個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア! 作:波間こうど
一ヶ月半もお待たせして申し訳ありませんでした。
これからも『曇アカ』を応援してくださると嬉しいです。
よっし! 本編!
弔くん目掛けてブンッとその鉄塊のような拳が振るわれた。地面を砕いた拳を避けるように彼の体がふわりと舞う。その所作はまるで猫のようにしなやかで、それでいてとても力強い躍動を感じた。しかし、体勢を崩してしまった彼は追撃を避けられない。僕はそれを回避させるために拍手で適当な瓦礫と入れ替えた。
瓦礫の山に着地した弔くんがすぐさま瓦礫の山を崩しながら飛び上がり、僕の横に着地する。背中を預けるようにして僕に体重をかけると、すぐさま二人して駆け出した。投擲された瓦礫が僕たちの元居た場所で粉々になる。皆さ〜ん。野蛮人がいますよ〜。瓦礫なんて投げないでくださ〜い。
というかしっかし、知ってはいたけど……
「弔くんってば流石だね!」
「お前のサポートがないともう捕捉されてるって嫌味か?」
「馬鹿なこと言わないでくれる? 僕を悪者にしたい訳?」
「ヴィランなんて悪者だろ」
「それはそう」
拳に捕えられそうな弔くんを手を叩くことでそこらの瓦礫と入れ替えて回避させる。社長としても殺傷力の低い僕よりも先に弔くんを潰したいのだろう。まぁ、ジリ貧ってことをそろそろ理解し始めたとは思うけど。
瓦礫と弔くんを入れ替えて社長さんの目の前に転移させると、弔くんの手のひらが社長さんの脇腹を掠った。まだ、覚醒ってほど行ってないから個性は伝播しないけど、それでも少し切り傷のような赤い筋ができる。爪でも引っかけたのかな? 猫かよ。
「チッ……浅い」
「……ッ!」
社長さんがすぐさま弔くんに拳を振り下ろした。手を叩くことで弔くんを回避させる。その攻撃を回避させたことでジロリと社長さんの瞳がこちらを向く。
「……邪魔だな」
「お、気づいたんだ?」
突進してくる社長さんから距離を取る。両手が空いている状態の僕を鬼ごっこで捕まえるとなるとそれこそオールマイトレベルのスピードがいると思うんだけどどうなのだろうか……流石にそこまで速くはないでしょ?
ただ、まぁ、弔くんと二人揃って相手取らせてもらってる。このイレギュラーが存在できている以上、なんらかの作為的な、もしくは偶然としての、イレギュラーが現れるだろう。と僕は考えている。
今まで結構好き勝手させてもらってるけど、その都度なんか上手い感じにストーリーが軸に戻ることを確認してるしね。おそらくなんらかの要因で、ここまで捻じ曲がった原作を、取り返しにくる抑止力的なものが働いているのだろう。
それはそうだろう。だって、ここは弔くんにとっての分岐点。
トラウマと過去の清算。ハイパー弔くんに生まれ変わるための、ブックマーク。ここで、彼は覚醒する。そうなるように、眠気も疲れもストレスも調整してきた。
さぁ、覚醒しろ。弔くん。
次は、君だ。
ダンッ! と社長が地面を踏み抜いて僕に突進してくる。それに対処して僕が入れ替わる。それを二度繰り返そうとした時、ニヤリと、彼の口元が歪んだのが見えた。そのまま地面に叩きつけたのはその醜く肥大化した両腕。作中の描写としてではなくて、目の前に影が広がる。陽を遮らんばかりの巨腕。
デッッッカ。
「フンヌッ!!」
その両腕による一撃で地盤が砕けた。
個性『ストレス』
僕としては作中でも最高クラスの個性なんじゃないかと思ってるんだよね。自身が受けたストレスがそのまま力になる。禿げ上がってるそこの社長もストレスでこの力を得たわけだけど、まぁ、ストレスなんて感じ方じゃん? 主観だと思うわけ。幸せな結婚だってストレスになるわけだから、結局のところストレスってのは日々感じる刺激だということだ。
