個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア! 作:波間こうど
まぁまぁまぁ……曇らせ? とか知らない子ですね……
ここ最近、僕の扱いが女の子に対するそれになってきてる気がする。ミスコンに出るってなってから、特にそうで当たり前のようにスカートを穿かされるし、女装してようがもうみんな気にも留めなくなった。なんならそれが当たり前みたいな顔してる時すらある。とても不快ですね……
「ストレスになってること考えながら走ると距離って一瞬で消し飛ぶよね」
口から溢れる不快を示す言葉を空気に馴染ませながら朝の澄んだ空気を肺に取り込む。嫌なことが消えて、清々しい気持ちになれるような気がするね。……いや、そんなことないんだろうけど。
「……こんな時間に全力疾走するなんて小中学生の頃に体力作りで走って以来だな」
文化祭当日。朝。
僕は雄英高校の麓にまで足を運んでいた。理由はホームセンターでロープと、コンビニで食紅を買うためである。原作だと出久くんが出てきてたんだけど訳あって代わってもらったのだ。ここでやりたいことがあったからね。
「準備は上等。あとは下調べ通りのルートを歩けばいいだけ……準備してきた甲斐があるってもんだよね」
小走りで決められたルートを走る。このまま行くとあと数秒の後に……
不審者みたいな格好をしたおじさんとぶつかりそうになる。
「おっと」
「あ! すいません!」
「気をつけたまえよ。ゴールドディップスインペリアルの余韻が損なわれるところだったじゃァないか」
わざとぶつかりそうになったおじさんがそう口にするのを確認する。うん、原作通りだ。ゴールドディップスインペリアル。なんかスタンドみたいな名前だけど、ただの紅茶である。いや、幻の紅茶らしいからただのってわけではないけど。
さて、その言葉に対しての回答は一つだけだ。相手が興奮するように仕向けるために、乗ってあげよう。
「……へぇ、いい紅茶飲んでますね」
「…………! 君! 今ので紅茶とわかるのかい!? いい趣味をしているね!」
「まぁ、舌には自信がありますよ。ついでに、耳にも」
興奮気味に語りかけてくる最後のピース。ジェントルのおじさんの言葉に乗っかってあげて、そして、トントンと耳に指を当ててみせた。その行動にサングラスの奥の瞳がぐらつくのがわかる。わかりやすいね。
「聞いたことのある声は、忘れないんですよね。ところで、ルーティーンってやつですか?」
「なんのことかな?」
「あ〜、そういうのいいです。僕確信してるので、目的もなんとなく察しがつきます」
「……ラブラバ、カメラを回せ」
サングラスとマント、マフラーを取るジェントルを見ながら、体を動かす。少しだけ跳ねて調子を確認したら、半身を作って拳を握りしめた。
「ウチに手ェ出すな」
出久くんと同じセリフ、フルカウルを使えるわけじゃないからイナズマは散らないけど、それなりにカッコいいんじゃないか?
「察しのいい少年だ」
「へぇ……少年って一目でわかってくれるんだ」
「当然だろう? 可愛らしい姿をしているが心が男のそれだよ」
「……もしかしていい人なのでは?」
なんか最近尊厳破壊と言わなくとも出久くんたちに女子の服装に着替えさせられまくったあとだからなんか男に見えるって言われるだけで嬉しくなっちゃうな……許そうかな……見逃そうかな……むしろもう勝手に入ってもらってもいいけどな……
はっ、ダメだダメだ。僕の目的のためにしっかりとここで撮れ高稼がないと……あ、撮れ高は文字通り撮れ高ね!
