個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア!   作:波間こうど

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長くなってしまった‥‥
日刊ランキングで4位を取らせていただきました! これもひとえにヒロアカという作品の偉大さと、皆様の応援の賜物でございます‥‥深く感謝を。

その分のブーストもあって、今回は長めです。お楽しみください。


戦闘訓練

 

 

「んじゃ、次の英文のうち間違っているのは?」

 

雄英高校ヒーロー科といえども、ずっとヒーローの訓練を受けているわけではない。午前は必修科目や英語などの普通の授業が組み込まれている。ちなみに英文は関係詞の場所が間違っているので4番。

 

そして、お昼は食堂で一流のご飯をお財布に優しい値段でいただけて、その後は午後の授業。ヒーロー基礎学である。

 

「私が〜! 普通にドアから来た!!」

 

高校に入って初めてのヒーロー基礎学。担当教員はオールマイト。ここも原作の知識と相違はないな。クラスメイトのみんなはオールマイトがやってきたことにテンションがぶち上がってらっしゃるのがよく見て取れた。テンション高過ぎない?

 

‥‥‥まぁ、何十年もNo. 1に君臨する超スーパーヒーローだ。この子達からしたら物心ついた頃からヒーローの王座に君臨している憧れの究極みたいな存在だろうし、無理もない。

 

さて、ここからは少しずつだけど原作から歪むんだよねぇ‥‥少なくとも砂藤くんの代わりが僕だからペアの子が変わるし、試合の流れも変わることになる。最初の基礎学はなんていっても‥‥

 

「今日はコレ! 戦闘訓練!」

 

ペアで行う戦闘訓練だからである。誰と一緒になっても負ける気がしないんだけどね。僕はみんなよりもみんなの個性について熟知している自信がある。原作で使ったような使い方なら僕が指導してあげてもいい、そのくらいには僕はもう事前知識をしっかりと頭の中に入れてきているのだ。

 

「ゆずくん! コスチュームだって!」

「え? あ、あぁ、そうだね。出久くんのコスチュームはかっこいいんだろうなぁ」

「えぇ!?」

「何その反応。おかしいこと言った?」

 

いや、あのその! とか言いながら手を振り回して否定している出久くんを可愛らしいなぁ、とおじいちゃんみたいな目で見てあげてから自分のやつのついでに出久くんのコスチュームも取ってあげる。

 

「はい、楽しみにしてるね? ヒーロー」

「それやめてよぉ‥‥」

 

恥ずかしそうな顔をしている出久くんのことを少し揶揄うみたいに笑ってあげてから、振り返ると不思議な顔をした耳郎ちゃんと目があった。どうしたん? なんかあった?

 

「そういえば気になってたんだけどさ、なんで舞妓は緑谷のことを『ヒーロー』って呼ぶの?」

「あぁ、それ私も気になっとった!」

「緑谷くんがヒーローとしての心構えを持っているのは承知しているが‥‥何か理由でもあるのかい?」

 

耳郎ちゃんの疑問に対してお茶子ちゃん、飯田くんが疑問を重ねる。チラリと出久くんを見るとこっち見ないで、とでもいうように耳まで赤くしてコスチュームケースで顔を隠し、かっちゃんの方を見るとチッ! と舌打ちしてからズカズカと出ていってしまった。ウケる。

 

これ、ここで言っちゃったほうが面白い感じのやつだな? クラス中のみんな疑問に思っていたのか、そこまで仲良くないから話には入れないけど話の中身は聞きたい、みたいな顔してるし。

 

それでは語ってあげますか‥‥

 

「まだ、出久くんも僕も無個性のときさ、僕が女の子みたいな顔だっていじめられてるのを助けてくれたんだ。相手は個性持ちでガキ大将みたいなやつとその取り巻きだったんだけど、負けじとさ。力がなくたって、負けてたって、泣かされてたって、僕にはヒーローに見えたんだ‥‥その頃から出久くんは僕のヒーローな訳!」

 

できるだけ陽気に笑って、自身の容姿をしっかりと理解しているが故の笑顔を見せながら照れくさそうに言い切ってあげる。ここにいるみんなに僕と出久くんの関係を周知してもらうのだ、これもいつかしようと思っていた種だったので早い段階で植えられるのはありがたいね。

 

もちろん曇らせの種である。

 

