていない。あっちのように呪力を宿すもの限定じゃなくなっているから使い勝手は良くなっているはずなのに中々使いこなせていないのだ。
たぶん、この世界には呪術はなく、これも個性であるというのなら身体能力の一つであるので、伸ばせば良いはずなのだが、しっかり使い込めば伸びると思っていたんだけど、そういうわけでもないらしい、東堂葵以上の使い方ができる気がしない。イメージの問題かな? なかなか上手くいかない。きっともっと汎用性が高いはずなんだけど‥‥まだ、核心に迫れていないという感じだろう。
「個性把握テストか、なるほど、先生に一任されているってわけね‥‥」
「楽しそうー!!」
「個性全力で使えんのか! 流石雄英!!」
「楽しそう? お前らこの三年間をそんな気持ちで過ごすつもりか?」
あ、考え込んでいる間に話は次々に進んでいたらしい。かっちゃんの「死ね!」ミサイルはぼんやりとだが見た記憶があるので、どうやら相澤先生が最下位を除籍にする宣言をかますところまで時間が飛んでいたようだ。ぶちかまし過ぎだよね、入学初日に退学とかRTAしてるんじゃないんだよ?
「さ、最下位は除籍だって! どうしようゆずくん!」
「落ち着きなよ、どうもこうも全力を出すしかないでしょ」
どうせ、除籍にされない、合理的虚偽だとわかっているからこその余裕だ。いや、原作では2年生一クラス丸々除籍されたらしいけども。何したらそうなんのさって感じだしね。一応かっちゃん救出作戦のときにヴィランの被害に遭って昏睡してた葉隠ちゃんと耳郎ちゃん、それから攫われてたかっちゃん以外のメンバーが除籍のギリギリ一歩手前みたいなことになったことはあるが、それでも三人残るわけじゃん? どうやったら一クラス丸々除籍になるのさ。
「さて、デモンストレーションは終わり、こっからが本番だ」
相澤先生の指示に従って個性を使った体力テストが始まる。初手は50メートル走だ。
「‥‥これなら使えるかな」
一応、超人的な記録を幾つか出しておく必要があるので、頑張っていこうと思う。そりゃ、全部で超人的な記録出せるならそうしたいけど、僕の個性だと他のクラスメイトに迷惑かかっちゃうからね。例えば、長距離走とかでゴール手前の飯田くんと位置を入れ替えたりしたら一位を取れるかもしれないけど、そうすると飯田くんが僕の場所から再スタートだ。ここで迷惑をかけるのは得策じゃない。
ちなみに出席番号は僕が入って砂藤くんが抜けている影響で少しだけ変動している。まぁ、自分の運が恐ろしいよ。舞妓って名前に生まれたからかっちゃんと出久くんの間なんだよね。最早運命的なものすら感じちゃうよね。
しばらくみんなの様子を見ていると一番速い飯田くんですら3秒台という感じで(十分速いが)それより速い子はいないようだ。‥‥それじゃあそれをぶっちぎってみよう。
「ゆずくん、頑張ろうね‥‥!」
「うん‥‥‥って言っても、これは僕に有利すぎるけどね」
「へ?」
出久くんが間抜けな声を出す。まぁ、個性はまだ教えてないしね、初めて見せるものだし、派手に使うとしよう。何と場所を入れ替えようかと考えていたのだけど、ちょうど良いことにさっき走った葉隠ちゃんがそこに立っていたので呼び止めることにする。
「そこの透明の可愛い子! ちょっとそこで止まっててくれない?」
「へ? 私?」
おそらく自分のことを指差しているのだろうが、透明であるが故に見えないので、とりあえずそうそうと頷いておいた。そしてクラウチングスタートの準備に入った出久くんの横で仁王立ちになる。