「ラブラバ! 予定変更だ! これより! 何があってもカメラを止めるな!!」
お互いに撮れ高を求めるヒーローとヴィランの二人が向き合う。そして名乗りをあげた。
「諸君! これより始まる怪傑浪漫! 目眩からず見届けよ、私は救世たる義賊紳士、ジェントル・クリミナル!! 本日の予定はシンプルだ!! 雄英! 入ってみた!!」
「俗っぽいなぁ」
ついツッコミを入れながら外套脱衣のついでに張られた弾性の膜に突っ込んでいく。まぁ、漫画的には彼の個性を知らないわけで、少しくらいサービスで自己紹介の機会をあげてもいいかなって思っただけなんだけどね。
「悠長に自己紹介とか、余裕ですねッ!」
右足をジェントルの顔の位置にくるように調整して上段蹴りを蹴り入れる。それは、さも当然のように弾き返された。
「!?」
「私のリスナーなら知っているはずだが? 私の個性は『弾性』! 空気にだって弾性を付与できる個性!!」
知った上で乗ってあげたんだけど……まぁ、そんなことを言っても始まらないので大人しく吹き飛ばされてあげる。おそらく見開きになって吹き飛んでることだろう。ヴィランは強そうに描かないとね。
「……すごく吹き飛んだな?」
「エグいくらい暴力的よ、ジェントル」
「それほどのスピードということさ、可愛らしい見かけによらず恐ろしい! すまない少年! 私は征く!!」
ジェントルとラブラバが走り出すのを見てから手元にある石ころとジェントルの位置を入れ替える。
「な!?」
「じゃあ、そっちも覚えておいてよジェントル。僕の個性は『不義遊戯』! 物と物の位置を入れ替える個性!」
ここにまで移動したジェントルはまだ、個性に慣れていない。この拳は、入る。
「手を叩くことが発動条件さ!」
「ぐっ!!」
面白いくらいに吹き飛ばされていったジェントルを眺める。受け身をとって、体を弾ませた彼は上手く立ち上がるとそのまま、逃げるように駆け出した。
あぁ、逃げの一手を打ちたいだろう彼に対して、僕の個性は明らかに不利すぎる。
「貴方の選択肢は二つだけだ、ジェントル・クリミナル」
手を叩く。手元のコンビニ袋と入れ替えて彼を手元にまで、引き寄せた。拳が交差する。……なんでこの人二回目で僕の不義遊戯に対応してるんだよ。頭おかしいんじゃないの……? 流石は刑務所内のヴィランを一人で制圧した男。なんでこいつがヒーローになれないんだよ。
右手で拳を受け止めて、左手の拳を受け止められる。交差した戦闘は、止まらない。
「自首するか、僕を倒すかだよ」
「どうやらそのようだな……ッ!」
「暴力的解決は、お互い好みじゃないだろう? 僕は自首をオススメするね」
「それはできない相談だ! 今回の案件に! 私は自慢の髭と魂を賭けている!!」
あぁ、知ってるよ。貴方は僕に近い。僕も貴方も同じだ。
何者かに憧れた、そんなただの、夢見る少年。
その成れの果てだから。
「悪いけど!」
「すまないが!」
「止める!」
「押し通る!!」
ジェントルの攻撃を押し止めて地面を蹴り上げる。彼の鳩尾を狙った蹴り上げはさも当然のように空気の膜に阻まれた。そして跳ね返された足が地面に当たるのと同じくして、僕の足が深く沈み込む。
「ッ!」
「ジェントリー! トランポリン!」
体が跳ねて浮かび上がる。僕の体が跳ねるのを確認した彼が地面を踏みしめたのがわかった。
「場所を変えよう。民家を害するつもりはない」
「何を一丁前に!」
飛び上がり、ラブラバを連れて工事現場の方に進んでいく彼らを捕捉して、体勢を整える。電柱に足をつけてから、その電柱を足蹴にして電線に飛び移った。この程度で感電しないって知ってても怖いよ! できることならしたくなかったんだけどな!
彼の進路は工事現場ではなく森の中へと伸びていく。それに合わせるようにして僕も森の中へと飛び込んだ。適当な落ち葉と場所を入れ替えて着地をする。それとほとんど同時に地面に僕の足が沈んだ。
「はぁ!?」
「失礼、フェアではないと知りながらも、見えない間に仕掛けさせてもらったよ」
僕の体が飛び上がる。酔いそうになるほどの重圧を受けながら、僕の位置を目に見えたジェントルの位置と入れ替えた。
「ジェントル!?」
「悪いね、フェアじゃないとは思ったんだけど、乗らせてもらったよ」
飛び上がったジェントルが木の枝を足場にして飛び跳ねる。狙いはもちろん、こちらだ。
「ラブラバから離れたまえ!」
「おじさんの嫉妬は醜いですよ?」
突っ込んでくる彼を目視してから彼が揺らした木の枝から落ちた木の葉の一枚と僕の位置を入れ替えた。そして、上から蹴りを打ちつける。これは飯田くんのレシプロを参考にした蹴り技なんだけど、後頭部を狙われると随分と効くだろう?