つまり生きてればストレスはかかるし、そのストレスを力に変えられるということはただ、生きてるだけでその個性が強まっていくことに他ならない。実際、彼の今の一撃はさっきまでのとはレベルが違った。おそらく僕たちが彼のことを弄びに弄んだからその分だけ力が強化されたんだろうな、とは思うけど。それにしてもだと思うんだよね。地盤を簡単に砕くな。
「ちょこまかと鬱陶しいッ!!」
弔くんの足がよろけた、そのせいで、社長さんの接近に対処できない。片手を握り潰される。
「悪いことをするのはこの手かな!?」
握り潰された手を見て、本来の僕なら暴れただろう。だけど、これは原作知識で知っている。ここから彼が覚醒するのもわかっている。ひしゃげた弔くんの“手”の一つが宙を舞った。
それを見た弔くんの瞳孔が猫のように狭まった。
僕はそれを知っている。その景色を、そのコマを見たことがある。
「弔くん!!」
便宜上、彼に向かって声を吐いた。焦ったような声色。自分で出しておいてつくづく業が深いと思う。こんな声を出したって内心は一ピコメートルも心配なんてしてないくせに。
「……頭が、割れそうだ」
弔くんが僕を見て笑ったのが見えた。原作ではこの場面で笑ったり、しなかった──
ゾッと、寒気が走る。あぁ、メインプランの変更を余儀なくされてしまった。
わかる。僕だから、わかってしまうのだ。
目の前の青年と過ごした時間は一年程度だけれど、それでも浅くない仲を紡いできた、そして、原作を見てきた僕だから笑う。
その笑顔は────
「弔くん……」
わかってしまった。
今、目の前の男は最強に成ってしまった。
そのことを、悟る。
崩壊がすぐそこにまで来ていた。
× × ×
【弔side】
「……痛えな」
潰された左腕のうち、残った薬指と小指を折り曲げて俺の手を捻り潰している指に触れる。ビキビキビキッ! と面白いほどにヒビが入るのを見て、ハゲチャビンは驚いたのか手を離すと俺から数メートルの距離をとった。
「……君の個性は五指で触れることじゃなかったか?」
「あぁ……? そうか? そうだな、そうかもな」
そうだったかもしれない。
だが、そんなことはどうでも良かった。俺が壊したくないものは壊さない。俺が壊したいものは壊す。そうすると決めていたのだ。だから、今までジャジャ馬だった俺の個性が俺に従うように成っただけだ。指が二本だろうが、五本だろうがそこに大した差なんて存在しない。
不思議と、頭は冴えていた。
不思議と、視界は晴れていた。
不思議と、気持ちは決まっていた。
「……あぁ」
記憶がフラッシュバックする。思い出したのは、幼い頃の記憶。父との、母との、姉との、記憶だった。
苦しい、体が痒い、辛い、吐き気がする。そうだったはずなのに、今となっては動悸もしない。体の嫌なものでも全て取り払ったかのように、ストレスのない体になっていた。
この手で殺した相手が、見える。
『転孤』
あぁ、声が聞こえる。優しい声は、母か、それとも姉か……認め難いが、それはもしかしたら父だったのかもしれない。ただ、それも全て過去のことだ。全部、もう、いらないんだ。執着しなくていいんだ。忘れてしまって、いいのだ。
だって────
『弔くん!』
俺は、光を見つけたから。
体から疲れが抜け落ちる。痛みが透過していく、どうか、どうか、こぼれ落ちたものを拾うことができますように。なんて、願うことすらも烏滸がましい。
だって、
「全部、どうでもいいよなぁ……譲葉」
声が漏れた。体が変に軽くて、視界が広い、クリアだ。
今、分かった。馬鹿みたいなことだが、子どもじみているけど、それでも分かる。
俺は今、最強になった。
「おい、ハゲ」
「……先ほどとは雰囲気が違うようだな? 死柄木弔。成長の最中だったかな?」
