個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア! 作:波間こうど
タイトルはcrotoさんの感想から引用させていただきました。しっかり来たので。
それではお楽しみください!
※8/27大幅な修正を加えました。勘違いしてたので、感想で教えてくれた皆さまありがとう!
油断ならないといえば油断ならないパーティではある。と、相手のメンバーを見て思う。隙がないという言葉が一番当て嵌まるだろうか。
まず全員総じて頭がキレる。心操くんが経験値が足りなくて少し、五歩ほど下がるけど、別に馬鹿ってわけじゃない。でも多分作戦って意味で考えて一番頭がキレるのは出久くんかな。彼が本気で考えて集中して策を弄してきたら僕も後手に回ることになりかねない、それくらいには彼は賢い。今回かっちゃんがどの程度反発するのかはわかんないけど、もしかっちゃんが言うことを聞くようなことがあればおそらく作戦の軸は出久くんになる。
索敵は耳郎ちゃん、僕は一人だから取蔭ちゃんみたいに一人で何役もできないし、速攻で位置がバレることは考慮しておいた方がいいだろうね。というかバレないわけないし。その後の立ち回りを考えておいた方が良さそうだ。
そして、これも面倒なんだけど心操くんのせいで言葉によるブラフがほとんど通用しないと考えていい。物間くんが彼の個性をコピーしてたらさらにそうなるだろう。僕は下手に口を開けない状態なわけだ。
僕は自慢の口撃が塞がれている状態になるから普通に考えて戦闘能力的には大幅ダウンは免れない。だってメンタル揺さぶれないとか個性と体術だけになるんだよ? そんなの相手の方が多いんだから有利じゃんね。
そこからさらに加えて近接に長じた出久くんとかっちゃんの二人が飛び出してくるとか正直やってらんないってのがある。あんなの一気に相手にしたらまぁ、うん、ねぇ? 普通のヒーローでもボコボコにされるんじゃないかな? 非の打ち所がない完璧と言っても差し支えのない、バランスの取れたいいチームだ。
いや、僕はボコボコにされないけれどね。まぁ、戦闘になっても正直変わらないだろう。負ける気がしない。というかここで圧倒的に勝っておくことで、ヴィラン堕ちしたときの絶望度合いが高まるんだ。
「あ〜……」
空を見上げながら口を開いてみる。清々しい空だねぇ〜……お茶でも啜りたいところだ。一応、形だけ設置されているさっき訓練で使っていた牢屋の中に小石をいくつか投げ込んでおく。まぁ、うん。いくつか入れておけば気絶したの転移してぶちこめるでしょ。流石に気絶したら転移するのは許して欲しい。邪魔だし、大怪我させすぎても怒られるしね。
「じゃあ、行くかぁ」
まるで散歩にでもでかけるみたいに、サンダルで深夜のコンビニにコーヒーでも買いに行くみたいに工業地帯に足を踏み入れる。真っ直ぐ進んでいけばどっかでバレるでしょ、索敵では優秀な耳郎ちゃんが待ち構えてるからね、バレない道理がない。そして、軸をもし仮に出久くんが作ってる場合、というかその場合じゃなかったとしても、まず最初にすっ飛んでくるのは……
「女男ォ!!」
「ま、君だよね」
空から突っ込んできた彼の大振りの手を逸らすように手のひらを添えてあげる。爆破が当たらないように前に一歩踏み出せば彼の爆破が僕の後ろで炸裂する。そのままその右腕を掴んで背負い投げをする形式で彼のことを地面に叩きつけた。
「がッ……はッ……!」
「その大振りの右、直せよ。バレてるんだから」
肺の中の空気を吐き出してしまって瞬間的な呼吸困難になった彼のお腹を踏みつける。鳩尾に踵を突き刺すようにして踏み込めば右足だったこともあってかっちゃんが涙目になりながらむせ返った。口から涎を撒き散らして嗚咽を漏らす。
はぁ〜ん? 可愛いじゃんか……君のそういう顔を見てるとなんかこう……なんだろう? 興奮してくるよね! やっぱり君は苦しんでる顔が一番可愛いんだからさっきの映像みたいなイキイキした顔はつまんないんだよ!! 君のその顔を見たくて僕はこんなことしてるわけじゃないんだからさぁ〜!! 頼むよ〜! 君の曇った顔が見たくて僕はわざわざこの世界に生まれ堕ちたんだぜ〜?