「レシプロ・バースト! ……なんてね!」
「ぐぅぅぅぅ!!」
「ジェントル!」
地面に激突したジェントルが痛みに悶えるところに、ラブラバが駆け寄る。悶える様は全然紳士的じゃないなぁ……
……いや、そんなこと言ったら僕がやってることなんて人質とったみたいな場所に陣取って助けに飛んできた相手を背後から蹴り付けたわけだからヒーローなんてとても呼べない行動だけども。普通にヴィランって言われた方がしっくりくるだろ。いや、ヴィランなんだけどさ? ちなみにさらに上から乗って、拘束までしてます。ムーブがヴィランすぎる。
「さて、まだやりますか?」
「ぐっ……! 認めよう……! 君は、私が全力で相手するに足る者だと!!」
「お褒めに与り光栄ですね。で、自首してくれますか? 僕の下で吠えられても困るんですけど」
正直。面倒な相手ではあるけど、負ける気はしない。だって、相性が良すぎる。彼がどれだけ弾性の膜を張ったところで、僕はそれを無視して手元に引き寄せればいいだけだ。彼はおそらく跳ねさせるものも多く、遮蔽物に富んだこの場所を自分の得意分野として選んだつもりなのだろうけど、ところがどっこい、その本質は僕の独壇場だったってわけである。どう足掻いても負ける気がしないよね。
今のままならって話なんだけど。
「……ジェントル」
「あぁ、わかっているとも。ラブラバ。力を貸してくれるかい?」
「えぇ、もちろんよ……ジェントル、愛してるわ」
「ありがとう、ラブラバ」
個性、『愛』。
愛を囁くことで短時間ではあるものの、最も愛する者一人だけを、短時間パワーアップさせられる。愛が深まるほど効果が増大するパワー系のバフ個性。ラスボス先生が使えなさそうな個性筆頭だね。
……いや、信者に愛を誓わせたりしそうか。却下却下。
「悪いな、少年。こういった部分は普段カットしているんだ」
ぐるん! と視界が回る。乗り物に乗った時なんかとはレベルが違う、Gが体にかかるのがわかる。
「しばらく、眠っていてくれたまえ」
首を手刀が狙う。まぁ、僕はこの光景を原作で知っているから対策ができるんだけどね。
手を叩く。入れ替えるのは僕とさっきジェントルを押さえつけていた時に彼の足元に転がっていた小石だ。手刀が空を切ったのを確認してから彼に蹴りを放つ。左足は彼の右手に遮られて払われたその足は地面を掠めた。
「これにも反応するのかよ! おかしいでしょ!」
「愛の力だよ、少年!!」
ラブラバを地面に下ろした彼に肉薄する。数センチメートル先の彼の胸元に拳を叩き込むがそれは掌に受けられてしまった。
「なんでこんなことをするんですか!」
「なんでとはなんだね!」
「貴方の個性は素晴らしい! 戦闘技術だってある! 人を救うヒーローにだって、なれたはずだ!」
叫んでみる。彼の眉間が動いた。やっぱりこの話題を振られたら弱いよね?
だって、諦めた夢なんだから。
「歴史に! 後世に名を刻む! この夢は最早私だけのものではない!」
「それこそヒーローでいいじゃないか!」
痛いだろう? 胸が、苦しいだろう? いい顔してるぜ? 気づいてないのか?
苦しそうな顔だよ♡
蹴りを放つも流される。拳を放つと受けられる。彼の攻撃は華麗に避けて、間合いを取るも弾かれる。最早サシの状態では個性も通じない。この人、愛の力で強くなりすぎでは?
ジェントルが飛び上がった。木の枝や幹、地面を経由してピンポン玉のように跳ね、跳躍を繰り返す。バウンドを繰り返した彼は次第に見えなくなるほど加速していき……これ、出久くんにもしてたやつか。いいね、原作再現みたいで。
というかわかる人にはわかると思うんだけどこれワンピースのベラミーがしてた「スプリングホッパー」じゃんね。じゃあ、僕も空島編のルフィみたいに倒そうかしら。あ、別にドレスローザ編の方でもいいけどね。同じ倒し方だし。
「いい個性じゃないですか! 貴方のその個性なら人を助けられるでしょう? それに、ヒーローになる素質はある筈だと思いますけどね!」
「何が言いたい!」
「事情なんて何も知らない僕でもわかる!」
指を向ける。その先には、ラブラバ、相葉愛美がいる。
最低で、最高の、光景だろう?
「貴方が! 救ったんだろう!?」
「…………ッ!」
グッと拳を握る。カメラの位置は、しっかりと確認してある。場所は、理解してる。だから、ここが一番決まるだろう?
