個性『不義遊戯』でいく! 僕の曇らせアカデミア!   作:波間こうど

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そういうものだよね人生って。


★繋いだ絆、それは強固で、故に綻びる。

 

超常解放戦線……というのも一応形ばかりは機能しているからそのアジトと言えばいいのだろうか。そこで僕は鼻歌を歌いながらイヤホンから流れる僕が死んだと勘違いする(・・・・・・・・・)哀れなみんなの声を聞いていた。いや〜、カメラ仕掛けておくべきだったかなぁ……でもなぁ、それはするべきじゃないって思ったんだよね。

 

ご飯の前にラーメン食べて帰る馬鹿はいないだろ?

 

「ふんふふ〜ん」

「ゆずくん機嫌いいです」

「まぁね。なんでだろ? なんかこう、気分がいいんだよね!」

「起きたばっかだろ。なんでそんなに機嫌いいんだよ」

「わかんない! ふふ、でもみんなはわかるよね?」

 

理由なんて分かりきってるけど、僕はそう言った。わかりきってるどころの話じゃない。

 

今日だ。今日が、お楽しみ(・・・・)の日だ。

 

とびきりのお楽しみの日だ。今日のために僕は生きてきた。今日のために今まで過ごしてきた。僕の命を、全てを、ここのために使ってきた。足を何度も捨てて、頭蓋骨を割って、内臓を入れ替えて、人を殺して。僕の目的のために出来ることは全て手に入れてきた。

 

全ては今日という日のために。

 

「…………」

 

満ち足りてしまって仕方ない。ありえないほど興奮してたまらない。もう色々飛び出しそうで仕方ない。それも仕方ないと思わないだろうか?

 

僕はこの日のために生きて来た。この日のために、全てを捧げてまで、生きて来たんだ。この日のために全部合わせて、僕の全てを注いで、心血の全てを費やして来た。最高の瞬間を見せつけるために。

 

俺が川×優×(か××らゆ××)じゃなくて。

 

僕が舞妓譲葉(まいこゆずりは)であるために。

 

「さて、最初にみんなに言っておくけれど……」

 

これだけは、ダメだ。これだけは。

 

邪魔をするなら誰であろうと殺す。親でも恋人でも子どもでも、誰でも殺すちゃんと殺す、地獄にまでナビゲートしてあげる。

 

腕を裂いて殺す、足を引きちぎって殺す、胸をすり潰してから殺す、頭をかち割ってから殺す、脳みそ全部ぶちまけさせてから殺す、話せば殺す、見れば殺す、何をしても殺す。

 

それがたとえ敵連合のみんなであっても。

 

大事な大事な曇らせの種であっても、根絶やしにする。子々孫々チリ一つ残さない。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「邪魔したら殺すからね」

 

 

笑顔で言い放とう。いくらでも、言ってやる。

 

それはそうさ。当たり前だろう?

 

俺が僕であるために。

 

必要な儀式なのだから。人生の楽しみなのだから。

 

神様だって殺すよ。きっと。

 

僕は今日のために生まれて来たのだから。

 

「今日は曇りだね〜」

 

窓の外を見やる。外は絶好の曇り日和だった。

 

 

  × × × × ×

 

 

【A組side】

 

「推測でしかねぇけど……」

「あのクソナード!! 十中八九エンデヴァーたちといる」

 

爆豪が手紙を破り捨てながら宣言した。A組を寮の共有スペースにまで集めた上での宣言。それは彼の言葉が自信のあるものであるように聞こえさせた。

 

緑谷出久が雄英高校から去った春。世の中は阿鼻叫喚の地獄と化していた。

 

タルタロスからの大量脱獄、それに伴った治安の悪化。それが世の中を壊滅的なまでに追い込んでいた。ヒーローの名声は地に落ち、民間人が怪しげなヒーローアイテムや個性の不正使用で身を守る時代。

 

