個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア!   作:波間こうど

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お待たせしました!
今回は敵連合にフォーカス!!

問題児二人、ただし、最恐──


★泥の中で悪は咲く

 

 

「……これで何人目?」

 

中ボスに出会うこともなく殺しに殺して何百人。流石にちょっと面倒になってきて路地裏に隠れてため息をついた。なんなんだ、多すぎる。十一万人という数を改めて痛感することになった。多すぎるってば。

 

「というか仮に300人殺したとして0.3%とかなの? 正気? 多い多い、無双ゲーしてるんじゃないんだぞ」

 

やってられるか、と背後の壁に背中を預ける。ほんと、量が多い! 僕は範囲技ないんだぞ……! いい加減にしろ……!

 

「途中から殺し方で点数つけてゲームにしてたけど……それでも流石に多いし、怪我押し付けて殺すのも飽きてきたしな……やっぱりこういうときに欲しくなるよね、範囲技……」

 

でも僕の個性上範囲技とかないからなぁ〜……いや、思いっきりボールとか上に投げて建物とかと入れ替えたりしたら範囲技になり得るか。ただ、質量が大きすぎると入試の時みたいに気絶しちゃうのが難点だよね。脳への負荷がえげつないことになるんだよなぁ……結構精神力使っちゃうから……。

 

「いたぞ!」

「殺せ!」

「げ、見つかっちゃった」

 

うげ〜、と足を進める。飛んできた個性を避けるために目の前の相手と入れ替わった。後ろで個性が爆発する音を聞きながら転移したことで目の前にいた女性の顔面をぶん殴る。

 

「弔くんは今覚醒の予兆が見えてる頃かな?」

 

ギャアギャアとうるさい女の口に手を差し込んで上顎を掴んでコンクリに叩きつけた。物言わぬ屍と化したソレが脳漿を炸裂させてズルズルと落ちていくのを眺める間もなく次の相手とヤり合う。忙しいね〜。

 

「ま、みんな頑張ってくれてるでしょ。この後スケプティックが味方に入れば別にカメラでいくらでも曇り顔見れるし、そのことを想像しながら動こうかな」

 

ゴキリと目の前の男の首をへし折って地面に捨てながら、僕はそう口にした。

 

 

  × × ×

 

 

「痛い、しんどい、やりにくい……」

 

舞妓譲葉が敵戦力を50ほど削った頃。トガは目の前の戦闘で多少のダメージを貰いながらも生き抜き、そう口にした。目の前には敵の山、その中でも指揮をとっている人物(キュリオスという女性で個性は『地雷』。触れた場所に地雷をセットできる)に付き従っている彼らの血に地雷がセットしてあって、吸うことすらままならない。

 

「自身が起爆装置になる事も厭わぬ戦士たちがあなた達を異能で追いつめますけど、こういった今の状況いかが思われますか!?」

 

身体の内側へのダメージが響いている。体は動かすたびに痛いし、呼吸をするだけで肺が焼けた。

 

「渡我家長女八月七日生まれ十七歳! 中学卒業式出席後失踪! ご両親への突撃取材はご覧になられましたか!? 中学の同級生にインタビューした映像は!? みんな言ってましたよ! とても明るく聞き分けの良い子だったと! だからこそ何故あんな事をって!!」

 

耳に入る言葉が鬱陶しい。ずっとずっと、ノイズが走っている。

 

『君のしたいことは全部すると良いさ。僕はそれを肯定するよ。だから、好きに暴れて、“好き”に生きて。それが君の原動力さ』

 

大好きな声がする。トガの脳裏にこびりついた。優しい記憶。

 

「彼女は何故狂気に至ったのか! 何故普通の暮らしを捨てたのか!」

 

その声にトガは首を捻った。トガの居場所は、彼の居る居場所は普通じゃないのか? 足を止めてその顔をキュリオスに見せる。ゾッとするほど冷えた、人形のような顔だった。さながら能面のような顔と言い換えてもいいかもしれない。その顔のまま口を開く。

 

 

「普通の暮らしってなんですか」

 

 

トガ自身でもわかるほど底冷えした声だった。死にかけだった。わかっている。わかっているのだ、死にかけで、もう身体も持たない。

 

この人数相手に逃げる事も難しい。それこそ一瞬人がみんな消えてしまうくらいに、位置がぐちゃぐちゃになってしまう程のことがなければ逃げられる訳がなかった。

 

それはまるで彼のような力──

 

『暴れる力がない?』

 

自身の内側の彼が言う。いつかに彼に相談した内容が反芻されて、リフレインされる。

 

