個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア!   作:波間こうど

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戻れ! エース!!


★別に誰が死んでも曇るならそれでいいよね!

 

暗くて埃っぽくてジメジメした一室。一室というか、なんだろう、無理矢理掘り進められたモグラの部屋みたいな場所だ。わざわざ掘り進められてるところまで運んでもらった。あんよなくて歩けないから荼毘くんに担がれてるんだけど、まぁ、それはいい。どうせ二倍でコピーされた荼毘君だしね。コピーってイマイチ曇らせ顔に迫力がないというか本当にイマイチなんだよなぁ。やっぱり、こう、ナマモノがいいと言うか、生がいいよね。生が一番興奮する。

 

「というか……足いた〜い!! 目的のためとはいえさぁ!! あまりにも酷くない!?」

「お前が勝手にしたんだろ」

「荼毘くん怒ってね?」

「別に……」

 

なんか怒ってる荼毘くんに首を傾げるフリをして移動するポイントまで運んでもらった。まぁ、なんで怒ってるのかなんてわかってるんだけどね〜。僕は心をぐちゃぐちゃに掻き回すタイプのヴィランだからさぁ〜……君たち僕のこと好きすぎだよね〜。たっぷり曇らせたくなるからとてもいいと思います!(小並感!)

 

「そろそろミルコのルナアークで弔くんの培養液ぶち壊された頃合いかな? エンデヴァーとかの動きを見てもそろそろ暴れ回れる頃合いだと思ってるんだけど……」

 

体を伸ばしながらあくびをする。足がなくて血が流れすぎてもうそろそろ死ぬかもってタイミングでも正直関係なかった。こと僕においては死の概念が遠すぎる。全部入れ替えちゃえばいいし。っていうか死の概念も入れ替えられるのだろうか? 試してみたいけど……流石にそのために殺すのはリスクとリターンが釣り合ってないんだよなぁ。

 

荼毘くんに運んでもらったのはドクターの作った研究室、その裏。そこまで運んでもらってから僕は手を叩いた。行き先は我らがアジトである。ここをアジトって言えるようになってるのよくよく考えたらすごいよね。僕完全にヴィランで笑っちまうぜ。

 

「弔くんが培養液から出て、仮死状態から解放されて、暴れ回り始めたらスタートだからね」

 

まぁ、本来ならギャンブルだ。弔くんが仮死状態から覚醒して全てをぶち壊すマンになるかどうかなんて普通に考えて確率で言うなら数%。下手をすると0.何%なんだろうなって思う。

 

でも、弔くんなら問題ない。僕の認めた主人公だから。

 

この世界、というか、創作物の世界には主人公適性を持った人間がいる。キャラクターでもいい。現実の世界にもいるだろう。明らかに他には類を見ないような化け物が。野球ならこいつ、将棋ならこいつ、サッカーならこいつ、アレならこいつ、ソレならこいつ。

 

それが、創作の世界には居て、僕が観測しただけでも主人公適性があるのは、出久くん、かっちゃん、それから弔くんだ。あとはどうしても主人公適性を見出せない。輝きが違うんだよね。あ、100円ライターくん的な輝きじゃないよ! 青山くんは輝いてるけどちょっと違うんだよなぁ〜。曇らせて輝くのならこの世界のみんないい顔するからね♡

 

「…………暇だな」

 

僕まだ出れないんだよね〜。なんて思いながら入れ替え用の脳無から足と瞳を入れ替えて舞に体を切り替える。う〜ん。今頃どうなってんだろ。トゥワイスさん辺り死んじゃったかな?