そんな混沌の時代を、緑谷出久は一人で解決しようと雄英を飛び出したのだ。皆に置き手紙だけを残して。

 

「推測……? 連絡をして確認を取ったんじゃないのか? 君たち三人の師に」

「幾度もしたさ。だが、電話には出なかった」

 

疑問を持った飯田の言葉に常闇が返答した。その言葉はほんのりと暗い。

 

「ジーパンも出てねぇ」

「親父もだ。いくら忙しいとはいえ不自然だ。俺たちに何か隠しているとしか思えねぇ」

 

常闇の言葉に爆豪、轟の順番で返事をする。固められた言葉はそれだけで根拠のあるものに聞こえる。

 

「…………オールマイトも、戻ってないんだよね」

 

そう言ったのは耳郎響香だ。瞳は真っ赤に腫らし、声も枯れている。連日連夜、無力感に苛まれ、泣き喚いたその瞳は、美しいハスキーボイスを殺し、歌声なんて感じない、濁声へと変わり果てていた。

 

……舞妓譲葉ならこの声を聞いて絶叫するほど喜ぶだろうが、その彼はここにはいない。

 

「雄英に近づくことすらビビってんなら、誰がこの手紙持って来たんだ?」

 

ビリビリに破いた手紙のカケラを爆破して、爆豪は自論をさらに展開していく。

 

「オールマイトだ。あいつら絶対組んで動いてる」

 

瞳には決意。

 

絶対的な自信。強者ゆえの驕り。

 

そういったものが感じられない確かな笑顔で、彼は言った。

 

「……俺は、エンデヴァーよりも、オールマイトのこともデクのことも知ってる。……あいつの考えもわかる。多分、考え得る限り、最悪の状況だ」

 

爆豪の顔には怒りが、そして、何よりも焦りが滲んでいた。

 

「このままだとあいつは人を殺す。まず、間違いなくAFOと死柄木を殺しに動く」

 

断言だ。それは悲しい断言だった。

 

ヒーローから最も遠い行為。私怨ゆえの犯行。

 

それを、緑谷が犯すと断言した。

 

その声に同調する声が一つ上がる。

 

「そりゃそうでしょ。ウチだってそうするよ。というか、そうしたくないやついるの?」

 

真っ赤に腫らした瞳が爆豪に向けられる。それは、耳郎の瞳だった。問いかける言葉は、研ぎたての刃物のようにギラつき、空間を切り裂く。

 

「……それは」

「それは?」

「……殺してぇから殺すってのはヴィランの考え方だ」

「……なら、ウチはヴィランでもいい」

「耳郎ちゃん……」

「…………でも、それじゃあ、ユズは笑ってくれないから」

 

この顔の耳郎を見れば舞妓譲葉はまず間違いなく服を脱いでから飛び掛かるであろうが、そんな本性を知らない彼女は目元を拭う。

 

強い、強い少女の瞳が爆豪を射抜いた。

 

「緑谷を、連れ戻そう」

「じゃあ! 連絡手段をどうするか! だな!」

 

切島が耳郎の言葉を聞いて話を明るく切り替えた。拳を打ち鳴らしながら未来へと闘志を燃やす。

 

「エンデヴァーって雄英卒だよね?」

 

その彼に呼応するようにソファから立ち上がったのは麗日だ。策のある顔は引き締まり、いつものほのぼのとした空気なんて微塵も感じさせない。

 

「強引にいこう」

 

 

  × × ×

 

 

「……校長、ハメましたね……!?」

 

エンデヴァーを校長先生に呼び出してもらって、その上でA組で出口を蓋する。完璧な一本釣り作戦。それにまんまとハメられたエンデヴァーを包囲する形で、A組が少しバラけるように配置についた。

 

目の前にいるのは現役No.1ヒーロー。だからこそ、警戒心を解いてはいけない。

 

そんな人間がヒーローになれないことを、彼らは何度もその背中で教えられて来た。

 