「そうなんだ! 流石やデクくん!」

「なんて立派なヒーローなんだ!!」

「マジかよ緑谷! 痺れるぜ!」

 

クラス中がワッ! と盛り上がるのを見てうんうんと頷いて見せる。チラッと後ろを見たが出久くんは煙を出して穴があれば入りたいとでも言わんばかりの顔をしていた。照れ顔もポイント高いよ? 僕は曇り顔が一番好きだけど照れ顔もイケる口だ、雑食性なんだよね。

 

「それじゃあ、更衣室に移動しよ! 僕も恥ずかしくなってきたし、早くオールマイトの所に行かないと迷惑かもだしさ!」

「もしかしてゆずくんめっちゃ照れとる?」

 

お茶子ちゃん、そういうこと思ってても言っちゃダメなんだよ。恥ずかしいからね。

 

 

  × × ×

 

 

「始めようか有精卵共!!!」

 

オールマイトの声を聞きながら体を動かす。うん、コスチュームは特に問題なく伸びるね、これなら動きやすそうだ。

 

僕のコスチュームは所謂決戦戦闘服。呪術廻戦のパパ黒とか、宿儺戦の五条先生みたいな服装だと思ってもらえればわかりやすいかな? まぁ、少し違うのは全身真っ白で、上から白いジャケットを羽織っていることですかね? 全然違うじゃねーか。

 

流石にあのピチピチ一枚で外に出る自信はなかった。後普通に裏切って闇堕ちするときに真っ黒にしたいから対比で真っ白い服着てます。これが真っ黒になったときの絶望感ヤバいだろうなぁ〜‥‥(恍惚の表情)

 

「ゆずくんのコスチュームいいね! 修行僧みたいだ!」

「何がモチーフなの?」

 

今お話しできる数少ない女子二人が僕のコスチュームについて聞いてくる。まぁまぁ、それについては後で出久くん交えて話そ? じゃないとあっちに話題の矢印向けられなくて僕が恥ずかしい思いしちゃうでしょ?

 

「似合うでしょ? 響香ちゃんもお茶子ちゃんもすっごい似合ってるね、めちゃくちゃ可愛い」

「なっ!? 何言ってんの!」

「えへへ、照れる〜」

 

まぁ、こういうときは防御に回るより攻めればいいんだけどね。攻撃が最大の防御、至言である。

 

「あ、デクくん!? かっこいいね! 地に足ついた感じ!」

「わかりやすくオールマイト意識してんね。可愛いじゃん」

「ゆずくん! 麗日さ‥‥うぉぉぉ!?」

 

童貞過ぎてウケる。たぶん動揺し過ぎて「要望ちゃんと書いてなかったからパツパツスーツになった」って辺りちゃんと聞いてなかっただろうな。いや、それ抜きにしてもエロいけど。16歳が着る服じゃないって。ヤオモモちゃんに関してはR-18つけた方がいい。そんな服着てるからえっちな絵がいっぱい描かれるんだよ!

 

「先生! ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」

「いいや、もう2歩踏み込む! 屋内での対人戦闘訓練さ!!」

 

ざっくりいうと屋内戦闘を想定した2対2の戦闘訓練というわけだ。ヴィラン側は制限時間まで核兵器を守るか、ヒーローを捕まえること、ヒーロー側はヴィランを捕まえるか核を回収すること。まぁ、原作と変わらないね。どうせここから原作と変わるだろーけど。

 

「それではくじ引きを行います!」

 

そう言って、くじで分けられたメンバーは原作と乖離していた。僕のペアが耳郎ちゃんの時点で原作とは違うことがわかるね。原作で耳郎ちゃんのペアは上鳴くんだった気がするし。

 

最初の試験メンバーである出久くんとお茶子ちゃん、かっちゃんと飯田くん以外はモニタールームへ移動する。ここはペアも順番も、ヴィランとヒーローの立ち位置も何も変わらないっていうのだからなにか作為的なものも感じるね。

 

モニタールームは原作と同じく画面がいっぱいついた全体的に暗い部屋だ。授業の開始にまではまだ時間があるし、耳郎ちゃんと少しお話と作戦を決めておこうかな。

 

「よろしくね響香ちゃん」

「なんかそんな気がしてた。よろしく」

「運命感じてたってこと?」

「引っ叩くよ?」

 

もう引っ叩いてるんだよねぇ‥‥口より先に手‥‥じゃないや、耳出すのやめてくれないかな?