もっといい顔見せてくれなきゃ! ね!
追撃とばかりに右足を振り上げたタイミングで地面が砕けた。どうやら耳郎ちゃんがイヤホンジャックで地面を砕いたらしい。どこからだろ? 視野の中にいるのはかっちゃんだけなんだけどな……。範囲指定して振動飛ばせるようになったってこと? やるね。
あ、『サーチ』はがめついことにB組のみんなを無理矢理登録させられてます。これは物間くんを曇らせるためにわざわざ自分から言い出したハンデだ。
『いや、サーチは封印するね? 適当にB組の面子をマーキングしとくよ。だってさぁ……サーチまであったら蹂躙になっちゃうじゃん』
この言葉を言ったときに意味がわかってない心操くんは首を傾げ、意味がわかった上で納得した出久くんと耳郎ちゃんがあぁ、と頷き、かっちゃんと物間くんがギャンギャンと吠えていた。うるさいなぁ……静かにできないのか? 可愛い顔で鳴くなよ、黙らせたくなるだろーが。
地面が砕けてしまったせいで咄嗟によろけてしまって右足が地面につく。それと、僕がバランスを崩すことを待ち構えたかのように指を丸めた出久くんが視野に入るのはほとんど同時だった。
「エアフォースか」
デコピンで弾き出された空気の玉をガードしようと腕をクロスにして折りたたむ。これ、漫画的描写だったから今まで見えてたけど実際は見えなくて厄介この上ないんだよね。空気の弾ってやつは。
腕の上から伝わる空気の弾に吹き飛ばされるようにしてかっちゃんと距離を取らされる。そこに奇襲をかけてきたのは物間くんだ。その掌からは小刻みな爆破が見て取れる。コピーの一つは爆破ね。……っていっても使えるのは爆破と洗脳だけか。あとはスカだろーし。
「おいおい防戦一方じゃないか!?」
「…………」
彼の攻撃は別に個性で避けられるんだけど……まぁ、今回は敢えて食らっておく。そのままガードを上げて彼の掌を受け止めると腕に爆破特有の焦げ付く匂いと焼ける感覚が広がった。やっぱり爆破痛いんだよね〜……でも、かっちゃんほどのセンスで威力を制御してるわけじゃなさそうだ。この距離ならもう少し強くてもいいだろうに、ビビったか? 使いこなせてないだけか。
腕を掴んでそのまま捻るように曲げる。足を払ってそのまま物間くんを地面に押し付けた。合気道ですね。こういうの幼少期に習ってて良かった〜。
「んぐっ!!」
「おいヒーロー共、一度しか言わないからよく聞け」
「…………!」
「妙な動きを見せるなよ? こいつの腕が変な方向に曲がっても知らないぜ?」
グッと力を込めてみせると僕の下で物間くんが沈痛な面持ちを見せてくれる。いい顔してくれるねぇ〜! ホントいじめがいのある子だよ。そんな顔したら折りたくなるだろ! 折っていいの!? え!? いいんですか!?
「それじゃあ、心操、姿を見せろ。条件はそれだけだ。乱戦といこーぜ? お前が視野の外にいるのは怠いんだ」
別に口車に乗ってくれなくてもいいんだけど、まぁ、そんな条件を口にしてあげる。理由としては二つ、一つはこの戦いの主導権を握りたいから、サーチ使えないしね。
もう一つは心操くんが怖いから。潰すなら今のうちに潰しておきたい。あっちの言葉に応えなきゃ『洗脳』には掛からないからね。見えてないところから声かけられて咄嗟に口を開いてしまうのが一番面倒だ。それで負けたら間抜けがすぎる。
「……できなかったら?」
出久くんが距離を取りながら焦るような面持ちで聞いてくる。まぁ、うん、彼が口パクして心操くんが話してる可能性があるからね、言葉で答えるのはやめておこう。出久くんならそういうことするだろ。口見て答えればわかるとか誰かが言ってたけどとんでもない。あのマスクをつけて変声機を持ってるような心操くんがどこにいるかわからない状態で口を開くのは正直自殺行為だし。
というか今の声、いつもの出久くんの声よりもほんの少し低いね。あと、彼の声をこの十数年毎日聴いてる僕に対して出久くんの声を使ったの悪手だろ。舐めるなよ? わかるわ。
なら、最適解は“こう”でしょ?