「彼らの話を聞いて対話の余地があると判断した。私は常にアップデートするのさ」

 

校長先生の言葉を聞いて汗を流すエンデヴァーに向かって轟が一歩踏み出した。

 

「なんで俺のことスルーした? 燈矢兄を一緒に止めようって言ったよな!?」

「焦凍、その気持ちだけで俺は救われてるんだ」

「俺は救われてねぇよ。緑谷だけは例外か!?」

 

さらに、轟が一歩踏み出す。

 

「エンデヴァー、デクとオールマイト二人にしてるだろ」

 

轟の後ろから声が聞こえた。それは怒りでもなんでもない。ただのフラットな声色。

 

「あぁ、正しいと思うぜ。概ね正しい選択だよ……! デクのこと、わかってねぇんだ」

 

轟の肩を引くようにして前に出たのは爆豪だ。

 

「デクは、イカれてんだよ頭ぁ、自分を勘定に入れねぇ、あいつにとって身近なヒーローだった譲葉がそうだったから。大丈夫だって……オールマイトもそうやって平和の象徴になったから止められねぇ。一番あいつの暴走を止められる譲葉は……今、いねぇ」

 

拳を強く握る。鬱血し、血が滴るその拳には怒りも、他の感情も込められていた。それはきっと。

 

きっと、舞妓譲葉と、緑谷出久という二人の人間に向けられた“痛み”だ。

 

「一番二人にしちゃいけない奴らなんだよ!」

「しかし……」

 

エンデヴァーがチラリとGPSの装置を確認する。ホークスたちと連絡を取り合う装置だ。それを取り出したその瞬間、A組の生徒はエンデヴァーに突貫した。

 

「これ、GPSのやつですよね!」

「これ! 借りていいっすか! 俺! たまたま同じクラスになっただけスけど!」

「僕も……一年一緒に過ごしただけだけど」

 

葉隠が、瀬呂が、口田が、口々に言う。

 

緑谷出久という少年のことを。

 

緑谷出久という少年が、彼らに取って如何に光であったかを。

 

“彼”という光と、同じように、彼らの心を照らしていたのだということを。

 

「……ここにいる全員。彼を認めてるんです」

「A組は、彼と共にあります。彼を支えます」

「彼は俺たちの友だちだから!」

「それが、舞妓くんにしてあげられる。唯一の……ことだと思うから」

 

言葉が、A組から溢れ出る。

 

それは、光から、託されたバトン。

 

ずっと、ずっと。

 

ずっと一緒に過ごしていく、ずっと皆んなでいる。そんな約束にも似た──。

 

『僕たちはずっと友達だからね!』

 

 

呪いだ。

 

 

「みんなに、緑谷くんを連れ帰って欲しいのさ!」

 

校長先生が短い手を挙げながらそう指示を出した。

 

それが、彼の仕組んだものであるとも、知らないで。

 

物語は巡る。時間は進む。

 

彼の、思惑の通りに。

 

 

  × × × ×

 

 

【出久side】

 

どうやら、それが彼らがここに来た理由らしい。

 

「……そんなことのためにここまで来たの?」

「そんなことってなんだテメェ、俺らのこと舐めとんのか?」

 

僕のことを襲っていたヴィランを僕よりも早く捕縛したみんなが並び立つ。……そこに、“彼”の顔はない。

 

「デクくん、帰ろ?」

「……麗日さん。僕がしなくちゃいけないことをするから。帰らないよ」

「それで! テメェは笑えてんのかよ!」

 

かっちゃんがニヤけていない。その鋭い眼光で僕を射抜いた。その顔は、怒っているように見える。

 

当然だ。かっちゃんからしたら、怒らない理由がない。僕のやっていることは、彼からしたら下に見られているということに他ならないから。

 

でも、その感情は正しい。

 

僕は今、みんなのことを下に見ている。

 

「……笑えるとか関係ないよ」

 

笑えるに決まっているだろう。

 

なんて言っても、“彼”は笑うんだ。

 

「今の僕についてこれるのは、ゆずくんだけだ」

「そうかよ。なら、目ぇ覚まさせてやらねぇとなぁ!!」

 

グッとかっちゃんが身を屈めた。それを見て半身の体勢を取る。彼の両手が紅く煌めいて。

 

「テメェら! まず! 連れて帰ンぞ!!」

「おぉ!」

 

目の前にまで迫った。

 

(速い──! 今までよりも何倍も!)