「ッラァァァァァァ!!」
飛び込んできたジェントルの横っ面を殴りつける。弾き出された彼が進路を変更するよりも早く打ち抜いた右腕に重い振動が伝わるが、有無を言わさずそのまま拳を振り抜いた。
「ッッッ!!」
「……ごめんなさい。これは想いの力じゃない、ただの、まぐれだ」
地面に伏したジェントルが二度ほど跳ねる。まぁ、結構な勢いで打ち抜いたからね、跳ねるくらいはおかしくない。
「ンンンンンガァァァァァァ!!!!」
地面に弾性を無理矢理付与させて飛び上がる。その目は血走っているように、それでいて、ただ一つの目的を完遂しようと、ただ喘ぐようにも見えた。
「ヒーロー落伍者の成れの果て! それが私だ! そんな私の夢への第一歩! 邪魔しないでいただこう!!」
彼が立ち上がる。その顔は土に汚れ、そして血に塗れていた。服は泥を被り、紳士さのかけらもない。それでも、それでも彼は夢を吠える。
まるで、それは主人公のように。
愛の力で強くなるヴィラン、それが録画されている。仮免を持った雄英生がその対処に当たる。文化祭の当日だろうが、浮かれ過ぎず、しっかりと、ヒーローとしての本質を忘れていない。たかがネットで活動するだけのヴィランだと決めつけず、情報収集を怠ることもなく、調べ上げ、見抜き、止める。
その様子が見られると、その戦いっぷりが見られると、みんな、僕がどれだけヒーローなのかはわかってくれるでしょ?
その映像が、その絵が欲しかったんだ。
最高だよ、ジェントル。貴方は僕の思い通りの立ち回りをしてくれた。それに敬意を表する。
「負けないです、負けられないんですよ、ジェントル・クリミナル」
だから、手の甲と甲を打ち合わせる。まだ、一度も見せていない僕のカード。これを以て、貴方に終止符を打つとしよう。
ガチン! と硬質な、骨と骨がぶつかる音。
「術式反転『定華』」
ピタリとジェントルの体がまるで縫い付けられたかのように固まる。飛び上がったまま、宙に、まるで標本にされたように、動けない。
「ンヌッ!?」
「ジェントル!?」
ジェントルが目を見開くのが見える。その姿にラブラバが反応した。そんな二人を見て、敢えてカメラワークを意識して見せつけるように説明する。
「手を叩いて場所を入れ替えるのが僕の個性、本来の用途なんですけどね。手の甲を叩いて相手をその場に留める……僕の必殺技です。これ、他の誰にも使ったことないんですよ?」
カメラによく映るように場所を調整したからね。僕の姿はよく映えるだろう。そのためにわざわざこのカードを切ると思ってはなかったけど、まぁ、いい。それくらいの価値はあるだろうし。
「最後にもう一度聞きます。僕は、自首をオススメします」
「…………何故だね?」
「そりゃ、これ以上傷つけたくないからですよ。まだ、やり直せるでしょう。貴方は」
「……………………」
「それに、これ以上戦うと、僕も貴方も余裕がなくなる。きっと、そこの彼女を巻き込む。それはお互いに避けたい……違いますか?」
ジッと僕を見つめてくる彼に対して目を合わせる。うんうん、いい目だ。少しは穢れが落ちたかな?