「い゛ッぎッ!?」
「!?」
「肩を外した。次は逆、その次は腕を折る。合理的にいこーぜ? 一人の戦力ダウンと、乱戦、どっちの方が好みだよ」
ギロリとみんなを睨みつける。こうすればまぁ、みんなも動揺してくれるかな? こっちから話しかける分には洗脳にはかからない。だから常にこちらから話す。
今回の話は転換点でもあるのだ。僕という存在が起こす転換点さ。“舞妓譲葉”と“舞”の境界線を曖昧にする。彼が起こした非道の数々、今までは僕という清廉潔白な存在は起こし得ないと思ってたよね? それも間違ってることじゃない。でも、少し間違ってる。
僕の奥底にも何か邪悪なものが隠れているのだってことをわからせる。理解させる、それが当たり前のことであると悟らせる。その布石である。裏切る時のための種蒔きだね。最近収穫が多かったから種蒔きを忘れてるように見えたかもしれないけどそんなことないからね。いっぱい植えてるし。
「早くしな? こういうとき、ヒーローはどういう対応するのが正解なんだっけ? ヒーロー基礎学で学んだよね? 寝てたのかよテメェら」
その言葉に出久くんが反応するよりも早く、後ろから視線が突き刺さった。うん、まぁ、君はそこに隠れてるよね。さっきまでは上手いこと誤魔化してたみたいだけど君の視線はよくわかるよ。だっていつもその視線が飛んできてからすぐにイヤホンジャックが飛んできてたからね。
「おっと」
「……! 避けられた! ごめん緑谷!」
「わかりやすい敵意向けるなよ。反応しちゃうだろ」
僕が物間くんから転がるようにして回避するとそこを待ってましたとばかりにかっちゃんが突っ込んでくる。掌をこちらに向け、そこに左手で筒を作って合わせ、見せつけるような体勢だ。つまり、爆破技が飛んでくる。
「徹甲弾!!」
「そういうのは僕の前でやるの愚策でしょ」
「あ゛ッ!」
手を叩く。僕と耳郎ちゃんに担がれて救出されそうになっていた物間くんとの位置を入れ替えた。物間くんが爆破に当てられて吹き飛ぶのが見える。なんか心底間抜けな声が聞こえなかった? 物間くん、可愛いね。
「すぐに僕の視界から物間くんを隠そうとしたのはいい判断だね。ただ、その割に爆豪にすぐGOサイン出したのはダメダメポイントだ」
物間くんの位置に移動した結果一番近くにいた耳郎ちゃんを組み伏せて首を絞める。完璧に極まったチョークを外すのは不可能だ。それにまず体格差があるからね。耳郎ちゃんでは僕の腕を払いのけることも、僕にチョークを解除するだけのダメージを与えることもできない。……まぁ、僕の右脇腹にジャックを差し込んでハートビートファズぶち込まれたら怪しいけどそうなったら流石に彼女もダメージ喰らうしね。巻き込み喰らいたくないだろ。まぁ、そこまで頭回ってないと思うけど。
それにしても可愛い顔して苦しんでくれるねぇ〜♡ 君もかっちゃん達に負けず劣らず。いい顔してくれるよ本当にさぁ! そう考えれば今回のパーティーメンバーって僕が曇らせたい顔ばっかりなんじゃない? それってつまりこういうことだよね? 僕が全力で曇らせてもいいってことだよね? 僕が遊ぶためのオモチャになってくれるってことだよね? ならさっきまでの暇だった、正直やってられなかった時間だって許してあげるよ! なんてったって今この瞬間の快感が全てだからね!! 曇らせるために僕は生きてるから。
あぁ、今、僕は生きてるって感じがするよ!! だからありがとうね! 耳郎ちゃん!!