 

「随分画風が変わっちまったなァ!? クソナード!!」

 

その右手の大振りにガードを上げて対処する。かっちゃんは強い、それは間違いない。でも、彼は今、「テメェら」って言った。

 

それはつまり、彼以外のみんなも敵になっていることを表す。

 

みんなが僕を連れて帰りたいと願っていることを、表しているのだ。

 

皆んなで一人を、それはありえない。

 

それは僕が一番否定しなくちゃいけないことだから。

 

「みんな……ありがとう」

 

僕のことを思って、彼らが行動しているのはわかってる。それでも、彼らは僕に追いつけない。

 

追いつけるのは、“彼”だけだ。

 

「煙幕!」

「話も聞かねぇでトンズラか! なんでもできるようになると、周りがモブに見えるよなぁ!?」

 

逃走経路確保のために張った煙幕を爆風で消し飛ばしながらかっちゃんが笑った。君がそれをいうのか、なんて言葉は出てこない。いや、彼だからこそ言える言葉なのか。

 

そんなかっちゃんに気を取られているとたくさんの鳥に突撃される。蹴散らすわけにもいかないから退路を断たれてしまった。この個性は。

 

「緑谷君! 校長先生が帰っておいでって! ね!? 逃げないでよ!!」

『甲司は声張り上げな〜? いい個性持ってんだからね』

 

「……そんなに声、出せるんだ」

 

口田くんの想いは嬉しい。その言葉はとても嬉しいのだ。でも、僕には追いつけない。それがわかっているから、拒否の気持ちを込めて「ごめん」って呟いて、黒鞭を伸ばした。

 

そして黒鞭を使って移動しようとするも、黒鞭を固定される。テープのように絡め上げられて黒鞭が上手く作動しない。

 

「黒鞭垂らしっぱなしにしてんのコエーわ! 警戒するって!」

『範太に黒鞭の使い方教わったら?』

『お、俺に任せなさーい!』

 

過去が。彼らとの思い出が。

 

僕を邪魔する。

 

心音壁(ハートビートウォール)!」

「!!」

「はっや! 掠っただけ!?」

 

ヴィランにだってここ最近は掠らせないことが増えてきたんだ。レディ・ナガンにすら一撃も受けてない。そんな僕に攻撃を当てたこと自体がすごいのだけど、そんなことはきっと慰めにもならない。

 

「緑谷! ノートのまとめ方とか! 勉強の仕方とか! アンタはユズと一緒にいるためだったのかもだけど! すっごい嬉しかったんだよね!!」

『ノートの取り方は僕より出久くんに聞いたら? 効率レベチだから』

『ホント? 緑谷、頼める?』

 

記憶が溢れる。

 

「緑谷!」

「……尾白くん」

「俺は、お前と舞妓に恩がある! 何度も組手に付き合ってもらった! 普通の個性で、なんの取り柄もないこの個性を、ここまで使いこなせるようになったのはお前たちのおかげなんだ! そんな恩人が傷つくのをただ見てるなんてできない!」

『猿夫の個性さぁ、強いよね。ほら、やっぱり出久くんと僕に任せな? トップヒーローにだって近づけてやんよ』

 

思い出が。溢れる。

 

「僕がいると、みんなが危険なんだ……AFOに奪われる……! だから、離れたんだよ!」

「押せ! ダークシャドウ!!」

 

尾白くんの尻尾をワンフォーオールの力で押し返す。筋力増強をしているためか、彼の尻尾は100%近い力でやっと押しのけられた。

 

そこに突っ込んでくるのはダークシャドウだ。拘束を解除したばかりの僕はガードが間に合わない。

 

「……!」

 

こんなに、強かったか?