「わかってください。貴方は今、何もできない。この隙に、僕は貴方のことを行動不能にすることだってできる。だけど、そんなことはしたくない」
できるだけ、格好をつける。そして、笑ってみせるのだ。
「貴方の更生を待ちます。貴方は、僕によく似ている。だから……これ以上は、やめましょう」
僕のその言葉を最後に彼の体から煙が立ち込めた。その様は個性『愛』の時間切れを示している。うん、時間は予想通りだ。それに、返答もね。
「……わかった、自首しよう」
「はい、そうしてくれるのならば彼女のことは罪に問わないよう、僕からも口添えします」
「……恩にきる」
「よしてくださいよ、ギブアンドテイクです」
カメラを閉じてジェントルに寄り添うラブラバを見て口を開く。まるで早くジェントルを降ろしなさいよ、可哀想じゃない。とでも言っている目してるなこの子……術式反転は時間制限あるからあと数秒で勝手に解除されるよ。
「……何が望みだ? 私相手にここまでする義理はないだろう?」
「いえ、僕の要望は達成されてるので、問題ないです。新たに何かを求めることはないですよ」
「はぁ? 何言ってるのよ。何も果たされてなんかないじゃない」
「そのままの意味ですよ、僕の目的は、達成されています」
手を叩いて手元にカメラを転移させる。さっきまで僕たちの戦いを録画していたこのカメラの映像を編集して、公開すれば僕の名声は鰻登りだろう。他に設置したカメラも後で回収しないとなぁ……急務だね。
敢えて、もうどうせ誰も聞いていないだろうに、聞き取りやすいようにゆっくり言ってあげる。
「僕の名声を高めてくれてありがとうございました」
「…………!」
「なッ……!」
驚いた顔をした彼らの後ろの藪からハウンドドッグ先生たちが現れる。さて、ここからは、ハウンドドッグ先生の耳にも届かないような小さな声で言ってあげることにしよう。
「貴方たちのおかげで、ようやく僕の目的は達成されそうです」
僕が今まで目立ってきた意味。
体育祭で、知名度を得て、ステイン先輩を踏み台にした弔くんとの劇場。それから誘拐されて、オールマイトを救った英雄になって、それからコレでヴィランの事件を一つ解決。さらにはこのあとの文化祭。僕が人目につく機会は多かっただろう。そうなるようにしたのだからそうだろうけど。
だから、あの意見も、必ず通る。
「僕がヒーローになる手助け、ありがとうございました。これで次のステージに進めます。踏み台、どーもです」
ハウンドドッグ先生たちに縛られる彼の横を通って手を叩く。それでさっき買ったロープと食紅が手元の落ち葉一枚と入れ替わるのだから僕の個性は素晴らしいよね。
「あ、エクトプラズム先生。今何時です? 走って帰ったら間に合いますかね?」
「オマエハ……マァ、イイ。イソゲバマニアウ。ハシロウ」
「どうもです! それじゃあ、全力疾走で行きます!」
最後の最後まで自分の思い通りに進めるために、足を動かす。まだ、やれることが残ってるからね。
× × ×
十時少し前に転がり込むように僕は舞台裏に飛び込んだ。事情はみんなに説明できていないけど、まぁ、さっき戦闘の録画を弔くんたちに送りつけたからスピナーくん辺りが上手く編集してくれることだろう。それができればあとは簡単。僕の名声がぶち上がるのを待てばいいからね。
「ゆずくん! 遅かったね?」
「ちょっと色々あってね。あ、ロープこれね」
「舞妓! 時間ねぇからさっさと着替えろって!」
「わかったから! ちょ、実! 凝視すんな!」
ゴソゴソと着替えてしまう。個性使って着替えてもいいんだけど……それはミスコンまで残しておこう。最後の切り札みたいなものだからね。うん。
「よし、じゃあ。着替えたし。そこにお客さんも来てるわけだし……思いっきりいこうか」
「遅刻してきた癖に仕切んなや……!」
「おうおう、カルシウム足りてないなぁ……それでヒーローになれると思うのかよ、ヴィラン顔」
「んだとテメェコラ!!」
「も〜!! こんなときに喧嘩なんてしないでよ〜!!」
突っかかってきたかっちゃんを弄って遊んでいると芦戸ちゃんからぷんぷんと可愛らしい制止の声が届いた。おぉ……なんかごめん。売り言葉に買い言葉でついね……つい……
「さて、みんな。準備はいい?」
「もちろん!」
「いつでもいけるよー!」
「仕切んなやー!!」
「エリちゃんが見てる、他にもたくさんの人が見てる」
かっちゃんがギャイギャイ言ってるのを適当にいなして、そして言葉を投げかけた。みんなの目がこちらを向く。
「楽しもうとしに来てる人だけじゃない。つまんないこと考えて、僕たちを品定めしに来てる人もいる……で、だから? だからどうしたって僕は言いたいね!」
舞台の幕が上がるまでの数分だけしかない。だから、その数分だけでいい。その数分があれば、十分。
「ぶち上げるよ! 全員! 楽しませて! 笑顔にして帰る!! 今日の目標はそれだけ!!」
「おう!!」
「ぶちかましてやろーぜ!」
みんなのやる気は十分なようだ。その姿を見て、なんだか可愛らしくてクスリと笑ってしまう。可愛いね、みんな。
「響香ちゃん」
「ん?」
「楽しもーぜ」
「……うん!」
ブー! と舞台の始まりを告げる笛の音が鳴った。それを合図にみんなが持ち場につく。どうせ、マイクには乗らないと口を大きく開いた。
「それじゃあ! 雄英全員!!」
「音で殺んぞォォォ!!!!」
かっちゃんが僕の言葉を奪い取って無理矢理ドラムスティックでフォーカウントを取る。そして、明かりが照らされて、幕が開いた。
僕のここでの仕事は、ギター弾くこと。さぁ、煽れ! 目立て!! ダメ押しの時間だ!!