 

「ジョークじゃん、酷いなぁ」

「あんたが変なこと言うからでしょ!」

 

それは本当にそう。多感なお年頃である高校生に「運命感じた?」とかそれもうホストじゃん。あと僕の顔ならホストでもキャバクラでもいけると思う。向かう所敵なし百戦錬磨だ。

 

何の話?

 

「響香ちゃんの個性は索敵もできるんだっけ?」

「うん。ウチの個性は『イヤホンジャック』このイヤホンを刺したらどんな細かい音も聞き出すことができるし、刺した状態から攻撃もできる」

 

ふむふむ、いつ聞いても汎用性の高い個性だ。いいね。僕の個性と索敵の個性は少し相性が良すぎる。耳郎ちゃんや障子くん口田くん辺りと組んだらおそらく僕は無敵だ。その気になれば多分屋外から転移して一瞬で片をつけられる。やらないけどね。

 

「それじゃあ期待してるね? 響香ちゃん」

「こっちのセリフなんだけど」

 

二人でニヤけてから拳をぶつけ合う。耳郎ちゃんこういうのは恥ずかしがると思ってたんだけどそんなこともないのかな?

 

画面を見ると試験が始まる数分前、見取り図を見ながら両チームとも作戦会議をしているところだった。まぁ、作戦会議をしているのは出久くんお茶子ちゃんペアだけみたいだけど。

 

「最初は出久くんと爆豪か‥‥こりゃ激戦だな」

「舞妓少年は緑谷少年と爆豪少年と幼馴染だったな!」

「はい、物心付いた頃から一緒の腐れ縁です。いや、爆豪とは途中から不仲ですけど」

「あー、個性把握テストのときもやたらとギスギスしてたもんなぁ」

 

オールマイトが話を振り、それに切島くんが乗ってくる。あんだけギスギスしてたら嫌でも印象に残るか。

 

「ガキ大将気質の爆豪と、オドオドしてるタイプの出久くんって単純に反りが合わないんだよ。というか出久くんがオドオドしているように見えて実際は芯を曲げないタイプだからさ、普通に意見が衝突するんだよね」

 

あー見えて大人しくしてるタイプじゃないからさ、行動派オタクなのよ。と言うとクラス一同から「あー」という声が漏れた。納得してくれたかな? 特にオールマイトには思い当たる節があるだろう。普通は思いついてもジャンプするオールマイトにしがみついたりしないからね。

 

「視界の端にチラつく出久くんのことが爆豪は心底嫌みたいでさ、んで突っかかってるわけ」

「めっちゃ分析してるじゃん」

「まぁ、分析は癖かな。僕の親友が超分析家だからさ」

 

僕の言葉とほとんど同時にビルの中にお茶子ちゃんと出久くんが入った。そして周りを確かめていると飛び出してきたのはもちろんかっちゃんだ。

 

「いきなり奇襲!」

「爆豪ズッケェ! 男らしくねぇ!」

「奇襲も戦略! 彼らは今実戦の最中なんだぜ!」

 

クラスメイトと先生がわちゃわちゃと声を交わし、感想やイメージを話し合う最中で、僕だけが知っていた。出久くんが見出したかっちゃんの癖。

 

「まずは右の大振り、だよね」

 

かっちゃんの右腕を掴んで思いっきり投げ飛ばした出久くんに控え室は爆沸きだ。そりゃ目立つ個性の乱暴者が無個性の状態で手玉に取られていたら沸くよね。戦闘は過激に、速さを増していくがその全てを上手くいなしている。

 

‥‥‥なるほど、原作で読んだときやアニメで見たときに覚えた違和感の正体がようやくわかった。なんでかっちゃんが負けるんだろうか、実力の全てにおいて出久くんの圧倒的上なのに。って考えの理由だ。

 

「宣言しておくけど、この勝負。万が一にも爆豪に勝ち目はないよ」

「いや、まだわかんねぇだろ! アイツはあんなんでも入試二位だぜ!」

「入試一位で、二人の幼馴染の僕が言うんだ、間違いないよ」

 

確かにかっちゃんは強い。高校一年生の中なら全国でもトップ10に入るだろう。1位は僕がいるから厳しいかな? 轟くんとか夜嵐くんに勝てるかどうかも時の運だし、相性もあるからアレだけど。

 