 

記憶のみんなは、ここまで強かったか?

 

廃墟の柱に押しつけられながら考えが頭を離れない。おかしな話だ。みんながここまで、僕と拮抗できるだなんて。

 

だって、この個性はオールマイトの力で──。

 

深入りしそうな思考を止めるように体が拘束具で固定される。頭には睡眠導入具。こういうものが作れる個性を持ってる人間はA組に一人しかいない。

 

「初めは、一同貴方についていくつもりでした。今はエンデヴァー達と協力のもと、個性を使用しています。貴方の安全を確保するために」

『百ちゃんの個性ならなんでもできそう。ここは作戦参謀、僕に任せてもらおうか!』

 

「もう、構わなくていいから……!」

「……ダークシャドウを防御に使用するのは、お前と舞妓のアイデアだったな」

『ん〜、やっぱり踏陰のダークシャドウを攻撃だけに使うのは勿体無くない? ね、出久くんもそう思うよね?』

 

思い出は止まらない。

 

溢れれば溢れるほど、そこにいた“彼”の記憶が浮き彫りになる。

 

「僕から離れてよ!!」

「やなこった! 俺ら友達だろ! 趣味が違くてもダチだ! だから、助け合うんだって言ってたろ!!」

『電気とは趣味合わないけど友達だからね!』

 

みんなと居たくないんだ。

 

友達だから。

 

「絶縁体テープを巻いてある。八百万産のな」

 

体に巻きつけられたそれが、絡みついて動きを阻害する。障子くんの複製腕が僕にハッキリと言葉を告げた。

 

「このメンバーならオールマイトも怖くない。それは緑谷の言葉だったな」

「うぅぅぅぅぅ!!」

 

無理矢理拘束を突破して外に飛び出した。

 

みんなは友達で。大事な人で。

 

“彼”のことを思い出すトリガーになってしまう。

 

みんなが心配してくれてるのだってわかってる。

 

みんなも僕と同じで“彼”を失ってるから。もう、失いたくないって思ってる。そんなことわかってる。

 

さっきから、害意や敵意に反応するはずの「危機感知(4th)」が全く作動しない。

 

みんなの想いなんてわかってるんだ。

 

それでも、僕は、死柄木を止めなきゃ。

 

殺さなきゃ。

 

思考が加速する。廃ビルから飛び出した僕を引き止めたのは大きな氷柱だった。その上にいるのは、轟くん。

 

「なんだよその面。責任が涙を許さねぇのか。それなら、その責任。俺たちにも分けてくれよ」

『出久くん、いつもスマイルだぜ?』

 

「うぅぅぅあぁぁぁぁぁ!!」

 

体を氷から引き摺り出す。無理矢理、個性を使って道をこじ開ける。みんなの使ってる個性は、どれもこれも暖かくて。

 

この氷すらもほんのりと熱を感じた。

 

「緑谷! 今の状態がAFOの狙いかもしれねぇだろ! その隙に雄英を狙いに来るかもしれねぇ! そんなナリになっても見つからねぇなら、次善策も頭に入れろ! 大切な雄英を守りてぇってんなら、側で守る選択肢もあんだろ! 俺たちも一緒に戦わせろ!!」

 

それが、言葉が、通っていく。

 

『次善策も、その次の策も、常に用意しておかなきゃね。だってそれがヒーローじゃん? 僕たちは負けが許されないんだからさ!』

 

言葉が、ずっと心の内側で。住んで。

 

「みんなは、ついてこれないよ。これは、ワンフォーオールと、オールフォーワンの戦いだから……! みんなはついてこれない……!」

 