そうだ、そもそもトガは隠密タイプだ。隠れて行うようなミッションなら、警察やヒーローから身を隠すような能力なら敵連合の中でも特に秀でているかもしれないが、戦闘能力という意味合いでは誰にも勝てなかった。筋力でも勝てず、数ヶ月前にはスピードもスピナーに抜かれてしまった。それは彼女が特に鍛えていないということもあるが、女性であり、殺傷能力の高い個性ではなかったため。

 

『そんなことないよ。君は“好き”に成れるんだろう?』

 

彼の声が聞こえる。

 

幻聴じゃない。

 

『なら使えるよ。君の個性は、もう一段階進化する』

 

嗚呼、普通なら勝てない。普通なら死ぬんだろうと彼女は思う。彼女自身現状をまずいと思えているから。

 

それでも負けない、だって、大好きな彼が言ったのだ。

 

『暴れろォ!!』

 

彼が、トガの居場所が、そう言うのなら、彼女はなんだってできるのだ。

 

「……ねぇ、オバさん」

「オバ……! まぁ、いいでしょう……! インタビューに応えてくれるつもりになりましたか!?」

「今から、私も派手に暴れます」

 

ポケットから取り出した血のストック。

 

彼からの、贈り物。

 

「本当は禁止されてるんです。負担が大きすぎるから。でも、事務所通してないような取材はNGだってゆ……舞ちゃんが言ってたから」

 

グイッとそれを呷った。口当たりは鉄っぽい、当たり前だけど。だけどその中にほんのり甘さがある気がする。女の子は砂糖とスパイスと素敵な何かでできていると誰かが言っていたけれど、彼は綿菓子よりも甘い、優しい毒でできている。

 

身体の内側から変化してくる感覚。一気に視界が晴れやかになる。“好き”と一緒になれている多幸感が体を支配して身体中に幸せが咲き誇る。そして、何にも負けないという感覚が、彼の見せてきてくれた実力が、自身の身体を、残り僅かな体力をブーストした。

 

「……! その姿は……! 敵連合舞!?」

 

周りの攻撃も、喧騒も、何もかもが遠くなる。

 

この血と一緒なら。

 

彼女は無敵で、

 

彼女は自由だ。

 

「それじゃあ、ごめんね」

 

手を重ねる。指を絡めさせて目の前の敵の山を見た。その青い瞳は敵を見定める。それはまるで血塗れの制服を着た少女が──

 

「領域展開」

 

神に祈るようだった。

 

「【全天曇下】」

 

内側のドス黒いものを広げるみたいにするって彼は言っていた。だから、そうする。その中に混じるちょっとの欲望からは目を背けて。

 

「これ、あの子と違って長く使えないのでさっさと終わらせるね。それと、死ぬ前に一つだけ答えてあげます」

 

構築された教会。彼のモノとは違ってまるでウエディングの教会のように綺麗にされたその場で、愛を誓うようなその場で彼女は笑う。

 

「なんで貴方たちの言う“普通”を捨てたのか。それはね。私は……ううん、“私たち”の人生が」

 

まるで結婚式のような、荘厳な鐘の音、そして鳴り響く拍手の音。その中で彼女は誓いのキスを受ける前の新婦がベールを剥がれたような素敵な笑顔で笑うのだ。

 

「全部“彼”に会うための人生だったからだよ」

 

そこからは記さない。

 

見るも無惨な虐殺が始まった。

 

血が舞う中で、彼女は泥と化した顔を拭いながら笑う。

 

「私は私の好きなように生きるのです! 全部壊すんだもんね? 弔くん!!」

 

その顔は血濡れた天女のように見えた。

 

 

  × × ×

 

 

「……あぁ、今理解した」

 

蒼炎を掌に宿した青年がボソリと呟いた。

 

「強くなりすぎたな、俺」

 

灼け爛れた皮膚をした青年だった。目の前の現実を見てため息をつく彼の顔は、焼け爛れてなおアンニュイな雰囲気が醸し出され、なんとなくモテるのだろうなという気がしてくる。

 

目の前で倒れたフードの青年を見下しながら爛れた青年は笑う。

 

「あいつの無茶苦茶な指導のせいで最近は弱くなったんじゃないかとすら思ってたんだが……」

 

思い浮かべるのは白髪の少年。計画のためにどうしても必要だった強さのために、彼に定期的に扱かれていた荼毘はそこで自身のちっぽけでチンケともいえるプライドが何度も砕かれてきた事を思い出す。

 

その訓練はまさに地獄だった。地獄そのものである。

 