ギターのリフを激しく弾きながら周りのみんなを確認する。ダンス隊も、楽器隊もキレッキレだ。心底楽しそうな空間。ヒロアカの一番明るい瞬間かもしれない。
サビに向かって盛り上がる会場。そういえば、僕って人前でライブするのこれが初めてだったりするのでは? なんて思ってみるも手が止まってくれることはない。音が簡単に飛び跳ねて、僕の体自身も楽しんでくれているみたいだ。
「サビだ! ここで全員! ぶっ殺せ!!」
かっちゃんのあまりにもあまりな声が届く。それを聞いてブースターを踏み込んだ。最後の最後、音でぶち殺す。かっちゃんの言うそれは真理だ。
今この場所は、楽しんでるやつが勝者のステージだ。盛り上がってないやつの首はへし折っても構わない。そんなステージであるべきだ。
女の子の記憶から邪念を消し飛ばし、つまんねー同級生や先輩の頭からつまんねー思想を消し飛ばす。
暗闇の中にエリちゃんの顔が見えた。
「スマイル!!」
マイクなんて置かれてないから、誰の耳にも届かないけど。そんな声を叫ぶ。腹から出した声は耳に届いたのかわからない。ただ、彼女が両手を上げているのが見えた。
これは、成功かな?
「あ、今響香ちゃんアドリブしたな」
チラリと楽器隊に目を向けるとかっちゃんがお前がすんのかい、という顔をしながらドラムを叩いているのが見えた。まぁ、「本番でアドリブとかしないでよ!」って言ってたの彼女だもんね……気持ちはわかるけど、その顔はどうなの? って思うよ?
この曲最後の間奏に入る。このまま、スムーズにベースへと移行して曲が終わる……そのときだった。曲が伸びた。本来なら終わるところで、リズムがもう一巡していく。ミス? みんなが同時に同じミス? と顔を上げると、その瞬間、みんなが嫌な顔で笑っているのが見えた。
「ギターソロ! ユズ!!」
響香ちゃんが急にマイクに声を入れる。そこで初めて大掛かりなドッキリのようなことをされているという自覚ができた。あ、これ示し合わせてた感じ? だとしたら性格悪いって! 僕がギソロ弾けなかったらどうすんのさ!
……あぁ、だから初めに二人で合わせしたときにギソロの無茶振りしてきたのね? 堀越先生がさせたのか、耳郎ちゃんがさせたかったのかわかんないけどこれは結局やらせたかったってことだ。
なら、乗ってあげるとしようか。
エフェクターを踏みつける。単音を、太く、前に出るようにするブースター。それを踏みつけてギターを鳴らす。できるだけ原曲を損なわないように、それでいて、カッコよくアレンジして。みんなの耳をぶち殺す。四小節をプレゼントだ。
会場の熱気が最高潮にまで高まる。それに合わせてチョーキングを決めて、耳郎ちゃんに目線を送った。僕の意図を汲んでくれたのか彼女がベースラインを整えてくれる。音が萎んで……最後に少し、ベースが流れる。
そして、ドラムが叩かれて、曲が締めくくられた。
溢れんばかりの歓声と拍手が轟く。
一列に並んだみんなが頭を下げるのに合わせて、僕も頭を下げた。代表の耳郎ちゃんが口を大きく開く。
「ありがとうございましたー!!」
その顔には達成感を押し広げたような笑顔が咲いていて。この会場の誰も、彼も素晴らしい笑顔だ。
……うん、いいね。もう少しの辛抱だ。全部曇らせるための、最後の辛抱だ。
この顔全てを曇らせる。そのつもりで、この人生を過ごしてきたんだから。
僕は拍手に包まれながら頭を下げ、その瞬間に思いを馳せた。
× × ×
「いけそう? ゆずくん」
「僕は今、安請け合いした過去の僕を殺してやりたいよ」
「その格好でいいの?」
「僕に服装はあんまり関係ないからね」
さっきまで着てたクラスTシャツのままグッと伸びをする。さっき拳藤ちゃんが「見てて」とサムズアップしてから舞台に上がって板割りを見せてくれた後。僕たち(僕と出久くんね)は舞台裏にまで足を運んでいた。この子、ずっとプロデューサー面してるんだけどどうなってるの? って思ってる。なんで君は僕のミスコンにそんなガチなんだ。