 

『次は君だ』

 

体が氷壁から飛び出した。逃げるように空中を飛び上がる。

 

「緑谷ちゃん!」

 

梅雨ちゃんの舌を避ける。この程度の速さなら軽く避けられる。が、体に妙な重みが乗っかった。足元を見るとモギモギを数珠状に繋げた峰田くんが僕の足についている。

 

「お前のパワーがカッケェなんて思ったことねぇや! オイラの惚れたお前は、冷や汗ダラダラで! ブルブル震えて! 一緒に道を切り開いた! あのときのお前だ!!」

『お、実センスあるね。出久くんはいつもカッコいいけど、目の前の困難に立ち向かってる時が一番カッコいいよね』

 

それも振り切る。

 

彼らの声を聞くと、ノイズが走って仕方ない。

 

仕方ないのだ。体が理解していくのが怖いのだ。

 

“彼”がもう、居ないことを、認識するのが……。

 

「ごめん、峰田くん。僕はもう──」

 

君たちから逃げた。

 

“彼”から逃げた。

 

そんな僕には、みんなの側に立って歩く資格なんて────

 

「デクくん! ゆずくんが言ってた……!」

 

“彼”の名前を呼ばないでくれ。

 

「ヒーローは……!」

 

擬似100%の力を使って飛び出す。麗日さんの声すらも聞こえない、遥か向こうへ。飛び出していく。

 

「逃すかぁ!!」

「溶解度0.1% 保護庇護膜用アシッドマン!」

「行け! 轟!!」

「膨冷熱波!」

 

後ろから声が聞こえる。それも、もう小さくなっていく。僕には、もう誰も追いつけない。

 

届かない。

 

“彼”以外は。

 

ゆずくん、以外は……!

 

「だから俺はいつだって!! 君に挑戦するんだ!!」

 

手を、掴まれた。

 

僕の横にいるのは、ゆずくんじゃなくて、飯田くんで。

 

「そんな……! ダメだ、離して……!」

「離さない! どこへでも駆けつけ、迷子の手を引くのがインゲニウムだ!!」

 

その顔が、泣きながら、崩れる。破顔する。

 

笑う。

 

「『余計なお世話ってのは、ヒーローの本質なんだ』ろ!?」

 

体の力が抜けていく。

 

今、僕の横に、ゆずくんじゃなくて。

 

 

A組が、並び立った。

 

 

振り解かなきゃいけないのに。

 

体に力が入らない。

 

「俺は!! 倒れねぇぇぇぇぇ!!」

 

僕と飯田くんの体を切島くんが受け止めたらしい。その声は、いつにも増して、熱く、僕たちの体を包み込む。

 

「緑谷! 俺、昔な! とある話に打ちのめされた! 同い年のやつがダチ助けるために駆け出したって! あれ、お前なんだろう!? 特別も力も関係ねぇ、あんときのお前が! 今の俺たちの答えだと思うぜ!」

『出久くんは考えすぎるよねぇ〜。君が一番ヒーローなんだ。誇っていい。だから胸を張って、僕らを頼りなよ』

 

その声は、幻聴でも。

 

でも、耳に入り込んで、聞こえてくる。

 

とても、優しい声。

 

声が説得してくる。

 

「緑谷、もう、誰かがいなくなるの嫌だよ……」

 

芦戸さんの声に紛れて。みんなの声に紛れて。

 

ゆずくんの声が聞こえる。

 

「……デク」

 

その声が、掻き消されるようにして。

 

目の前に、彼が立っていた。

 

 

  × × ×

 

 

「なぁ、死柄木にブッ刺されたとき言ったこと覚えてるか?」

「覚えてない」

「舞がやられて、暴れ回った死柄木がお前に向かって襲いかかったとき、体が勝手に動いて、ぶっ刺されて……! 言わなきゃって、思ったんだ」

 