 

やっぱりトゥワイスさん捨てるのはもったいなかったかなぁ? でもまぁ、この後の展開のことを考えると殺すしかないんだよねぇ。啓吾くんが殺してくれてることを望んでおこうか。死ななかったら僕が殺すからあんまり関係ないんだけどさ。

 

「もうちょいで出れるとは思うけど……まぁ、でもねぇ……なんかアレンジでもしてわかりやすく僕がカッコよくなってるところとか演出したいなぁ……」

 

さて、そうとなれば髪型くらい変えてみるか。と立ち上がる。髪の毛を少し濡らしてからワックスを取り出して髪の毛をかきあげてみる。うん。オールバックってやつだ。悪くないんじゃない? ついでにちょっと乱雑に掻き回しておけばそれなりに怒ってる感じに見えるでしょ。うん! 上々! なんかこう、雑にワインとか飲んどくか! いけないな……イメチェンって楽しくなってきちゃうんだよね……。

 

…………なんで悪役って裏切ったらオールバックにするの? 藍染様のイメージで固まってるだけ? 僕は天に立つつもりないんだけど……?

 

いや、雛森ちゃんは刺したいし、ハリベルさんは斬りたいな。なんなら全部ぐちゃぐちゃに殺してあげたいまである。それで曇るならね。え? それはどの世界でも一緒? それはそう。

 

「さ〜て。暴れるぞ〜」

 

手を洗ってワックスを流してからタオルで拭き取る。普段弔くんが座っている椅子に座って足を組む。なかなかかっこいいんじゃあないか?

 

 

【挿絵表示】

 

 

見開きとかで使われても文句ないかっこ良さだろ。僕ってばやるね。

 

「……あ、トゥワイスさん死んだ」

 

荼毘くんがどろりと溶けるのを見ながら僕はつぶやいた。ま、そんな気はしてたけど。

 

原作通り進む指標としてめちゃくちゃ丁度いいから使っちゃったけど、別にトゥワイスさんにしたって僕は死んでほしかったわけじゃないんだよ? 彼が生き残ったら『ヒロアカ』としてはすごく困るだろうから死ぬだろうなって思ってはいたんだけどね。まぁ、僕のことを複製したらなんとかなったのかもだけど……彼が最後に僕のことを測ったのはつい先日、“舞妓譲葉”の姿をしてる僕だ。つまり、僕を作成したら青い目をした僕が出てくるわけだね。ホークスみたいに秒殺してくるタイプならともかく、ちゃんと戦うような人なら“舞”ではなく“譲葉”ってことがわかっちゃうから、複製は渋ったのかもしれない。ま、仕方ないね〜。そういうこともあるある。

 

「これで原作通り残ってるのは弔くん、ヒミコちゃん、荼毘くん、コンプレスさん、スピナーくんか」

 

世知辛いねぇ〜、なんて言ってから体を伸ばす。まぁ、そうなることなんてわかってたんだけど、でも仕方ないよね、ストーリーの展開だもん。これで誰かが曇ってくれるならそれでいいかなってところもあるし、僕的にはモーマンタイなんだよなぁ。

 

誰かが曇って、僕が美味しい思いをするならそれはプラスです。

 

「さて、このまま物語が進行するのを待とうか。もう少ししたらいいものが見れるしね」

 

トゥワイスさんが残したタバコに火をつけて吸い込む。相変わらず不味いけど、まぁ、彼のことを送る送り火程度にはなってくれるだろう。昔のロックスターみたいに何十本も咥えたりする勇気はないので一本で許してくれ。安らかに眠ってよね、仁くん。

 

……これ不味いんだよなぁ。

 

僕がタバコを吸っているとポケットの中にある携帯が震えた。誰からかかってきた電話かはすぐにわかる。まぁ、着メロが違うしね〜。いつでもすぐに弔くんの電話だってわかるようにしておかないといけなかったからさ。下手に言及されると面倒なので、バレないように立ち回る必要があるのである。

 

『おい』

「なに? 寝起き悪すぎない?」

『知ってんだろそのくらい』

 

めんどくさそうに弔くんが呟く。吐息めっちゃ聞こえるけど平気? マイナー配信者みたいになってるよ。ガチ恋量産しそう。

 

『マキアには声をかけた』

「え、僕が先じゃないの」

『お前の方が被害がでかいだろ』

「あー、なるほど」

 

僕の方が目立つようにってことね。それにしても「おいで、マキア」が見れなかったのは正直少し悔やまれるかもしれないな……悔しいぜ。

 

まぁ、それ以上の興奮があるからいいんだけどね。

 

『……譲葉』

「ん?」

『来いよ、遊ぼうぜ』

 

弔くんがニヒルに笑いながらそう言った。わざわざそんな風に言わなくても、なんて思う。なんだかじわじわと笑いが込み上げてきて、気がつけば大爆笑してしまっていた。大爆笑神ユズリマイトである。何言ってんの?