ただ、あの膨れ上がった自尊心、どうしようもないほどに歪曲したその性根。錆びついてしまった金属みたいな彼はその錆を落とさないと輝けない。

 

今の彼は出久くんに執着し過ぎている。見なくちゃいけないものが見えていない。

 

建物を半分ぶち抜くような爆破をぶちかましたかっちゃんを見てつい口笛を吹く。これが当たれば死ぬ技か。なるほど、火力という面ではかっちゃんの個性に僕が勝ることはないだろう。そう思えてしまうような個性だった。

 

「オールマイト先生」

「む!? なんだ! 舞妓少年!」

 

ここは、僕が手を出しちゃダメなシーンのようだ。僕を間に挟まず、男同士でガチンコで決着をつけるしかない。それならば、僕がストーリーに介入したからこそ起こりうる何らかの間違いで中止になることだけは防がなくては。

 

「絶対に中断しないでくださいね」

「む、むぅ‥‥‥!」

「何言ってんだよ舞妓! 爆豪アイツすげぇクレイジーだぜ! 緑谷殺しちまうって!」

 

オールマイトも迷っているようだ。切島くんが抗議しているが、多分クラスメイトも抗議している切島くん側の意見なのだろう。ヒーローらしいいい顔である。今のかっちゃんの行動には思うところがあるようだ。まぁ、屋内でぶっ殺すビーム(かっちゃんの爆発のやつ)打ってんだからそりゃそうなるって感じだけどね。建物半分消し飛んでるし。

 

あのあとは、ぶっ殺すビームを抑えて一方的な蹂躙が行われていた。出久くんがボッコボコにされてて可哀想。

 

「リンチだよコレ!テープ巻き付ければ捕まえたことになるのに!」

「ヒーローの所業に在らず‥‥」

「緑谷もすげぇって思ったけどよ、戦闘能力において爆豪は間違いなくセンスの塊だぜ」

「舞妓ー! 止めないと緑くん死んじゃうよー!」

 

原作通り、みんながかっちゃんに戦闘面で高い評価を与え始めた。そりゃ、こんなもん見せられたら僕だって嫌でも戦闘面では高評価だ。強すぎるし、センスの塊過ぎて嫌だわ‥‥本当に才能マンじゃん。

 

ただ、原作通りだとしても、そうじゃないとしても。

 

ヒーローはここで一人で戦うだけの馬鹿じゃないってことを僕は知っているのだ。

 

「やっぱり、出久くんの、出久くんたちの勝ちだ」

 

打ち上げられた拳が天井を何階分もぶち抜いて、瓦礫をお茶子ちゃんと飯田くんの階にまでぶっ飛ばし、お茶子ちゃんに隙をつかせて核を確保させる。授業の一環としては完璧に出久くんの勝ち。

 

「ヒーローチームWINンンンンンン!!!」

 

オールマイトの大声での発表を聞きながら、唖然とするクラスメイトたちに向かって「ね? 言ったでしょ?」とイタズラっぽく舌を出しながら口にしてやった。

 

おい、今目を逸らした男子後で話があるからな。

 

 

  × × ×

 

「まぁ、つっても! 今回のベストは飯田少年だけどな!」

「なな!?」

 

モニタールームにて、オールマイトが行った講評に対して、飯田くん本人の間抜けな声が響いた。なな!? ってなんだよ、面白い反応すぎるわ。

 

「何故かわかる人!」

「ハイ、オールマイト先生」

 

ヤオモモちゃんがシュバッ! っと手を上げてかっちゃんチームと出久くんチームに対しての評価をツラツラと下す。まぁ、どれもこれも言うまでもなく的を射たものだ。ザ! ヤオモモって感じ。

 

「油断、慢心、傲慢でしょ。爆豪は殴り合いになった時点でテープを巻いてればそこで片がついてた。いつも見下して、自分が上だって、ずっと、ずぅっと、見下してたから。出久くんに負けたんだ」

 

ヤオモモの講評が終わってから、あえて大きくないけど、誰も聞き逃さない大きさのトーンで、そう言ってやる。絶望した顔のかっちゃんが、さらに、深い絶望を噛み締めるように、歯軋りしたのが見えた。

 

うわ〜!! かっちゃん!! 可愛いよ!! 可愛いよかっちゃん!! すごいね! ここまで悔しそうな顔が似合う子もいないよ! そうだよ? 君のことなんて全部お見通しだから! 出久くんのことを見下してたのも、心の弱いところを突かれた苦しさも、もどかしさも、疾しさも!! 僕には筒抜けだから!! たかだか一授業でこんな顔してくれるなんて最高だよかっちゃん!! たまんねぇ〜!!