「まぁ、僕はちゃんと優勝狙いに行くよ。A組のみんなも来てくれてるみたいだし。やるからにはガチだ」
屈伸をして(別にこの動作自体は関係ない)から帽子を手に取る。そして出久くんをさっさと舞台袖から追い出した。
「君はそっちで見てよね」
「え、なんで?」
「スカート穿いただけでしばらく近づけなくなったのに女装なんて見たらもう僕と口きけなくなるだろ?」
「そ、んなことは……あるかも」
「でしょ?」
グッと体を前に倒して地面に触れる。ストレッチを続けながら納得した様子の出久くんを追い出して、ゆっくりと足を少し前に進めた。
「………………ま〜〜じでやりたくない」
溜め息をついてから再度体を捻る。ジェントル戦から先、まだ体に痛みが残っているような気がしていた。といっても、少しはマシになっている……というか、怪我自体は治したからただの違和感ではあると思うんだけどね。反転使えるとこういうときに便利なんだけど……独学だからか、なんだか使った後は違和感が残る。
まぁ、大事ない。
「さて、始めようか」
段ボールとハンガーにかけられた衣装に目を通してから顔を舞台へと向ける。舞台上では、拳藤ちゃんの次の一年生が何やらアピールし終わったところらしかった。
「よし、ここで逃げたら男が廃るね。曇らせもあるし、未来のためだ。しっかりと名前を轟かせなきゃ」
『さて!! 次は話題の最中にその名あり!! 一年A組きってのまとめ役が男を押してミスコンに殴り込みだ〜!!』
解説が騒ぐ声が聞こえたのでとてとてと、手を振りながら舞台に顔を出す。なんで一日で二回も舞台に顔を出してるんだろうか僕は。というかこれに関してはやるつもりなかったんだけども。
「はーい。ご紹介に与りました舞妓譲葉です。男ですが、友達に頼まれたので遊びに来ました〜」
『軽いな!』
「重い方が好き?」
『おいおいなんなんだこいつ!! ノーコメントで!!』
いつだかに上鳴くん辺りと交わしたような会話をして会場を温める。アピールタイム前のちょっとした会話だ。導入と言ってもいい。
「僕、なんでもできるんだけど……あ、なんでもはできないか、できることだけ。でも、その中から一つってのは思いつかなかったので……折角だし、ファッションショーをしようと思います!」
マイクを手に取って声を響かせる。会場を見渡すとA組のみんなと、エリちゃんを肩車した通形先輩が見えた。……なんで相澤先生までいんだよ。暇なのかあの人。
まぁ、いい。曇る相手は多い方がいいに決まってるからね。
「さぁさ! 見せてあげよう! 一度きりのファッションショーだ!」
手を叩く。僕の服が入れ替わる。まずは、チャイナ服。スリット深めでちょっと、ほんと、着たくなかったんだけども、まぁ……少しは刺さる層がいるだろう。次はナース、それから白衣……これはドクターかな? 女医って感じ。それからセーラー服、ブレザーの雄英制服に身を包むついでにウィッグを転移させた。そのためにわざわざ帽子なんか持ってきたわけだしね。
服を変化させる度に会場から声が飛ぶ。ふふん。結構見た目が可愛らしい上に、僕はなんだかんだ言って女の子すぎるような格好してなかったからね。意外や意外ってところでしょう?
そして、何度も繰り返された服装の入れ替えの最後はこれで締めてあげる。
手を叩く。
服装は、スーツ、ウィッグで伸ばされた髪をたなびかせて、手元に呼んだ、仮面を手に取る。
エリちゃんに描いてもらって、ヤオモモちゃんに作ってもらった、とびきりの仮面。
舞の仮面だ。
「皆々様! ありがとうございました!」
『サーチ』のおかげで出久くんたちの曇った顔が見える。ヤオモモちゃんたちは知らないもんね。この仮面がどういう仮面なのか、この仮面の本当の価値を、知らないもんね?