 

「アハハ! うん! すぐいくよ、だから」

 

弔くん、だからさ。

 

「遊ぼっか!」

 

最後の布石へ。

 

僕は手を叩いた。

 

 

  × × ×

 

 

「や、弔くん。元気?」

「No.1とやり合ってる今の状況がそう見えるってんならお前の目はどうかしてるぞ」

「実はね、どうかしてんだよね」

「……敵連合、舞ッ!」

 

赤い目を見せつけるみたいに弔くんのすぐ側にある装置と自身の場所を入れ替え転移する。まぁ、場所くらいは把握してたからこのくらいの転移は余裕なんだけどね。実は僕ってばそのあたりちゃんと把握してるから。そこらのRTA走者よりもガバについてしっかり対応してるんだぜ? すごくない? 褒めて欲しいなぁ。

 

というかエンデヴァーにここまで敵対的に見られるのはマジでヴィランだなって感じするよね。事実めっちゃヴィランなんだけどさ。いつでも殺せるんだぞ〜?

 

「で、エンデヴァー潰すのお手伝いすればいいわけ?」

「そういうことになるな。とっとと手伝え」

「ひどいなぁ。ちょっと待ってね」

 

手を叩く。エンデヴァーの付けているインカムを手元の瓦礫と入れ替えた。倒すのをお手伝いしろとは言われたけど、その前に僕としてはしておきたいことがあるからね。それは済ましておかなきゃいけない。曇らせのために動くって決めてるからさ。

 

「もしもし、ヒーローのインカムかな? 俺の名前は舞。敵連合及び、超常解放戦線のNo.2だ。覚えて帰ってくれ。まぁ、生きて帰れたらだけど」

 

インカムを返せとエンデヴァーが炎をけしかけてくるが、正直そのくらいならどうとでもなる。僕は手を叩いてそれを避けると弔くんにチラリと視線を向けた。

 

「何をするつもりだッ! 舞!!」

「落ち着けよ。子どもの未来を応援するのが大人だろ?」

 

弔くんがエンデヴァーを妨害する。炎の拳、放出される炎、その全てを崩壊させ、邪魔しながら僕のために時間を作ってくれた。頑張ってくれた。

 

だから、僕も曇らせのために、全力を注ごう。最高の瞬間を見るために。

 

「ヒーロー諸君! トゥワイスさんが死んだ! No.2ヒーロー、ホークスに殺された! 俺たちの仲間だ! 俺たちのムードメーカー! おちゃらけてるように見えて! お前らに助けられなかった被害者だ! やってくれたな! ヒーロー!!」

 

それは、最後の布石だ。

 

声を吹き込む。みんなの脳みそに無理矢理伝播させるように。

 

僕の全力の演技で、声だけでも届くように。

 

「本当、やってくれたなぁ、ヒーロー」

 

仲間を偲ぶ赤い瞳。今の僕の全ての演技力を以て演じきってみせよう。僕という存在の存在理由を。

 

「……本当に、やってくれたなぁ……」

 

僕は舞妓譲葉。

 

僕は、この世界の異物だ。

 

この世界に降り立って、この世界を壊すことに積極的で、この世界の布石も、ルールも、個性も、人も、心も、何もかもを僕好みに歪めて、僕用に全てを捻じ曲げてここまでやってきた。それもこれも全て、あの日の約束のために。僕自身と交わした、最後の約束のためだ。僕は、僕のために、今を生きているんだ。

 

全てを悟ったあの日。

 

僕が全てを理解したあの日。

 

僕が自分を殺したあの日に。

 

僕の世界の主人公に、僕を据えたんだから。

 

「諸君! これから俺たちは覇道を突き進む! 世界なんて知らない! 一度全てを壊す! 弱者救済? 盛者必衰!? そんなの関係ないね!! 俺たちが正解さ!!」

 