 

口元を隠しながら、ニヤ付きを抑える。ここに一人でいたら多分叫んでた。いや〜、抑制する術を早く開発しないとかっちゃんとか出久くんの曇り顔で僕大声出しちゃうね。

 

これだから曇り顔は最高なんだ。

 

僕がニヤニヤしていることに気づかずに時間が進む。みんなの試合を見て、原作にはなかった部分を補完していくこと数試合。

 

オールマイトが次のペアを発表した。

 

「さて! 次のチームはヒーローチームが舞妓少年と耳郎少女ペア! ヴィランチームが切島少年と瀬呂少年ペアだな!」

 

お、やっと僕の出番か。と、グッと屈伸してから少し緊張した顔をしている耳郎ちゃんの背中をポンポンと叩く。

 

「安心しなよ、僕がいる。この試合は負けないよ」

「お、流石は入試一位様! 言うことが違うねぇ!」

「俺たちだって負けねぇぜ!」

 

瀬呂くんと切島くんが負けじと元気に対応してくるが悪いけどレベルが違う。二学期後半とかの二人ならともかく、今の二人なんて相手にもならないだろう。

 

大体、この試験は耳郎ちゃんと組んだ時点で僕の勝ちが確定している。

 

そして、今回はどうしても圧勝する必要がある。曇らせのためにね。

 

この二つが合わさったのなら僕のやることは決まっている。有無を言わさない完全勝利だ。

 

「それじゃあ各自持ち場についてから作戦会議の時間を設け! その後スタートだ!!」

 

オールマイト先生が何やら言っているが作戦会議の時間なんて正直いらない。作戦も何もないからだ。

 

「響香ちゃん。索敵して相手の位置がわかったら教えてくれる?」

「了解」

 

さて、蹂躙しますかね。と指を鳴らしながら僕は呟いた。

 

 

  × × ×

 

 

「どこにいるかわかった?」

「ちょい待ち‥‥‥五階かな? この部屋だと思う。今は二人ともいるよ。核も同じ部屋にあるみたい」

「そっか、了解」

 

手をプラプラと振ってから耳郎ちゃんが指差した見取り図の大体の部屋割りを思い出す。正直、この試験ではヴィランが立てこもっていることが前提で試験が組まれているんだけど、僕の試験を行うっていうのなら時間を与えず、速攻でアジトを捨てて僕のことを叩きにくるしかなかった。

 

僕はこの前の個性把握テストで一回しか個性を発動していない。そのときは目視した相手と自分のことを入れ替えるに留めてある。個性のことがよくわからなかったから目視が条件だと思って閉じこもったのだろうが‥‥実はここで終わらせることだってできていた。

 

「悪手だね」

「へ? なにが?」

「何でもないよ、行こっか」

 

場所がわかるのなら何も怖くない。正直、切島くんと一対一でやり合うのは避けたかった。だが乱戦に持ち込めるのならどう転んでも僕たちの勝ちが確定する。乱戦は僕の独壇場なのだ。

 

五階まで歩いていく。索敵もこまめに行っていたおかげで二人が僕たちのことを警戒して二人揃っていることまで分かった。その間僕の個性について細かく耳郎ちゃんに説明する。説明を付け加え、このあとどうするつもりなのかをぼんやりと語れば耳郎ちゃんはだんだんとジトっとした目を向けてくるようになった。なしてさ。

 

「それじゃあ突入するけど‥‥突入と同時に訓練終わるからさ、完全試合しよっか」

「あんたの個性、本当反則だよね」

 

ムスッとした顔でこちらを見てくる可愛らしい耳郎ちゃんに笑ってた方が可愛いよ、と言ってあげてから二人のいる部屋のドアを蹴破る。するとそこにはテープでガッツリ周りを固めた瀬呂くんと、僕たち二人ともが突破できないように待ち構えていた切島くんがいた。

 

「それじゃあ正々堂々! 勝負と行こうぜ!」

「突破できるもんならしてみろ!」

 

二人とも自信があるようだ。ならまずは、厄介なサポート能力のある瀬呂くんから叩くとしよう。手を叩いて耳郎ちゃんと瀬呂くんの位置を入れ替えて速攻で瀬呂くんに捕獲テープを巻きつける。