「驚くと思うけどごめんね!」
『スタート!』
スタートの掛け声と共に、僕は拍手を打ち鳴らした。瞬間景色が切り替わる。
『ピピッ! 0秒01!』
「はぁ!? なんだよ今の!」
「一瞬で場所が入れ替わった!?」
「あ、スタート位置に透明の子が移動してる! なんで!?」
うんうん、反応は上々。悪くない。というか寧ろいいくらいだ。ここのみんなは芸人くらいいい反応くれるから大好きだよ本当。驚いてる顔にもしっかりとワクワクを滲ませてる、ここで最下位から除籍ということを忘れているんだろう。良い意味で前向きな少年少女。素晴らしいね。
それでこそ曇らせ甲斐がある。
「ゆずくん‥‥それがゆずくんの個性?」
「そう、後で条件とか教えるね。活用方法一緒に考えてほしくてさ」
「も、もちろん!」
僕が驚愕と賛美を浴びていると、かっちゃんに爆風で邪魔されず、原作よりは少し早いスピードでゴールを切った出久くんが僕の横へと小走りで駆け寄ってきた、小動物みたいで可愛いね。お疲れ様のハイタッチをしてから、目線をクラスメイトの方へと動かす。
すると、我慢の限界であったかっちゃんがブチギレている様子が目に入った。
「テメェ! どういうことだ! 無個性のはずだろーが!!」
僕たちのことを見学していたかっちゃんが鬼のような形相でこちらに詰め寄ってきた。気持ちはわかるけど落ち着きなよ。
「個性が発現したんだ。今までないことじゃない」
「あぁ!?」
「なんだよ、個性が使えないからって見縊ってた相手が使えるようになってビビってんの?」
「テメェ‥‥!」
今まで、勉学で、運動で、僕は悉くかっちゃんよりも良い成績を出し続けていた。だけど、個性がないからと、障害にならないと、かっちゃんは割り切っていたのだ。出久くんには負けているって思っていて、僕には勝てないと思わせる。そうやって僕たちに対して劣等感を滾らせる。
あぁ、怯えた、良い顔だ。
「なんだ? 図星かよ」
「殺す‥‥!」
かっちゃんが手のひらを爆破させて僕に飛びかかろうとする。それよりも早く相澤先生の捕縛布がかっちゃんの体を固定した。
‥‥‥サポートアイテムいいな、僕も何か使えるようにした方がいいかな。でも両手を空けておく必要があるんだよね‥‥‥足につける装備とかなら結構運用できるかも? それこそ出久くんが使ってたシュートスタイルみたいなの。発目ちゃんと知り合いになり次第打診しよう、急務だね。
「おい舞妓、あんまり煽るな」
「すいません、売り言葉に買い言葉で」
全く、と言うように捕縛布を解除した相澤先生に見られながら、かっちゃんにさらに曇らせ要素捩じ込むことにした。
「あと爆豪。僕でビビるのはまだ早いと思うよ」
「アァッ!?」
お〜、怖い怖い。なんておちゃらけて言ってから次の種目へと移動する。
次の種目、次の種目、次の種目と幾つも種目をこなしていく中で、僕はそこまで大した記録を出していない。大体素の身体能力で五番目とかにいるからそんなに成績が悪いってわけでもないが、ヒーローらしい記録を出したのは50メートル走の一回だけだ。
「出久くん、個性使えないの?」
「い、いや‥‥僕のは調整をミスると大怪我しちゃうんだよ」
「なにそれ、危なくない?」
原作知識を持っている僕からしたら今の僕の言葉は白々しいにも程があるが、しかしそう声をかけざるを得なかった。僕は親友だからね。個性については全く把握していないことになっているし、下手なことも言えないのだ。
「次はソフトボール投げか‥‥」