声を荒らげる。演技って面で見れば僕が一番上手い自信がある。誰よりも上手い自信がある。だって昔からずっと自分のことを偽ってきたんだ、自分のことをずっと誤魔化してきたんだ、その全てを捨てて僕自身のことをさらけ出せるんだったら、僕が1番に決まっているんだ。

 

そのための下準備としての演技ならこの15年、いくらでもしてきた、その前も演技ならお手のものだった。

 

だから、余裕。だからこそ、この演技は。

 

通る。

 

「殺し合おうぜヒーロー! 勝ち負けを決めよう!! お互いの人生のために!!」

 

弔くんとエンデヴァーがやり合うのを見ながら哄笑する。世界一、飛ぶほど気持ちいいって言うみたいに笑って、両手を広げた。この手を広げて笑うポーズを印象付けるために見開きとかにしてくれないかな……今の僕結構だいぶかっこいいと思うんだけどどう思う? え? 何? 100点? ありがと!

 

「殺し合おう!! ヒーロー!!」

 

手を叩いた。弔くんと僕の場所を入れ替える。そしてエンデヴァーの顎に蹴りをぶち込んだ。流れる足で彼の肩を蹴り上げて舞い、地面へと着地する。

 

「ハハ、いいの入った」

 

笑ってみる。エンデヴァーは足を踏み締めて耐えてるけど、まぁ、あと数十秒は動けないだろ。さて、ここで派手に四肢の一本くらいいっとくか? 今後の展開に支障はない……いや、荼毘くんが怒るか。ならやめておいた方がいいかな? あのワンちゃん怒らせてプラスなことない……いや、あるか。いい顔見れそうだからやっとくか? え、僕いつでもいけるよ? 腕くらいいっとく?

 

「……なんだ、殺さないのか?」

「……ま、この後使う予定があってね」

「そうか」

 

弔くんの言葉に返答する。普通ならこんな敵のトップみたいな人殺しておいた方が得策だし、無力化しておくに越したことはないんだけどね。だけど、僕が殺さないと言ったら弔くんは納得してくれる。いい関係を築けたと思うよ、本当に。

 

「で、弔くんはこれからどうするつもりで?」

「ワン・フォー・オール」

「……なるほど」

 

弔くんの言葉にふむ、と頷く。まぁ、原作通り出久くん襲撃の流れになるよね〜。実際、出久くんを、ワン・フォー・オールを奪えって命令がラスボス先生経由で頭の中を巡ってる筈だしね。可哀想に……これからラスボス先生に取って代わられるのかな? ほんと酷い話だと思うぜ。最高の尊厳破壊じゃん。伊達に年くってないよね、ラスボス先生。

 

そんな貴方も僕が必ず曇らせます。見ててね。

 

「舞、サーチ」

「はいはい。雑に使うなよなぁ」

 

目を凝らす。いや、もちろんこれはフリだけどさ。実際に目を凝らしてるわけじゃないんだけどね。なんか、こう、表現として目を凝らしているって言うのが一番わかりやすいだろうか。

 

「あ〜……避難先の方にいるね」

「そうか。なら、いくか」

 

弔くんがスッと手を出してくれる。まるでお姫様をエスコートする王子様みたいで、似合わないことするものだから笑ってしまった。

 

「ふふ、エスコートのつもり?」

「うるさい。似合わない自覚はある」

「似合わない自覚あるならいいじゃん。なかったらひたすらいじり倒してた」

「殺すぞ」

「こわ」

 

少しジョークを交えてからその手を取った。弔くんの崩壊は来ない。完全にこのタイミングで制御できているのを僕は知ってるからね。……ところで崩壊本当にしないよね? 僕ここでジ・エンドとか最悪だからね? まぁ、この程度じゃ死なないけどさ。

 

「………………」

「なに? 早くいかないの?」

「……いや、拳合わせる時も思ったが、お前マジで手ぇ柔らかいな……華ちゃんみたいだ」

「は? お姉ちゃんだっけ? ぶち殺すぞコラ」

「こわ」

 

弔くんとバカを言ってから目的の方向を見た。そこには、緑色の強い光。

 

出久くんだ。

 

「待……て、どこへ行く……」

 

エンデヴァーがヨロケながら、よだれを垂らす口を拭いつつ僕たちに問いかける。その答えを提示しても今の君にはどうしようもないと思うんだけどどうかな?