「…………ッ!」
「無駄だよ、これは抜けられない」
カクン、と耳郎ちゃんが垂れ下がる。それを見てからチョークを離して手を叩いた。これで自分の陣地の檻に耳郎ちゃんを転送する。役立たずになったやつを転送するくらいは許してほしいなぁ。いてもこれ以上怪我するだけじゃん。気絶しちゃってお荷物になった相手を放置しとくのも面白くないしね。だって曇ってくれないし。
手元にあらかじめ設置してた小石の一つが入れ替わってやってきたのでそれを掴んでから飛び出してきたかっちゃんに向き合った。あ、後ろから出久くんも来てるな……挟み撃ちって感じ? あんまり褒められた手じゃないなぁ……僕を挟み撃ちするなら片方が僕の片手でも縛ってるときにしないと意味ないだろ。
こういうことになるから。
「はい、ちゃんちゃん」
「!?」
「は!?」
かっちゃんと出久くんの位置を入れ替えてあげて少し視野が変わった状態で僕とさっきから物言わぬ気絶した人形に成り下がってる物間くんを入れ替える。そうすれば咄嗟に対応するように繰り出した攻撃が物間くんにぶち当たるよね? また攻撃が当たってしまって地面に落ちた彼を見てみると、最早戦闘には参加できそうにない(というかこれ以上僕の身代わりにしたら死んじゃいそう)なので、檻の中の小石と彼の位置を入れ替える。まぁ、少しは役に立ったかな?
「君たちは誤った……僕を相手にするならまず片手を塞ぐことを第一に考えるべきだった……なぜなら両手がないとこの個性は発動できないんだからね」
グッと手を握る。彼らの頬を汗が伝う。そろそろ気付いてくれたかな?
僕たちの間にある圧倒的な壁に。
「つまらない訓練なら願い下げさ。さっきも言ったけど全員でもよかったんだぜ? 何故かって? それでも勝てるからさ」
この二人がこんな風に戦うのってあれかな? 試験の時のオールマイト戦以来? あれから二人とも強くなってるのに、それでも足りないよね? それほどの高い壁があることがわかったかな?
……僕のここでの役割はわかってる。わざわざ用意されたこの舞台、いやでもわかるさ。つまり、アレだろ? 覚醒要員だろ? 出久くんのさぁ。
「君たちとの間にはそれくらいの差があるわけ。追いつくって言ってたよね? 追い越すって言ったよね? ……その個性、使いこなせてないじゃん」
「!?」
「二人ともだよ、何? 僕さぁ、そういうの嫌いなんだけどさぁ……」
『黒鞭』を引き出すための覚醒要因だ。なら、それを完璧に勤め上げた上で、その上で僕のしたいこともすればいいってわけだろう? むしろ燃えてきたわ。攻略むずいゲームほど燃えるよね。
「君ら、なんか隠してるだろ?」
「え……」
「いつも僕たちを見下してた爆豪と二人で何コソコソしてるのか知らないけど……緑谷、君は敵?」
「ゆずく……!」
彼が何かを言い終わる前に手を叩く。おそらくはそんなことないって言いたいんだろうね。でもそれよりも僕の拍手の方が早い。かっちゃんと位置を入れ替えて反応が遅れた出久くんにラリアットをぶち込んだ。出久くんの顔が後ろにずれて吹っ飛ばされる。
「ほら、すぐに動揺する。君は真っ直ぐすぎるよ」
「どこ見てんだお前!」
「あとさっきも言ったけどさぁ」
突っ込んでくるかっちゃんと位置を入れ替える。それに瞬時に反応するかっちゃんの目の前に小石を放り投げてから手を叩いて位置を入れ替えた。瞬間的に距離をゼロにする。
「お前はセンスだけだ。考えてバトルしてない。だから、こうなる」
顔面に拳をねじ込んでから目を閉じた彼の頭を掴んでさっきと同様に足を払う。そして頭を近くの工業用パイプに後頭部からぶち込んだ。流石に後頭部ぶつけられたら落ちてよね。
「ッッッ!!」
「しばらく落ちてろ」
ズルズルと落ちていくかっちゃんを見ながらため息をつく。計算してたとはいえここまでとは思わなかった。やれやれ……これじゃあ何人揃ってかかってきても僕には勝てないぜ? 敵連合に蹂躙されてバッドエンド迎える未来しか今の所見えないんだけど……どうするつもりなんだろ。
「おい、まだ終わってないだろ? 緑谷。あと、心操もだ」
かっちゃんの腰からかっちゃんお手製グレネードを取り外して掌で転がす。無造作にピンを抜く仕草をしながらヘラヘラと笑ってみせた。
「このまま気絶してる爆豪に無抵抗なまま爆弾捩じ込もうか? さっきの物間とのこと踏まえていうけど、僕はやるよ?」
脅しじゃなくピンを引き抜こうとすると次は目の前から捕縛布が迫ってきた。目下、一番警戒しなくちゃいけないヒーローアイテムだ、そりゃ細心の注意を払うさ。
それに、これの扱いは君との訓練の時に散々練習させてもらったからね。お手のものなんだぜ?