つまり、次は出久くんが大活躍する番ということだ。お膳立てくらいしてあげてもバチは当たらないだろう。
「次、緑谷」
「は、はい」
円へと向かう我らが出久くんに向かって、声をかける。一か八かって顔してるし、このままだと原作のままだ。それはつまらない。
何故か? 一発目から記録出せた方がかっちゃんがいい顔してくれそうな気がするから、かな。
「出久くん」
先生がこっちを見ているが、お構いなしだ。アドバイスをあげて、舞台を作ってあげるくらいしてもいいでしょ? 原作主人公くんなんていくら強化してもバチは当たらないのだ。
「最小限の力で、最大限の結果を、だよ」
「え‥‥」
「肩の力入りすぎ、力みすぎたっていいことないって。‥‥‥カッコいいとこ見せてよ、ヒーロー」
これは、いつだかの言葉。
曇らせとか関係なく、僕がまだ純粋で、前世の記憶を思い出す前の純情な少年だったときに、出久くんに言った言葉だ。
当時、男とも女ともつかないような顔をした僕をいじめてきた少年たちに、無個性ながら立ち向かった彼を、僕は、昔からずっとヒーローだと思っているのだ。
「‥‥‥いい顔になった」
さぁ、見せてよ。僕のヒーロー。
君が輝けば輝くほど、僕は君という光の翳るところを見たくて仕方なくなるんだ。
「最小限、範囲を絞る、指だけに個性を発動させれば? そうすれば大怪我はしない、常に最小限に、抑えろ、また大怪我してゆずくんに助けて貰うつもりか? 次は僕が助ける番なんだ、僕がやらなくちゃいけないんだ‥‥‥」
なんかブツブツ言ってるっぽいけど平常運転だね。むしろあのブツブツがないと出久くんかどうかわかんないまであるもん。それに、あの顔なら、きっと魅せてくれる。
カッコいいヒーローの姿を。
「スマッッッッシュ!!!!!!」
出久くんのボールは空を大きく駆け、お茶子ちゃんの∞の記録に次ぐ二位の記録を叩き出し、原作よりも大きく記録を伸ばして地面に落ちた。指は腫れているが、まだ動ける。先生の顔が愉快そうに歪むのが見えた。ほら、うちのヒーローカッコいいでしょ?
「‥‥先生、次行きます!」
「‥‥コイツ」
原作では一球目は相澤先生に個性を封じられて全く伸びなかったんだっけか? まぁ、せっかく二回投げれるんだし投げといた方がいいよね、そう少し考えて、僕はチラリと横を見た。
そこにあったのは、僕が個性を使ったときよりも驚愕した、怯えを含んだ顔をした、勝てないんじゃないか、と心の内側にある敗北感を認識した、良い曇り具合のかっちゃんの顔だった。
は? 何その顔! 可愛いんだが? 君がそんな顔するせいで僕は君のことを虐めなくちゃいけなくなるんだろーが。原作のときは後で出久くんに謝罪するときに全部話してたもんね? 僕はその内容全部、一言一句覚えてるから、もっともっともっと、深い謝罪になるように、たっぷりと時間をかけて自尊心を、尊厳を、削っていくからね、君の心の内側から僕と出久くんには負けた、勝てないって思うまでしっかりと刻み込んでやるから覚悟しろ!
「どーいうことだこら! ワケを言えデク、テメェ!!」
「うわぁぁぁぁぁ!!」
僕が心の奥底でかっちゃんの顔を噛み締めていると、かっちゃんが飛び出していくのが見えた。相澤先生に任せてもいいけど‥‥どうせなら派手に見せ場作りたいよね。
ってなわけで個性を使って飛び出したかっちゃんと僕の位置を入れ替える。人と離れた場所にいたこともあってか、かっちゃんの爆破が誰かに当たることはなかったようだ。‥‥か、考えてなかったけど緻密な計算だね!