『は〜い。いま荼毘くんの炎遅れたから死んだよ。遅い。威力高かろうが速度がないなら殺せないぜ?』

『炎出す個性は派手だし強いけど……これでお父さんが超えられると思う? よね? 無理だよ。今のままじゃ』

『は〜〜、死にたくないなら腕上げろ。脇が甘いんだよ』

『あ、痛みが伴わない訓練は大した効果を得ないから、訓練中は骨の一本や二本どころか手足の三本や四本くらいは覚悟してね』

 

…………………………明らかに自身の父考案のものよりも過酷な訓練を受けさせられて、彼は思い出すことでブルリと身震いした。灼け爛れた肌が疼き出すのを片手で摩りながら口から笑みが溢れる。

 

「……未だに一本も取れねぇもんだから強くなれてるのか不安だったんだがな」

 

氷を扱う少年の向こう、灼け爛れた街を遠目に眺めて彼は嗤う。

 

「本当にいい訓練してくれるぜ。これならアイツにも手が届く……」

 

笑みが溢れる。毀れる、零れるのだ。

 

「なぁ、踊ろうぜ? 舞台は近い」

 

一人でに、一人で、彼は嗤うのだ。

 

その裏切りと復讐を携えた炎をもって。彼は──

 

……その頃舞妓譲葉は彼が焼き払った範囲を別の場所から眺めて。「え、何あれ……荼毘くん? だよね? はぁ……? こわぁ……僕あんな威力知らないんだけど……逃げ場ないとかのレベルじゃなくない? 町の四分の一くらい消し飛んでない?」と身に覚えのなさすぎるパワーアップに戦慄していたのだが、そのことは誰も知らない。

 

 

  × × ×

 

 

トゥワイスは……分倍河原仁は、トラウマがあった。運が悪かったというそれだけのことで人生を一時的にダメにしてしまった彼は、自身を複製できなかった。

 

本来なら国も堕とせる個性だ。自身を複製し、また、複製し、複製し、複製し……増やしに増やせば数なんてすぐにひっくり返る。No.2ヒーローホークスをして、一番の障害であると認めてしまうほどの人物。難敵になり得る存在。それが彼であった。

 

だが、何度も言うが、彼は自身を複製できない。

 

そんなトラウマがあった。

 

もちろん、そんなトラウマはすぐに治せた。舞妓譲葉は原作の知識がある。彼の腕でも折ってやれば、ともすれば大怪我でも負わせてしまえば、簡単に自身が複製でないということに気づき、原作のように個性を使えるようになっていたただろう。だが、そうしなかった。

 

まぁ、そこには「泥花のときにトガちゃんのために覚醒した方が物語が面白いじゃんね」というどうしようもない感情が隠されていたが、そのことは作中の誰も知らない。

 

そうだ、作中の誰も知り得ないことだ。

 

『君は自分を、ともすれば世の中を哀れんでる』

 

それでも、彼はきっかけを与えているということを。

 

「俺は仲間を殺さない」

 

トガを殺されそうになったトゥワイスが、その個性を使って自身を増やす。爆発的な増殖はすぐさまその家を埋め尽くし、その地域を埋め尽くし、その町の二分の一を埋め尽くした。

 

『哀れな君がたくさんいれば、できることは増えるでしょ?』

 

「俺らの絆!! 目に焼き付けろや解放軍!!」

 

敵を押し流すトゥワイスの奔流。その流れに沿って、叫ぶ彼らの口から技名が聞こえた。

 

『まさに無限増殖! 名前は……』

 

「哀れな行進!!」

 

仲間を助け、敵を打ち崩す攻撃、ただの数の暴力、その名前を叫びながらトゥワイスは思う。

 

あぁ、俺の転落人生は、このときのためにあったのだと。このとき、この瞬間のために、敵連合と出会って、トガと、コンプレスと、スピナーと、荼毘と、死柄木と……舞妓に出会うために堕ちてきたのだと。そう思ったのだ。

 

「行くぞ敵県! 皆殺しだァ!!」

 

意気揚々と彼は声を上げる。その姿はまさに敵を殲滅する大量の軍団。十一万人の敵兵に対抗するその数は現在総勢五万人。

 

彼は笑った。それが心底嬉しいというように。敵連合の、仲間の役に立てるということが本当に心底嬉しいとでも言うように笑うのだ。

 

「これで役に立てるぜ! 死柄木!! みんな!!」

 

その姿はまさに哀れな男の快進撃のように見えた。

 

 

  × × ×

 

 

スピナー、本名伊口秀一。

 

彼は小市民であることを理解していた。熱に浮かされただけのパンピーである。ただ、何も成す事ができない存在であると、理解していた。

 