 

「後手に回るのは良くないと思うよ」

「んなっ!」

 

そしてテープを巻きつけてすぐにもう一度手を鳴らして切島くんと耳郎ちゃんの位置を入れ替えた。

 

「同じ手にかかるか!」

「同じ手なんて使わないよ」

 

切島くんが拳を硬化して殴りかかってくるのを軽く避けると、すると次は蹴りが飛んできた。切島くんは個性の関係上受けると痛いからね、すぐに距離を取る。また悪手だ。切島くんは僕に個性を使わせないようにしないといけないのだから。

 

「鋭児郎。僕に両手フリーで距離取らせちゃダメじゃん」

「ヤベッ!」

 

パンッ! と手を叩いて切島くんと核の位置を入れ替える。テープで周りを覆われた場所に移動させられたから簡単には出てこれないだろう。パーフェクトゲームである。

 

「ウチの仕事ほとんど何もないじゃん」

「いやいや、響香ちゃんがいなかったらこんなに上手くいってないって」

「囮に使われただけじゃん!」

 

核兵器のハリボテにタッチしながら耳郎ちゃんが詰め寄ってくる。おいおいそんなに詰め寄るなよ、僕じゃなかったら惚れちゃってるぜ? 出久くんなら顔真っ赤にして縮こまってた。あの子本当に童貞すぎない?

 

「そんなに詰め寄ってこないでよ、惚れちゃうよ?」

「なにその雑な‥‥惚れ!? な、殴るよ!」

「もう殴ってるって‥‥」

 

顔を赤くする耳郎ちゃんを揶揄いながら、わざわざ迎えに来てくれたオールマイト先生についていってモニタールームへと戻る。ちなみにすぐに敗退させられた瀬呂くんには俺を捕獲してイチャイチャしやがって、という目で見られた。イチャイチャしてないが?

 

「はい! この試合のMVPは誰でしょう!」

「舞妓じゃね?」

「舞妓一択だろ」

「舞妓の個性がトリッキー過ぎるんだよな」

「俺とか気づいたら捕縛テープ巻かれてたぜ? あんなの反則だろ」

「結局なんなわけ? 舞妓の個性」

 

クラスメイトがやいのやいのと声を上げるので答え合わせをしようとみんなの前でコホン、と咳払いを一つこぼす。そして僕の個性について説明することにした。

 

「個性『不義遊戯』。僕が認知しているものとものを入れ替えることができる。たぶん対象についての制限はない。どんな相手、どんなものでも、僕が転移可能だと認識しているものなら移動させられる。手を叩くことが発動条件ね」

 

パンパンと2回手を叩いてオールマイトと僕、僕と耳郎ちゃんの位置を変えてみせる。まぁ、他の使い道もなくはないが、今は説明しなくてもいいだろう。

 

「すげぇ、救助のときとか便利すぎじゃね!?」

「実際、舞妓は入学試験で0ポイントに潰されそうな受験生を何人も救っていた」

「ウチも見た。なんなら0ポイントぶっ壊してたし」

「アレぶっ壊した!? マジかよ!」

 

うんうん、みんなの反応は上々だ。ぶっちゃけ、ヒーロー活動として見ると凄まじく優れた個性だと思うしね。適当な瓦礫と怪我人の位置を入れ替えられるとか神すぎるし、相澤先生に見てもらった状態で場所を入れ替えたらサーチ&デストロイの究極形だ。僕に認知されたが最後その時点で個性を使えなくなって捕縛される。

 

それはたとえオールマイトでも、ラスボス先生でも。

 

本当はサポート特化の初見殺し個性なのだ。

 

「舞妓少年は先に瀬呂少年という機動力を捕縛してから、切島少年と戦闘を行った、瀬呂少年、切島少年の両方を無力化するのに一番的確な個性の使い方だな!」

「対して鋭児郎と範太は二人で固まらなくてよかった。二人とも索敵できる個性じゃないんだから鋭児郎が入り口で待ち構えて、響香ちゃんが索敵する暇を与えずに、畳み掛けてから、範太が奇襲でテープで拘束すればよかったんだよ。僕は知覚できていない対象の場所は入れ替えれないんだから、奇襲が最善手だった。それこそヴィラン側なんだしさ、天哉くらいヴィランに振り切ればベストだよね」