 

「どこって」

「決まってるだろ」

 

二人で言葉を分割して顔を見合わせる。そして目線をエンデヴァーに向けて声を揃えた。

 

「「人の被害が多そうなところ」」

「あとついでにワン・フォー・オール」

 

ヴィランだからね。絶望した顔をしたエンデヴァーにインカムを放り投げて、返すよ、とだけ口にしてから弔くんの手を握りしめる。……あ、エンデヴァーの絶望顔いいなって思ったけど凝視しなかったのはこれからもっといい顔が見れるからです。

 

「行こう」

「あぁ……」

 

グッと弔くんが足を踏み締めた。そして力強く地面を蹴る。すると生み出されたエネルギーは人間のものとは思えないほどのスピードとなって僕たちを空へと弾き出した。

 

「くっ……! 目標! 避難先に向かってる!! 戦闘区域を拡大しろ!! 街の外にも避難命令を!! 死柄木と舞は『ワン・フォー・オール』とやらを狙っている!!」

 

後ろからエンデヴァーの声を聞きながら飛ぶ弔くんに合わせる。ちょっ、赤目でも『サーチ』使えるように移植したけど青目より練度が低いからブレるんだよ! なんて言葉が勢いよく切れる風に靡いた。

 

 

  × × ×

 

 

【出久side】

 

「ワン・フォー・オール……!」

「テメェのことを狙ってるってな」

「ここで言うと人員が僕につくから」

「最初から一択即決だろ」

「街の人たちの安全を最優先」

「テメェは今動くしかねぇ」

 

避難先と違う方向に飛び上がる。みんなが僕たちを制止するように呼びかけてくれるけど、それを振り切った。ここにゆずくんが居ないなら僕を引き戻すことはできない。

 

事情を知ってるかっちゃんが僕についてきてくれる。そのかっちゃんに合わせながら僕は飛び上がった。

 

インカムに手を当ててエンデヴァーにチャンネルを切り替える。個別通信を投げかけながら黒鞭を使ってさらに高く高度を上げる。

 

「個別通信失礼します!」

「死柄木は僕を狙ってる可能性があります! 人のいない方に誘導できるかも! 訳は後で!!」

「俺が潰したらぁ!」

 

かっちゃんが吠えたのを聞く。昔は怖かった彼の声すらも、今となっては鼓舞になっている。

 

ゆずくんの笑い声には負けるけど、それでも僕の頑張る動力になってくれていた。

 

『緑谷! 死柄木と舞がお前の誘導した方向に急転換! 理由を説明しろ!!』

「ご連絡ありがとうございます! 今はそれどころじゃありません!! 後で説明します!!」

 

地面を踏み締めて飛び上がる。向かっている死柄木と舞に対応するために、黒鞭で高くビルの間を駆け抜ける。

 

このままギリギリまで、距離をとって、そして迎え撃つ。そのつもりだった。

 

僕たちはすぐ、その目測が甘かったことに気づく。

 

それは、影だった。一瞬で空を切り、目の前に落下した、二つの影。

 

「見つけたぞ、緑谷出久。ワン・フォー・オール」

 

死柄木はあっという間に目の前に現れた。何が起きたのか、さっぱりわからない。ただ、デタラメな速度で飛んできたことだけは理解できた。

 

「死柄木……! それに舞!!」

「デケェ声出すな……! こちとら酔ってんだよ……!!」

 

舞が口元を押さえながらこちらを見た。そして、その目が喜色に染まる。

 

ふと、舞の姿が乾いた拍手の音と共に消えた。

 

そして、横には死柄木。

 

「貰うぞ、ワン・フォー・オール」

 