「そうさ。俺は熱に当てられただけの引きこもりさ。犯罪者予備軍でもない根っからの引きこもりだ」

 

そうだった。友達もいない、いじめられて、引きこもった典型的な被害者。ゲームだけに熱を上げていた彼が、今、人を刺し、切り、ただ、進んでいるのは何故か。

 

「後ろには死柄木がいる」

 

その言葉が彼の足をそこに射止めていた。自身のボス、自身の憧れだ。ともすれば友とさえ呼べるかもしれない。彼の往く道を見てみたいと思った。だから、いや、ただ、それだけのために彼は殺人に手を染めていた。

 

「一人では何もできない小市民だと思っていたのですがね……これは……」

 

花畑は考える。自身の異能『扇動』で人々の個性や力をブーストしてなお、目の前のたかが壁に張り付く事ができるだけの男に自分の部下たちを殺されていく現状に納得できなかったからだ。

 

「驚いてるか? 俺も驚いてるんだ」

 

錆びついた刀をビュッと振って血を飛ばし、首に巻いた布でさらに血を拭きながら彼はその口を開いた。

 

「熱に浮かされただけの俺には、何もできないと思っていた」

 

刀を振るう。血が舞う。

 

「だけど、ここにきて俺、友達ができたんだ」

 

刀を振るう。首が飛ぶ。

 

「その友達たちのためなら俺、なんだってできる気がするんだよ」

 

刀を振るう。臓物が溢れる。

 

「来いよ政治家。今の俺はステインより速いぞ!」

 

壁を跳躍する。そのスピードにはカラクリがあった。

 

『スピナーくんの個性は弱いっちゃ弱いけど。別にいくらでも強くできる個性さ』

『例えば壁に引っ付ける。それを生かさない手はないだろう?』

『壁や地面を捉えて吸着できるならその衝撃を正確に地面や壁に伝えて、跳び回る事だってできるさ』

『個性なんて使い方。それ次第でいくらでも広がる』

『そういうものなんだよ、だから──』

 

「俺は俺のやりたいように生きる! 好きなんだよ! 無双ゲー!!」

 

痛みも苦しみも全てまとめて、彼は跳躍する。血の滲んだ服を纏う彼の姿は、見る人が見ればヒーロー連続殺傷犯の姿を重ねて見る事ができただろう。

 

彼は、空を舞う殺人鬼。

 

その個性は皮肉なことに地を這う『ヤモリ』だが、個性の本質を捉えた彼の進化は止まらない。

 

全てを踏み潰す恐竜へ、彼は進化しつつあった。

 

 

  × × ×

 

 

「さて、そろそろいいかな?」

 

トゥワイスさんがわっさわっさと敵を薙ぎ倒していくのを見てそんな言葉を溢した。位置はとある一軒家の二階。そこで冷蔵庫の中にあったコーヒーをいただきながら優雅なコーヒーブレイクを楽しんでいたのだけど、おかわりでもしようかと思っていると黒い影みたいなものが町の一角を埋めていくのが見えたのである。まぁ、覚醒したトゥワイスさんなわけだけど。

 

「というかあの個性強いよねぇ〜。マジで敵が誰とか関係ないじゃん。その気になればオールマイトも、弔くんも、ラスボス先生も、僕も……誰だって複製できるとか敵として最高過ぎない?」

 

まぁ、だからこそホークスさんに殺されるわけなんだけど……まぁ、ホリー先生からしても扱いづらいよね。その気になったら敵だろうが味方だろうが複製してくるし、数は無制限とか。嫌すぎるだろ。

 

「いや〜、ヴィランヴィランしてるね〜……」

 

赤い絨毯を踏み締めて窓を開ける。窓の下、家の中まで続く赤い道を眺めてカップの中身をズズっと飲み干した。やっぱりおかわりすることにして正解だね。

 

「荼毘くんは強くなったし、他のみんなも頑張ってるみたいじゃん?」

 

マキアの追跡も視えてる。ドクターってばあんだけ釘刺したのに早めに解放したな? 弔くんの覚醒に間に合うかギリギリじゃんか。僕が止めるために出張るわけにもいかないんだけど……。さて、どうしたものだろうか? まぁ、なんとかなると言えばなんとかなるんだろうけど……。

 

「……手伝ってあげるかぁ」

「いたぞ! やれ!」

「ちくしょう! ここに来るまでに何人殺したんだ!」

「あ、見つかっちゃった」

 