 

オールマイトのセリフを取ってつらつらと敗因を述べてあげる。まぁ、そうなった場合僕にはまだ幾つか手があったが、それをわざわざ大人しく話す必要はない。体育祭でも一位を取るつもりだし。奥の手は取っておくからこそ効果を発揮するのだ。

 

さて、僕がここまでパーフェクトゲームまでして、しかもわざわざ前に出張ってこんな風に説明までした理由。個性まで明かした理由はたった一つだ。

 

かっちゃんの顔が見たいからである。

 

しかし! それは今じゃなくていい。この後、帰るときにこそ曇り、雨を流すかっちゃんを見られるのだから。これは一人で見たいしね‥‥そんなの供給過多で壊れちゃうし。

 

そのあとも幾つかの試合があったが、正直、かっちゃんの方を見ないようにするので精一杯だったんだよね‥‥、記憶はあやふやだ。気づけば帰りの講評の時間になっていて、着替えて教室に帰るように通達されてしまった。これは時間操作の個性だろうか?

 

あ、ちなみにそろそろ峰田くんからの視線がウケるウケない通り越して洒落にならなくなってきたので隠れるようにコソコソ着替えました。そしたらさらにみんなから距離を置かれました。なんでだよ。

 

 

  × × ×

 

 

「おぉ! 緑谷来た! おつかれ!」

 

切島くんの声で出久くんが帰ってきたのが分かった。うわ、ボロボロじゃん。包帯グルグル巻き過ぎてちょっと引くまである。

 

わらわらと出久くんにみんなが駆け寄り取り囲むのを見て少しだけ温かい気持ちになってしまった。いつもは無個性だからと差別され、僕しか友達がいなかった少年が随分と慕われるようになったものである。

 

これを絶望に叩き落としたいとか考えてる奴いるの? 正気? 正気で曇らせるためにヴィランになるかよ。とっくにとち狂ってるんだわ。

 

「出久くん。爆豪なら帰ってったよ」

「! ゆずくん!」

 

おい、そんなにご主人様に呼ばれたワンちゃんみたいな顔すんなよ、歪めたくなるだろうが。

 

「今ならまだ間に合うでしょ、行っておいで」

「‥‥‥! うん!」

 

出久くんの肩をポンと叩いて、送り出してあげる。かっちゃんの曇り顔を見るために彼の言葉は必須なのだ。このためだけに僕雄英の門の近くの木陰にカメラ設置してきたもんね。高性能カメラをわざわざ買ったのはこの日のためである。そのためなら何万って出費も安いものだ。

 

「‥‥デクくんと爆豪くん仲悪いんとちゃうの?」

 

心配そうにお茶子ちゃんが聞いてくるが何の問題もない。いや、仲は悪いが、それだってかっちゃんが一方的に出久くんを毛嫌いしてるというのが理由で、出久くんからかっちゃんへの負の矢印は基本的にない。いや、ビビってるし、普通に苦手だとは思うけど。

 

「仲が悪くても、言わなくちゃいけないことはあるのさ。男にはね」

「女の子みたいな顔してるあんたが言うと説得力ないね」

 

カッコつけてウインクしてみるとその様子を見ていた耳郎ちゃんが歯に衣着せぬ言葉を口にする。なんだと〜?

 

「女の子っぽいだけでしょ」

「正直ウチはあんたのこと最初女の子だと思って声かけたんだよ。制服がズボンでびっくりしたもん」

「あの驚いた顔ってそういうことだったの!?」

 

つまり合格したってことよりも男の子の格好で来たことに驚いていたのかこの子は、失礼極まりないね‥‥。

 

「いや、悪りぃ。俺も割と女子かと思った」

「髪を束ねたときの姿はまさに清女」

「ぶっちゃけこの髪質はずるいよね」

「どこのブランドのシャンプーをお使いなのか後で教えていただけませんこと?」

 

わいわいと盛り上がるクラスメイトのみんなと話して、盛り上がりながら、この先に来る曇らせの未来を思い描いて、それがさらに味わい深いものになるように、僕は笑った。

 

‥‥それはそれとして僕のことを女の子として見てたやつは顔だけじゃなくて全員性癖も歪ませてやろうかな‥‥

 

 





次はかっちゃんの曇らせとヴィラン連合との関係の掘り下げを行います。次は力作になる予定なのでお楽しみに。

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