ズッと伸びた手を避ける。咄嗟の反応、身体が動いてくれた。なんとか体を捻るようにして飛び上がり、黒鞭で高速での離脱を試みる。

 

視界が開けたその先で、僕は舞を捕捉した。

 

「会いたかったぜ! 爆豪!!」

 

グッと握り締めた拳がかっちゃんをガードの上からぶっ飛ばす。力の入り具合、フォーム、その全てがゆずくんそのものに見えた。

 

「お前を殺したかったんだ!! 弔くんが緑谷から個性を奪うまでの間ぁ!! 俺と踊ろうぜ!!」

「……ッ! 譲葉のコピーってのはテメェだな!!」

「仲良いみたいに名前で呼んでんじゃねぇって!!」

 

かっちゃんが爆破でいなす。それを舞が追いかける。まるでじゃれつくみたいに、戦闘が切り替わる。攻防が切り替わる。めくるめく、戦闘、それはまるで舞踏のようにすら見えた。

 

「忘れられたら寂しいだろ」

「……ッ!」

 

目を引かれる戦いに気を取られていると死柄木がいつの間にか目の前にいた。速い。下手をするとオールマイト並みだ。

 

その掌をまた間一髪のところで避ける。

 

二手、三手避けるも、長くは続かない、それを悟る。死柄木の手はコスチュームに掠り、僕の体を掴もうとしてくる。その攻撃がまるで。

 

ゆずくんのように、僕の動きを読んでいるようにすら見えた。

 

ゆずくんみたいだ、という最大の賛辞は飲み込んだ。その上で戦いに乗る。後一瞬、すんでのところで避けて、躱して、ギリギリを……身体が疼くままに避ける。そうすることを続けるも、限界がやってきた。

 

「……流石ユズとオールマイトが鍛えただけあるな」

 

うざったそうに死柄木はそう言った。そして、伸ばすわけでもなくだらんと手を僕に向けた。

 

「『引力』」

「!?」

 

ググン! と身体が引っ張られる。それに促されるように身体が持っていかれそうになった。黒鞭を伸ばして対抗しようとすると、間に合わない。体が流されてしまいかけた。

 

今にも『個性』が奪われそうになった僕を黄色い影が突撃するようにして弾き飛ばす。

 

「何しとるんだお前は!」

「! グラントリノ!!」

「……ジジイ?」

 

グラントリノがギロリと僕を見る。そして次の瞬間には僕に向かって口を開いて叫んだ。

 

「お前! あれに勝てる算段があったのか!?」

「うぐ……でも」

「でもじゃないわ! 今のあれはただの人間じゃない! ……死柄木は『AFO』を植えられとるらしい……!」

 

その言葉でさっきの僕を引きつける『個性』の正体がわかった。あれも『AFO』に蓄積された個性だったわけだ。

 

「……それじゃあ、死柄木を倒すにはオールマイトレベルが必要ってことですか……? 勝てないってことですか……!」

「何を言っとる!」

 

グラントリノが声を上げる。その視線は死柄木を打倒せんと鋭く研ぎ澄まされていた。

 

「あっちは舞を入れても二人、こっちは何人いる!? 伊達にヒーロー飽和社会なんて呼ばれてない! ここで終わらせる!」

 

死柄木の個性が途切れた。その視線が廃墟と化しつつある街へと向けられる。そしてその口元がニヤリと笑った。

 

「俺の生徒にちょっかいかけるなよ……ッ!」

「……カッコよすぎだろ、イレイザーヘッド」

 

個性が使えなくなった死柄木が地面に着地する。その顔が不敵なままこちらを見つめる。その立ち姿は僕たちのことを無自覚に煽っているように見える。

 

「来いよ。雑魚ども」

「……ッ!」

 

ヒーローたちによる死柄木弔への猛攻が始まった。

 

 

  × × ×

 

 

まずい。

 

僕は真面目な顔をして仕事をしながら死ぬほど焦っていた。いや、このままだと敵連合側が圧勝するんだけどどうしよう。

 

死ぬほど焦りながらかっちゃんを適当にいなしてグラントリノを遠くへと入れ替えで飛ばす。そうして策を弄しながら僕は内心ではちゃめちゃに焦っていた。

 