「てめぇを……てめぇらを、見下してた。“無個性”だったから。俺より遥かに後ろにいるはずのお前らが、俺より遥かに先を走ってるように見えたから。俺なんて眼中にねぇって言うみたいに、ずっと先を走ってるように見えたから」

 

それは、吐露。

 

自分の弱い部分を曝け出す。かっちゃんが絶対にしない。告白。

 

「嫌だった、見たくなかった、認めたくなかった」

「だから遠ざけていじめてた……譲葉にゃ、言い負かされてばっかだったけどなぁ……」

「否定することで優位に立とうとしてた。俺はずっと負けてた」

「雄英入って、思い通りにいくことなんて一つもなかった」

「テメェらの強さと、自分の弱さだけを理解していくだけの日々だった」

「言ってどうにかなることじゃねぇよ」

 

かっちゃんが前を見る。その瞳が。揺らぐ。

 

「でも、もう。言えなかったって、後悔したくないから。これを伝えねぇで、俺は。お前らのことを助ける資格なんて、ないから」

 

「出久」

 

 

「今まで、ごめん」

 

 

それは、きっと、あり得なかった言葉。

 

『爆豪は、きっと。意固地になってるだけさ。嫌な奴になっちゃってるけど、あいつが、“かっちゃん”に戻ったらさ。一緒に当てたカードにサイン貰うためにオールマイトのとこ、並ぼうよ』

 

「お前は何も間違ってねぇよ。お前が拭えねぇモンは、俺らが拭う。お前も、避難民も、街の人も、国も、全部助けて、もれなく勝つんだ」

 

…………ねぇ、ゆずくん。

 

信じられるかな? 僕、すっごく傲慢になってた。個性を手に入れただけで人よりも優れてるって思っちゃってた。

 

君に勝てるなんて思ってた。

 

『次は君たちだ!』

 

それに比べて、あの言葉の意味を、本当の意味を、しっかり受け止めているのはみんなだ。

 

みんな、もう、僕よりもとっくに前を走ってたんだ。

 

かっちゃんも、謝ってくれたんだ。ねぇ、早く起きてさ。オールマイトにサイン、貰いに行こうよ。

 

そしたらさ、みんなで──

 

「ついてこれないなんて……酷いこと、言ってごめん……」

「わーってる」

 

倒れ込む僕のことをかっちゃんが抱き抱える。体から力が抜けていく。もう、死ぬくらい、疲れてる。

 

「第一関門、突破ですわね」

 

そう、八百万さんの声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで、終わるはずだった。

 

「はぁ?」

 

不機嫌そうな声に聞き馴染みはないけれど。それでもその声を僕たちが間違えるわけがないから。その声を聞いてすぐに振り返った。

 

そこにいたのは、何度も、何度も、聞いた声。その持ち主、僕の。

 

僕たちの、ヒーロー。

 

「え? はぁ? 黙れよ。それでハッピーエンドぉ? ハァ? 冗談もほどほどにしてくんないかなぁ……お涙頂戴の友情ごっこ見たいがためにここまで来たわけじゃね〜んだけど? もっと醜くやり合えよ……なぁ、ヒーロー?」

 

そこに、僕たちの絶望は現れたのだ。

 

それは、青い瞳に白の髪を携えた。

 

天使のような顔をしていた。





いつもここで長々と感謝を述べています。ライトノベルのあとがきって読んだことありますか? 多分今までの後書きを全部足したら六巻分くらいには余裕でなります。ずっと感謝しかしてないけど。

皆さん、お待たせしました。次の投稿が僕のずっとずっと書きたかったことです。これが書きたくて始めたのが『個性「不義遊戯」でいく! 僕の曇らせアカデミア!』です。いつの間にか大きなコンテンツになったものだなぁと思います。

んこにゃさんの絵も、仕上がってます。次の話は週末に出します。
今後とも『曇アカ』をよろしくお願いします。
                     波間こうど

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