「心操〜、ダメだよ? こういうときは接近じゃなくて緑谷の声で僕に声をかけないとね?」
捕縛布を掴んでこっちに引っ張り寄せる。まぁ、そう簡単に使いこなせないよね? 原作よりは使い物になってるけど……それでもまだまだ手足のように扱えるわけじゃないんだからさ、使い慣れてる個性を使った方が良かった。もちろん、それも警戒していたけど。こうやって逆手に取られることはないわけだしね。
「見つけた」
視野でチラリと心操くんのことを確認してから手を叩く。そうすればパッとポケットの小石と心操くんの場所が入れ替わった。でも、彼はそれすら想定内だったようですぐさま拳を握りしめて反応する。ま、僕と訓練してたんだ。これくらいできないとだよね? ただ、こちら側としても慣れた反応だ。ヒーロー科の面々の方がいい動きするぜ。
「いいセンいってるぜ? でもまだ足りない」
「ぐッ……!」
「はーい、ちょっとごめんね〜」
拳を受け流して地面に投げ飛ばす。そのまま関節技を決めるように三角絞めをキメてあげる。グッと力を込めれば心操くんが耳郎ちゃんと同じようにカクンと意識を落とした。
…………あ、出久くんの『黒鞭』考えたら心操くんオトしたらダメじゃね? ま、まぁ……あとで起こせばいいし……いっか!
「さて、まだ落ちてるの? つまんないなぁ……」
出久くんに目を向ける。あまりにも即座にみんなを倒していったから回復までの時間が取れなかったかな?
「ねぇ、そんなものじゃないよね? 君は僕のライバルなんでしょ? 隠してる力それだけ?」
踏み込む。鼻血を拭った出久くんと目が合った。いい顔してるね〜! 獣みたいな目してる! いいじゃんいいじゃん! これは予選みたいなものなんだから、楽しませてくれないと困るぜ? いい顔してるよ!
……さてと、確か出久くんの『黒鞭』を誘発する条件はあれだよね? 雑念がある状態でワン・フォー・オールを使うこと。じゃあ僕なんて彼からしたら雑念の塊だろうし、ちょうどいいね、なんなら雑念を一気に引き出してやろう。簡単さ、少し曇らせのエッセンスを入れるだけ。原作ではかっちゃんを物間くんに馬鹿にされたんだっけ? その程度で溢れたなら、今回はこうだ。
「その力、本当に君のもの?」
「薄々思ってたんだ。考えてたんだ。同じタイミングで二人に運良く個性が発現するのかってさ」
「考えたんだ、考えてたんだよ……」
「君のその力、本当に君のもの?」
足を踏み込む。彼に一歩ずつ近づく。目のハイライトは切る。そして生気の抜けた声で詰めろ。彼にはやましいことがあるんだ、隠していることがあるんだ、だったらそこを具体的に詰めていかないと。ほら、嫌だよね? 苦しいよね? でも、わかるよ、隠してて、今の今まで僕にも言わなかったそれ、僕が隠すように誘導してたなんて知らないもんね?