「あぁ、少し心境の変化ってやつがあってね」
「それは喜ばしいな。だが、死んでもらう」
「焦るなよ。少し大人しくしてろ」
笑みが溢れた。くるりと後ろを見る。目が合った瞬間に全てを理解したのか、譲葉はもう既に地面に腰を下ろして傍観の席を作り始めていた。瓦礫の中から柔らかそうなボロボロの布を取り出して地面に敷くとその上に座る。
……こいつ、なんで俺の心がこんなに読めるんだよ。なんか別の個性を先生に貰ってんじゃねぇか……? 『テレパシー』とか持ってるだろ。
「悪い、ここからは一人でいい」
「だろうね。俺まで壊さないでくれよ?」
「加減できねぇなぁ……全部壊す」
「はいはい、勝手に避けるよ。だから、弔くん」
仮面の向こうでは笑ってるんだろうな、と、そう思った。彼の指が俺に向く。
「儀式さ」
「…………」
「俺が言ってやるよ。特別だぜ?」
いつだって、俺にとっての光は、あの指の向こうにある。
「次は、君だ」
それは、希望で、もしかしたら呪いにも近かったのかもしれない。その呪いが、俺を貫く。
「……よりにもよってその言葉かよ」
「知ってるだろ? 俺は、アンチなのさ」
「アンチなら別の言葉があったろ」
「アンチだからこそ、この言葉を塗り替えて欲しいわけ」
彼が足を組みながらそう言った。その言葉を聞いて笑ってしまう。それはそうだ、アイツはアンチになるに相応しい理由がある。
裏切り者、その師匠。それが、オールマイトであることを、俺は知っている。
「それじゃあ……やろうか」
リ・デストロにそう問いかける。その言葉を合図にして敵が一瞬にして彼我の距離を詰めた。腕を大きく振るって俺に攻撃を仕掛けてくる。
その巨腕が振るわれるのに合わせて手を当てた。衝撃も、腕もまとめて『崩壊』させる。瞬間、衝撃は凪ぎ、空間ごと、拳がひび割れた。
「……振り切る前に壊せばそうでもないな」
笑えてきた。なんだ、簡単なことだったんだ。
ここからは、蹂躙だ。
昔、先生が言ってた。憎悪と愉悦を重ねられたら俺は自由だと。
違うよ、先生、そうじゃない。
そうじゃないんだ。
元から俺は、自由だ。どうしようもなく、ただ、どうしようもないほどに、俺は自由なんだ。籠の中に囚われた気になっていただけ、自分を、志村転孤を押し殺していただけ、今の俺は死柄木弔で……敵連合のトップで、舞妓譲葉の親友だと、言い聞かせて閉じ込めてきただけ。
でも気づいた、自分がどうとか、そういうの、どうでもいいんだ。
肩書きとか、そういうの全部どうでもいいんだ。なんだっていい、軸がブレなければそれでいい。それが、俺にとってはこの場所だってだけだ。
俺は全部壊して、あいつらを否定する場所を全て潰して、仲間の望みを叶える。
そのために、売られたケンカは全て壊す。それを、今日から、今から。
俺のオリジンにしよう。
「…………おい」
「なに? 助けがいるようには見えないけど」
「離れろ」
「……まさか」
「そのまさかだよ」
右手を大きくあげた。そのまま地面に対して振り下ろす。後ろでパンッ! と手を叩く音が聞こえた。
「ブッッ壊れろ!!!!!!」
崩壊が始まった。譲葉はこれを伝播する崩壊だと名付けていたか。世界が壊れる崩壊が伝播していく。ヒビ割れた地面が砕けて、俺の指が触れた地面から、全て、全て壊れていく。
建物も、死体も、人も、過去も、全て崩壊させて────
「アハハハハハハハハハ!!!!」
崩れて、塵芥に還っていく世界を眺めながら笑う。ニヤリと唇が吊り上がった。数秒程度ではあるが、つけていた掌を離してみる。伝播の範囲とオンオフはまだできないが……まぁ、訓練すればなんとかなるだろう。
「……なんで俺たち喧嘩してるんだっけ? あぁ、そうだ……お前が喧嘩売ってきたからだよなぁ……?」