「暴れるなよ、思春期か?」
「‥‥‥! 女男ぉ‥‥!」
敵意を超えて殺意すら滲ませながら僕に今にも飛びかかろうとするかっちゃんをギロリと相澤先生が睨む。その視線に気付いたのか、かっちゃんは拳を握りしめながら舌打ちをした。
序列最下位は除籍、なんてことを言い出す教師相手に二回も忠告を受けたらどうなるのかということなんて容易に想像できるだろう。かっちゃんはすぐに爆発しているように見えて思ったよりもずっと繊細で、ずっと冷静だ。だから心の底でわかっているはずだ。
道端の石ころだって思い込もうとしてたって。
「‥‥‥舞妓」
「すいません先生、ウマが合わなくて」
「わかっているならいい、合理性には欠くが」
かっちゃんに言っても無駄だと考えたのか僕に向かって言ってくる相澤先生に向かってわかってることをニュアンスで伝えると、先生はわかってくれたのか次に行くぞ、とクラスメイトを促した。うんうん、会話しなくても会話が成り立つのは心地いいね。ラスボス先生とかは会話しなくても成り立つけどその代わり一挙手一投足次第では死ぬ可能性があるんだよね〜‥‥神経すり減っちゃう。
そんなバカなことを考えながら、僕は指を痛め、顔を歪ませる出久くんの背中を摩ってあげつつ、次の種目へと移った。
× × ×
「んじゃ、パパッと結果発表な、口頭で行うのは時間の無駄なので一括で開示する」
相澤先生がタブレットを弄りながら僕たちに向かって語りかけるのを聞いて、除籍されると考えている出久くんの背中を摩り、大丈夫大丈夫だと声をかけてあげる。そんなにビビらなくても多分許してくれると思うよ。
「ちなみに除籍は嘘な。君らの最大限を引き出す合理的虚偽」
「!?」
「はー!!!???」
「君たち元気いいね」
「少し考えれば嘘だってことくらいわかりますわ‥‥」
ところがどっこい、嘘じゃないんだよなぁ。これたまたま見込みがあったから許されただけで見込みがなかったら余裕で切り捨てられてるんだよね。いや、相澤先生が見込み0で切り捨てるところ見たことないからあれなんだけどさ。
ヤオモモちゃんの発言にそんなツッコミを脳内で行いながら映し出された自身の成績を確認する。総合順位は8位か、汎用性の高い個性ってわけでもないしほとんど素のスペックだなこれ。戦闘訓練とかなら1位取れるんだろうけど、まぁ、今回は個性のことを詳しく確認したかったみたいだし、成績が振るわなかったのは多めに見てあげよう。
「これで今日は終わりな、クラスに資料等届いてるので目を通しておけ、あと緑谷はばーさんのとこ行って治してもらえ。明日からもハードだぞ。以上、解散」
さっさと着替えて1-Aで教材を拾ってからリカバリーガールに治癒してもらいに行った出久くんの分の鞄も背負ってあげる。まぁ、門までは持って行ってあげるとしよう。
ちなみに更衣室ではまたみんなに顔を逸らされました、ウケるね。あと峰田くんの視線がドロドロしてたのはウケていいやつかな?
「それじゃあ響香ちゃんまた明日」
「あ、うん。また明日」
耳郎ちゃんに手を振って教室を出る。もうそろそろ門から出てるかな、と思ったらたった今、飯田くんとお茶子ちゃんと門前で話し込んでいるのが見えた。仲良しトリオですねぇ〜。お茶子ちゃんがあまりに眩しいせいで忘れがちだけどあの二人は曇るシーンが多くて僕は個人的には好きです。
「出久くん、荷物持ってきたよ」
「ゆずくん! ありがとう!」
「天哉と‥‥君はお茶子ちゃんだっけ? よろしく。僕は舞妓譲葉。出久くんの親友ね」
「名前覚えてくれとる! そうそう!お茶子です! よろしくね!」
四人が揃ってから、誰からとは言わず、いつのまにか歩き出していた。駅までの少しの間、全員で親睦を深めて笑い合う。こういう日常の一風景がこの先の曇らせをより味わい深いものにするのだ。うんうん、青春とはかくありたいものだなぁ。
「ところで私最初ゆずくんのこと女の子やと思っとった」
「へ?」
「む、麗日くんもか。失礼ながら俺も一瞬女子かと思ってしまったよ」
「あはは、ゆずくんは昔から可愛いからね」
キャラ付けのための中性的男の娘のつもりだったのに幼馴染からもガチの男の娘だと思われていた件。いや、更衣室での反応からそんな気はしてたけどね? しっかり言われるとそれはそれでなんか嫌じゃん?
ま、まぁ? それも曇らせ要素になり得るかな? なんて誤魔化しながら、僕たちは雄英高校の1日目を終えた。今日はかっちゃんの顔が歪んでたので満足です。
今の楽しい帰り道が、曇らせのために必要なんだということを理解しているからこそ、この先のことを考えて弛む頬を抑えながら帰路についた。
個人的にはかっちゃんが好きってわけでもないけど曇らせたら一番だと思います。
映画編を入れるかどうかのアンケートをさせてください!
-
入れたのが見たい!
-
本編だけ追いかけるのでOK!
-
アンケート結果が多い方で!