カップを窓淵に叩きつけて破片を空に撒く。そして手を叩いて僕を見つけた連中と入れ替えた。空中、建物の3階よりも高く空に舞ったガラスの破片が人の質量に変わり、落ちていく。そして短い悲鳴の後に地面に赤い花を咲かせた。

 

「……あ〜。お腹空いた。お寿司食べたいんだよね」

 

これ終わったら食べられるはずだし、さっさと終わらせることにしようと思う。ゆっくりと体を伸ばして窓から屋根上へと登り、家から家へ、屋根を伝いながら走る。目的地は今まさに崩れていく真ん中の塔の麓だ。

 

「さて、楽しい時間の始まりだぞ〜!」

 

弔くんの背中を見て、パンと手を叩いた。始まりはいつだってこの音だ。弔くんの横にある瓦礫と僕の場所を入れ替える。僕たちの後ろで瓦礫が落ちて崩れる音が聞こえた。

 

「や、弔くん」

「……なんだ、お前か」

 

チラリと僕を見てから弔くんがフイっと顔を前に向けた。そこには瓦礫と共に崩れ落ちてきた人影が見える。肥大化した筋肉に刺青のように全身にまとわりついた黒い紋様。そしてあのハゲ頭……間違いなく敵の親玉だ。

 

「高いところから落ちたら死ねよなァ人として……お前がボスか……? おい舞……どう思う……?」

「え? 俺に聞くの? わかるわけなくない? まぁ、ボスなんじゃない? 黒いし」

「黒いのがボスってのは安直な考えだなぁ」

「先生もなんか黒っぽかったじゃん」

 

パンパンと手を叩いて義燗さんとクッションになってたトゥワイスさんを瓦礫と入れ替える。まぁ、目の前の黒光りのムキムキになってる人がボスなのは間違いなさそうだと弔くんも感じているようだ。お、結構フラフラじゃんね。大丈夫そ? 弔くん。

 

「じゃ、弔くんは……」

「休んでていいとか言い出したら殺すぞ」

「…………言うわけないじゃないですか〜」

「明らかに今言う間があったろうが」

 

一応休憩する時間を設けてるとは言えそこそこ限界でフラフラな弔くんから小気味の良いツッコミが聞こえてくる。いいスピードで突っ込んでくれて助かるよ。

 

「まぁ、大分手を焼きそうだ。手伝えよ」

「いいけど……」

 

グッグッと体を伸ばしながら身体をほぐす。流石にそこらの雑魚とは違う。弔くんの覚醒に至る難敵。中ボスとなるような相手だ。まぁ、ステイン先輩くらいは強いんじゃないだろうか。

 

共闘って初めてじゃない? と思っているとピーン! と頭に天啓が閃いた。それは大好きだった漫画の一シーン。クスリと笑えるそれを思い出したのだ。これを言わない手はないと腕を組んで口を開く。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「じゃあ弔くんに望むことはたった一つさ」

「あ? なんだよ」

「『まっすぐ進め』『俺を信じろ』」

「二つじゃねぇか」

 

弔くんがため息をついた。そして髪の毛をガシガシとかいてそっぽを向く。何そのツンデレヒロインみたいな反応。

 

「いや、実質一つだな。真っ直ぐ進むだけでいい」

 

本当にツンデレヒロインじゃん!

 

「作戦会議は終わったかね?」

「あぁ、待っててくれたんだハゲチャビン」

「いい気遣いじゃねえか……そういう気遣いでのしあがったのか?」

 

ポキポキと拳を鳴らして二人で並ぶ。目の前の黒い肉塊に目線を向けているとハッと笑う弔くんの声が聞こえた。

 

「何? 疲れておかしくなっちゃった?」

「ハハ、そうじゃねぇ」

「じゃあ何さ」

「いや……負ける気がしねぇと思ってな」

「……そういえば共闘は初めてだね」

「あぁ……そうだな」

「じゃあ、頑張るぞ〜!」

「運動会するんじゃねぇんだぞ」

 

そう言った弔くんの目は遠くを見ている。僕に辛辣な言葉を投げ掛けながらもその口元には笑みが浮かんでいた。そして、遠くを見つめる瞳には敵が映っていない。

 

彼の視線の先に小さな女の子の姿が見えた気がした。





お待たせしました。次と、その次くらいで多分泥花終わるかな〜。
それが終われば曇らせへ向かって爆進!! 爆進!! となる予定ですのでお楽しみに!!
それと、皆様のお陰でハーメルン累計評価100位なんていう大きな節目を迎えさせていただきました! それもひとえに皆さんの応援と、評価のおかげです。ありがとうございます。
これからも、完結までひた走らせていただきますので、応援のほど、よろしくお願いしますね!!

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