両足を失い顔を青くしながら汗をかく目の前のハゲを見ながら聞いてみる。どうやら地面が崩れる時に両足が『伝播する崩壊』に触れてしまったから、体が崩壊する前に切り落としたのだろう。賢い奴だと感心していると、ニヤリと脂汗を滲ませた顔で彼は笑った。
『何をしているのです! リ・デストロが負けてしまいます! 皆さん! 最高指導者を救うのです!!』
何やらクレーターの上から声が聞こえる。そちらに視線を向けると人の山が見えた。あぁ、11万人の残り滓ってやつか。視線を向けてみると後ずさる程度の奴なら俺たちの誰にも傷もつけられていないだろうな。
「トランペット、これ以上は……無駄な死だ」
銃のような手の形を額に当てながらハゲが息を吐く。
「彼らは皆私……いや、デストロの意思に賛同し、殉ずる覚悟を培ってきた者たち……君の言う通り喧嘩を売って負けた。殺るなら殺れ。私もまたデストロの遺志に殉ずる覚悟」
ハゲは頭を下げた。土下座だ。おぉ、土下座なんて初めて見たな……生きてて見ることになるとは思わなかったよ。
悪の大王だった先生はいくらでも見たことあるんだろうけど。まぁ、見ていて気持ちのいいものではないな。爽快ではあるけど。排反していて、気持ち悪い感情が駆け上がってくるのを感じる。
「異能解放軍はお前についていく」
ハゲが、頭を下げる。それを見て俺はニカッと笑う。そういえば、誰かが寿司を食いたいって言っていたか?
「! ……お前、社長なら金あるよな?」
歪な地平線が、平らに見える。
その向こうに、欲しいものが雁首揃えて待ってる気がした。
× × ×
死柄木弔がリ・デストロを下すよりも少しだけ時間を遡る。街をぶち壊しながらマキアが進んでいく。その最中の話である。
「うわぁ、マキアヤバいな。解放軍がゴミみてぇだ……」
仮面を付けた男が柱の上で街の端を眺めていた。ビルと人が薙ぎ倒されていくデカい柱も、地面も、個性も、何もかもを薙ぎ倒して進んでくる獣。化け物。
「……なんで死柄木あれ相手に生き残ってんだ? あいつはあいつで人間辞めてるな……」
暴れ狂う化け物を眺める。止めてもあれは死柄木たちの元に届くだろう。この戦いが俺たちの勝ちなのは間違いない。死柄木と舞妓が本気になったのならオールマイトも勝てやしない。それはこの化け物も例外じゃない。
ただ、死柄木の邪魔になるだろうな。という漠然とした予感はあった。舞妓に言われてる仕事も“マキアの足止め”だ。正確に言えば“捕獲”だけど。
「主の後継!!!!」
声を上げ、突進する。それだけで全てを破壊していく彼の前にふわりと舞い降りる。そして左腕を振るった。
察知も、迎撃も、回避もできない、不可視の捕獲。
「は〜い。ちょっとごめんよ」
パンッ! という音がして巨体が小さな玉の中に閉じ込められる。手の内側でコロコロと球を転がしながら仮面をつけた男は笑った。
「存在感が薄いなんて言われてそうだなぁ〜。まぁ、俺が一番戦闘力がないって言えばそうだから身を潜めてたんだけど」
手のひらでマキアを捕獲した玉を動かしながら可笑しそうに笑って、決戦の火蓋を切った少女と似た仮面の下で不敵な笑みを作る。
「つーか、あの子も酷いよな。こんな仕事させてさ、そうは思わない?」
くるりと振り返る。後ろから声は聞こえない。見えるのは串刺しにされた無数の死体だけだ。その武器は槍、形状は様々、素材も数多、ただ、人を貫けるものとして選ばれた概念としての“槍”が体を貫いていた。
「個性で収納できる物の数も増えたからねぇ。下から槍出したりもお手のものなんだ。ただ、持ち運ぶのが大変だけど」