はぁ〜〜〜♡ ほんっっっと!! いい顔してくれるよ!! なんで!? なんでそんなにいい顔ができるの? 僕がここまで曇らせたから? だからそんな顔してくれるの? いい顔しすぎだろびっくりするって!! めっちゃいいじゃん! そんなに曇って、壊れた顔されたら僕もたまんないよ!! 出久くんと切島くん! それからお茶子ちゃんに梅雨ちゃん!! 僕のこの仮面を知ってるみんなが、最高の顔をしてくれるのがたまらないんだよ!! あぁ、口元を押さえて! そんな顔されたらゾクゾクするじゃないか!! 僕が、こんなことするなんて思わなかった? エリちゃんを笑顔にするためならそれくらいするよ!! 最高だろう? ほら! 彼女は笑顔だ!! 最高だろ!! 笑えよ!! ヒーロー!!
笑顔を、邪悪すぎるその顔を隠しながら仮面を空に向かってフリスビーのように投げ飛ばす。そして手を打ってしまって発目ちゃんに作ってもらった花火と場所を入れ替えた。数瞬のうちに花火が爆破して夕日を鮮やかに反射する青を映す。
その光景をもって、万雷の拍手が僕に届いた。
ただ、僕はその拍手の中で、ただ。こちらを見つめる出久くんだけから目を離せないでいた。
× × ×
【出久side】
「舞、お姉ちゃん?」
エリちゃんがそう呟いたのが聞こえた。その声が耳を通り抜ける。不思議と、荒ぶる感情に先はなかった。動揺はしたけど、彼がどこまでも“彼女”の基であるということを思い知らされただけだったから。
青い瞳だったけど、ウィッグで髪が伸びていたけど、ゆずくんが舞に重なった。それは、当然のことだけど、当たり前のことだけど、どこか不気味で。
「あの仮面、何?」
「私が『創造』で作りましたわ。エリさんの絵を参考に作って、と舞妓さんに頼まれましたので……心当たりのあるものでしたの?」
「あれは、舞の仮面だ」
「なんでゆずくんはそんなこと……」
八百万さんの言葉に相澤先生が顔を顰めながらそう言った。それに続いて僕がボソリと呟く。梅雨ちゃんが嗚咽を漏らしたのが聞こえた。
「…………たぶん、自分のクローンが作られたとか、気にしてねぇんじゃねぇのか」
轟くんがそう呟く。みんなの視線が彼に向いた。
「エリちゃんが笑顔になるためなら、そのためなら自分のクローンとか、そういうのどうでも良かったんだろ。緑谷だって、指壊しながら俺のために声上げてくれたろ」
ジッと自分の掌を見つめて、言う。その言葉は恐らく体育祭のときのことをあげているのだと遅れて気づいた。
「あいつは、お前と同じだよ。自分のことなんてどうでもいいんだ。ただ、笑顔にしたいだけなんだよ」
「……ッチ」
かっちゃんが舌打ちする。だけど、その言葉の通りだと思う。
彼は、どこか歪で、不思議で、どうしようもない程に優しいから。
「……蛙吹、大丈夫か?」
一年がはじまったときにあれだけツンツンしていた轟くんが蛙吹さんの背中を撫でている。それほどまでに絆された。
このクラスの誰もが彼の影響を受けている。その優しさに触れている。だからわかった。
彼は、優しいから。
「エリちゃん! どうだった? 君のヒーローに似てたかな?」
「舞お姉ちゃんみたいだった!」
「ほんと〜? 僕とお姉ちゃんどっちの方が好き?」
「え……うーん…………」
「ガチ長考???」
舞台から降りてきた(なぜかセーラー服)のゆずくんが通形先輩からエリちゃんを貰い受けて抱き上げながらニコニコと笑う。ウィッグを取っていないこともあって可愛らしい姉妹にすら見えるその光景は本来微笑ましいものだ。
だけど、
「? みんなどうかしたの?」
その、青い瞳の奥に広がるワカラナイ恐怖が。
僕たちの心に灰色のどよめきをもたらしていた。
はい! 如何でしたでしょうか!
曇らせ……? 知らない子ですね……なんか、この程度の爆発には慣れてきたろう? 皆さんの体がぶっ壊れるような快感をくれてやるから……楽しみにしてな! ね!
それじゃあ! 今回も感謝を! んこにゃ様……最高の挿絵をありがとう……貴方のおかげで頑張れます……
そしてファンの皆々様もありがとう! これからもたくさん書くね! 夏は頑張るので!!
今後ともよろしくお願いしますね!
映画編を入れるかどうかのアンケートをさせてください!
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入れたのが見たい!
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本編だけ追いかけるのでOK!
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アンケート結果が多い方で!