いや、まずい。本当にまずい。このまま冷静沈着で、僕が磨き上げた王としての弔くんのままいられるとものすごく困る。精神的支柱を僕としておいてくれてるのはやぶさかでもないどころかめちゃくちゃ嬉しいまであるんだけどさ。曇らせがいがあるから。

 

それはそれとして今の弔くんのままいられるとすごく困る。だって、それって、圧倒的なままでの勝利が確定するってことだから。

 

でも、焦っているように見えて、僕はとてもクレバーな男なのである。

 

元からここでスキップするつもりでユズとして作戦に参加してたので、この辺りのことは作戦として組み込んである。不確定要素が多くて、上手くいくかは不安だったけど、この世界は僕に味方してくれることは今までのことから分かりきっていた。

 

だから。

 

「弔くん……ッ!」

 

このタイミングは最高のタイミングだった。エンデヴァーの拳が、赫灼熱拳が、エンデヴァーに迫るその瞬間が、鍵だった。本来の弔くんなら『超速再生』があるけど、今は相澤先生に個性を消されていて使えない。まさに人に向けるべきではない一撃が叩き込まれる、その瞬間、刹那。

 

意識的に、体を動かしていた。

 

手を叩いて弔くんと僕の場所を入れ替えた。エンデヴァーの拳が僕に突き刺さって、体を炎が突き抜ける。感覚として、死を実感するほどの衝撃。むしろこれ何発も喰らってピンピンしてる人たちの方がどうかしてる。

 

「ガッ……フ」

 

血が出る。流石に内臓のどこかを損傷したらしい。というか誰かを庇って怪我するのどんだけするんだ。もはやお家芸だろ。……いや、なんだかんだ言って舞として庇って怪我したのってあれか、エリちゃん以来か? そう考えたらだいぶマシなのかもしれない……いや、気のせいかもだけど。

 

 

【挿絵表示】

 

 

焼けた肌から煙が上がる。焦げた匂いと、強烈な眠気。

 

炎はその派手さや力強さで忘れられがちだけど、そのもの自体の殺傷力は大したものじゃない。ただ、漫画的表現としてやられたら派手に怪我してるように見えるよね。いや、普通に死にかけてるけど。

 

ダビダンスに繋げる。そして弔くんに“本気”を出させる。そのために、僕は、ヒーロー側でも、ヴィラン側でも、一度、“死ぬ”。そうすることで怒りで我を忘れた弔くんが暴れ散らかしてくれるだろう。さらに僕が昏睡状態に入ることで様々な状態をスキップしつつ、僕はみんなの曇らせ顔を摂取できるわけだ。は? 最高すぎるだろ……僕天才すぎない? これだから天才は……(褒め言葉)

 

「ヤバ……マズった……」

 

まぁ、戦闘不能者として離脱するだけだけど。

 

「弔くん……ごめん、ぼく、ヘマしたや……」

 

ヘラヘラと笑いながら僕はそう言った。ついでに伏線を用意することも忘れない。なんてこった……キャラクターとしてあまりに素晴らしすぎるムーブじゃないか……僕が神だったのか? いや、ホリー先生が神なんだけどね、この世界においては。

 

「弔くん。ちょっと、寝るから。しばらく……頼むね」

 

 

【挿絵表示】

 

 

こうすれば、弔くんが暴れることも、今みたいに原作にはない冷静さを失うこともわかってるから、僕は思考を閉じるようにゆっくりと瞳を閉じた。

 

最後に、弔くんの咆哮が聞こえた気がした。

 

 





みなさんこんばんは、波間です。

本日はお日柄もよく、絶好の曇らせ日和ですね。
皆さんのおかげでたくさんのお話を投稿することができました。本当に、お気に入り、評価、ありがとうございます。皆さんの評価、まだまだお待ちしてますね。僕は欲張りなので、たくさん褒められるとたくさん書く気になります。元からたくさん書きますけど。

改めていつもありがとう。これからもよろしく!

映画編を入れるかどうかのアンケートをさせてください!

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