槍状のものを個性で縮小し、撒菱のように地面にばら撒いてから個性を解除する。すると下から現れた槍が体を貫く、という説明してしまえばそれだけのことだが、彼のその技術をもって、たった一瞬で解除された槍は“その場にあること”が当たり前であるかのように元のサイズに拡大され、人を貫いた。悲鳴を上げる暇もないほどの悲惨な光景、ただ、一瞬で絶命する彼らを見て、マジシャンは仮面の下で不敵に笑う。
「……ま、俺の仕事は保険だし。あの子が言う通りの仕事はこなせたかな」
くるりと身を翻した彼はそのまま街の中心部に向かって駆け出した。遠くで衝撃が広がるような大きな音がする。
「これを、合図で解除すればいいんだよな? 全く、化け物相手に単身で突っ込ませておいてからシビアな要求してくるとか本当に鬼畜な上司だよ」
軽やかに落ちている死体を踏み越えながら、男はクスリと笑った。
× × ×
コンプレスは所定の場所に着くとマキアを拘束している個性を解除した。すぐさま暴れ出そうとしたマキアを炎が遮る。
「おいデカブツ。今ボスが大事な会議してるから暴れるな」
「……ッ!」
マキアの肌が焼けてしまうほどの蒼い焔が飛ぶ。ジリジリと焼ける感覚がして驚いてしまった。
手を振り払って焔を掻き消す。すると目の前に広がっていたのはクレーターだった。その真ん中に、両足を失い土下座をする男と、自身が試している主の後継が立っていた。
全てを従え、支配してきていた、自らの“主”と同じ風格を携えて、彼は笑っていた。口元に不遜な、不敵な笑みを滲ませている。
周りにいる人間は彼を恐れて前に進むことも後ろに下がることもできない。実質的な支配。何も動くことができない。息をすることだけを許す。それだけ、全てを支配する支配者としての格がそこには存在していた。
「主の後継……!」
怪物は涙を流した。自身を捕縛した鬱陶しい敵を殲滅することすら忘れて、目の前の後継に惚れ惚れした、涙を流した。
素晴らしい。自身の覚えている、主。それを彷彿とさせる後継に涙を流してしまった。相応しい相応しくないではない、最早彼以外に主の後継はあり得ない。
巨悪であるAFO。彼に成り得るのは、死柄木弔しかあり得ない。
そうマキアが考えているとそんな後継たる彼の横にフワリと舞い降りる黒い影があった。
「死ぬかと思ったんだけど!!」
「死んでねーだろ」
「それもこれも俺だったからだよ! 他の人なら死んでた!!」
「信じてたのさ」
「そういうレベルの問題じゃなくない……!? いっそのこと殺意すら感じたんだけど……!」
「全部壊すつもりだったからな。本当に殺す気なら殺せたろ。お前の方は加減した」
「…………加減してこのクレーターなの?」
舞い降りたのは黒い天女だった。
白い髪、死柄木弔の方が透明に近い白であるのに対して、何か闇を隠すために白いペンキでもぶちまけたのかと言わんばかりの純白。その下に赤い宝石のような目が輝いている。誰がどう見ても美少女という成り立ちの女の子だった。
彼女は仮面を手で弄りながらジロリと目の前の白髪の彼を見る。
「それにしても報連相が足りていたとは言えないね」
「信じていたのさ。言わせないでくれ。一応言ったろ」
「けっ、俺なら逃げられるだろって思っただけだろーに。あんなの言ったうちに入りませーん」
ツーンと拗ねたような顔をした少女の頬を主の後継が撫でる。そして申し訳なさそうな瞳を瞬かせた。
「おい、許せよ」
「ふーん。弔くんのあれは確実にはしゃいでたもんね。俺のこと忘れてたでしょ」
「謝るから……な?」
どこか芝居じみてはいたけど、それでも彼らの日常を閉じ込めた男女の蜜事にすら見える物だった。
「…………主の後継の奥方?」
「おい、このデカブツすごい勘違いしてないか?」
「マキア、ゆ……舞ちゃんは私のだよ」
「お前のでもねーよ」
ギャイギャイと周りが盛り上がる声を聞きながら涙を流していた。視点はもう既に目の前の二人に釘付けになっている。もう、目なんて離せない。