彼の胸ぐらを掴んだ。そしてグイッと引き寄せる。この半年で彼の方が背が高くなったね。下から見上げられて、初めてわかるんじゃない? この、怒りの鱗片が。
ねぇ? 出久くん、そうだろ?
「おい、答えろよ緑谷ァ!」
「う、ぐッ……」
僕を振り払おうと彼がフルカウルを発動させる。それが、合図だった。彼の体から黒い鞭が飛び出してくる。それは太く、長く鉄パイプに張り付くと同時に僕の腕を弾き飛ばした。
「はッ!?」
咄嗟に飛び退く。おいおい、何あれ、原作よりも出てない? 壊れた蛇口じゃないんだから急にドバドバ出てくるんじゃねぇよ! びっくりするだろうが!
「何!? ちょっ、爆豪と人使巻き込まれるって!」
適当なことを言いながら手を叩いてさっきかっちゃんが壊した瓦礫の一部と二人を入れ替える。まぁ、救助は入試の時からできたからこのタイミングでできなかったら前のはなんだったんだよってなるからしておかないといけないんだけどね?
「う゛ぅ゛ぅぅぅ!!」
「ちょいちょいちょい! 何!? 出久くんそれ本当に何!?」
黒鞭から離れるようにして移動する。二人を担いで走るの大変なんだけど!? ちょっと!? というかめっちゃあの鞭こっち狙ってきてない!? こっちというか僕のこと狙ってるって!! なんなんだよ〜!! 考えられる要素としては『危機感知』が働いたとかかな? まぁ、さっきの演技はちょっと真に迫り過ぎてたしね。そろそろ覚醒する流れ的に僕から出久くんに向ける感情は制御しておいた方がいいかな? 『危機感知』に引っかかってボロが出る方がナンセンスだしね。
「ちょ、人使! 起きて! 『洗脳』使って出久くん止めてよ!」
「…………」
「そんなに強く締め落としたっけ!?」
二人担いで走るのも結構大変なんだけど! さっさと起きてくんないかなぁ!
……ん? 原作ではこの二人が一対一でやり合ってるから彼の言葉に一も二もなく出久くんは飛びついたけど、もしかしてあれ? 今の出久くんと心操くんの関係値ってあんまり高くない? それじゃあここで出久くんを救うのは心操くんじゃなくて僕で、だからこそ彼は起きないってこと……? マジで言ってる? そんな面倒臭いことある? 本当に困るんだけど……
つまりあれでしょ? 僕が今から全力で止めなきゃいけないってことでしょ? はぁ〜……も〜!!
「出久くん、ちょっと痛いけどごめんね?」
かっちゃんと心操くんを置いて、二人を牢屋の中の小石と入れ替える。手元に小石をいくつか準備してから出久くんと向き合った。
「それじゃあ、いこうか!」
グッと地面を踏み締めて彼に突っ込んでいく。黒鞭は彼が操ってるわけじゃない。オートマで垂れ流しにされている。つまり、制御下にないってことだ。御し易い。
地面を軽やかに踏みながら彼の鞭を避ける。たまに捕まりそうになったらさっきの小石を空いてるスペースに放り投げて不義遊戯することで場所を入れ替え、じわじわと距離を詰めた。
そして後5メートルという位置にまで近づく。涙目の出久くんが叫ぶ声が聞こえた。
「来ないで! 危ないから……!」
「知るかバカ! 僕が助けるって言ってんだろ!」
また近づく。距離は3メートル。腕はギリギリ届かない。それに彼の周りには常に『黒鞭』がバリアのように展開されている。とてもじゃないけど近づけない距離感だ。……まぁ、だからなんだって話ではあるんだけどね。
さて、体育祭で実験済みなことで、僕の個性『不義遊戯』が放出系の個性を使ってる最中に発動されたらどうなるかわかる人〜! 正解は〜!