マキアは、今正しく“主の後継”を認めたのだ。
「うわ……こいつ泣いてる……?」
「ねぇ、マキア。話聞いてますか? ゆずくんは私のですよ?」
「だからお前のでもねぇって言ってるだろ」
喧騒に包まれながら頭を下げられた死柄木弔が何やら考え込むように腕を組んだ。そしてう〜んと唸ると、あぁ、と手を打つ。それにひょこりと舞が横から顔を出す。
「……! お前、社長なら金持ってるよな?」
「弔くん弔くん俺寿司食いたい」
「デケェキッチンとかあるだろ」
「……誰が握るの?」
「お前」
「俺は食いたいのであって握りたいわけじゃないんだけど? ねぇ、食いたいの。ちょっと、おいどこ向いてんだ」
とても締まらないそんな声を最後に、泥花での戦いは幕を下ろした。
ここから、彼らの戦いは過激化していく。敵連合の戦力の増強、ヒーロー達の作戦、緑谷の覚醒。
その全てが計画通りに動いていることに気づいて、彼は嗤った。
崩壊したビルのガラスに映る顔はどこか歪なものに見えた。
× × ×
あぁ、素晴らしい光景だ。
全てが壊れるところ、みんなが彼を崇拝するように眺めているところ、こんなにも、素晴らしい地平線が見られるなんて、知っていても信じていなかったのかもしれない。ここまで美しい光景はそうない。
あぁ、望む世界は『崩壊』の先にある。そう、今確信した。地平線に、何もない世界に、ポツリと咲く曇らせの華。それを見つけた時のことを思う。その瞬間を僕の背中をぞくぞくと這い上がる感情があった。背筋を這い上がるむず痒さ、これを人々はなんと呼ぶのだろうか。
「………………………………あは」
やば、興奮しすぎだよ僕……でも、そうだ、それが見たいんだ。
『お前みたいな奴は死ねよ』
『ゴミ! 生まれて来てんじゃねぇよ!』
『この世にお前みたいな存在がいるからダメなんだ』
『死ね!』
『なんでお前なんかが学校に来てるんだ?』
あぁ……
『死ね!』
『ゴミクズ! 生きてて恥ずかしくないのかよ!』
『消えろ、目障りなんだよ』
あぁ………………!
『お前なんか産まなきゃよかった』
『キモいんだよね、アンタ』
それが見たくて、仕方ないから、僕は、ここに産まれ堕ちたんだ。
「アハッ♡」
そうだね、荼毘くんの言う通りだと思うよ。
過去は消えない、前世も消えない、全部全部消えない。
だから壊すんだ、だから犯すのさ。
曇らせの花を咲かせるために。
鏡に映った僕は、酷く禍々しい顔をしていた。
いつも僕の作品と、んこにゃさんの絵を楽しみにしてくださりありがとうございます。作者の波間です。今回は投稿が遅れてごめんなさい。これからも遅れることがまぁ、あるかもですが! そのときはよろしくお願いします! 「また遅れてるな……」ぐらいで! うん!
さて、いつもありがとうございます! 皆さんの応援のおかげで僕はそれを励みに小説を書いています。『曇アカ』を書くのが楽しいのは、ひとえに皆さんの応援と評価のおかげです(承認欲求モンスター)
あと、譲葉書くの楽しいのと、んこにゃさんの絵が見たいからですね。
僕の作品を楽しみにしてくださってありがとうございます。後書きなんで読み飛ばしてもらってもいいのですが、これだけは伝えさせていただけたらと思います。
波間こうど
映画編を入れるかどうかのアンケートをさせてください!
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入れたのが見たい!
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本編だけ追いかけるのでOK!
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アンケート結果が多い方で!