「強制キャンセル!」
「あ……」
手元に小石を投げてから個性を発動する。すると彼の体が引き寄せられるようにこちらに転移して、彼の『黒鞭』が霧散した。そのタイミングに、合わせる。
体の内側でさっきから出せ。暴れさせろと唸る黒い奔流を、右の拳に集中させる。『黒鞭』がもう一度溢れ出ようとしたタイミングを狙い撃て。
「黒閃ッ!」
「…………ぁッ」
鳩尾にねじ込む。彼の体がくの字に折れ曲がるが、それでも『黒鞭』はまだ溢れ出ようとしていた。殴った右拳を広げてスーツを掴み、引き寄せる勢いで左の拳を打ち込む。狙うは顎の先。人体の急所の一つだ。ここを上手く当てれば意識なんて一瞬で混濁して……気絶する。
「はい、いっちょあがり!」
倒れ込んだ出久くんを抱き抱えてからそう口を開く。……時間経ったかな? 肌感覚では多分十分程度しか経ってないのにね。全員戦闘不能、出久くんの暴走にも対応済み。正直……相手になってない。これを活かして是非とも訓練に励んでほしいね。……はぁ、やっぱり。
「つまんないなぁ……」
僕の言葉が優しく宙に溶けた。
× × ×
【相澤side】
「相澤くん……」
「えぇ、言いたいことはわかりますよ」
今、エキシビションマッチとして行われた戦いを見て、隣にいたオールマイトが口にした言葉、それ以上のものを俺は感じ取っていた。
いくらなんでも強すぎる。
緑谷、爆豪は強さだけで言うならヒーロー科の二年とも比肩するだろう。物間だって性格はアレだが十分強い、耳郎も、心操も、その役割を十分に果たしていた。十分すぎるほどだ、おそらく作戦を練ったのは緑谷だろう。その作戦指揮はその辺りのヒーローの指揮よりも優れていたことは認めざるを得ない。
それでも、たった八分という短い時間で彼らを瞬殺してのけた舞妓譲葉という存在が、未だにこの場でノイズのように走る。実際、俺、ブラド、オールマイト、ミッドナイトの四人。プロヒーローを名乗ることを許された俺たち四人でも鳥肌がたった。アイツは次元が違う。
「先生、なんなんですか、アレ……あんなのアリですか……?」
上鳴が驚きを隠せないというように俺に尋ねてくる。その言葉の答えを俺は生憎持ち合わせていなかった。未知数だ。
プロを含めて、何人があのパーティーを完封できる? プロを含めたどれだけがアレに勝てる? アレと同等か、残忍さが増している分より手強いであろう敵連合の舞に、俺たちは太刀打ちできるのか?
緑谷の個性の暴走、それすらも軽くいなし、他のメンバーを救出した上で緑谷を気絶させるその技術、判断力、戦闘力。明らかに群を抜いている。
何よりも驚いたのは爆豪、物間がいなされた後に緑谷が行った、緑谷の口パクに合わせて陰から心操が声を合わせ洗脳するという作戦。それすら見破り、警戒した舞妓は物間の肩を外し、場と発言をリセットしてから要求を伝えた。相手の考えそうなこと、罠までを想定に入れた上で動く。まさしく天才的なまでの軍師の才。
No.8ヒーロー、ユズ。
その圧倒的な強さに誰もが口を開けて放心するしかなかった。だから俺たちは画面の向こうの彼がボソリと呟いた「つまんないなぁ」という言葉を聞き逃したのだ。ヒーローとして抱いている彼の底知れぬ何かに触れることができなかったのである。
この出来事が、彼の心に巣食う闇を暴けなかった要因なのであるということに気づくのは、この数ヶ月後になる。俺たちも、日本中も絶望した出来事に向かって、俺たちの物語は確実に足を進めていた。
ただ、着実に。
んこにゃさんって天才だと思わない? 僕は思います。
この物語を読んでくださっているたくさんの人へ、お気に入り登録をしてくれるたくさんの人々へ! 評価してくれる皆さまへ! ありがとうございます! 皆さんの感想や評価やお気に入りが力になっているので……もっとたくさん欲しい(承認欲求)まぁ、認めてくれたタイミングでいいですが(作家の意地)
この物語はまだ進みます。まだ、貴方たちが満足する物語には足りないと思いますので、そうなるように、まだまだ進んでいきます! これからも応援よろしくお願いします!
映画編を入れるかどうかのアンケートをさせてください!
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入れたのが見たい!
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本編だけ追いかけるのでOK!
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アンケート結果が多い方で!